2010/10/09

ゴッホ展

国立新美術館で開催中の『ゴッホ展』に行ってきました。

初日がちょうど金曜日で、夜間延長で8時まで開館だったので、 幸い仕事も早めに終わりそうだったし、土日は混むだろうしと思い、早速拝見してきました。会期後半になると、夜間延長とはいえ混雑するのでしょうが、やはり初日ということもあってか、一枚一枚、絵の真ん前でゆっくり堪能できるぐらいの空き具合でした。

今回の『ゴッホ 展』は生誕120年記念ということで、オランダの国立ファン・ゴッホ美術館とクレラー・ミュラー美術館から貸与された絵画を中心に、ゴッホの油絵35点、 素描等約30点のほかに、ゴッホが影響を受けたミレーやクールベ、モンティセリから、シスレーやスーラ、ゴーギャン、そして浮世絵まで、同時代の画家の作品約60点が展示されています。数字から察すると、半分がゴッホ以外の作品、ゴッホの作品も半分が素描などで、ゴッホの油絵は展示作品の約1/4。正直、 「あれ?」という感じですが、タイトルに「こうしてわたしはゴッホになった」とあるように、ゴッホの画風が確立していく過程を見る上では、よい構成なんではないかと思いました。

「アイリス」

今回の『ゴッホ展』に出品されている作品は、かれこれ5年前に同じファン・ゴッホ美術館とクレラー=ミュラー美術館から作品を借りて東京国立近代美術館で開催された『ゴッホ展』と作品が被らないようにしているのか、代表作の「夜のカフェテラス」や「黄色い家」も来てませんし、「種まく人」も別バージョンが来ています。それでも、「灰色のフェルト帽の自画像」や「アイリス」、それにオリジナルの「アルルの寝室」(先日の『オルセー美術館展』のものとは別のもの)といった重要な作品が来日しています。(個人的には「カラスのいる麦畑」 が観たかったのですが…)

会場に入るとすぐに、ゴッホの初期の油絵と最晩年の油絵が並べて展示されています。その製作年の差は僅か6年。6年の間にこんなに画風が変わったんですよという前置きをして、ゴッホ展がスタートします。

「秋のポプラ並木」

基本的に年代順にゴッホの絵画が並べられ、ちらちら同時代の画家の参考絵画が並べられているという構成なので、前半はいわゆるゴッホの独特な画風の絵というのではなく、バルビゾン派やオランダのハーグ派に影響を受けた自然主義的な油絵や素描が続きます。特にバルビゾン派の代表的な画家ミレーの農民の風俗を描くというポリシーに強く影響されていたようで、農民の姿を描いたものや、またミレーの絵の模写なども展示されています。特にミレーの代表作「種まく人」にはこだわっていたようで、ゴッホが何度もこの絵に取り組んでいたのはご存知のとおりです。

「種まく人」

1886年にゴッホはパリに移り住むのですが、パリで出会った印象派の明るい色調、浮世絵の大胆な構図、そして芸術家たちとの交流は、彼に決定的なものを与えたようです。それまでのどちらかというと地味な色使いから劇的に色調が明るくなり、何の変哲もなかった構図が特色を帯びていくのが、目にも明らかになっていきます。特に、1887年の油絵を眺めていると、その前年と1887年以降の絵画の大きな変化に驚かされます。

「ゴーギャンの椅子」

後半のコーナーでは、ゴーギャンとの淡い蜜月にスポットを当て、ゴーギャンに触発された描いたといわれる絵やゴーギャンの作品の展示、また“アルルの部屋”が会場内のコーナーに再現されていたりもします。この頃のゴッホの絵には、毎日が前向きで、絵を描くことが楽しくてしょうがないんだろうなという希望を感じさせます。

「アルルの寝室」

やがて“耳切り事件”があり、その後しばらく療養所での生活を余儀なくされますが、この頃になると、絵に対するゴッホの思いが少し変化を見せていくのが絵からも伝わってきます。決して勢いのない絵ではないのに、明るくない絵ではないのに、なぜか溢れんばかりの情熱というか、輝きというか、それらが“耳切り事件”の前と後では違ってきます。最後のコーナーは、そんな最晩年の絵が並べられています。

「サン=レミの療養院の庭」

今回のゴッホ展は、ゴッホが絵画に無心に情熱を傾けた過程、パリで印象派と出会い、ゴッホの画風が一気に花開いた過程、そしてゴーギャンとの共同生活の末、不安定な精神状態の中でさらなる探求を続けていく過程、それぞれの転機にスポットが当たられているように感じました。「こうしてゴッホになった」という視点は、図らずも彼が破綻していくプロセスもクローズアップしたのです。ゴッホを語る上で避けることはできないことですが、そのことがただ単にゴッホの絵を並べ展示する展覧会とは少し異なる後味を残したように感じました。


【没後120年 ゴッホ展】
国立新美術館にて
12/20(月)まで

もっと知りたいゴッホ―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)もっと知りたいゴッホ―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

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