2020/12/31

2020年 展覧会ベスト10

早いもので今年も最後の1日となりました。

年々仕事も忙しくなり、ブログを書くだけの時間的余裕がなくなったこともあり、今年はブログをお休みさせていただいてましたが、まあ記録のためにも展覧会ベスト10だけは残しておいた方がいいかなと思い、1年ぶりにブログを更新することにしました。

今年は新型コロナウイルスの影響で展覧会の延期や中止も相次ぎ、なんとか開催されても多くの展覧会が企画や展示作品の変更を余儀なくされました。さまざまな予定が狂い、いくつもの楽しみが台無しにされ、ほんと悲しい一年でした。

コロナ禍で大変な中、企画を練り直し、展示作品をかき集め、感染防止対策を講じ、展覧会を開催してくれた美術館・博物館にはほんと頭が下がります。本来、展覧会の企画は数年の時間を要しますが、今できうることを考えてくれて、特に秋以降の展覧会にはそうした努力や苦労が伝わってくる素晴らしい展覧会が多かったように思います。海外から作品を借りられない分、国内の所蔵作品で構成された展覧会も多く、あらためて日本には素晴らしい作品が多くあるということも知りました。

個人的には、身近に基礎疾患を持つ人や高齢の人がいることもあり、おいそれと混雑する場所や地方に行くことができず観逃した展覧会が多くありました。また、夏に突発性難聴になり、耳鳴りに悩まされて美術館のような静かな空間が苦痛になり、しばらく展覧会に行く気になれない時期もありました(後遺症は今も残ってますが、慣れました笑)

そんなこんなで今年は例年以上に観た展覧会の数は減ってしまいましたが、その分、記憶に残る展覧会が多くありました。

いろいろ悩んだ末、2020年のベスト10はこんな感じになりました。
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1位 『桃山 天下人の100年』(東京国立博物館)


今年は大きな展覧会がかなり中止になりましたが、このコロナ禍の中、ここまでの規模の展覧会が開催されたことには感謝しかありません。90分の鑑賞推奨でしたが、2時間あっても観終わらないぐらいの物量に圧倒されました。元信に永徳、山楽、山雪、探幽といった狩野派黄金期の傑作に加え、土佐派もあれば等伯もあるし又兵衛もある。利休も長次郎も織部も光悦もある。これ以上望むものはないのではないかというぐらい、桃山文化の満漢全席、正に空前絶後、贅沢の極みでした。本来であれば長蛇の列必至だったのでしょうが、事前予約制になったことやコロナの影響もあって、来場者も少なく(企画側は残念な結果だったのでしょうが)、混雑を気にすることなくじっくり堪能できたのも良かったです。


2位 『性差の日本史』(国立歴史民族博物館)


古代にはなかった男女の性差がいかに変容してきたか、その歴史を多くの史料から紐解く非常に意義深い展覧会でした。律令制、幕藩体制、明治国家と政治制度が大きく変わるたびに女性が政治や社会から排除され、職業さえ女性を分離していく。資料中心の展示でしたが、全体の流れにストーリーがあり、徹底した調査と検証により説得力のある展示になっていました。背景として知っている事柄でも視点を変えるだけで別の側面が見え、これまで光の当たらなかった事実も浮き彫りにされ、とても興味深かったです。ここ数年、ジェンダーの問題は関心も高く、タイミング的にも良かったと思います。


3位 『もうひとつの江戸絵画 大津絵』(東京ステーションギャラリー)


コレクターの視点に注目して大津絵を観るというユニークな企画で、しかもこれだけの規模の大津絵の展覧会というのは東京では珍しく、さまざまな画題やいくつものバリエーションが集まり、とても楽しい展覧会でした。個人的にも大津絵が大好きで、これまでも割と大津絵は観てるのですが、今回はコレクター垂涎の品などもあって、あまり見ない画題や、初期の貴重な作品も多く、興味深いものがありました。いずれもコレクター所有だったというだけあり、表装もコレクターのセンスを感じられて良かったです。


4位 『舞妓モダン』(京都文化博物館)


コロナが蔓延しだしてから地方はおろか、東京からほとんど外に出てないのですが、たまたま関西に仕事が入り、時間を調整して何とか観ることができました。京の舞妓が近代から現代にかけてどう描かれてきたかを紐解く意欲的な展覧会だったと思います。日本画、洋画を分けることなく一つの流れで見せていくのも良かったし、さまざまな画家が舞妓というモチーフに創作意欲を刺激され、いかに取り組んで来たかがよく伝わってきました。舞妓が京都や美人のメタファーとして描かれていったことも個人的には新たな気づきでした。明治から戦前にかけては京都画壇による作品が中心で、近代京都画壇ファンとしては魅力的な展示でもありました。


