昨年秋にリニューアルオープンしてから続く“リニューアルオープン展”の第三弾。今回は静嘉堂文庫美術館所蔵の仏画や仏像を中心とした展覧会です。
目玉は運慶の作とも囁かれる「木造十二神将立像」で、サブタイトルに<修理完成披露によせて>とあるように、静嘉堂所蔵の7躯の内4躯(残り3躯は修理中)が修理を終え、本展がその修理後初公開となります。
「木造十二神将立像」は浄瑠璃寺旧蔵で、12躯全てが現存。残りの5躯はトーハクにあるのだとか。檜材の寄木造で、会場には修理過程がパネルで解説されていて、解体された様子なども紹介されています。
動きのある造形と表情豊かな面相で、鎌倉時代特有のリアリズムが魅力。かつては色も鮮やかで美しい文様も施されていたようで、肉眼でもその跡は分かりますが、展示パネルでは詳しく説明されています。十二神将なのでシンボルとして十二支に因んだ動物が頭上に飾られています。寅はちょっとどう見ても犬でしたが(笑)
「木造十二神将立像(寅神像・卯神像・午神像・酉神像)」(重要文化財)
鎌倉時代・13世紀 静嘉堂文庫美術館蔵
鎌倉時代・13世紀 静嘉堂文庫美術館蔵
<静嘉堂所蔵の奈良〜平安時代の経典>には奈良時代の貴重な経典や華麗な紺紙金銀字交書経などがありますが、見ものは「百万塔および百万塔陀羅尼」で「百万塔」が30基、「陀羅尼」が9巻展示されています。百万塔は奈良時代に鎮護国家の祈願のため制作された木製の三重小塔で、東大寺や興福寺、法隆寺など南都十大寺に十万基ずつ分置したもの。塔の中には「陀羅尼」(仏教の呪文)が納められていて、現存する世界最古の印刷物の可能性もあるといいます。
伝・張思恭 「文殊・普賢菩薩像」
元時代・14世紀 静嘉堂文庫美術館蔵
元時代・14世紀 静嘉堂文庫美術館蔵
さすが静嘉堂、仏画コレクションの素晴らしさに身震いします。<中国・高麗仏画コレクション>では若冲が模写したと話題の東福寺伝来の「釈迦三尊図」が古色を帯びた厳かさと優美な味わいがあり、秀逸。先日『若冲展』で若冲の「釈迦三尊図」を拝見したばかりですが、若冲のヴィヴィッドな釈迦三尊とは印象が全然違います。単眼鏡で覗くと截金などを使った精緻な文様や彩色にさらに驚きます。
ここでは元は東山御物という牧谿の「羅漢図」や、高麗仏画らしい優美な「水月観音」が出色。特に「水月観音」は透明感のある薄いヴェールを纏い、その繊細な表現に言葉を失います。
「普賢菩薩像」(重要文化財)
鎌倉時代・13世紀 静嘉堂文庫美術館蔵
鎌倉時代・13世紀 静嘉堂文庫美術館蔵
<日本の仏画・垂迹画コレクション>もなかなかの逸品揃い。会場入口に展示されていた「普賢菩薩像」がまた素晴らしい。同様の図様の白象に乗った普賢菩薩はいくつか観ていますが、本作は截金や金泥を多用した繊細な表現が光ります。こちらも修理をされたということで、修理作業の様子がパネルで紹介されています。
南北朝時代の重文の「弁財天像」は個人的にかなり惹かれました。緑青を効果的に用いた濃彩の仏画で、独特の味わいがあります。並びの「如意輪観音像」と「千手観音二十八部衆像」も緑青を活かしたところなどが似ていて系統が一緒なのでしょうか。特に後者に二幅は観音様の顔も酷似していて、関係が気になります。
河鍋暁斎 「地獄極楽めぐり図(「盛り場」「市村竹之丞の『保名』」)
明治2~5年(1869-72) 静嘉堂文庫美術館蔵
明治2~5年(1869-72) 静嘉堂文庫美術館蔵
これを仏画で括るのはちょっと憚られますが、河鍋暁斎の「地獄極楽めぐり図」が出ていて、これも見もの。暁斎のパトロンだった藤田五兵衛の14歳で夭折した愛娘の菩提と弔うために制作された画帖で、女の子が阿弥陀様に連れられ、地獄の高みの見物したりしながら、極楽浄土に行くまでを描いています。歌舞伎が好きだったのか歌舞伎役者の絵があったり、盛り場の場面にも歌舞伎に因んだモティーフが描かれていたりします。40面の内9面が展示されていて、華やかな色合いと細緻な描写、暁斎らしいユーモアが見どころ。あまりに面白くて何周もしてしまいました。
河鍋暁斎 「地獄極楽めぐり図(「極楽行きの汽車」)」
明治2~5年(1869-72) 静嘉堂文庫美術館蔵
明治2~5年(1869-72) 静嘉堂文庫美術館蔵
館内はそれほど広くないのですが、ここは観るべき作品が多いので、いつも軽く1時間以上使うんですよね。静嘉堂文庫の優れた仏像・仏画コレクションを拝見できるまたとない展覧会ですので、この機会に是非。ロビーには国宝の「曜変天目(稲葉天目)」と重文の「油滴天目」が特別出品されています。
【よみがえる仏の美 ~修理完成披露によせて~】
2016年6月5日(日)まで
静嘉堂文庫美術館にて
仏像: 日本仏像史講義 (別冊太陽スペシャル 創刊40周年記念号)
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