2013/09/20
九月大歌舞伎「不知火検校」
新橋演舞場で九月大歌舞伎・夜の部を観てきました。
今月は歌舞伎座では若手による花形歌舞伎、演舞場ではベテラン勢による大歌舞伎。歌舞伎座の影であまり話題になってないのですが、高麗屋の『不知火検校』の評判が良いようなので、急遽チケットを求め、観劇して参りました。
『不知火検校』は宇野信夫・作の新歌舞伎。初演は昭和35年で実に36年ぶりに上演だそうです。後に勝新太郎主演で映画化され、それが進化を遂げたのが『座頭市』。本公演では「松本幸四郎悪の華 相勤め申し候」と添え書きされているように、幸四郎がその極悪非道の限りを尽くす検校を見事に演じています。
非道な話ではありますが、筋が良くできていて、世話物の面白さもあります。また、検校の台詞一つ一つが小気味よく、そこに不思議な魅力というか、悪のカリスマ性(=悪の華)を感じます。金にも色にも欲深く、いろんな意味で“オトナ”の歌舞伎でした。
この検校を幸四郎がしっかりと自分のものにしていて素晴らしいの一言。勧善懲悪などではなく、徹底して悪(ヒール)なのですが、ときおり見せるとぼけた味もユーモアと悪賢さが表裏一体になっていて、そのあたりの見せ方はさすが巧いなと思いました。声や表情の変化が巧みで、ただただ圧倒されます。謡い弾きもあり、幸四郎の芸を存分に堪能できました。これまで観た幸四郎の役では一番好きかも。
悪行の仲間の橋之助、彌十郎、亀鶴がそれぞれに持ち味を上手く活かして好演。孝太郎、魁春、友右衛門、錦吾、高麗蔵、左團次といったベテラン勢が要所要所をしっかりと押さえ、舞台に厚みを持たせていました。初代検校の桂三、妻の鴈之助の金に目が眩んだ夫婦も特筆に値する上手さ。検校の子供時代を演じた玉太郎が器用。唯一若手の巳之助・壱太郎のカップルも華を添えてました。
途中、歌舞伎座で上演中の『新薄雪物語』の一節を口にしたり、座頭市ネタがあったりというサービスも。初演が十七世勘三郎だっただけに、勘三郎が演じても良かっただろうなとも思いました。幸四郎の悪の華とはまた違った悪というか、より凄惨な味がでたのではないかと。叶わぬ夢でありますが…。
〆は『馬盗人』。翫雀が三津五郎休演の代役をかって余りある健闘ぶり。翫雀のユーモラスな味が十二分に発揮されて楽しい。巳之助も大活躍。橋之助もこういう芝居は上手い。この狂言の主役はなんといっても馬(大和・八大)で、これが傑作。客席もやんややんやの大喝采でした。最後は六方で花道を引込みます。救いのない芝居のあとだけに、笑って帰れて良かったと思います。
九月花形歌舞伎「新薄雪物語」
歌舞伎座で九月花形歌舞伎を観てきました。今月は昼の部のみ。創作歌舞伎はあまり好みでないので、『陰陽師』はパス。
さて、昼の部は古典で『新薄雪物語』の通し狂言。難しい演目とされ、あまりかからない芝居です。
幕が上がると桜満開の清水寺が舞台の「花見」。左衛門と薄雪姫の恋の駆け引きが繰り広げられます。薄雪姫に梅枝、左衛門に勘九郎、薄雪姫の腰元籬に七之助、左衛門の奴妻平に愛之助。さすが若手が揃う花形歌舞伎だけあり、華やかで楽しい雰囲気があります。ただ薄雪姫の梅枝は折角のいい役なのに、役を活かしきれていないというか、印象が薄いのが残念。七之助も少し浮き足立ってる感じで、大名の腰元にあまり見えないのが難。海老蔵の秋月大膳はさすがの迫力。海老蔵はこうした役が似合います。愛之助の立ち回り(といっても動き回るのは名題下の方ですが…)は見応えがありました。
つづいて「詮議」。奉納された刀に天下調伏のやすり目を入れたとして、左衛門と薄雪姫に謀反の疑いがかかるという場面。左衛門の勘九郎が優男というか柔な感じで、興奮すると声が高くなる悪い癖が出て、しめなくてはならない場面が軽くなってしまいます。海老蔵はここでは執権葛城民部として今度は善役を抑制を利かせた演技で見せ、なかなか良いのですが、どうしても先ほどの悪役のイメージが重なり、この裁きが温情ではなく何か裏があるのではないかと思えてしまいました。これは難しいところですが、もう少しおおらかさがあっても良かったかなとも思います。
最後は、左衛門が松緑・吉弥の幸崎家、薄雪姫が染五郎・菊之助の園部家に預けられての「広間」と「合腹」。若手実力派の松緑と染五郎はさすがに巧いのだけれど、やはり老熟の味を出すにはまだまだ若く、声の出し方や動きに工夫は見られても、若さがチラついてしまうというか、肝で演じようとしているのは伝わるけれども、ハラに深みがまだ足らない気がします。このあたりはしょうがないのかもしれませんが、全体に重厚感が欠けてしまったのは否めないところです。陰腹を見せるところで客席から笑いが起きてしまい、若手にはまだ荷が重かったのかなと思わざるを得ませんでした。
さすがに吉弥と菊之助は安定していて、特に菊之助の存在感が群を抜いていたのは特筆すべきところ。難しい「三人笑」の菊之助は圧巻でした。松緑も染五郎もそれなりに良かったと思うのですが、なにせ菊之助が素晴らしいために、差が開いて見えてしまった気がします。
もちろん30代中心の花形役者に60代のベテラン役者のレベルを求めることが無理なことは誰も分かってるわけで、若手花形役者なりに健闘していることは十分評価に値すると思います。花形役者のファンはみんな素晴らしいと言うでしょうが、それを真に受けてしまっては役者の成長はありません。歌舞伎に求められる技術はその程度ではないはずで、そもそも今回の公演は若手の勉強も兼ねてのものだと思います。10年後、20年後の彼らの姿に期待したいと思います。
2013/09/15
速水御舟 -日本美術院の精鋭たち-
山種美術館で開催中の『速水御舟 -日本美術院の精鋭たち-』に行ってきました。
