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2年ぶりのコクーン歌舞伎。
個人的な趣味として、歌舞伎は古典が好きな方なので、現代的解釈とか斬新な演出とか、奇を衒った展開とか、そういうのが苦手で、ラップまで登場した前回はちょっと遠慮しました。今回は、過去にも上演している演目だし、菊之助がコクーン初参加ということで、早々にチケットを手配し行って参りました。
中村勘三郎が休養中ということもあり、以前は勘三郎が演じた三五郎を中村勘太郎、浪人・源五兵衛を中村橋之助、そして芸者・小万を尾上菊之助が演じ、加えて、いつもの坂東彌十郎、片岡亀蔵、そして笹野高史が出演しています。
今回の芝居で出色は、やはり主役の橋之助と客演の菊之助。原作の鶴屋南北の世界を体現している橋之助演じる源五兵衛は、今は浪人とはいえ侍としてのプライド、特に義士に戻りたいという強い希望、そして一方で小万への一途な愛が演技以上に体から伝わってこないといけない難しい役どころだと思うのですが、それがよく出ていたと思います。小万へのストーカー的ともいえる過剰な愛は源五兵衛の狂気へと変貌し、現代的演出で薄くなりそうなこの芝居に重厚感を与えていました。特に、凄惨な小万殺しの場面の鬼気迫る演技は、歌舞伎ならではの殺しの“所作”とあいまって、狂気と美しさがなんともいえないバランスを保ち、感動的ですらありました。
夫・三五郎の頼み故、悪女になり、源五兵衛をまんまと騙す菊之助演じる小万も、惚れ抜いた三五郎に見せる可愛げのある女心と、源五兵衛の前で見せる色気としたたかさを巧く演じわけ、今や若手随一の女形の実力を遺憾なく発揮していたと思います。
三五郎の勘太郎は声や節回しがますます勘三郎に似てきて、 目をつぶっていたら、勘三郎かと間違えてしまいそうなぐらい。勘三郎譲りの愛嬌ある軽妙さと、肝の据わった押しの強さもあって観ていて楽しい。もちろん勘三郎の域に達するにはまだまだ経験と場数が必要だろうけど。
橋之助の息子・国夫が源五兵衛に仕える若党・六七八右衛門役で出演していましたが、まだ16歳の彼には少々荷が重いか、台詞回しにもまだ幼さが残り、頑張ってはいたけれど、芝居にもたつき感を与えてしまっていたのは否めなかったかなと思います。コクーン歌舞伎のもう一人の主役、笹野高史も一人二役で今回も健闘し、観客の笑いを大いに取っていましたが、ちょっとテンションが低かったように感じたのはお疲れ気味だったのでしょうか?三五郎の父としての役作りがあっさりしていたというか、演じ方にちょっと物足らなさも感じました。
ラストはコクーン歌舞伎らしい演出で、回り舞台を巧く使い、フラッシュバックのように過去の幸せな場面を再現するという、考えてみると、無常感さえ感じる哀切なシーンで終わるのですが、その中を彷徨う源五兵衛に天から大星由良助(大石蔵之助)の声が聞こえてきます。その声を休養中の勘三郎が担当しており、22日の公演から“リハビリ復帰”として、この日も紗幕の向こうに討ち入りの格好に身を包んだ勘三郎が登場。自分は熱烈な中村屋ファンではありませんが、やはり久しぶりに勘三郎の姿が見えたときにはウルっときました。まだ本調子ではなさそうでしたが、元気な姿が見られただけで歌舞伎ファンとしては何より嬉しいことです。
全体的に演目の古典らしさから離れず、演出的に踏み外すようなこともなく、>鶴屋南北の世界とコクーンの現代性が見事に融合し、非常に面白い芝居でした。黒御簾音楽に混じったチェロの生演奏も、古典性と現代性の媒介としての役割を巧く担っていて、逆に印象を深めていたと思います。
このコクーン歌舞伎が終わると、シアターコクーンはしばらく改修工事のため休業するとのことで、来年は生まれ変わったシアターコクーンでどんなコクーン歌舞伎が観られるのか今から楽しみです。
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