5位 『生誕120年・没後100年 関根正二展』(神奈川県立近代美術館鎌倉別館)


コロナの影響で期間短縮となり、観ることのできなかった人も多いのでは。画業僅か5年、二十歳で夭折しただけに作品数は多くありませんが、それでもその短い生涯でとても濃密な創作活動を送っていたことがよく分かりました。代表作を観るだけでも大変ありがたかったのですが、デューラーを思わせる筆致やセザンヌの影響を感じる油彩、デッサン力を感じさせるスケッチ、珍しい日本画などあって、とても興味深い展覧会でした。


6位 『きもの KIMONO』(東京国立博物館)


小袖などは東博の常設でも展示されていますが、そこは特別展なので鎌倉や室町時代の貴重な着物もあり、日本のファッション史や風俗史を知る上でもとても勉強になりました。展示品自体がどれもファッショナブルで、着物を着て観にくる来場者も多く、会場の雰囲気がとても華やかだったのも印象的でした。初期風俗画の展示もことのほか充実していて、江戸初期のファッションという視点からあらためて観られたのも良かったです。


7位 『河鍋暁斎の底力』(東京ステーションギャラリー)


暁斎の展覧会は毎年のように開催されていますが、本展は下絵や画稿、席画だけで、完成された本画の展示は一切なしという潔さ。だからこそ純粋に暁斎の筆技が堪能できるし、あらためて暁斎の才能を思い知りました。北斎、応挙、西洋美術からの影響がよく分かったのも収穫でした。本画が一切出てないのに全く退屈しない展覧会というのはなかなかないと思います。いくつもの展覧会を観て廻るアートクラスタがどよめくのも納得の面白さでした。


8位 『京都の美術 250年の夢』(京都市京セラ美術館)


元々は約8ヶ月という長期間で、三部に分けて開催される予定だった展覧会ですが、コロナの影響で総集編としてまとめられ、出品数も減らされたのはつくづく残念でした。展示替えも多く、特に楽しみにしていた江戸から明治にかけての縮小は痛かったです。それでも会場が広かったこともあって展示作品数はそれなりにあり、江戸時代から現代まで京都の美術の250年の流れを一気に観られたという面白さと、京都の美術ここにありという気概が感じられ、観たあとの充実感は最高でした。


9位 『石元泰博写真展 伝統と近代』(東京オペラシティアートギャラリー)/『石元泰博写真展 生命体としての都市』(東京都写真美術館)


生誕100年ということで東京オペラシティアートギャラリーと東京都写真美術館でそれぞれ開催されましたが、ここまで真剣に、しかもまとめて石元泰博の写真を観たことが初めてだったこともあり、非常に刺激のある展覧会でした。オペラシティアートギャラリーは写美より回顧展色が強く、さまざまな側面から石元の作品が観られたのに対し、写美はいくつかのテーマに絞り、じっくりと作品と対峙できたのも良かったです。どの作品からも緊張感が伝わってくるというか観ていて背筋が伸びる感じがしました。


10位 『石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか』(東京都現代美術館)


今年一番観てて疲れた(いい意味で)展覧会といえば、石岡瑛子展は頭一つ二つ抜きん出てるかもしれません。資生堂時代に手がけたポスターからパルコや角川書店などアートディレクターとしての仕事、映画やオペラの衣装デザインなどなど、映像や衣装など資料の物量と情報量が物凄いし、彼女の仕事に対する姿勢とパワーに圧倒されっぱなしでした。びっしり指示が書かれた校正紙からは細かさと的確さと妥協のなさにビビると同時に感動すら覚えました。





惜しくも選外となりましたが、最後まで迷った展覧会としては、アイヌの手仕事の数々からアイヌ民族の精神性まで伝わってきた『アイヌの美しき手仕事』(日本民藝館)、取り合わせの妙が新鮮で面白かった『琳派と印象派』(アーティゾン美術館)、東京では滅多にお目にかかれない地方絵師の作品が充実ていていた『奇才 江戸絵画の冒険者たち』(江戸東京博物館)、館蔵品と見せ方で存分に楽しませてくれた『日本美術の裏の裏』(サントリー美術館)、また現代アートでは、どこか不穏で幻想的な世界観にハマってしまった『ピーター・ドイグ展』(東京国立近代美術館)があります。