山種美術館が現在の地に移転した際にも開館記念として速水御舟の特別展を開催していますが、それ以来4年ぶりの御舟の展覧会です。
本展は速水御舟の作品を中心に、100年以上の歴史をもつ日本美術院の初期を代表する日本画家たちの作品と併せて構成されています。山種美術館は院展の画家の作品を数多く所蔵していて、その中で最も重要な画家が御舟であると入口の解説にありました。全63点(参考出品を除く)の出品作品の内、御舟の作品は29点展示されています。
会場に入ったすぐのところに展示されていたのが、御舟の「牡丹花(墨牡丹)」。牡丹の花弁を墨の濃淡と滲みで表現し、その気高く凛とした佇まいに見とれます。御舟の数ある作品の中でも個人的に大好きな一枚です。
【第1章 再興日本美術院の誕生】
資金難や創設者・岡倉天心の渡米などもあり解散状態にあった日本美術院を再興した横山大観、下村観山、菱田春草の作品を紹介しています。最初に登場するのが菱田春草の「雨後」と「釣帰」。ともに朦朧体による作品ですが、特に「雨後」は靄に包まれた山々や滝の飛沫といった湿潤な空気感が見事に表現されていて秀逸です。
つづいて下村観山が2点。内一点は今春開催された『琳派から日本画へ』にも出品されていた「朧月」。朧月というタイトルにもかかわらず月は描かず、淡い月光に照らされた2本の竹を朦朧体で描いた傑作です。
大観は、金箋紙に描くことで独特の色の表現に成功した「喜撰山」や、朦朧体による瀑布と濃墨の岩木の描写が素晴らしい「華厳瀑」、雲海に浮かぶ富士山がなんとも美しい「富士」などが展示されています。
【第2章 速水御舟と再興院の精鋭たち】
ここでは御舟の作品を中心に、兄弟子の今村紫紅や同期の小茂田青樹などの作品を併せて紹介しています。
「山科秋」は御舟初期の作品で、今村紫紅の影響を受けて描いた南画風の風景画。御舟が当時こだわっていたという群青や緑青の色合いが印象的です。初期の作品としては、『琳派から日本画へ』にも出品されていた御舟19歳の頃の作品「錦木」も展示されていました。こちらは琳派を意識し、白い胡粉を使い効果を上げています。御舟が伝統的な日本画をさまざまに吸収し、試行錯誤している様子がうかがえます。
「昆虫二題」は御舟の代表作「炎舞」の翌年の制作ということで、「粧蛾舞戯」は朱色の光に集まる蛾の群れに「炎舞」のイメージが重なります。一方の「葉陰魔手」にはヤツデに絡まるクモの巣が描かれ、妖しげで幻想的な風景を創り上げています。
御舟のもうひとつの重要文化財「名樹散椿」は今回は出品されていませんが、その前年に描かれた代表作のひとつ「翠苔緑芝」が展示されていました。金地に緑の芝や木々、紫陽花が映え、かわいいウサギがアクセントになっている、琳派風のモダンで美しい屏風です。
御舟はほかにも、たらしこみによる柔らかな花と深塗りにより葉の硬さを表現した「椿ノ花」、胡粉で表現したという白い花弁がハッとするほど美しい「白芙蓉」、小さな茄子の実とバッタがアクセントになっている「秋茄子」、また最晩年の未完の作「盆栽梅」など小品が多く展示されています。その中でも特に、関東大震災で瓦礫と化した東京を描いた「灰燼」は西洋画のような一枚でとても強く印象に残りました。
同じコーナーには、安田靫彦、前田青邨、小倉遊亀、奥村土牛の作品も展示されています。インパクトという点では、大きな波にもまれる舟をダイナミックな構図で描いた青邨の「大物浦」や、金地に日本舞踊を舞う祇園の舞妓と芸者を描いた小倉遊亀の「舞う」はしばし足を止め見入ってしまいました。
【第3章 山種美術館と院展の画家たち】
入口の左側にある第2室には御舟の代表作「炎舞」が展示されています。炎は仏画や絵巻の表現を踏襲しているとありました。御舟が「もう一度描けと言われても二度と出せない色」と語っているように、赤でも朱でもオレンジでもない火焔の微妙な色調、そして炎が照らす闇の赤さは何とも表現しがたいものがあります。少しほの暗い展示室の中でLEDのスポットライトに照らされた「炎舞」はこれまで何度か観た中でも一番美しさが引き立ち、幻想的に見えました。
ここにはほかにも横山大観や安田靫彦、前田青邨などの作品が展示されています。片岡球子の「鳥文斎栄之」は初めて拝見しましたが、片岡球子らしい独特のタッチの人物描写とは裏腹にバックの浮世絵がちゃんとした美人画で、フツーの絵も描けるじゃないと思いました(笑)。
考えてみると御舟は40歳の若さで亡くなったにもかかわらず、近代日本画を代表する作品をいくつも残していて、もし御舟がもう少し長く生きていたら、どんな作品を描き、近代日本画にどんな影響を与えていただろうかと思わずにはいられませんでした。
【速水御舟 -日本美術院の精鋭たち-】
2013年10月14日(月)まで
山種美術館にて
速水御舟―日本画を「破壊」する (別冊太陽 日本のこころ 161)
もっと知りたい速水御舟―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)
山種美術館が現在の地に移転した際にも開館記念として速水御舟の特別展を開催していますが、それ以来4年ぶりの御舟の展覧会です。
本展は速水御舟の作品を中心に、100年以上の歴史をもつ日本美術院の初期を代表する日本画家たちの作品と併せて構成されています。山種美術館は院展の画家の作品を数多く所蔵していて、その中で最も重要な画家が御舟であると入口の解説にありました。全63点(参考出品を除く)の出品作品の内、御舟の作品は29点展示されています。
会場に入ったすぐのところに展示されていたのが、御舟の「牡丹花(墨牡丹)」。牡丹の花弁を墨の濃淡と滲みで表現し、その気高く凛とした佇まいに見とれます。御舟の数ある作品の中でも個人的に大好きな一枚です。
