2018/10/13

中国書画精華 -名品の魅力-

東京国立博物館の東洋館で特集展示されている『中国書画精華 -名品の魅力-』を観てきました。

東洋館の秋の展示といえば、『中国書画精華』。3年前にもブログに取り上げましたが、今年の展示がまた素晴らしいのです。

参考:『中国書画精華 -日本における受容と発展-』 (2015年)

トーハクはかつて東山御物だった宋・元時代の唐物を含め、中国の書画の名品をたくさん多く所蔵しています。いつ行っても国宝や重要文化財クラスの書や絵画が何かしら展示されているのですが、今回は『名品の魅力』とタイトルにあるように、中国書画の名品中の名品がずらり勢揃い。前・後期で59点。内、国宝12点、重文23点。特別展並みの非常に贅沢な内容になっています。

伝・馬遠 「洞山渡水図軸」(重要文化財)
中国・南宋時代・13世紀 東京国立博物館蔵(展示は9/24まで)

伝・馬遠 「寒江独釣図軸」(重要文化財)
中国・南宋時代・13世紀 東京国立博物館蔵(展示は9/24まで)

まず前期展示作品から。馬遠が2点あって、そのうち「洞山渡水図軸」は馬遠の数少ない真筆とされる作品。ただ、今回の解説では2点とも馬遠派の作品と書かれていました。馬遠は南宋中期を代表する画院画家で、「洞山渡水図軸」の図上の賛は南宋の理宗皇帝の皇后のものといわれます。「寒江独釣図」は狩野元信や探幽など狩野派の絵師たちにより模写されていて、同様の図様は狩野派の山水画などにたびたび描かれてます。もともとは大画面だったものを切り取り、現在の掛幅に仕立てられたとされていて、まわりにはどんな風景が描かれていたのかと想像するのも楽しいですね。

[写真左から]伝・梁楷 「雪景山水図軸」(国宝)
中国・南宋時代~元時代・13~14世紀 東京国立博物館蔵(展示は9/24まで)
梁楷 「出山釈迦図軸」(国宝)、梁楷 「雪景山水図軸」(国宝)
中国・南宋時代・13世紀 東京国立博物館蔵(展示は9/24まで)

南宋の宮廷画家・梁楷は国宝の「出山釈迦図」と「雪景山水図」の三幅対。3幅それぞれに足利義満の印が押された東山御物を代表する名品です。伝・梁楷の「雪景山水画」は梁楷派の作品とされ、もともとは別の作品だったものが梁楷の2幅とともに日本で三幅対として鑑賞されるようになったといわれています。馬遠とはまた違う水墨の精妙な味わいがあります。

伝・趙昌 「竹虫図軸」(重要文化財)
中国・南宋時代・13世紀 東京国立博物館蔵(展示は9/24まで)

伝・任仁発「葡萄垂架図軸」
中国・元時代・14世紀 東京国立博物館蔵(展示は9/24まで)

北宋前期の画院画家・趙昌の筆と伝わる「竹虫図」は草虫図の現存最古の作例とされる作品。竹や瓜。、鶏頭とともに蝶やトンボ、イナゴ、鈴虫などが描かれています。竹が不思議な形に曲がっているのも面白い。

「葡萄垂架図」も水墨の草虫図。これも画巻の一部を切り取られて掛幅にされたといわれています。薄い墨でわずかに濃淡をつけた丁寧な筆触で、アブとクツワムシが葡萄の周りに描かれています。

李迪 「紅白芙蓉図軸」(国宝)
中国・南宋時代・慶元3年(1197) 東京国立博物館蔵(展示は9/24まで)

東博を代表する中国画の名品、李迪の「紅白芙蓉図」。『東山御物の美』で初めて観て以来、拝見するのは今回で三回目になります。ただ単に美しいというのではなく、心が洗われるような清浄で神秘的な美しさすら感じます。芙蓉の美しい花には裏彩色が施され、表から色を強調することで鮮やかな色彩が表現されているそうです。