『桃山 天下人の100年』では狩野派黄金期の傑作の数々を観ることができましたが、今年は『狩野派 画壇を制した眼と手』(出光美術館)、『狩野派学習帳』(板橋区立美術館)、『本門寺狩野派展』(池上本門寺霊宝殿)などでも狩野派の作品を観る機会に恵まれたことも個人的には今年特筆したい点です。

そのほかの展覧会では、『坂田一男 捲土重来』(東京ステーションギャラリー)、『利休のかたち』(松屋銀座)、『肉筆浮世絵名品展』(太田記念美術館)、『見えてくる光景 コレクションの現在地』(アーティゾン美術館)、『津田青楓とあゆむ明治・大正・昭和』(練馬区立美術館)、『和巧絶佳展』(パナソニック汐留美術館)、『ベルナール・ビュフェ回顧展』(Bunkamura ザ・ミュージアム)あたりが特に印象に残っています。

来年もまだまだ新型コロナウイルスの影響は続くでしょうし、年明けて感染者がさらに増えるようであれば、折角開催された展覧会も中止を余儀なくされるといったことがあるかもしれません。しばらく地方遠征もしづらく(反対に地方から東京にも来づらいでしょうし)、観に行きたくても行けず涙を飲むこともあるでしょう。それでも今から楽しみな展覧会が来年はいくつも予定されていて、新型コロナウイルスが一日も早く収束し、安心して美術館・博物館に行ける日が来ることを願うばかりです。

今年も一年ありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。

2019/12/31

2019年 展覧会ベスト10

今年も最後の1日。
あれよあれよという間に大晦日ですね。

今年は(も)休日に時間が十分取れなくて、展覧会に十分に回れなかったのが残念でした。仕事のこと、家族のこと、いろいろありますし、映画だって観たいし、芝居だって観たいし、本だって読みたいし、年々時間を捻出するのが難しくなるばかり。

さて、拙ブログの今年のエントリーは展覧会の感想のみで38本で、一番エントリーが多かった年の半分と言っていた昨年よりさらに少なくなってしまいました。展覧会の記事は会期が終わるまでに書こうとは思ってるのですが、結局書けずじまいものも多く…。

思うように展覧会に行けなかったのと、結構評判の良い展覧会を見逃がしていて、今年の展覧会ベスト10は全然参考にならないんじゃないかなと思います。そもそも観た分母が少ないこともあってか、ダントツでこれ!といった展覧会もそれほどなく、正直ベスト5以下はかなり迷いました。

とはいえ、今年は大好きな近世初期風俗画と、ここ数年高い関心を持っている京都画壇の作品を観る機会に恵まれ、特に近代京都画壇に連なる呉春の作品に多く触れられたのが個人的には最大の収穫でした。あまり展覧会を回ることができなかったものの、日本美術だけでなく、西洋美術や現代アート、やきものなど、自分が興味を持ったものが優先ではありますが、バランス良く観られたのがせめても救いかなと思います。

で、2019年のベスト10はこんな感じです。
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1位 『遊びの流儀 遊楽図の系譜』(サントリー美術館)


近世初期風俗画の展覧会は特に珍しくありませんが、本展がユニークだったのは、遊楽図に描かれた碁盤や双六、カルタなどが一緒に展示され、遊楽図の展開だけでなく、当時の人々の娯楽やファッションなど風俗が絵画の世界を超えてリアルに伝わってきたこと。遊楽図そのものも名品がずらりと並び、その充実感たるや今年一番だったと思います。これまで縁がなかった「松浦屏風」や「相応寺屏風」、「伝本多平八郎姿絵屏風」など近世初期風俗画の傑作に出会えたことも嬉しかったです。年末に大和文華館で観た『国宝彦根屏風と国宝松浦屏風 遊宴と雅会の美』では本展に出展されなかった「彦根屏風」を久しぶりに観ることもでき、『遊びの流儀』で若干不足していた部分も補って余りあるものがありました。近世初期風俗画ファンとしては大満足の一年でした。


2位 『円山応挙から近代京都画壇へ』(東京藝術大学大学美術館)


近代京都画壇がここ数年のマイブーム(古っw)なのですが、その中心となる円山四条派の祖・応挙と呉春から連なる近代京都画壇への流れをここまで大規模に、しかも東京で取り上げてくれたことにまず感動しました。応挙は見慣れてることもあり特段驚くことはないのですが、大乗寺障壁画の空間再現展示は見応え十分で、応挙門下や幕末から明治にかけての京都画壇が思いの外充実していて素晴らしいものがありました。円山派は円山派の、四条派は四条派のそれぞれの良さも分かり、近代になり両派が渾然一体となり京都画壇を創り上げていく様も見て取れました。


