本展は、千葉市美術館の数あるコレクションの中から花鳥風月を題材とした絵画を展示した展覧会です。
板橋区立美術館と同様、こちらも所蔵作品展。千葉市美術館はスペースも広いので、出品数は123点と多いのですが、所蔵作品展のため料金はたったの200円! 千葉市美術館はタイトルにあるように琳派や若冲など江戸絵画のコレクションに定評があるので、その作品のレベルは企画展並。内容は非常に充実しています。それがたったの200円で観られるのですから、素晴らしい!!
タイトルには琳派と若冲の名を前面に押し出していますが、若冲は8点、琳派も10数点と出品数はそれほど多くありません。琳派や若冲に限らず江戸絵画(一部明治以降の作品もあり)から花鳥画の優品を集め、それぞれテーマに合わせ、作品を紹介しています。
第一章 「四季」
第一章では四季の美しさを描いた四季花鳥図屏風などを中心に展示をしています。
会場を入るとまず目に入るのが、狩野派の「瀟湘八景図屏風」。もとは江戸初期の絵師・松本山雪の作とされていたそうですが、最近の研究では狩野山楽・山雪周辺の絵師によるものと推定されるとありました。山楽・山雪あたりの作品となると俄然興味が湧きます。
琳派でいうと、やはり其一の「芒野図屏風」でしょう。一面のススキの野原に霧が漂う様をデザイン化したような銀地の屏風からは秋の静けさや寂しさ、またひんやりした空気感とともにどこか幻想的な雰囲気が伝わってきます。
鈴木其一 「芒野図屏風」
江戸時代・天保後期~嘉永期頃 千葉市美術館蔵
江戸時代・天保後期~嘉永期頃 千葉市美術館蔵
ほかに、松村景文のいわゆる桃李園図の「春秋唐人物図屏風」や、森徹山の「春秋花鳥図屏風」が個人的にかなり好み。森徹山は猿の絵で有名な森狙仙の甥で円山応挙に学んだという人ですが、図案的な紅葉の葉や色の濃さが応挙というよりどこか鈴木其一を思わせ、また鳥の描写が写実的というか博物学的で非常に良かったと思います。そばには徹山の弟子・森寛斎の屏風もあり、こちらは瀟洒な美しさというんでしょうか、四季の植物や鳥が非常に端正な筆致で描かれていて印象的でした。
第二章 「花」
つづいて花鳥風月の「花」。特に印象が強かったのが、河田小龍の「花鳥図」で、春、夏、そして秋冬の三幅にそれぞれ芍薬やタイツリ草、スミレ、葵や百合、牡丹や水仙、菊など、そして季節の昆虫が描かれ、美しさのみならず、濃厚で、どこか妖しげな雰囲気さえ漂う、非常に腕の冴えを感じる作品でした。河田小龍のことは全然知らなかったのですが、土佐の絵師で、長崎で蘭学などを学び西洋事情に詳しかったこともあり、坂本龍馬とも親交があったのだそうです。
河田小龍 「花鳥図」
江戸時代末期~明治時代 千葉市美術館蔵
江戸時代末期~明治時代 千葉市美術館蔵
そばにあった諸葛監の「牡丹燕図」も南蘋派らしい、美しい花鳥図でした。本展は、松村景文や岡本秋暉、諸葛監といった花鳥画を得意としている絵師の優品が多く、そこが非常に魅力的だったと思います。
狩野栄信 「草虫図」
江戸時代・享和二年~文化13年(1802~1816) 千葉市美術館蔵
江戸時代・享和二年~文化13年(1802~1816) 千葉市美術館蔵
ほかにも、中国の草虫図の影響を受けたという狩野栄信の「草虫図」や、松村景文の「秋草図」などが印象的でした。また、酒井抱一や鈴木其一、また池田孤邨や酒井道一、山田抱玉といった抱一の門弟たち、さらには谷文晁や文長の弟子の鈴木鵞湖の作品など、幅広く江戸絵画の花鳥画を紹介しています。
小原古邨 「朝顔にかまきりと蜂」
明治時代末期~昭和時代初期頃 千葉市美術館蔵
明治時代末期~昭和時代初期頃 千葉市美術館蔵
会場の所々には、小原古邨の花鳥画の版画が展示されています。古邨の花鳥版画は主として輸出用として持て囃されたそうで、日本の伝統的な画題を描きながらも、どこか西洋趣味的な趣があったりして、独特の美しさが目を引きます。
第三章 「鳥」
まず印象に残ったのが、曽我二直菴の「架鷹図屏風」。一扇に一羽ずつ鷹を描いた押絵貼りの屏風(六曲一双)で、少々色焼けしてしまっているのが残念ですが、鷲鷹を描かせたら右に出る者がいないとまで言われた二直菴だけあり、鷹の迫力、獰猛さ、そして気高さが伝わってくる素晴らしい屏風でした。
