前期も面白く拝見し、後期はほとんどの作品が入れ替わるとあって、早速伺って参りました。出光美術館が所蔵する日本画の優品の数々を一挙展示する展覧会だけあり、非常に見応えるのある展覧会です。
前期展示についてはこちら
さて、最初は絵巻から。
「福富草紙絵巻」はお馴染みの放屁もの(笑)。トーハクの『クリーブランド美術館展』で展示されてたクリーブランド美術館本や有名なサントリー美術館本と話の筋は同じようですが、出光美術館本は状態がいいのか絵が割ときれいな印象。
もう一つ、「北野天神縁起絵巻」は北野天満宮の創建と霊験譚を描いたもので、比較的大きな絵巻。筆というよりまるでペンで描いたようなくっきりした線が印象的。まるでマンガのよう。
つづいて仏画。ここでは八大地獄の有り様を描いた双幅の「十王地獄図」がいい。恐ろしい地獄の光景の中にも地蔵菩薩や観音菩薩が描かれ、地獄の中にも救いの手が差し伸べられているのが面白い。
伝・周文「待花軒図」
室町時代 出光美術館蔵
室町時代 出光美術館蔵
水墨画では周文と伝わる「待花軒図」が秀逸。童子(書生?)が庭を掃いているという何気ない光景の画ですが、よーく見ると屋敷の中に書物が積まれていたりして、恐らく誰かが隠遁生活を送っているのでしょうか。そして名前が“花を待つ軒”。なんと風雅な。
右幅に桃源郷を訪れる漁師が、左幅に瀑布を眺める李白が描かれた岳翁蔵丘の「武陵桃源・李白観瀑図」、ゆったりたっぷりとした墨の表現に思わず唸ってしまった相阿弥の「山水図」も素晴らしい。
「四季花木図屏風」(重要文化財)
桃山時代 出光美術館蔵
桃山時代 出光美術館蔵
やまと絵では、探幽による極書に土佐光信筆とあるという「四季花木図屏風」が絶品。たなびく金や銀の雲霞、琳派を思わせる波紋の美しさ。優美でありながらも華美になり過ぎない品の良さがあります。室町やまと絵屏風の代表的作品とのこと。一部銀が変色してしまっていますが、当時はどれだけ美しかったことだろうかと思います。
「祇園祭礼図屏風」(重要文化財)
室町時代 出光美術館蔵
室町時代 出光美術館蔵
つづいて奥の部屋には何度かお目にかかっている「祇園祭礼図屏風」。よくある洛中洛外図のように町の賑わいや様々な風俗が描きこまれているというわけではありませんが、祭礼に絞っているだけあり当時の祇園祭の様子がよく分かります。祇園祭礼を単独で描いた屏風では最も古い例で、慶長期(1596~1615)の狩野派によるものと考えられてるとか。誰でしょうね。
初期風俗画では「阿国歌舞伎図屏風」や2つの「遊女歌舞伎図」といった初期の歌舞伎の様子を伝える作品も見どころ。
「見立伊勢物語・河内越図」
江戸時代 出光美術館蔵
江戸時代 出光美術館蔵
浮世絵で興味深かったのが「見立伊勢物語・河内越図」。右手で立褄を取り、左袖を伸ばすポーズが当時持て囃され、寛文美人図など浮世絵の女性の特有の立ち姿に影響したのだそうです(その作例も展示されてます)。
浮世絵では、胸を肌蹴て涼風にあたる女性が妖艶な勝川春章の「柳下納涼美人図」、姉弟にしてはお姉さんが妙に色っぽい歌麿の「娘と童子図」と黄金時代を代表する二人の作品も◎。
浦上玉堂 「雙峯挿雲図」(重要文化財)
江戸時代 出光美術館蔵
江戸時代 出光美術館蔵
文人画では浦上玉堂の「雙峯挿雲図」が面白い。酒に酔った勢いで画を描き、酔いが醒めると手を止める。それで最高傑作、重要文化財といわれるのだから凄い。左上に記した銘も酔いどれ字。
個人的に惹かれたのが渡辺華山の「鸕鷀捉魚図」。今まさに鮎を飲み込もうとする鵜とそれを木の上から見つめる一羽の鳥。崋山の写実表現があいかわらず素晴らしい。
鈴木其一 「桜・楓図屏風」
江戸時代 出光美術館蔵
江戸時代 出光美術館蔵
琳派には、出光美術館の琳派系の展覧会ではお馴染みの酒井抱一の「八ツ橋図屏風」と鈴木其一の「桜・楓図屏風」。抱一の「八ツ橋図屏風」は、写真で観るより実物は濃厚感のある光琳の屏風に比べて五月の爽やかな空気を感じさせます。其一の屏風は縦が50cmと小ぶりながら山桜の青楓の対比、構図が面白い。
狩野派は松栄、宗秀、長信の親子、そして江戸狩野に学んだ英一蝶。やはり素晴らしいのが長信の「桜・桃・海棠図屏風」で、八曲一隻の大画面に堂々とした桃の木とピンクと白の花が美しい。ここでは桜も海棠も桃を引き立たせるための脇役でしかありません。桃山の狩野派らしい絢爛豪華な屏風。
狩野長信 「桜・桃・海棠図屏風」
桃山時代 出光美術館蔵
桃山時代 出光美術館蔵
等伯は「波濤図屏風」。前期のときもブログに書きましたが、2011年の『長谷川等伯と狩野派展』では“禅林寺本によく倣いながらも、また新しい波濤図を創ろうとした、等伯次世代の長谷川派絵師による作品”とされていたものが、本展では“等伯筆”として紹介されています。そう断定するに至ったいきさつや理由は何だったのでしょうか。解説には具体的なことは何一つ触れておらず、等伯の画論書『等伯画説』に著されているとか、禅林寺本に類似しているとかだけで、根拠とするにはあまりに乏しい。ちょっと丁寧さに欠ける気がします。
最後は仙崖。嫁姑問題を野次った仙崖らしい「すりこぎ画賛」だけでなく、ただ座ってるだけでは座禅にならないといったことを賛に書いた「達磨画賛」という禅僧らしい作品もあって、ただのお面白坊主ではなかったのだなと納得(笑)
他にも出光美術館所蔵の古伊万里や古九谷、柿右衛門といった工芸品(こちらは前後期入れ替えなし)も展示されていて、日本絵画というより日本美術の魅惑がいっぱいの展覧会でした。
【日本の美・発見Ⅸ 日本絵画の魅惑】
前期 2014年4月5日(土)~5月6日(火・休)
後期 2014年5月9日(金)~6月8日(日)
出光美術館にて
BRUTUS特別編集合本・日本美術がわかる。西洋美術がわかる。 (マガジンハウスムック)
狩野派決定版 (別冊太陽―日本のこころ)
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