3位 『大竹伸朗 ビル景 1978-2019』(水戸芸術館現代美術ギャラリー)


『ビル景』が40年続いていることが何より驚きで、時に心象風景を具現化するように、時に体の内側から溢れる思いをぶつけるように、時に何かに取り憑かれたように、画面を縦横無尽に走る線や色や形を見てると、大竹伸朗にとって『ビル景』とは、旺盛な制作活動の中で何かに立ち返るための基点的な意味もあるんだろうなと感じたりもしました。何より500点余りという作品はどれも刺激的で、シビれるぐらいかっこよくて、ただただ圧倒されました。


4位 『岡上淑子 沈黙の奇蹟』(東京都庭園美術館)


何年も前から気になっていた岡上淑子の作品にやっと出会えた喜びというんでしょうか、その喜びが期待を超えるぐらいに衝撃的でした。とてもファッショナブルでエレガントで良い意味でクラシカル。超現実的でありながらも、どこか女性の空想や願望がイメージ化されたようなところがあり、そのシュールで洗練された不思議な世界に目を奪われました。旧朝香宮邸のクラシカルな空間も相まって、岡上淑子の魅惑的な夢物語の舞台に迷い込んだような気分になりました。


5位 『画家「呉春」 − 池田で復活(リボーン)!』(逸翁美術館)


春に『四条派のへの道 呉春を中心として』を観て、夏に『円山応挙から近代京都画壇へ』を観て、秋に『桃源郷展 − 蕪村・呉春が夢みたもの』を観て、その他にも呉春の作品を観る機会が多く、今までこんなに呉春に触れたことがあっただろうかというぐらい今年は呉春づいていました。その決定版がこの『ゴシュン展』だったと思います。展示は呉春の池田時代が中心でしたが、作品の充実度は申し分なく、相次ぐ近親者の死や、師・蕪村や池田の人々との交流も語られ、呉春がどういう思いで池田で過ごしたのかも伝わってくる構成がまた素晴らしかったです。


6位 『茶の湯の銘碗 高麗茶碗』(三井記念美術館)


今年のベスト10で、唯一記事にできていないのですが、今年いくつか観たやきものの展覧会の中では『高麗茶碗展』が一番印象に残っています。高麗茶碗の佇まいの渋さ、侘びた景色が好きなのですが、高麗茶碗と偏に言っても結構さまざまなタイプのものがあって、でもそれぞれに惹かれるものがあり、あらためて自分の好みであることを確信しましたし、高麗茶碗の奥深さに心打たれました。


7位 『奇想の系譜展』(東京都美術館)


まさに江戸絵画の奇想オールスータズ大集合。又兵衛、山雪、若冲、蕭白、芦雪、国芳などの過去の展覧会の集大成であり、ダイジェストであり、辻惟雄氏の『奇想の系譜』に強い影響を受けた身としては夢のような企画展でした。今は目が慣れて奇想を奇想と思わなくなっているところもありますが、江戸絵画の中でいかに彼らが異質だったかをあらためて考えるいい機会になったと思います。


8位 『江戸の園芸熱』(たばこと塩の博物館)


タイトルが園芸「熱」なのがミソで、武家から庶民まで江戸時代の園芸ブームの盛り上がりぶりが浮世絵を通してとてもよく伝わってきましたし、園芸が江戸の人々の身近にあったことも分かり興味深いものがありました。美人画でもなく、役者絵でもなく、名所絵でもなく、あくまでも主役は園芸絵。これまでに見ないタイプの浮世絵も多く、美人画や名所絵だけを観て、江戸の文化や風俗を知ったつもりになっていてはダメだなとも思ったりしました。


9位 『原三溪の美術』(横浜美術館)


日本美術の展覧会を回っていると、「原三溪旧蔵」という文字を目にすることがありますが、いまは散逸し各地の美術館や個人コレクターの手に渡った「原三溪旧蔵」のコレクションが一堂に集まり、これもあれも原三溪が持っていたのかとその審美眼の確かさと趣味の良さに驚くばかりでした。三溪はコレクション公開のための美術館の建設を夢見ていたということを本展で知ったのですが、三溪生誕150年・没後80年という年に、ゆかりの深い横浜の地でこうして展覧会が開かれたこともとても意義深かったと思います。


10位 『塩田千春展 魂がふるえる』(森美術館)