速水御舟 「牡丹花(墨牡丹)」
1934年(昭和9年)
1934年(昭和9年)
【第1章 再興日本美術院の誕生】
資金難や創設者・岡倉天心の渡米などもあり解散状態にあった日本美術院を再興した横山大観、下村観山、菱田春草の作品を紹介しています。最初に登場するのが菱田春草の「雨後」と「釣帰」。ともに朦朧体による作品ですが、特に「雨後」は靄に包まれた山々や滝の飛沫といった湿潤な空気感が見事に表現されていて秀逸です。
横山大観 「喜撰山」
1919年(大正8年)
1919年(大正8年)
横山大観 「富士」
1935年(昭和10年)頃
1935年(昭和10年)頃
つづいて下村観山が2点。内一点は今春開催された『琳派から日本画へ』にも出品されていた「朧月」。朧月というタイトルにもかかわらず月は描かず、淡い月光に照らされた2本の竹を朦朧体で描いた傑作です。
大観は、金箋紙に描くことで独特の色の表現に成功した「喜撰山」や、朦朧体による瀑布と濃墨の岩木の描写が素晴らしい「華厳瀑」、雲海に浮かぶ富士山がなんとも美しい「富士」などが展示されています。
【第2章 速水御舟と再興院の精鋭たち】
ここでは御舟の作品を中心に、兄弟子の今村紫紅や同期の小茂田青樹などの作品を併せて紹介しています。
速水御舟 「山科秋」
1917年(大正6年)
1917年(大正6年)
「山科秋」は御舟初期の作品で、今村紫紅の影響を受けて描いた南画風の風景画。御舟が当時こだわっていたという群青や緑青の色合いが印象的です。初期の作品としては、『琳派から日本画へ』にも出品されていた御舟19歳の頃の作品「錦木」も展示されていました。こちらは琳派を意識し、白い胡粉を使い効果を上げています。御舟が伝統的な日本画をさまざまに吸収し、試行錯誤している様子がうかがえます。
速水御舟 「昆虫二題(葉陰魔手・粧蛾舞戯)」
1926年(大正15年)
1926年(大正15年)
「昆虫二題」は御舟の代表作「炎舞」の翌年の制作ということで、「粧蛾舞戯」は朱色の光に集まる蛾の群れに「炎舞」のイメージが重なります。一方の「葉陰魔手」にはヤツデに絡まるクモの巣が描かれ、妖しげで幻想的な風景を創り上げています。
速水御舟 「翠苔緑芝」
1928年(昭和3年)
1928年(昭和3年)
御舟のもうひとつの重要文化財「名樹散椿」は今回は出品されていませんが、その前年に描かれた代表作のひとつ「翠苔緑芝」が展示されていました。金地に緑の芝や木々、紫陽花が映え、かわいいウサギがアクセントになっている、琳派風のモダンで美しい屏風です。
速水御舟 「椿ノ花」
1933年(昭和8年)
1933年(昭和8年)
速水御舟 「白芙蓉」
1934年(昭和9年)
1934年(昭和9年)
御舟はほかにも、たらしこみによる柔らかな花と深塗りにより葉の硬さを表現した「椿ノ花」、胡粉で表現したという白い花弁がハッとするほど美しい「白芙蓉」、小さな茄子の実とバッタがアクセントになっている「秋茄子」、また最晩年の未完の作「盆栽梅」など小品が多く展示されています。その中でも特に、関東大震災で瓦礫と化した東京を描いた「灰燼」は西洋画のような一枚でとても強く印象に残りました。
前田青邨 「大物浦」
1968年(昭和43年)
1968年(昭和43年)
同じコーナーには、安田靫彦、前田青邨、小倉遊亀、奥村土牛の作品も展示されています。インパクトという点では、大きな波にもまれる舟をダイナミックな構図で描いた青邨の「大物浦」や、金地に日本舞踊を舞う祇園の舞妓と芸者を描いた小倉遊亀の「舞う」はしばし足を止め見入ってしまいました。
【第3章 山種美術館と院展の画家たち】
速水御舟 「炎舞」(重要文化財)
1925年(大正14年)
1925年(大正14年)
入口の左側にある第2室には御舟の代表作「炎舞」が展示されています。炎は仏画や絵巻の表現を踏襲しているとありました。御舟が「もう一度描けと言われても二度と出せない色」と語っているように、赤でも朱でもオレンジでもない火焔の微妙な色調、そして炎が照らす闇の赤さは何とも表現しがたいものがあります。少しほの暗い展示室の中でLEDのスポットライトに照らされた「炎舞」はこれまで何度か観た中でも一番美しさが引き立ち、幻想的に見えました。
片岡球子 「鳥文斎栄之」
1976年(昭和51年)
1976年(昭和51年)
ここにはほかにも横山大観や安田靫彦、前田青邨などの作品が展示されています。片岡球子の「鳥文斎栄之」は初めて拝見しましたが、片岡球子らしい独特のタッチの人物描写とは裏腹にバックの浮世絵がちゃんとした美人画で、フツーの絵も描けるじゃないと思いました(笑)。
考えてみると御舟は40歳の若さで亡くなったにもかかわらず、近代日本画を代表する作品をいくつも残していて、もし御舟がもう少し長く生きていたら、どんな作品を描き、近代日本画にどんな影響を与えていただろうかと思わずにはいられませんでした。
【速水御舟 -日本美術院の精鋭たち-】
2013年10月14日(月)まで
山種美術館にて
2013/09/11
琳派・若冲と花鳥風月
千葉市美術館で開催中の『琳派・若冲と花鳥風月』展に行ってきました。
本展は、千葉市美術館の数あるコレクションの中から花鳥風月を題材とした絵画を展示した展覧会です。
板橋区立美術館と同様、こちらも所蔵作品展。千葉市美術館はスペースも広いので、出品数は123点と多いのですが、所蔵作品展のため料金はたったの200円! 千葉市美術館はタイトルにあるように琳派や若冲など江戸絵画のコレクションに定評があるので、その作品のレベルは企画展並。内容は非常に充実しています。それがたったの200円で観られるのですから、素晴らしい!!