曽我蕭白 「竹に鶏図」
江戸時代・明和元年(1764)頃 摘水軒記念文化振興財団蔵
江戸時代・明和元年(1764)頃 摘水軒記念文化振興財団蔵
同じ曽我派を名乗る蕭白の「竹に鶏図」も異彩を放っていました。隣には敢えて伊藤若冲の「鶏図」をぶつけてきて、それぞれのアプローチの違いがよく比較できて面白かったです。
岡本秋暉 「鶴図(若冲写)」
江戸時代後期 摘水軒記念文化振興財団蔵
江戸時代後期 摘水軒記念文化振興財団蔵
若冲といえば、若冲の「群鶴図」(プライス・コレクション所蔵)を模した岡本秋暉の「鶴図」という作品もありました。並びには若冲の「旭日松鶴図」も。若冲ではこのほか、「鷹図」や「鸚鵡図」が展示されています。
諸葛監 「白梅小禽図」
江戸時代・明和~天明期頃 千葉市美術館蔵
江戸時代・明和~天明期頃 千葉市美術館蔵
このコーナーの白眉は岡田閑林の「玉堂富貴孔雀小禽図」で、沈南蘋風の華麗で、色彩が非常に美しい花鳥画でした。岡田閑林は谷文晁の門人とのことで、この人の絵をもっと観てみたいと思わせる作品でした。ほかにも南蘋派の宋紫石や諸葛監の作品が個人的にはかなり好きでした。
第四章 「風月」
ここでは雨、雪、月、水といった天候や自然現象を描いた作品を中心に取り上げています。昨年の『蕭白ショック!!』にも展示されていた蕭白の「虎渓三笑図」がありました。やはりいつ見ても驚愕の水墨画です。
曽我蕭白 「虎渓三笑図」
江戸時代・安永期頃 千葉市美術館蔵
江戸時代・安永期頃 千葉市美術館蔵
ほかにも若冲の「月夜白梅図」や宋紫石の「雨中軍鶏図」、岸駒の「鶴図」、また近代日本画の橋本関雪の「水城暮雨図」あたりが良かったと思います。
第五章 「山水」
「山水」で良かったのが、雲谷等益の「山水図屏風」。雪舟の「山水長巻」を徹底的に学んだというだけあり、雪舟的な水墨表現は見応えがあります。また、谷文晁の「松間観瀑図」と並んで展示されていた文晁の弟子・鈴木鵞湖の「救蟻図」も師の作品を彷彿とさせ、印象的でした。
鈴木鵞湖 「救蟻図」
江戸時代・文久二年(1862) 千葉市美術館蔵
江戸時代・文久二年(1862) 千葉市美術館蔵
コーナーの一角には、若冲の拓版画「乗興舟」の一部場面も展示されています。
伊藤若冲 「乗興舟」(一部)
江戸時代・明和四年(1767)刊 千葉市美術館蔵
江戸時代・明和四年(1767)刊 千葉市美術館蔵
第六章 「人物」
花鳥風月でなんで人物?と思うのですが、花鳥風月を愛でるのは人間だからということのようです。酒井抱一や鈴木其一といった琳派の作品の中で目を引いたのが、抱一の弟子・田中抱二の「伊勢物語・四季花鳥図」。伊勢物語はよく取り上げられる画題ですが、そこに花鳥画を組み合わせ、非常に清楚で、品のある画面構成を作り上げています。
田中抱二 「伊勢物語・四季花鳥図」(六幅の内一幅)
江戸時代後期 千葉市美術館蔵
江戸時代後期 千葉市美術館蔵
そのほか其一の子・鈴木守一「桜花美人図」や若冲の楽しげな「雷神図」などが展示されています。
伊藤若冲 「雷神図」
江戸時代・宝暦後期~明和初期頃 千葉市美術館蔵
江戸時代・宝暦後期~明和初期頃 千葉市美術館蔵
第七章 「琳派の版本」
版本とはいわゆる木版本などのように刷られた本ということですが、琳派の版本の場合、それはほとんどデザイン見本帖のような趣があります。酒井抱一の「光琳百図」や中村芳中の「光琳画譜」のほか、いくつかの光琳の作品や図案をまとめた冊子があり、江戸の絵師たちは光琳を相当研究していたんだなと感じます。明治の絵師・神坂雪佳の図案集が数点あり、琳派の意匠をさらにモダンにしたようなデザインでとてもいいなと思いました。
ただの所蔵作品展だと侮れない、素晴らしい作品が多く、あらためて千葉市美術館のコレクションの凄さを痛感しました。オススメの展覧会です。
【琳派・若冲と花鳥風月】
2013年9月23日(月)まで
千葉市美術館にて
琳派・若冲と雅の世界
酒井抱一と江戸琳派の全貌
江戸絵画入門―驚くべき奇才たちの時代 (別冊太陽 日本のこころ 150)
0 件のコメント:
コメントを投稿