2013/05/18

河鍋暁斎の能・狂言画

日本橋の三井記念美術館で開催中の『河鍋暁斎の能・狂言画』展に行ってきました。

河鍋暁斎というと、6歳で歌川国芳に入門したとか、生首を拾って写生して周りの大人を気味悪がらせたとか、“らしい”エピソードに富み、またその画風も奇抜だったり、グロテスクだったり、どちらかというとアクの強いものが多い印象があります。

そんな暁斎ですが、実は狂言(大蔵流)を幼少の頃から嗜んでいたとかで、素人ながら舞台に立ったこともあるという意外な一面を持っていて、浮世絵や狂画、幽霊画など以外にも能や狂言を題材にした作品も多く残しているのだそうです。本展は、そうした暁斎の隠れた一面にスポットを当てた展覧会になっています。

さて、館内に入ってすぐの、回廊のような<展示室1>には、河鍋暁斎の能・狂言の関わりが伝わってくる画帖や錦絵、能の免状などが展示されています。

暁斎は藩士の家に生まれたからか、能や狂言など武家の文化や教養を幼くして躾けられていたそうです。暁斎が片や国芳からの影響を受けながらも、狩野派の技法も身につけていることは割と知られたことですが、暁斎の能・狂言画はさらに異なる領域というか、新たな魅力を再発見した気持ちにさせられます。

河鍋暁斎 「猿楽図式 船弁慶」
河鍋暁斎記念美術館蔵

河鍋暁斎 「猩々図扇面」
太田記念美術館蔵(展示は5/19まで)

真ん中の一番広い<展示室4>には、≪舞台を描く≫と題し、能・狂言を描いた掛け軸や屏風などが展示されています。個人的に好きだったのは、双幅の「十二ヶ月年中行事図」(展示は5/19まで)で、各月の動植物や風俗を1月から6月までを暁斎が、7月から12月を娘で絵師の暁翠が描いています。暁斎と娘・暁翠の画風はやはり似ているのですが、暁斎の絵にはどこか遊び心が潜ませてあったりして、余裕だなと感じます。そのほか、狂言の瓜盗人を即席で描いた席画が展示されていて、即妙な筆から瓜盗人のおかしみがじわじわと伝わってきます。

河鍋暁斎 「猩々図屏風」
千代田区立日比谷図書文化館蔵 (展示は5/19まで)

「能・狂言扇面貼交屏風」(展示は5/19まで)や「能・狂言画聚」など、能や狂言の一場面を描いた作品も印象的でした。やはり狂言を習っていただけあり、絵から動きが伝わってくるというか、その動きに説得力があります。ただの抜き書きではない物語が感じられるという点では、並みの能・狂言画とは異なると強く感します。

河鍋暁斎 「山姥図]
東京国立博物館蔵 (展示は5/12まで)

本展での白眉は東博所蔵の「山姥図」で、暁斎らしい濃厚な色遣いと細密な表現が非常に冴えた一枚です。山姥という一般的に妖怪とも鬼ともされる題材を、敢えて子を守る母親として描き、母性を前面に出しているという点でも印象的でした。

河鍋暁斎 「道成寺図(鐘の中)下絵」
河鍋暁斎記念美術館蔵

<展示室5>には≪迫真の下絵≫と題し、暁斎の下絵や素描が多く展示されています。「道成寺図(鐘の中)下絵」は、実際の完成作がどんな絵に仕上がっているのか分かりませんでしたが、道成寺の鐘の中でシテが装束替えを行うところを描いた下絵。鐘の中に灯り(蝋燭)や道具入れ(?)があったり、鬼の面を鏡で覗いたりという、普段見られないところを描いているというのがとても面白かったです。

河鍋暁斎 「狂斎漫画辻文板 狂言末広狩」
河鍋暁斎記念美術館蔵

最後の<展示室7>には、版本や版画になった能・狂言画が展示されています。歌川芳虎との合作「東海道名所之内」で能の舞台を描いた作品や「狂斎漫画」などが展示されていました。

暁斎の毒々しい感じはほとんどなく、そうした向きや、能や狂言にあまり興味のない方にはもしかしたら面白みに欠けるかもしれませんが、暁斎の確かな腕とレンジの広さを思い知ること必至の展覧会です。これまで暁斎に抱いてたイメージが覆されました。


【河鍋暁斎の能・狂言画】
2013年6月16日(日)まで
三井記念美術館にて


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