タイトルには琳派と若冲の名を前面に押し出していますが、若冲は8点、琳派も10数点と出品数はそれほど多くありません。琳派や若冲に限らず江戸絵画(一部明治以降の作品もあり)から花鳥画の優品を集め、それぞれテーマに合わせ、作品を紹介しています。
第一章 「四季」
第一章では四季の美しさを描いた四季花鳥図屏風などを中心に展示をしています。
会場を入るとまず目に入るのが、狩野派の「瀟湘八景図屏風」。もとは江戸初期の絵師・松本山雪の作とされていたそうですが、最近の研究では狩野山楽・山雪周辺の絵師によるものと推定されるとありました。山楽・山雪あたりの作品となると俄然興味が湧きます。
琳派でいうと、やはり其一の「芒野図屏風」でしょう。一面のススキの野原に霧が漂う様をデザイン化したような銀地の屏風からは秋の静けさや寂しさ、またひんやりした空気感とともにどこか幻想的な雰囲気が伝わってきます。
ほかに、松村景文のいわゆる桃李園図の「春秋唐人物図屏風」や、森徹山の「春秋花鳥図屏風」が個人的にかなり好み。森徹山は猿の絵で有名な森狙仙の甥で円山応挙に学んだという人ですが、図案的な紅葉の葉や色の濃さが応挙というよりどこか鈴木其一を思わせ、また鳥の描写が写実的というか博物学的で非常に良かったと思います。そばには徹山の弟子・森寛斎の屏風もあり、こちらは瀟洒な美しさというんでしょうか、四季の植物や鳥が非常に端正な筆致で描かれていて印象的でした。
第二章 「花」
つづいて花鳥風月の「花」。特に印象が強かったのが、河田小龍の「花鳥図」で、春、夏、そして秋冬の三幅にそれぞれ芍薬やタイツリ草、スミレ、葵や百合、牡丹や水仙、菊など、そして季節の昆虫が描かれ、美しさのみならず、濃厚で、どこか妖しげな雰囲気さえ漂う、非常に腕の冴えを感じる作品でした。河田小龍のことは全然知らなかったのですが、土佐の絵師で、長崎で蘭学などを学び西洋事情に詳しかったこともあり、坂本龍馬とも親交があったのだそうです。
そばにあった諸葛監の「牡丹燕図」も南蘋派らしい、美しい花鳥図でした。本展は、松村景文や岡本秋暉、諸葛監といった花鳥画を得意としている絵師の優品が多く、そこが非常に魅力的だったと思います。
ほかにも、中国の草虫図の影響を受けたという狩野栄信の「草虫図」や、松村景文の「秋草図」などが印象的でした。また、酒井抱一や鈴木其一、また池田孤邨や酒井道一、山田抱玉といった抱一の門弟たち、さらには谷文晁や文長の弟子の鈴木鵞湖の作品など、幅広く江戸絵画の花鳥画を紹介しています。
会場の所々には、小原古邨の花鳥画の版画が展示されています。古邨の花鳥版画は主として輸出用として持て囃されたそうで、日本の伝統的な画題を描きながらも、どこか西洋趣味的な趣があったりして、独特の美しさが目を引きます。
第三章 「鳥」
まず印象に残ったのが、曽我二直菴の「架鷹図屏風」。一扇に一羽ずつ鷹を描いた押絵貼りの屏風(六曲一双)で、少々色焼けしてしまっているのが残念ですが、鷲鷹を描かせたら右に出る者がいないとまで言われた二直菴だけあり、鷹の迫力、獰猛さ、そして気高さが伝わってくる素晴らしい屏風でした。
同じ曽我派を名乗る蕭白の「竹に鶏図」も異彩を放っていました。隣には敢えて伊藤若冲の「鶏図」をぶつけてきて、それぞれのアプローチの違いがよく比較できて面白かったです。
若冲といえば、若冲の「群鶴図」(プライス・コレクション所蔵)を模した岡本秋暉の「鶴図」という作品もありました。並びには若冲の「旭日松鶴図」も。若冲ではこのほか、「鷹図」や「鸚鵡図」が展示されています。
このコーナーの白眉は岡田閑林の「玉堂富貴孔雀小禽図」で、沈南蘋風の華麗で、色彩が非常に美しい花鳥画でした。岡田閑林は谷文晁の門人とのことで、この人の絵をもっと観てみたいと思わせる作品でした。ほかにも南蘋派の宋紫石や諸葛監の作品が個人的にはかなり好きでした。
第四章 「風月」
ここでは雨、雪、月、水といった天候や自然現象を描いた作品を中心に取り上げています。昨年の『蕭白ショック!!』にも展示されていた蕭白の「虎渓三笑図」がありました。やはりいつ見ても驚愕の水墨画です。
ほかにも若冲の「月夜白梅図」や宋紫石の「雨中軍鶏図」、岸駒の「鶴図」、また近代日本画の橋本関雪の「水城暮雨図」あたりが良かったと思います。
第五章 「山水」
「山水」で良かったのが、雲谷等益の「山水図屏風」。雪舟の「山水長巻」を徹底的に学んだというだけあり、雪舟的な水墨表現は見応えがあります。また、谷文晁の「松間観瀑図」と並んで展示されていた文晁の弟子・鈴木鵞湖の「救蟻図」も師の作品を彷彿とさせ、印象的でした。
コーナーの一角には、若冲の拓版画「乗興舟」の一部場面も展示されています。
第六章 「人物」
花鳥風月でなんで人物?と思うのですが、花鳥風月を愛でるのは人間だからということのようです。酒井抱一や鈴木其一といった琳派の作品の中で目を引いたのが、抱一の弟子・田中抱二の「伊勢物語・四季花鳥図」。伊勢物語はよく取り上げられる画題ですが、そこに花鳥画を組み合わせ、非常に清楚で、品のある画面構成を作り上げています。
そのほか其一の子・鈴木守一「桜花美人図」や若冲の楽しげな「雷神図」などが展示されています。
第七章 「琳派の版本」
版本とはいわゆる木版本などのように刷られた本ということですが、琳派の版本の場合、それはほとんどデザイン見本帖のような趣があります。酒井抱一の「光琳百図」や中村芳中の「光琳画譜」のほか、いくつかの光琳の作品や図案をまとめた冊子があり、江戸の絵師たちは光琳を相当研究していたんだなと感じます。明治の絵師・神坂雪佳の図案集が数点あり、琳派の意匠をさらにモダンにしたようなデザインでとてもいいなと思いました。
ただの所蔵作品展だと侮れない、素晴らしい作品が多く、あらためて千葉市美術館のコレクションの凄さを痛感しました。オススメの展覧会です。
【琳派・若冲と花鳥風月】
2013年9月23日(月)まで
千葉市美術館にて
琳派・若冲と雅の世界
酒井抱一と江戸琳派の全貌
江戸絵画入門―驚くべき奇才たちの時代 (別冊太陽 日本のこころ 150)
本展は、千葉市美術館の数あるコレクションの中から花鳥風月を題材とした絵画を展示した展覧会です。
板橋区立美術館と同様、こちらも所蔵作品展。千葉市美術館はスペースも広いので、出品数は123点と多いのですが、所蔵作品展のため料金はたったの200円! 千葉市美術館はタイトルにあるように琳派や若冲など江戸絵画のコレクションに定評があるので、その作品のレベルは企画展並。内容は非常に充実しています。それがたったの200円で観られるのですから、素晴らしい!!