アート作品を観ていて息苦しくなるとか、精神的なものに圧倒されるという経験はそうあるものではありません。塩田千春のこの展覧会は、どの作品からも命の叫びというか、魂も肉体もばらばらになるのを感じながら、制作に打ち込んできたのだろうことが強く伝わってきて、作品の前に立つたびにドーンと来るものがありました。なんだか凄いものを観た感という意味では今年一番のインパクトでした。




10位で迷ったのが埼玉県立歴史と民俗の博物館の『東国の地獄極楽』。関東を中心とした浄土宗の広がりや浄土信仰について詳しく、地味ながらもなかなか収穫の多い展覧会でした。今年も関西に遠征し、いくつか展覧会を観ましたが、京都国立博物館で観た『佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美』も今後これだけまとめて佐竹本を観られるかと思うとベスト10に入れておきたかったところです。

今年は観た展覧会は少なかった分、ブログに記事にした展覧会はいずれも推しの展覧会ばかりで、つまらなかったものは一つもないのですが、ベスト10に入れられなかったものの強く印象に残った展覧会としては、『創作版画の系譜』『へそまがり日本美術』『国宝 一遍聖絵と時宗の名宝』『大徳寺龍光院 国宝曜変天目と破草鞋』『学んで伝える絵画のかきかた』『松方コレクション展』『山口蓬春展』『岸田劉生展』あたりでしょうか。現代アートでは『バスキア展』も楽しかったですね。展覧会とはいえないかもしれませんが、神保町の古書店で観た『奈良絵本を見る!』は観られてとても良かったと思います(第二弾に行けなかったのが残念ですが)。

記事としては書けていませんが、日本美術では『ラスト・ウキヨエ』、西洋美術では『ギュスターヴ・モロー展』や『クリムト展』、『ウィーン・モダン展』、『ルート・ブリュック展』、『メスキータ展』、『コートルード美術館展』もとても印象的でした。

残念ながら結局行けずじまいだった『顔真卿』、『ジョゼフ・コーネル展』や『世紀末ウィーンのグラフィック展』、『キスリング展』、地方で遠征できなかったのですが、『月僊展』、 『増山雪斎展』、『山元春挙展』、『驚異と怪異』あたりは観ておきたかったなと思います。

ちなみに今年アップした展覧会の記事で拙サイトへのアクセス数は以下の通りです。
1位 奇想の系譜展
2位 創作版画の系譜
3位 河鍋暁斎 その手に描けぬものなし
4位 岡上淑子 沈黙の奇蹟
5位 原三溪の美術
6位 はじめての古美術鑑賞 絵画のテーマ
7位 四条派のへの道 呉春を中心として
8位 桃源郷展
9位 大徳寺龍光院 国宝曜変天目と破草鞋
10位 尾形光琳の燕子花図

このブログも今年でちょうど10年を迎えました。このブログの前にやっていた映画のホームページ時代から入れると、なんと20年もちまちまつまらないことを書いていたんですね。。。ちょうど切りも良いので今年でブログを一旦クローズしようと思います。どうしても記事にしたいという展覧会が出てきたり、思い出したように書き出したりするかもしれませんが、また時間が作れるようになって再オープンできる時までしばらくお休みするつもりです。10年間、こんな拙いサイトにも関わらず、足をお運びいただきありがとうございました。


【参考】
2018年 展覧会ベスト10
2017年 展覧会ベスト10
2016年 展覧会ベスト10
2015年 展覧会ベスト10
2014年 展覧会ベスト10
2013年 展覧会ベスト10
2012年 展覧会ベスト10



日経おとなのOFF 2020年 絶対に見逃せない美術展(日経トレンディ2020年1月号増刊)

美術展ぴあ2020 (ぴあ MOOK)

2019/12/08

窓展:窓をめぐるアートと建築の旅

東京国立近代美術館で開催中の『窓展:窓をめぐるアートと建築の旅』を観てきました。

その人の人生や暮らし、時代…。窓にインスパイアされて制作された作品…。そうした窓を通して見えるいくつもの風景を、さまざまな切り口で紹介する企画展です。

「『窓学』を主宰する一般財団法人 窓研究所とタッグを組んで行われるこの展覧会」、 窓研究所とはなんぞやと思って調べたら、なるほど「窓のあるくらし」のコピーで有名なYKK APが設立した団体なんですね。なんでいきなり窓なんだろうと不思議に思ってました。

絵画や写真、サイレント映画や実験映像、インスタレーションや建築物などジャンルを超えた作品が‟窓”をテーマに14の章に分けて展示されています。開幕早々に観たのですが、展示作品は幅広く、特定のカテゴリーにターゲットを絞ったというわけでもないのですが、若い方も結構多く、みんな思い思いに作品を見入っているのが印象的でした。