夏珪 「山水図(唐絵手鑑「筆耕園」の内)」(重要文化財)
中国・南宋時代・13世紀 東京国立博物館蔵(展示は9/24まで)

「筆耕園」は室町時代以降に日本に渡ってきた中国画を集めた手鑑で、収める作品の宋元画を中心に60図を数えるといいます。その中でも有名なのが夏珪の「山水図」。数ある夏珪と伝わる水墨画の中でも、最も夏珪に近いものとされています。2015年に展示されていたときは「伝・夏珪」となっていたのですが、今回「伝」が外れていました。重厚かつ深遠な水墨の味わいは何度観ても唸ってしまいます。

伝・毛松 「猿図軸」(重要文化財)
中国・南宋時代・13世紀 東京国立博物館蔵(展示は9/24まで)

毛松と伝わる「猿図」は宋代の動物画の傑作。ニホンザルを描いたといわれ、何か物思いに耽るような人間を思わす表情が秀逸です。繊細な体毛の表現には金泥が使われていて、眼球は絹裏に金箔を貼って独特の質感を出しているそうです。

前期展示では写真撮影不可でしたが、昨年の京博の『国宝展』でタイミングが合わず観られなかった清涼寺の「十六羅漢図」(3幅)は涙ものでした。

梁楷 「李白吟行図軸」(重要文化財)
中国・南宋時代・13世紀 東京国立博物館蔵(展示は9/26から)

梁楷 「六祖截竹図軸」(重要文化財)
中国・南宋時代・13世紀 東京国立博物館蔵(展示は9/26から)

さて、後期展示はまず梁楷。前期の「出山釈迦図」と「山水図」の三幅対の味わいとはまた異なる減筆体による「李白吟行図」と「六祖截竹図」が出品されています。同じ簡略な筆とはいっても、淡墨のゆるやかな線が印象的な「李白吟行図」と緩急自在な筆勢で的確に表した「六祖截竹図」、どちらも魅力的。

因陀羅 「寒山拾得図軸」(国宝)
中国・元時代・14世紀 東京国立博物館蔵(展示は9/26から)

後期の見ものの一つは因陀羅の「寒山拾得図」。因陀羅の禅機図は断簡で5幅あって、いずれも国宝。先日根津美術館で観た『禅僧の交流』展で「布袋蔣摩訶問答図」を拝見しましたが、つづけて東博でも観られるとは思いませんでした。 筆の拙さの中にも独特の味わいがあり、大笑いする寒山と拾得の表情がまたとてもいい。伝・因陀羅とされる対幅の「寒山拾得図」もありました。

伝・陳容 「五龍図巻」(重要文化財)
中国・南宋時代・13世紀 東京国立博物館蔵(展示は9/26から)

いつ観てもその迫力に圧倒されるのが、 陳容と伝わる「五龍図」。この暗然とした闇の中から現れる龍の凄みたるや。昨年、藤田美術館所蔵の陳容の「六龍図」がオークションにかけられ、約300億円で落札されたことが大きな話題になりましたが、これもオークションに出れば相当な金額になるのでしょうか(売っては欲しくありませんが)。昨年開催された『ボストン美術館の至宝展』に来てた陳容の「九龍図巻」を見逃したのが悔やまれます。

そして、宋代水墨山水画の名品「瀟湘臥遊図巻」。湿潤な空気や光までとらえたような淡墨の繊細な筆遣い、細かなところまで神経の行き届いた丁寧な描写がとても素晴らしい。乾隆帝所蔵の四名巻の一つとされ、巻頭の堂々とした賛が乾隆帝の感動を表しているようです。


李氏 「瀟湘臥遊図巻」(国宝)
中国・南宋時代・12世紀 東京国立博物館蔵(展示は9/26から)

梁楷、夏珪、馬遠など、それぞれはこれまでにも何度か観ているのですが、ここまで一堂に揃う機会はなかなかないのではないでしょうか。中国絵画ファンならずとも必見の特別展示です。


【中国書画精華 -名品の魅力-】
2018年10月21日(日)まで
東京国立博物館 東洋館8室にて


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