タイトルには琳派と若冲の名を前面に押し出していますが、若冲は8点、琳派も10数点と出品数はそれほど多くありません。琳派や若冲に限らず江戸絵画(一部明治以降の作品もあり)から花鳥画の優品を集め、それぞれテーマに合わせ、作品を紹介しています。
第一章 「四季」
第一章では四季の美しさを描いた四季花鳥図屏風などを中心に展示をしています。
会場を入るとまず目に入るのが、狩野派の「瀟湘八景図屏風」。もとは江戸初期の絵師・松本山雪の作とされていたそうですが、最近の研究では狩野山楽・山雪周辺の絵師によるものと推定されるとありました。山楽・山雪あたりの作品となると俄然興味が湧きます。
琳派でいうと、やはり其一の「芒野図屏風」でしょう。一面のススキの野原に霧が漂う様をデザイン化したような銀地の屏風からは秋の静けさや寂しさ、またひんやりした空気感とともにどこか幻想的な雰囲気が伝わってきます。
鈴木其一 「芒野図屏風」
江戸時代・天保後期~嘉永期頃 千葉市美術館蔵
江戸時代・天保後期~嘉永期頃 千葉市美術館蔵
ほかに、松村景文のいわゆる桃李園図の「春秋唐人物図屏風」や、森徹山の「春秋花鳥図屏風」が個人的にかなり好み。森徹山は猿の絵で有名な森狙仙の甥で円山応挙に学んだという人ですが、図案的な紅葉の葉や色の濃さが応挙というよりどこか鈴木其一を思わせ、また鳥の描写が写実的というか博物学的で非常に良かったと思います。そばには徹山の弟子・森寛斎の屏風もあり、こちらは瀟洒な美しさというんでしょうか、四季の植物や鳥が非常に端正な筆致で描かれていて印象的でした。
第二章 「花」
つづいて花鳥風月の「花」。特に印象が強かったのが、河田小龍の「花鳥図」で、春、夏、そして秋冬の三幅にそれぞれ芍薬やタイツリ草、スミレ、葵や百合、牡丹や水仙、菊など、そして季節の昆虫が描かれ、美しさのみならず、濃厚で、どこか妖しげな雰囲気さえ漂う、非常に腕の冴えを感じる作品でした。河田小龍のことは全然知らなかったのですが、土佐の絵師で、長崎で蘭学などを学び西洋事情に詳しかったこともあり、坂本龍馬とも親交があったのだそうです。
河田小龍 「花鳥図」
江戸時代末期~明治時代 千葉市美術館蔵
江戸時代末期~明治時代 千葉市美術館蔵
そばにあった諸葛監の「牡丹燕図」も南蘋派らしい、美しい花鳥図でした。本展は、松村景文や岡本秋暉、諸葛監といった花鳥画を得意としている絵師の優品が多く、そこが非常に魅力的だったと思います。
狩野栄信 「草虫図」
江戸時代・享和二年~文化13年(1802~1816) 千葉市美術館蔵
江戸時代・享和二年~文化13年(1802~1816) 千葉市美術館蔵
ほかにも、中国の草虫図の影響を受けたという狩野栄信の「草虫図」や、松村景文の「秋草図」などが印象的でした。また、酒井抱一や鈴木其一、また池田孤邨や酒井道一、山田抱玉といった抱一の門弟たち、さらには谷文晁や文長の弟子の鈴木鵞湖の作品など、幅広く江戸絵画の花鳥画を紹介しています。
小原古邨 「朝顔にかまきりと蜂」
明治時代末期~昭和時代初期頃 千葉市美術館蔵
明治時代末期~昭和時代初期頃 千葉市美術館蔵
会場の所々には、小原古邨の花鳥画の版画が展示されています。古邨の花鳥版画は主として輸出用として持て囃されたそうで、日本の伝統的な画題を描きながらも、どこか西洋趣味的な趣があったりして、独特の美しさが目を引きます。
第三章 「鳥」
まず印象に残ったのが、曽我二直菴の「架鷹図屏風」。一扇に一羽ずつ鷹を描いた押絵貼りの屏風(六曲一双)で、少々色焼けしてしまっているのが残念ですが、鷲鷹を描かせたら右に出る者がいないとまで言われた二直菴だけあり、鷹の迫力、獰猛さ、そして気高さが伝わってくる素晴らしい屏風でした。
曽我蕭白 「竹に鶏図」
江戸時代・明和元年(1764)頃 摘水軒記念文化振興財団蔵
