2013/05/10

「もののあはれ」と日本の美

サントリー美術館で開催中『「もののあはれ」と日本の美』展に行ってきました。

『源氏物語』や平安時代の和歌などに代表される日本独特の美的理念であり、情緒感である“もののあはれ”を通して、「ひたすら優美に造形化されてきた抒情豊かな美術の世界」を知るという企画展です。

Wikipediaによると“もののあはれ”とは、
・折に触れ、目に見、耳に聞くものごとに触発されて生ずる、しみじみとした情趣や哀愁。
・日常からかけ離れた物事(=もの)に出会った時に生ずる、心の底から「ああ(=あはれ)」と思う何とも言いがたい感情。
とあります。

“もののあはれ”を“哀れ”と書くと物悲しい感じを受けますが、本来は賞賛の気持ちや愛情も含めて深く心をひかれる感じを意味した言葉なのだと会場の解説にありました。そう知ると“もののあはれ”の感じ方も違ってくるのではないでしょうか。

会場の構成は以下のとおりです。
第一章 「もののあはれ」の源流  貴族の生活と雅びの心
第二章 「もののあはれ」という言葉 本居宣長を中心に
第三章 古典にみる「もののあはれ」 『源氏物語』をめぐって
第四章 和歌の伝統と「もののあはれ」 歌仙たちの世界
第五章 「もののあはれ」と月光の表現 新月から有明の月まで
第六章 「もののあはれ」と花鳥風月 移り変わる日本の四季
第七章 秋草にみる「もののあはれ」 抒情のリズムと調和の美
第八章 暮らしの中の「もののあはれ」 近世から近現代へ

「浮線綾螺鈿蒔絵手箱」(国宝)
鎌倉時代・13世紀 サントリー美術館蔵
展示期間:4/17~4/30、5/29~6/16)

会場に入ってすぐのコーナーに展示されていたのが国宝の「浮線綾螺鈿蒔絵手箱」。サントリー美術館の数ある所蔵作品の中でも名宝中の名宝の一つですね。展示リストで≪第7章≫に載ってましたが、実際には会場を入ってすぐのところに展示されていました。但し、前期展示は終了していて、会期末に再び展示されるようです。

「寝覚物語絵巻」一巻(部分)(国宝)
平安時代・12世紀 大和文華館蔵(展示期間:5/1~5/13)

自分が観に行った日(4/26)は、≪第1章≫は1作品だけ、白描絵物語の代表作といわれる「豊明絵草紙」(展示は4/30まで)が展示されていました。彩色のない白描画なのに、逆にあでやかな印象を受けるというか、とても抒情性の豊かな素晴らしい絵巻でした。会期中、平安後期の王朝物語として知られる『夜半の寝覚』を絵画化した国宝「寝覚物語絵巻」も出品されるようです。


≪第2章≫には“もののあはれ”の概念を提唱した本居宣長の著作物などが展示されています。

岩佐又兵衛 「官女観菊図」(重要文化財)
江戸時代・17世紀 山種美術館蔵(展示は4/30まで)

≪第3章≫には岩佐又兵衛を代表する作品の一つ「官女観菊図」が展示されていました(展示は4/30まで)。白描絵の様式をとりつつ、僅かに彩色がされていて、草花の描写から衣服の文様、髪の毛の一本一本に至るまで非常に細密に丁寧に描きこまれています。雅やかさと同時に何か艶かしいものも伝わってきて、毎回観るたび唸らされる傑作です。会期末(6/5から)には、現在出光美術館の『源氏絵と伊勢絵』で展示されている又兵衛の「野々宮図」が展示されます。

そのほかこのコーナーでは、江戸前期の大和絵を代表する絵師・住吉如慶の『源氏物語画帖』や狩野派の絵師によるとされる『源氏物語図屏風』 (展示は5/20まで)、土佐光起の『清少納言図』(展示は5/13まで)などが秀逸でした。