藤本壮介 「窓の住む家/窓のない家」 2019

美術館の前庭に何やら見知らぬ建物が。これも『窓展』の展示のひとつ。建築家・藤本壮介の窓の新しい概念を提示したインスタレーションだそうです。部屋?の中に木が立っていて、ここは中なのか外なのか中庭なのか。いろいろ想像が膨らみます。行った日は天気が悪くて、写真がいまいち映えなかったのが残念。


会場に入ると、壁一面にバスター・キートンの映画『キートンの蒸気船』が映し出されてます。家の外壁が倒れてきたと思ったら、家の前に立ってる人はうまいこと窓の枠の中にすっぽりはまって命拾いするという、まるでドリフのギャグ。

郷津雅夫 「Window》より」 1972−1990 個人蔵

印象的だったのが、ニューヨークのアパートの窓から通りを見やる人々を捉えた郷津雅夫の写真。黒人や移民と思しき人々、老人や子どもたちが窓辺に集まって外を眺めています(パレードの様子を眺めてるとか)。下町のアパートに暮らす、決して裕福とはいえない人々のドラマが浮かび上がってくるようです。

ロベール・ドアノー 「《ヴィトリーヌ、ギャルリー・ロミ、パリ》より」
1948 東京都写真美術館蔵

ガラス技術が発展し、ショーウィンドウが都市に普及したのが19世紀だといいます。ショーウィンドウのマネキンや商品を眺める人々は写真の恰好の被写体になります。面白かったのがドアノーの写真で、ショーウィンドウに飾られた女性の裸婦像を観て驚く老婦人やじっと見つめる男性などが、まるで隠しカメラのように写されています。

途中、建築や絵画における‟窓”の歴史が12mぐらいの長い年表で紹介されています。ヨーロッパの絵画に窓が登場するようになるのは約600年ぐらい前からになるそうですが、年表はそれこそ古代の窓と美術に関することから記されていて、窓の技術や歴史的な出来事にまで触れられていて、結構見入ってしまいます。

ピエール・ボナール 「静物、開いた窓、トルーヴィル」
1934 アサヒビール大山崎山荘美術館蔵

アンリ・マティス 「待つ」
1921−22 愛知県立美術館蔵

絵画は20世紀以降の作品が展示されています。ボナールやマティスといったポスト印象派から、ロスコやリヒター、キルヒナー、アルバース、リキテンシュタイン、デュシャンといった現代美術まで。ロスコ(福岡市美術館の所蔵品)がとても良かったのですが、現代美術はほとんど撮影禁止でした。

パウル・クレー 「花ひらく木をめぐる抽象」
1925 東京国立近代美術館蔵

アド・ラインハート 「抽象絵画」
1958 東京国立近代美術館蔵

現代美術になると、これは窓なのか?ただの枠ではないのか?とか、クレーでさえ窓との関係がちょっとこじつけ感があるのですが、ラインハートの「抽象絵画」まで来ると最早窓を感じ取ることさえ難しい……。

岸田劉生 「麗子肖像(麗子五歳之像)」
1918 東京国立近代美術館蔵

岸田劉生の「麗子肖像」があって、この作品と‟窓”に何の関係が?と思ったのですが、そばにあった解説に「『絵画=窓』とするなら、額縁は窓枠のようなもの」であり、この作品は「『額縁に入った麗子の肖像画』を描いた絵」とありました。一方で、麗子の背景に影が薄く落ちていることから、麗子が背景から浮かび上がり、だまし絵のような効果を劉生は狙ったのではないかと。10月に観た『岸田劉生展』では北方ルネサンスの影響、特にデューラーについて触れられていましたが、本展ではクラナッハが取り上げられていました。


奈良原一高 「《王国》より 沈黙の園」
東京国立近代美術館蔵

つづいて奈良原一高。代表作『王国』から12点が展示されています。『王国』は修道院と女子刑務所をという外部から隔絶された空間に生きる人々を写した作品。かれこれ5年前に同じ東近美で『王国』の特集展示があり、とても感動して写真集を買ったほどなのですが、今回はその中から窓が印象的な作品を選んで展示しているようです。

エルジュ 「《タンタン アメリカへ》より No.19」
1931 東京国立近代美術館蔵

《TINTIN》が東京国立近代美術館に所蔵されているとは。今の時代なら「絶対マネしないように」って注意書きがありそうなシーン(笑)