江戸時代・明和元年(1764)頃 摘水軒記念文化振興財団蔵
同じ曽我派を名乗る蕭白の「竹に鶏図」も異彩を放っていました。隣には敢えて伊藤若冲の「鶏図」をぶつけてきて、それぞれのアプローチの違いがよく比較できて面白かったです。
岡本秋暉 「鶴図(若冲写)」
江戸時代後期 摘水軒記念文化振興財団蔵
江戸時代後期 摘水軒記念文化振興財団蔵
若冲といえば、若冲の「群鶴図」(プライス・コレクション所蔵)を模した岡本秋暉の「鶴図」という作品もありました。並びには若冲の「旭日松鶴図」も。若冲ではこのほか、「鷹図」や「鸚鵡図」が展示されています。
諸葛監 「白梅小禽図」
江戸時代・明和~天明期頃 千葉市美術館蔵
江戸時代・明和~天明期頃 千葉市美術館蔵
このコーナーの白眉は岡田閑林の「玉堂富貴孔雀小禽図」で、沈南蘋風の華麗で、色彩が非常に美しい花鳥画でした。岡田閑林は谷文晁の門人とのことで、この人の絵をもっと観てみたいと思わせる作品でした。ほかにも南蘋派の宋紫石や諸葛監の作品が個人的にはかなり好きでした。
第四章 「風月」
ここでは雨、雪、月、水といった天候や自然現象を描いた作品を中心に取り上げています。昨年の『蕭白ショック!!』にも展示されていた蕭白の「虎渓三笑図」がありました。やはりいつ見ても驚愕の水墨画です。
曽我蕭白 「虎渓三笑図」
江戸時代・安永期頃 千葉市美術館蔵
江戸時代・安永期頃 千葉市美術館蔵
ほかにも若冲の「月夜白梅図」や宋紫石の「雨中軍鶏図」、岸駒の「鶴図」、また近代日本画の橋本関雪の「水城暮雨図」あたりが良かったと思います。
第五章 「山水」
「山水」で良かったのが、雲谷等益の「山水図屏風」。雪舟の「山水長巻」を徹底的に学んだというだけあり、雪舟的な水墨表現は見応えがあります。また、谷文晁の「松間観瀑図」と並んで展示されていた文晁の弟子・鈴木鵞湖の「救蟻図」も師の作品を彷彿とさせ、印象的でした。
鈴木鵞湖 「救蟻図」
江戸時代・文久二年(1862) 千葉市美術館蔵
江戸時代・文久二年(1862) 千葉市美術館蔵
コーナーの一角には、若冲の拓版画「乗興舟」の一部場面も展示されています。
伊藤若冲 「乗興舟」(一部)
江戸時代・明和四年(1767)刊 千葉市美術館蔵
江戸時代・明和四年(1767)刊 千葉市美術館蔵
第六章 「人物」
花鳥風月でなんで人物?と思うのですが、花鳥風月を愛でるのは人間だからということのようです。酒井抱一や鈴木其一といった琳派の作品の中で目を引いたのが、抱一の弟子・田中抱二の「伊勢物語・四季花鳥図」。伊勢物語はよく取り上げられる画題ですが、そこに花鳥画を組み合わせ、非常に清楚で、品のある画面構成を作り上げています。
田中抱二 「伊勢物語・四季花鳥図」(六幅の内一幅)
江戸時代後期 千葉市美術館蔵
江戸時代後期 千葉市美術館蔵
そのほか其一の子・鈴木守一「桜花美人図」や若冲の楽しげな「雷神図」などが展示されています。
伊藤若冲 「雷神図」
江戸時代・宝暦後期~明和初期頃 千葉市美術館蔵
江戸時代・宝暦後期~明和初期頃 千葉市美術館蔵
第七章 「琳派の版本」
版本とはいわゆる木版本などのように刷られた本ということですが、琳派の版本の場合、それはほとんどデザイン見本帖のような趣があります。酒井抱一の「光琳百図」や中村芳中の「光琳画譜」のほか、いくつかの光琳の作品や図案をまとめた冊子があり、江戸の絵師たちは光琳を相当研究していたんだなと感じます。明治の絵師・神坂雪佳の図案集が数点あり、琳派の意匠をさらにモダンにしたようなデザインでとてもいいなと思いました。
ただの所蔵作品展だと侮れない、素晴らしい作品が多く、あらためて千葉市美術館のコレクションの凄さを痛感しました。オススメの展覧会です。
【琳派・若冲と花鳥風月】
2013年9月23日(月)まで
千葉市美術館にて
2013/09/09
狩野派 SAIKO!
