2010/05/07

美しき挑発 レンピッカ展

今週で最終日を迎える『レンピッカ展』に行ってまいりました。

今回の『レンピッカ展』は、マドンナの「VOGUE」をテーマ曲(?)に使ったり、派手に宣伝もされていて、“アールデコを代表する画家”的なアピールが強く押し出されています。確かにレンピッカというとアールデコを代表する画家という印象が強いように思うのですが、わたし、基本的にアールデコって、それほど得意ではないんです。

でも、なんでそんな自分が、レンピッカに興味を持っていたかというと、自分はどちらかといえば、マレーネ・ディートリッヒとかグレタ・ガルボとか、ジーン・ハーローとか、20~30年代の好きな映画女優の延長線上に、同時代の女性の象徴としてレンピッカが存在していたからなのです。

だから、恥ずかしい話、レンピッカの絵はよく知らず(汗)、彼女の生き様(時代の先端を行く行動的な女性、数々の女性遍歴を持つ同性愛者(正確にはバイセクシャル))に興味を覚えていたというのが正直なところです。

「サン・モリッツ」

そんなレンピッカの大々的な回顧展があるというので楽しみにしていましたが、いよいよあと少しで閉幕というときになって、ようやく足を運ぶことができました。

会場となる“Bunkamura ザ・ミュージアム”はそれほど大きな会場ではありませんが、それでも日本未公開作品を含め、レンピッカの代表作など約60点もの作品が来てるといいます。日本でこれだけまとまった形でレンピッカの展覧会を開くのは初めてだということで、これを逃すと、これだけの作品に一度にお目にかかれるチャンスはそうそうありません。

「イーラ・Pの肖像」

「マルジョリー・フェリーの肖像」

会場は、初期の作品を集めたプロローグ「ルーツと修行」を筆頭に、20年代~30年代前半の絶頂期の「第1部 狂乱の時代」、戦争の足あとが聞こえる中、重い鬱病に苦しみ、悩みながら描いた「第2部 危機の時代」、そして第二次世界大戦を逃れ渡米し、時代の流れと共にスタイルが変遷していった「第3部 新大陸」、不遇の時代を経て、再び脚光を浴びた晩年の「エピローグ」といった内容で構成されています。

「カラーの花束」

レンピッカらしさは、やはり「第1部 狂乱の時代」。
当時のレンピッカの絵は、キュビズムの影響を受けたアールデコ的なデフォルメを持ちながらも、斬新で、鮮やかで、エレガントで、官能的です。レンピッカの絵に多く見られる男女や女性同士の裸体の絵といった扇情的な作品は今回の展覧会には出展されていませんでしたが(意図的?)、それでも男性をモデルにした絵があまり魅力的でないのと対照的に、女性を描いた絵はどれも生き生きしていて、美しく、自由で、官能的なものばかり。娘キゼットを描いた絵でさえ、どこか“性的”なものすら感じさせます。

「タデウシュ・ド・レンピッキの肖像」
レンピッカの最初の夫の肖像画。離婚でもめていた時期の作品のため、
結婚指輪をはめていた左手は未完成となっている。

「ピンクの服を着たキゼット」
レンピッカのモデルとして何度も登場する娘キゼット。
ナボコフの『ロリータ』の表紙にも使われたのだとか。

「シュジー・ソリドールの肖像」
LANVANのモデルやキャバレー歌手としても活躍したレンピッカの愛人。
レンピッカは彼女をモデルにした官能的な作品を多く残しています。

「第2部 危機の時代」は、それまでの華麗な画風からは一転、描かれる題材は修道女や難民の姿など重苦しいものに変わり、被写体の表情も沈み、色調も暗いものとなっていきます。そこには戦争やレンピッカ自身の鬱病が大きく起因していると言われていますが、それらの作品は宗教色、政治色が強いものになっています。しかし、一方で、この時代の作品は、それまでの表面的な美しさや装飾性が取り除かれ、レンピッカのパーソナルな、内面的な部分が浮き彫りになり、そのためか以前の作品よりも、より研ぎ澄まされた印象を受けました。

「修道院長」

戦争がヨーロッパ全土に広がった頃、レンピッカはアメリカに移住しますが、その頃から、また彼女の絵に明るさや華やかさが戻ってきます。しかし、すでにアールデコの時代は終わり、戦後のレンピッカの絵からは彼女の迷いが伝わってきます。作風は大きく変わっていき、そこにはかつての力強さや先進さは見られません。そして時代はレンピッカから離れていってしまったようです。自分をアピールするがために、社交界の“場”である豪華客船で着るドレスの、自ら描いたデザイン画が飾られていましたが、その絵からは痛々しさすら感じられました。

「パンジーを持つ女」

せめてもの救いが、晩年、レンピッカを知らない世代の若者たちがレンピッカを再発見し、それにより、再び彼女の絵に“レンピッカらしさ”が垣間見られるようになったことでしょう。 その評価は、レンピッカの死後、ますます高まっているのではないでしょうか。この展覧会を機に、レンピッカの絵の素晴らしいさやライフスタイル、時代の先端性がもっと多くの人に知ってもらえれればと思いました。

「自画像」


【美しき挑発 レンピッカ展】
Bunkamura ザ・ミュージアムにて
2010年5月9日(日) まで

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