2014/05/04

ねこ・猫・ネコ展

渋谷区立松涛美術館で開催中の『ねこ・猫・ネコ』展に行ってきました。

わたし自身、ずっと猫を飼っていて、犬より猫派の人間なので、本展も気になっていたのですが、気付いたら前期展示が終了してしまい、慌てて後期展示を観てまいりました。

美術館で絵を観ていると、猫が登場する作品というのは意外と多いもの。犬より多いのではないでしょうか? 日本画によく出てくる虎を描いた作品なども、昔の人は実際に虎なんて見たことがなかったので、「それ、ネコだろww」とツッコミを入れたくなるような絵にも時々出会います。

本展は、そんな絵画や彫刻の題材となった猫を日本美術を中心に紹介する展覧会。猫を描いた作品を観ることで、猫と人間の切っても切れない長い歴史も見えてきます。


序章 猫の誕生

リニューアルされた松涛美術館の地下1階と2階が会場。まず地下1階から。入ってすぐのところに、エジプト王朝時代の猫のブロンズ像が展示されています。エジプトでは猫が神格化(バステト)されていて、お墓からは猫のミイラも発見されているのだといいます。また、この頃から猫の家畜化がはじまったと解説されていました。


第一章 孤高の猫

日本には仏教の伝来とともに猫も入ってきたそうで、仏典などを守るために鼠などの駆除が目的だったようです。

最初に登場するのが、沖縄の二つの「神猫図」で、ネコというよりキツネっぽい。沖縄でも猫は神格化されていたのですね。ここでは黒田清輝の油彩画「花と猫」や夏目漱石が描いた「あかざと黒猫」、奥村土牛や月僊の日本画、橋本平八の猫のブロンズなどが展示されています。

黒田清輝 「花と猫」
明治39年(1906) 愛知県美術館蔵


第二章 猫のいる場景

生活の中に溶け込んだ猫の絵を紹介。古くは「春日権現験記絵」(模本)に出てくる猫から、現代の大切なペットとして描かれている猪熊弦一郎のモダンな「三人の娘」などまで、いつの時代も人間のそばにはいつも猫が。丸まった背中から墨を入れ、両耳から煙を出すという仁阿弥道八・作の「黒楽銀彩猫手焙」が面白い。

猪熊弦一郎 「三人の娘」
昭和29年(1954) 横須賀美術館蔵

千種掃雲 「木蔭」
大正11年(1922) 京都国立近代美術館蔵

個人的には千種掃雲の「木蔭」と結城素明の「無花果」の気持ち良さそうに安らぐ猫に和みました。


第三章 眠る猫

猫の語源は「寝る子」ともいいます。ここでは墨でまん丸に猫を描いた与謝蕪村や原在中の子・原在正、近現代では堂本印象や西山翠嶂らの作品、朝倉文夫のブロンズなどが展示されています。河鍋暁斎・暁女親子の「絵手本習作」の軽妙なタッチの猫がまたかわいい。

原在正 「睡猫図」
江戸時代 大阪市立美術館蔵

堂本印象 「母子」
昭和4年(1929) 松岡美術館蔵


第四章 猫と蝶

日本画を観ていると、“猫と蝶”、“猫と牡丹”という組み合わせによく出会います。昔からなんでだろうと思っていたのですが、ようやく謎が解けました。蝶と“長”、猫と“命”はそれぞれ発音が同じため語呂合わせで、古くから長命を願う画題として一緒に描かれてきたのだそうです。中国にはお年寄りを意味する“耄耋(もうてつ)”という言葉があり、“耄”が猫、“耋”が蝶とそれぞれ発音が同じで、やはり好んで描かれたいいます。同じように“猫と牡丹”も豊かになって長生きするという意味があるとか。

椿椿山 「君子長命図」
天保8年(1837) 板橋区立美術館蔵

増山雪斉 「百合に猫図」
江戸時代 三重県立美術館蔵


第五章 猫と鼠

洋の東西を問わず、猫とネズミは格好の題材で、小林清親の有名な木版画や、竹内栖鳳が即興的に描いた軽妙な味わいの「酔興」など、思わず笑ってしまいそうな作品が紹介されています。極めつけはネズミを咥えた瞬間の猫がリアルな朝倉文夫の「よく獲たり」。猫本来の本能を見事に捉えただけでなく、しなやかな筋肉など写実的な表現力が素晴らしい。そしてこのタイトル。獲物を穫ってきた猫を褒める朝倉文夫が目に浮かぶようです。

小林清親 「猫と提灯」
明治10年(1877) 千葉市美術館蔵


第六章 猫と美人

つづいて2階へ。源氏物語の「女三宮」を見立てた浮世絵が3点。いずれも美女の足元に猫がじゃれていて、お決まりの構図なのでしょう。同じ画題を描いた川端玉章の「女三の宮」も四条派らしい丁寧な筆致と清楚な風情がとてもいい。

川端玉章 「女三の宮」
明治時代 東京藝術大学蔵

昭和系な若い美人が猫を抱く長谷川昇の「婦人と猫」、おばあさんが猫を抱える木村荘八の「祖母と子猫」の並びも楽しい。裸婦と猫という組み合わせの作品も3点ほど並んでいて、これも意外性があって面白い。白い洋装の女性と膝の上にのせた黒猫のコントラストが印象的な中村貞以の「猫」も◎。


第七章 中国・朝鮮の猫

最後は日本画に大きな影響を与えた中国・朝鮮の作品を紹介。沈南蘋の「老圃秋容図」、伝・毛益の「蜀葵遊猫図」、卞相璧の「飛雀猫図」と素晴らしい作品があります。白眉は劉埜齢の「斑猫」。劉埜齢は20世紀前半の中国の動物画の大家だそうで、虫か何か飛んでるのか虚空を見つめる猫の表情・描写が秀逸。毛の柔らかな質感も巧みで、獲物を狙う時の尻尾の動きもとてもリアル。

沈南蘋 「老圃秋容図」
雍正9年(1731) 静嘉堂文庫美術館蔵

2階の会場には、現代日本画家の中島千波と畠中光享の猫を描いた新作絵画も公開されています。

どれもたまらなく愛おしいねこ、猫、ネコ。絵を観ている人は誰もが笑顔で、楽しそうなのが印象的でした。猫好きの美術ファンなら必見の展覧会です。


【リニューアル記念特別展 ねこ・猫・ネコ】
2014年5月18日まで
渋谷区立松涛美術館にて

※毎週金曜日、渋谷区民は無料(在住がわかる書類要)。猫割、リピーター割もあります。詳しくは公式ウェブサイトへ。


猫の絵画館 (コロナ・ブックス)猫の絵画館 (コロナ・ブックス)


藤田嗣治画文集 「猫の本」藤田嗣治画文集 「猫の本」

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