板橋区立美術館で開催中の『狩野派 SAIKO!』に行ってきました。
本展は板橋区立美術館のいつもの企画展<江戸文化シリーズ>ではなく館蔵品展ということで、なんと入館料が無料! 出品数は30点弱と少ないのですが、狩野派の充実したコレクションで知られる板橋区立美術館の選りすぐりの作品が観られるとあっては行かずにはいられません。
館蔵品展とはいっても、ちゃんとテーマもあって、構成やキャプションも凝ってて、企画展みたいに手がかかってます。これで無料とは申し訳ないぐらいです。
会場は“SAIKO!”をテーマに狩野派の作品を再点検・再評価しています。それぞれの作品には板橋美術館らしいユニークな“新タイトル”が付けられているのも楽しいところです。
まずは≪再考 正信の出身地≫から。
狩野派の祖・狩野正信の出身は伊豆と伝えられていたそうですが、現在は伊豆狩野氏の同族にあたる上総や、上総狩野氏と婚姻関係にある下野(長尾氏)も取り沙汰されていると解説にありました。いずれにしても狩野家はもともと関東だったんですね。
正信の「蓮池蟹図」は枯れかけた蓮の葉の陰からひょっこり蟹が顔を覗かせているという構図で後の若冲を思わせるユニークな作品でした。
≪最高 国宝・観楓図屏風の作者≫
正信の孫が国宝「観楓図屏風」の作者の秀頼。会場には本展のチラシにも使われている「酔李白図」が展示されています。詩人・李白の酩酊した図は応挙や蕭白も描いている画題ですが、秀頼の「酔李白図」は酔いつぶれた李白を抱きかかえる様子に茶目っ気があり、さぞ楽しい宴席だったんだろうなと想像させます。ちなみに秀頼の「観楓図屏風」は東京国立博物館にて今年の11/12~12/8に公開予定があるようです。
≪再考 狩野派図とは≫
狩野派が室町から江戸に至るまで綿々と受け継がれていった背景には粉本主義があるわけですが、そうした狩野派の典型的(?)な山水や花鳥などが見られる作品ということで狩野内膳の「山水人物花鳥貼交屏風」が展示されていました。内膳というと永徳や山楽と同時代の狩野派の絵師で、桃山文化らしい絢爛な「南蛮屛風」で有名ですが、この「山水人物花鳥貼交屏風」は淡墨による落ち着いた雰囲気の屏風。馬や鴨の目がクリッとして可愛らしいのが印象的でした。
「風神雷神図」というと宗達や光琳など琳派を思い起こしますが、伝・探幽の「風神雷神図屏風」は宗達や光琳のそれとは風神・雷神が左右逆になっていて、屏風の真ん中に突然の嵐に逃げ惑う人々の姿を描き天上と下界を対比させるなどの特徴があります。
英一蝶の「六歌仙図屏風」は“一蝶”の署名があったので島流しから戻ってからのものでしょうか。定家や慈円、西行といった六歌仙を描いた大和絵風の屏風ですが、淡彩の色合いといい、ゆったりとした空間の使い方といい、洒脱な筆致といい、一蝶の円熟した味わいが楽しめます。
そのほか、室町期の狩野派作品風という狩野宗信の「花鳥図押絵貼屏風」、狩野派の高級絵手本と紹介されていた狩野周信の「花鳥・養蚕図巻」が展示されています。
≪再考 女性画家≫
板橋区立美術館の前館長・安村敏信氏の著書『江戸絵画の非常識』(敬文舎刊)にも江戸時代の閨秀画家(女流画家)のことが取り上げられていますが、本展でも狩野派の女流画家にスポットを当てています。印象的だったのが狩野即養の「寛永寺参詣図屏風」。花見で賑わう上野の山や不忍池、門前町や池之端、そして遠景が描かれていて、女性らしい丹念な筆致とゴチャゴチャせずすっきりまとめた描写が秀逸です。
≪再考 やまと絵学習>
探幽は大和絵を取り入れて新様式を創り上げ、江戸狩野派の基礎を築くわけですが、ここではその狩野派による大和絵学習を再考しています。ここで紹介されていた狩野探信(守道)は狩野派の中でも大和絵風の作品を得意とした絵師とのこと。叭々鳥の家族(?)を描いた「叭々鳥図」が印象的でした。
≪再考 表絵師≫
当時の狩野派は巨大なピラピッド組織に成長していて、将軍の謁見も許される奥絵師や、奥絵師の補佐をし、それこそ扇や着物のデザインまで請け負ったという表絵師、さらには繁忙期に借り出される門人筋の町狩野まで幅広かったようです。
狩野了承の「秋草図屏風」は一見、琳派と見まごうようなモダンな雰囲気があって、リズミカルに円弧を描く薄や、萩、女郎花といった涼やかな色合いの秋草が金屏風に映え、とても印象的です。たまたま同日、千葉市美術館で拝見した狩野常信の「歌賛名所絵図巻」にも同様の薄の描写があり、了承がただ琳派を模倣したというのではなく、狩野派の粉本の応用の範囲なのだろうと感じました。
≪再考 全国の狩野派≫
狩野派が血族を重んじたのは有名ですが、その門弟は絵が上手ければ誰でもなれるというわけではなく、諸藩の御用絵師など武士階級の子弟たちだったのですね。恥ずかしながら知りませんでした。そうして狩野派で修業をした門人が全国に散らばり、さらに狩野派を盤石にしていったわけで、ここではその代表格として沖一峨が紹介されています。沖一峨は狩野派だけでなく琳派や南蘋派なども学んだそうで、展示されていた「花鳥図」の花木の描写やデザイン的な構図にもそれは活かされているようです。
最後には狩野派に学んだ河鍋暁斎の作品が三点展示されています。一連の狩野派の作品とは趣を異にしますが、激しい形相の鍾馗と逃げ惑う小鬼たちの二幅からなる圧倒的な「鍾馗二鬼図」、太く力強い墨線としかし入念に描かれた表情が印象的な水墨画「太公望図」、即興なのか、まるでスケッチかイタズラ書きのようで署名までよれよれの「骸骨図」、と三様のいかにも暁斎らしい作品が見ものです。
ちょっと不便な場所にありますが、狩野派好きにはお勧めの展覧会です。近くの赤塚植物園などとセットでお散歩がてらいかがでしょうか。
少し足を延ばせばコメダ珈琲もあります♪
【狩野派 SAIKO!】
2013年9月29日(日)まで
板橋区立美術館にて
もっと知りたい狩野派―探幽と江戸狩野派 (アート・ビギナーズ・コレクション)
河鍋暁斎―奇想の天才絵師 (別冊太陽)
江戸絵画の非常識―近世絵画の定説をくつがえす (日本文化 私の最新講義)
