2010/10/11

上村松園展

先日、東京国立近代美術館で開催中の『上村松園展』を観てきました。

松園の絵は割と観る機会がありますし、昨年も日本橋高島屋で『上村松園・松篁・淳之 三代展』を観ていますが、全期間で代表作約100点が揃うという展覧会は過去最大なのだそうで、これは見逃す手はありません。

上村松園は、ご存知のように明治・大正・昭和と活躍した美人画の大家。当時の絵師・画家はほとんど男性ですが、その男尊女卑激しい旧態依然とした画壇で孤軍奮闘し、日本画の中の美人画にこだわり続け、地位を確立していきます。美人画で評価の高い同時代の日本画家に鏑木清方や少しあとには伊藤深水などがいますが、男性の描く美人画が男性の理想や夢といった、ある種“グッとくる”仕草や表情、艶かしさなどリアル感が少なからずあるのに対し、松園の描く美人画は女性の清廉さ、優しさといった内面の美しさが描かれているように思います。そのあたりが、松園の絵が圧倒的に女性に人気がある由縁かもしれません。

「牡丹雪」

展示会場は、鈴木松年や幸野楳嶺に師事を受けていた初期の作品から、絶筆の作品まで、時折りスケッチ画も交えながら、基本的に年代順に展示されています。

「人生の花」

わずか15歳のとき、内国勧業博覧会に出品した絵が一等褒状を受賞し、しかも英国王室が買い上げたというように、10代の頃に描いた美人画は既に完成に域に達していたことにまず驚かされます。今で言えば中学生ぐらいの小娘が、しかもまだ師匠につき手ほどきを受けているような少女が、いわばデビュー作でいきなり名誉ある賞と評価を受けたわけですから、周りからの僻みややっかみは相当なものだったと想像できます。母親や師匠らの支えがあったとしても、その中で日本画家として歩み始めた松園は、なかなか“女だてら”の強者だったのでしょう。明治期の古い因習の残る時代に、今で言うシングルマザーとして子どもを育てたことからも彼女の意志の強さが分かります。

「舞仕度」

松園の美人画は、人形のように美しく、凛として、純粋で、かわいいものばかり。女性から見た理想の女性像なのかもしれませんが、それは一方で表現に乏しく、画一的で、退屈でもあります。松園の10代、20代の美人画は、どちらかというと表情や仕草の美しさが前に出て、それだけで終わってしまっているようなところがありました。しかし、年を重ねるごとに絵の中に物語が生まれ、美しさプラスアルファのものが現れてきたように感じます。

「人形つかい」

そんな松園も40歳前後の頃、画題の挑戦、迷い、そしてスランプに陥った時期があったようで、松園の作品で最も知られる「花がたみ」「焔」「序の舞」はちょうどその時代に描かれています。

「花がたみ」

「焔」

「序の舞」

松園は女性の悲哀や情緒といったより内面の部分を描きこみたいと考え、そこで慣れ親しんだ謡曲や古典に画題を求めるようになります。「花がたみ」はそんな挑戦により生まれた一つの傑作でした。やがてその挑戦は「焔」へと結びつきます。「焔」について「このような凄艶な絵を描いたか私自身も不思議に思った」と松園が語っているとおり、この絵は松園唯一の“凄艶な絵”となります。そして、もがき苦しんだ末の到達点として、「序の舞」が生まれます。「優美なうちにも毅然として犯しがたい女性の気品を描いた」という「序の舞」は、松園が最も気に入っていた作品だといわれます。

「母子」

終生、美人画だけを描き続けた松園。継続は力なりといいますが、これまで徹底した“継続”を見ると、彼女のこの“力”の源は何なのか、何がここまで徹底して“美”を追い求めさせたのか、結婚もせず、子育てもせず、家事もせず、画業だけに専念し続けたそのこだわりの真髄に興味が湧いてきます。松園の絵の素晴らしさももちろんですが、すごい女性がいたものだなとあらためて感じさせられた展覧会でした。


【上村松園展】
東京国立近代美術館にて
10/17(日)まで

もっと知りたい上村松園―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)もっと知りたい上村松園―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

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