本阿弥光悦書・俵屋宗達画 「月に秋草下絵新古今集和歌色紙」
江戸時代・慶長11年(1606) 北村美術館蔵(展示は5/20まで)

≪第4章≫では、「西行物語絵巻」や歌仙絵などが紹介されていましたが、その中でも個人的に一番好きだったのが鈴木其一の「四季歌意図巻」で、超横長の絵巻に其一らしい新鮮な構図で大和絵風の四季の風景が描かれています。こちらは一昨年の千葉市立美術館の『酒井抱一と江戸琳派の全貌』でも展示されていました。

ユニークだったのは≪第5章≫で、月光の表現から“もののあはれ”を紐解くというのですが、会場の中には新月から有明の月までの月の満ち欠けの写真を展示し、それぞれの月と“もののあはれ”的な作品を紹介していました。

このコーナーでは、弓なりの細い月が印象的な鈴木其一の「柿に月図」(展示は5/6まで)や、本阿弥光悦と俵屋宗達による 「月に秋草下絵新古今集和歌色紙」が個人的には好きでした。 「月に秋草下絵新古今集和歌色紙」は真ん中の楕円形のものが実は月で、銀泥が変色してしまっているそうですが、そう考えると極めて斬新な構図で、宗達の発想力に驚きます。

狩野永納 「春夏花鳥図屏風」(右隻)
江戸時代・17世紀 サントリー美術館蔵(展示は5/20まで)

3階の階段下の吹き抜けのホールには、花鳥風月の屏風絵が展示されています。その中でも一際目を引くのが狩野永納の代表作「春夏花鳥図屏風」。永納は狩野山雪の実子で、永徳・山雪譲りの京狩野派らしい絢爛で濃厚な描写が特徴です。この屏風もふんだんに金泥を使った豪華さと、草花の繊細で色鮮やかな筆致が見事でした。

「秋草鶉図屏風」(右隻)(重要文化財)
江戸時代・17世紀 名古屋市博物館蔵(展示は5/13まで)

「秋草鶉図屏風」も、その抒情的な雰囲気がとても印象的でした。秋草に鶉というと抱一の「秋草鶉図」が頭にすぐ浮かびますが、画題としては大和絵の典型的なものだそうです。本作は土佐光起の名も取りざたされているようで、狩野派の影響と中国の院体画の影響も指摘されています。

「時雨螺鈿鞍」(国宝)
鎌倉時代・13世紀 永青文庫蔵(展示は4/30まで)

国宝の「時雨螺鈿鞍」は、以前東京国立博物館で開催された『細川家の名宝』展にも出品されていたのでよく覚えています。なんでこれが“もののあはれ”なのかというと、一見植物の文様が螺鈿で施されているだけのように見えますが、その中に文字散らしで『新古今和歌集』の和歌が表されているそうです。昔の人は風情があったんですね。

「浜松図屏風」(右隻)(重要文化財)
室町時代・16世紀 東京国立博物館蔵(展示期間:6/5~6/16)

後半は、屏風絵や色紙、和歌短冊などのほか、能装束や工芸品、また鏑木清方の作品などが展示されています。会期末には重要文化財の「浜松図屏風」が展示されるとのことで、また見ものだと思います。

展示替えが多いので、お目当ての作品がいつ展示されているかを事前に確認されることをお薦めいたします。また、ちょうど出光美術館で開催(5/19まで)されている『源氏絵と伊勢絵』とも出品作品に共通するものもあるので、併せてご覧になるのもいいんじゃないかと思います。


【「もののあはれ」と日本の美】
2013年6月16日(日)まで
サントリー美術館にて


本居宣長〈上〉 (新潮文庫)本居宣長〈上〉 (新潮文庫)


古典基礎語の世界源氏物語のもののあはれ (角川ソフィア文庫)古典基礎語の世界源氏物語のもののあはれ (角川ソフィア文庫)


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