本展は板橋区立美術館のいつもの企画展<江戸文化シリーズ>ではなく館蔵品展ということで、なんと入館料が無料! 出品数は30点弱と少ないのですが、狩野派の充実したコレクションで知られる板橋区立美術館の選りすぐりの作品が観られるとあっては行かずにはいられません。
館蔵品展とはいっても、ちゃんとテーマもあって、構成やキャプションも凝ってて、企画展みたいに手がかかってます。これで無料とは申し訳ないぐらいです。
会場は“SAIKO!”をテーマに狩野派の作品を再点検・再評価しています。それぞれの作品には板橋美術館らしいユニークな“新タイトル”が付けられているのも楽しいところです。
まずは≪再考 正信の出身地≫から。
狩野派の祖・狩野正信の出身は伊豆と伝えられていたそうですが、現在は伊豆狩野氏の同族にあたる上総や、上総狩野氏と婚姻関係にある下野(長尾氏)も取り沙汰されていると解説にありました。いずれにしても狩野家はもともと関東だったんですね。
正信の「蓮池蟹図」は枯れかけた蓮の葉の陰からひょっこり蟹が顔を覗かせているという構図で後の若冲を思わせるユニークな作品でした。
狩野正信 「蓮池蟹図」
≪最高 国宝・観楓図屏風の作者≫
正信の孫が国宝「観楓図屏風」の作者の秀頼。会場には本展のチラシにも使われている「酔李白図」が展示されています。詩人・李白の酩酊した図は応挙や蕭白も描いている画題ですが、秀頼の「酔李白図」は酔いつぶれた李白を抱きかかえる様子に茶目っ気があり、さぞ楽しい宴席だったんだろうなと想像させます。ちなみに秀頼の「観楓図屏風」は東京国立博物館にて今年の11/12~12/8に公開予定があるようです。
狩野秀頼 「酔李白図」
≪再考 狩野派図とは≫
狩野派が室町から江戸に至るまで綿々と受け継がれていった背景には粉本主義があるわけですが、そうした狩野派の典型的(?)な山水や花鳥などが見られる作品ということで狩野内膳の「山水人物花鳥貼交屏風」が展示されていました。内膳というと永徳や山楽と同時代の狩野派の絵師で、桃山文化らしい絢爛な「南蛮屛風」で有名ですが、この「山水人物花鳥貼交屏風」は淡墨による落ち着いた雰囲気の屏風。馬や鴨の目がクリッとして可愛らしいのが印象的でした。
伝・狩野探幽 「風神雷神図屏風」
「風神雷神図」というと宗達や光琳など琳派を思い起こしますが、伝・探幽の「風神雷神図屏風」は宗達や光琳のそれとは風神・雷神が左右逆になっていて、屏風の真ん中に突然の嵐に逃げ惑う人々の姿を描き天上と下界を対比させるなどの特徴があります。
英一蝶 「六歌仙図屏風」
英一蝶の「六歌仙図屏風」は“一蝶”の署名があったので島流しから戻ってからのものでしょうか。定家や慈円、西行といった六歌仙を描いた大和絵風の屏風ですが、淡彩の色合いといい、ゆったりとした空間の使い方といい、洒脱な筆致といい、一蝶の円熟した味わいが楽しめます。
そのほか、室町期の狩野派作品風という狩野宗信の「花鳥図押絵貼屏風」、狩野派の高級絵手本と紹介されていた狩野周信の「花鳥・養蚕図巻」が展示されています。
狩野即養 「寛永寺参詣図屏風」
≪再考 女性画家≫
板橋区立美術館の前館長・安村敏信氏の著書『江戸絵画の非常識』(敬文舎刊)にも江戸時代の閨秀画家(女流画家)のことが取り上げられていますが、本展でも狩野派の女流画家にスポットを当てています。印象的だったのが狩野即養の「寛永寺参詣図屏風」。花見で賑わう上野の山や不忍池、門前町や池之端、そして遠景が描かれていて、女性らしい丹念な筆致とゴチャゴチャせずすっきりまとめた描写が秀逸です。
≪再考 やまと絵学習>
探幽は大和絵を取り入れて新様式を創り上げ、江戸狩野派の基礎を築くわけですが、ここではその狩野派による大和絵学習を再考しています。ここで紹介されていた狩野探信(守道)は狩野派の中でも大和絵風の作品を得意とした絵師とのこと。叭々鳥の家族(?)を描いた「叭々鳥図」が印象的でした。
狩野了承 「秋草図屏風」
≪再考 表絵師≫
当時の狩野派は巨大なピラピッド組織に成長していて、将軍の謁見も許される奥絵師や、奥絵師の補佐をし、それこそ扇や着物のデザインまで請け負ったという表絵師、さらには繁忙期に借り出される門人筋の町狩野まで幅広かったようです。
狩野了承の「秋草図屏風」は一見、琳派と見まごうようなモダンな雰囲気があって、リズミカルに円弧を描く薄や、萩、女郎花といった涼やかな色合いの秋草が金屏風に映え、とても印象的です。たまたま同日、千葉市美術館で拝見した狩野常信の「歌賛名所絵図巻」にも同様の薄の描写があり、了承がただ琳派を模倣したというのではなく、狩野派の粉本の応用の範囲なのだろうと感じました。
沖一峨 「花鳥図」
≪再考 全国の狩野派≫
狩野派が血族を重んじたのは有名ですが、その門弟は絵が上手ければ誰でもなれるというわけではなく、諸藩の御用絵師など武士階級の子弟たちだったのですね。恥ずかしながら知りませんでした。そうして狩野派で修業をした門人が全国に散らばり、さらに狩野派を盤石にしていったわけで、ここではその代表格として沖一峨が紹介されています。沖一峨は狩野派だけでなく琳派や南蘋派なども学んだそうで、展示されていた「花鳥図」の花木の描写やデザイン的な構図にもそれは活かされているようです。
河鍋暁斎 「鍾馗二鬼図」
最後には狩野派に学んだ河鍋暁斎の作品が三点展示されています。一連の狩野派の作品とは趣を異にしますが、激しい形相の鍾馗と逃げ惑う小鬼たちの二幅からなる圧倒的な「鍾馗二鬼図」、太く力強い墨線としかし入念に描かれた表情が印象的な水墨画「太公望図」、即興なのか、まるでスケッチかイタズラ書きのようで署名までよれよれの「骸骨図」、と三様のいかにも暁斎らしい作品が見ものです。

河鍋暁斎 「骸骨図」
ちょっと不便な場所にありますが、狩野派好きにはお勧めの展覧会です。近くの赤塚植物園などとセットでお散歩がてらいかがでしょうか。
少し足を延ばせばコメダ珈琲もあります♪
【狩野派 SAIKO!】
2013年9月29日(日)まで
板橋区立美術館にて
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