2010/05/01

御名残四月大歌舞伎 ~第三部~

さてはさては、第三部。

最初の演目は「実録先代萩」。
歌舞伎座でかかるのも実に17年ぶりという、なかなか観られない演目です。歌舞伎の人気演目「伽羅先代萩」と同じ仙台藩のお家騒動を題材にしたものですが、“実録”という名前の通り、お家騒動の実録を基にして河竹黙阿弥が書き上げたものだとか。「伽羅」の政岡が「実録」では浅岡になっていたり、我が子が毒見で亡くなる「伽羅」に対し、「実録」は幼い我が子が幼君に生涯の主従を誓うというように、内容も少しというか、かなり違います。子別れものの名作という話ですが、どちらかというと“母もの”的な色が濃いお芝居でした。

幼君の乳人浅岡には人間国宝の芝翫、幼君・亀千代には仁左衛門の孫(孝太郎の子)の千之助くん、浅岡の子・千代松には芝翫の孫(橋之助の子)の宜生くんが演じてい ます。歌舞伎座最後の公演に抜擢されるだけあり、2人ともとてもしっかりしていて、将来が楽しみになります(その分というか、児太郎くんの不出来がちょっと目立ってしまい、残念)。基本的に悲しいお話で、自分も何度か目頭が熱くなる場面がいくつかあったのですが、客席から笑いがこぼれるのには少し戸惑いました。まぁ、歌舞伎ファンって子役の成長も楽しんでるところがあるからか、また子役たちの微笑ましさからなんだろうなと、一人納得し ていましたが。

さあ、大トリは歌舞伎十八番「助六由縁江戸桜」。
吉原の三浦屋で花魁の揚巻を髭の意休が口説きますが、揚巻には助六という間夫がいて、意休に悪態をつきます。そこへ助六がやって来て、意休に喧嘩をしかけ、さらに意休の子分くわんぺら門兵衛や朝顔仙平を懲らしめて意休を挑発。実は助六は曽我五郎の世を忍ぶ姿で、重宝友切丸の行方を探すために喧嘩を売っては刀を抜かせ、友切丸かどうか確かめていたのでした…。

さすがに、さよなら公演の大トリを飾る舞台だけに、現在考えられる歌舞伎界の最高の役者がズラリ。絢爛豪華な舞台に目を奪われ、正に眼福。助六に團十郎、揚巻に玉三郎、さらには福助に左團次、仁左衛門、三津五郎、勘三郎、歌六、そして菊五郎と、空前絶後の超豪華出演陣で、さらに舞台の最初には海老蔵が口上を述べるというおまけつき。團十郎と玉三郎のコンビは、何度も助六と揚幕を一緒にやっているようで、実は昭和63年以来の顔合わせだそうです。もうこれを観ずして何を観るといいたくなるような贅沢な舞台でした。

玉三郎はやはり当代一の美しさ、正に絶品。團十郎の小気味良い江戸弁と勇み肌の助六も楽しく、菊五郎の柔和でどこか飄逸な白酒売は流石、巧い!と唸りたくなりました。自らも何度も助六を演じている仁左衛門が三枚目のくわんぺらをやるというのも意外性があって贅沢だし、勘三郎は舞台をかっさらってしまう程の巧みな話術で会場を爆笑の渦に包んでしまうし、どの役者も素晴らしく、そして非常に楽しく、大満足の約2時間でした。

でも、夢か現か幻か、至福の時というのはあっという間に過ぎるもの。助六の幕と共に、歌舞伎座の幕も下りたのでした。

今月は歌舞伎に始まり、歌舞伎に終わり、という感じで、ほかのことにはあまり頭が働きませんでした。2013年に新しい歌舞伎座が完成するまでは、新橋演 舞場など他の劇場で歌舞伎を観ることになると思いますが、3年後、またここで歌舞伎を観られたら楽しいだろうなと思う、今月の歌舞伎座でした。



「御名残四月大歌舞伎」
4/21 歌舞伎座にて

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