山中信夫 「ピンホール・ルーム2」
1973 東京国立近代美術館蔵

ピンホールカメラの手法を用いた山中信夫の「ピンホール・ルーム」シリーズが一区画に3点ほど展示されていて、個人的にはとても好みでした。

後半にはいろいろユニークなインスタレーションがあったり、懐かしいリプチンスキーの映像があったりして飽きません。この日は用事があって、1時間ぐらいしかいられなかったのですが、ほんとならもっと時間を取って見たかったなと思います。

ゲルハルト・リヒター 「8枚のガラス」
2012 ワコウ・ワークス・オブ・アート蔵


【窓展:窓をめぐるアートと建築の旅】
2020年2月2日(日)まで
東京国立近代美術館にて



窓展: 窓をめぐるアートと建築の旅

2019/11/24

佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美

京都国立博物館で開催中の『流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美』に行ってきました。

ほんとはもっと早くに観に行くつもりで、10月に新幹線もホテルも予約していたのですが、台風19号と重なり残念ながらキャンセル。11月の連休は仕事があり、今回は無理かなと思ってたのですが、幸いなことに仕事の調整がつき、なんとか観に来ることができました。

「佐竹本三十六歌仙絵」は鎌倉時代に制作された歌仙絵を代表する名品。もとは下鴨神社に所蔵されていたとされ、江戸時代末期に秋田藩主佐竹家に伝わったことから佐竹本と呼ばれています。

しかし、ちょうど100年前の大正8年(1919)、佐竹家から売りに出されますが、その高価さから買い手がつかず、各歌人ごとに分割され、それぞれ異なる買主の手に渡ることに・・・。今回タイトルにある『流転100年』はそこに由来します。

1986年に「佐竹本三十六歌仙絵」が20点集まる展覧会があったそうですが、今回はそれを遥かに超える30歌人(下巻巻頭の「住吉明神」を入れると31点)が分割されて以来100年ぶりに集結します。近年だと、2016年に東京国立博物館で6点が集まる歌仙絵の特集展示があったり、2018年に出光美術館の『歌仙と古筆』で4点が集まるなど、数点を観る機会はありましたが、ここまでまとめて観る機会というのは恐らくそうはないと思います。今度集まるのはいつになることやら。


会場の構成は以下の通りです:
第1章 国宝《三十六人家集》と平安の名筆
第2章 ‟歌聖”柿本人麻呂
第3章 ‟大歌仙”佐竹本三十六歌仙絵
第4章 さまざまな歌仙絵
第5章 鎌倉時代の和歌と美術
第6章 江戸時代の歌仙絵

詫磨栄賀 「柿本人麻呂像」(重要文化財)
応永2年(1395)・室町時代 常盤山文庫蔵

まずは古筆の名品から。平安の三色紙(継色紙「いそのかみ」、升色紙「かみなゐの」、寸松庵色紙「ちはやふる」)や、古今和歌集最古の写本である「高野切」と本阿弥光悦旧蔵の「本阿弥切」、三大手鑑のひとつ「藻塩草」や豪華な「西本願寺本三十六人歌集」など、流麗な仮名文字や美しい料紙装飾にうっとり。すでに気分は雅やか。

つづいて、歌聖・柿本人麻呂像がずらり。人麻呂の図像には筆や紙も持たず脇息にもたれ虚空を見つめる姿と、右手に筆、左手に紙を持ち、同じく左上を見やる姿の2系統が主なパターンだといいます。前者の系統の最古例として京博本と、同系統の常盤山文庫本が展示されていて、藤原信実の筆と伝わる京博本はどこか悲しげな精緻な願望表現が印象的。でも重文指定は常盤山文庫本だけなんですね。中国の維摩居士図のポーズとの類似が指摘されていたのも興味深い。東博所蔵の伝・信実筆の人麻呂像は珍しく右向き。顔の表情もかなり違うのが面白い。

先の出光美術館の『歌仙と古筆』展でも同様の章がありましたが、人麻呂がなぜ歌聖として崇められたのかについては出光美の方が、人麻呂の図像については今回の京博の方が解説も詳しく、また分かりやすかったかなと思います。ちなみに、出光美術館の『歌仙と古筆』展では特に人麿影供について詳しく触れていて、また柿本人麻呂と山部赤人の同一人物説を取り上げ、図像の近似性を分析していたのも興味深かったです。

詞・伝後京極良経、絵・伝藤原信実 「佐竹本三十六歌仙絵 柿本人麻呂」(重要文化財)
鎌倉時代・13世紀 出光美術館蔵 (展示は11/10まで)

