2013/05/04

山口晃展 付り澱エンナーレ

横浜そごう美術館で開催中の『山口晃展 ~付り澱エンナーレ(つけたりおりエンナーレ) 老若男女ご覧あれ~』に行ってきました。

伝統的な日本画の、洛中洛外図や吹抜け屋台的な構図、大和絵や浮世絵、水墨画などの要素、さらには古今の人物や風俗、景色が時空を超えて混在するユニークな画風で知られる現代アーティスト・山口晃の展覧会です。

これまで山口晃の作品は、『アートで候。会田誠・山口晃展』(上野の森美術館)や『ネオテニージャパン』(上野の森美術館)、『ジパング展』(日本橋タカシマヤ)、『会田誠+天明屋尚+山口晃 − ミヅマ三人衆ジャパンを斬る』(ミズマアートギャラリー)などの展覧会で何度か拝見してるのですが、考えてみたら、単独の展覧会を観るのは今回が初めてなのでした。昨年秋に京都の伊勢丹で開催した個展の巡回なのかと思ってましたが、内容は少し異なるようですね。(そごう美術館の本展は新潟市美術館に巡回されます)

現代アートはちょっと不得手としているところがあるのですが、山口晃の作品は日本画好きの心をくすぐるものがあり、個人的にとても大好き。今回も十分楽しませていただきました。

出品リストがなかったので正確には分かりませんが、自分のメモを見る限り、約50作品(1タイトルで複数品展示のものは1作品と計算。付り澱エンナーレ含む)ほど展示されていたと思います。

山口晃 「千躰佛造立乃圖」 2009年

入ってすぐのところに展示されていたのが「千躰佛造立乃圖」。千手観音がベルトコンベアー方式で制作されていく過程を描いたユーモアあふれる作品です。会場はデパートということもあって、普段現代アートの展覧会では見かけないような買い物客のおばさんたちも多かったのですが、もう初っ端のこの絵から山口晃ワールドに一気に引き込まれてしまったみたいで、楽しそうに関心しきりでした。まさに老若男女ご覧あれです。

山口晃 「演説電柱」 2012年

会場の前半には、「當世おばか合戦」や「厩圖2004」、「五武人圖」、「頼朝像図版写し」、それに電柱シリーズ(柱華道)などお馴染みの作品が並んでいました。

そのほか、澁澤龍彦の『菊燈台』(平凡社)の挿画や五木寛之の新聞連載小説『親鸞』の挿画、また親鸞展のポスターの原画や親鸞像などが展示されています。緻密さとゆるさ、伝統的な日本画(風)とポップさ、真面目さと遊び心、そのバランスというか、さじ加減がなんでこうも毎回毎回絶妙なんでしょう。

↑ 山愚痴屋澱エンナーレ 2013 会場見取り図

会場のちょうど真ん中には、<一人国際展>の『山愚痴屋澱エンナーレ 2013』のコーナーがあります。12作家20を超える作品が出品されていました(笑)。個人的には、標識の山口晃流解釈「解読」と言葉(意味)とのギャップを楽しむ「サウンドロゴ」がツボでした。いろんな人の部屋を映した映像を横スクロールでつないでいく「千軒長屋」や、会場中に衝撃音を轟かせていた「リヒターシステム」(「システムシリーズ」)も結構気に入りました。

山口晃 「東京圖 六本木昼図」 2005年

山口晃 「百貨店圖 日本橋新三越本店」 2004年

後半は再び山口晃作品で。六本木ヒルズシリーズや日本橋三越シリーズなど山口晃の傑作が並びます。中でも素晴らしかったのが「Tokio山水 (東京圖2012)」。縦162cm×横342cmの4曲1双の大型の屏風で、東京の東から西まで(下町・東京湾のあたりから山手通りのあたりまで)をパノラマで描いています。キャンバスに水墨で描かれていて、相変わらず細密というか、ここまでの大画面にびっしり事細かに描き込まれたそのボリュームと超絶技巧ぶりにただただ脱帽。去年メゾンエルメスの個展でも公開されているようですが、まだ未完であちこちに下書きや余白が残っています。この状態で観られるのは今回だけで、次回お披露目されるときは、もしかすると完成されているかもしれません。

山口晃 「Tokio山水 (東京圖2012)」(部分) 2012年

会場の最後には、ドナルド・キーンのエッセイ『私と20世紀のクロニクル』の挿画全点が特別展示されています。『親鸞』でもそうですが、これ挿絵に使えないでしょ?みたいなものも多くて、笑えます。ドナルド・キーンの半生を追いつつ、ときどき4コマ漫画「となるとキンちゃん」が挟み込まれていたりして、またしてもこの“ゆるさ”にヤラれました。

天才的に絵が上手で、センスが抜群で、だけどこの軽さというか、自由さというか、肩ひじ張らないところが人気の秘密。ユーモアとペーソスを交えつつ、驚異的な緻密画を生み出す山口晃がこれからもますます楽しみです。


【山口晃展 ~付り澱エンナーレ(つけたりおりエンナーレ) 老若男女ご覧あれ~】
2013年5月19日(日)まで
横浜そごう美術館にて


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