2階に下りると、そこは「佐竹本三十六歌仙絵」一色。まずは「佐竹本三十六歌仙絵」がどのような経緯で誰が決断し分断されたのか、抽選はどこでどのように行われたのか、などが少しドキュメンタリー仕立てに構成され、関連展示とともに解説されていました。

くじで使われ今は花入れに仕立てられた竹筒や実際のくじなんかもあったり、いろいろ興味を引きます。東京国立博物館の庭園に「応挙館」がありますが、なんとあそこが抽選会場だったんですね(もとは名古屋市郊外の明眼院の書院として建てられものを、益田孝(鈍翁)が品川の邸内に移築。その後東博に移築)。

詞・伝後京極良経、絵・伝藤原信実 「佐竹本三十六歌仙絵 平兼盛」(重要文化財)
鎌倉時代・13世紀 MOA美術館蔵 (展示は11/10まで)

本展では、凡河内躬恒、猿丸大夫、斎宮女御、藤原清正、伊勢、中務の6点が未出品。中務以外は全て個人所蔵なので、なかなか理解が得られなかったのかもしれません。残念。わたしが観に行った日(11/3)は27点が展示されていたのですが、展示替えで観られなかった作品の内、山部赤人と藤原敦忠と源順は過去に観ているので、これで「佐竹本三十六歌仙絵」の内、30点を観たことになります。

詞・伝後京極良経、絵・伝藤原信実 「佐竹本三十六歌仙絵 素性法師」(重要文化財)
鎌倉時代・13世紀 個人蔵

「佐竹本三十六歌仙絵」は絵を藤原信実、詞書を後京極良経とされていますが、あくまでも伝承で、特に絵は複数の絵師が関わっているといわれています。佐竹本以外にも本展では歌仙絵がいくつか展示されていて、結構な割合で藤原信実筆というのを目にするのですが、筆致に共通性はあまり見られなかったりします。それだけ信実が当時評価されていたということなんでしょうね(信実は「北野天神縁起絵巻(承久本)」の筆者ともされている絵師)。書のことはよく分かりませんが、後京極良経の書はお世辞にも流麗とは言えないと思ったのは内緒(笑)。

絵はそれぞれ詠歌に込められた作者の心情などが反映されているというようなことが解説にあったのですが、そこまでの深読みは素人にはなかなか難しいのが正直なところ。鎌倉時代の絵画によく見る似絵ですが、顔の表情というより、平安貴族の装束やその文様、下を向いていたり後ろ姿だったりという、全体のムードやちょっとした仕草が繊細に描かれていて、その点ではいろいろ比較しては楽しんでいました。

詞・伝後京極良経、絵・伝藤原信実 「佐竹本三十六歌仙絵 藤原高光」(重要文化財)
鎌倉時代・13世紀 逸翁美術館蔵

佐竹本の他にも「上畳本三十六歌仙絵」や「時代不同歌合絵」などさまざま歌仙絵が出ているのですが、佐竹本より同じ伝・信実筆の「上畳本三十六歌仙絵」の方が人物表現が細やかで、表情や仕草にも個性があって、どちらかというと個人的には好みでした。佐竹本では女性歌人は(わたしの行った日は)小野小町しか観られなかったのですが、「後鳥羽院本三十六歌仙絵」では小大君と伊勢と中務が出ていて、少し丸みを帯びた顔も可愛らしく、ちょっと素朴絵っぽい雰囲気もあって面白い。表具がまた華麗。

出光美の『歌仙と古筆』展では俵屋宗達の「西行物語絵巻」が出てましたが、こちらは鎌倉時代のオリジナルが、今は徳川美術館と文化庁に分蔵されている2巻とも出品されていて感動しました。人々の表情や屋敷内の様子も細かく丁寧に描かれてる一方、山や樹木の描写が当時のやまと絵に比べるとちょっと個性的なのが印象的でした。

詞・伝藤原為家、絵・伝藤原信実 「上畳本三十六歌仙絵 藤原仲文」
鎌倉時代・13世紀 個人蔵

江戸時代の歌仙絵は屏風が3点のみで、ちょっとあっけない。やまと絵の土佐光起と京狩野の狩野永岳は完全に装飾で、歌仙絵も様式化されていますが、その中で其一はユーモラスで楽しい。狩野探幽や岩佐又兵衛の歌仙絵も出てれば、より充実したものになったのにと思ったりもしました。

 鈴木其一 「三十六歌仙図屏風」
江戸時代・19世紀 個人蔵


【流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美】
2019年11月24日まで
京都国立博物館にて



古今和歌集 (岩波文庫)