2018/10/21

野口小蘋 -女性南画家の近代-

実践女子大学香雪記念資料館で開催中の『野口小蘋 -女性南画家の近代-』を観てきました。

野口小蘋は明治期から大正期にかけて活躍した女性南画家。2015年に同館で開催された『華麗なる江戸の女性画家たち』や、実践女子大からも近い山種美術館で同時期に開催された『松園と華麗なる女性画家たち』で小蘋に興味を持ち、ちゃんと作品を観てみたいと思っていた画家の一人でした。

昨年は小蘋の没後100年ということで山梨県立美術館で大規模な回顧展がありましたが、そちらには伺えなかったので、今回の企画は嬉しい限り。

資料館自体が狭いということもあり、小蘋の作品は10数点とこじんまりしていますが、人物画や美人画から南画、花鳥画まで揃い、少ない点数ながらも小蘋の画業の一端を知ることができるのではないかと思います。


野口小蘋 「設色美人図」
慶応2年〜明治元年(1866-68)頃 実践女子大学香雪記念資料館蔵

小蘋は関西南画壇の重鎮・日根対山に師事し、その後ほぼ独学で画技を磨いたといいます。明治10年代までは人物画を多く描いたそうで、会場にも浮世絵風の美人画が数点展示されていましたが、傑出したものがあるかというと正直そこまでの個性は感じられません。淡墨のラフな筆遣いによる「柳下二美人図」や、東洋的な円窓が中国の美人図を思わせる「美人読書図」は浮世絵というより文人趣味的な印象もあり興味深い。

野口小蘋 「美人読書図」
明治5年(1872) 実践女子大学香雪記念資料館蔵

小蘋が詩文を学んだという岡本黄石の肖像画は写実的で、深い皺や白髭の表現が秀逸。小蘋の確かな技量を感じます。「菊花見物図」の江戸絵画の風俗描写を思わせつつ、背景は水墨で描くなど実に巧み。

野口小蘋 「甲州御嶽図」
明治26年(1893) 八百竹美術品店蔵

南画はやはり素晴らしく、明治時代にここまでの高い技術を持った女性画家がいたことに驚きます。力強くボリューム感のある山容と鮮やかな彩色の「甲州御嶽図」、白い霞を大胆に配した奥行き感のある構図と桃源郷の緻密な描写が魅力的な「春山僲隠図」など、どれも見事。

中でも白眉は六曲一双の「春秋山水図屏風」。遠近感のある雄大な山容や青緑のグラデーション、桜や紅葉の丁寧な描写、金砂子を贅沢に使った豪奢な装飾性、非常に見応えがあります。

野口小蘋 「春秋山水図屏風」
明治41年(1908) 東京国立博物館蔵 (展示は11/3まで)

小蘋の花鳥も実に良い。『華麗なる江戸の女性画家たち』でも展示されていた「海棠小禽図」の美しさにまず目が止まります。海棠も綬帯鳥も南蘋派に好まれた吉祥画題。南蘋派ほどの濃密さはありませんが、上品で華やか。「春澗栖鳩図」は躑躅や蘭が咲く濃密な構図が南蘋派風でありながら、南画的な賦彩でまとめているところが面白い。

野口小蘋 「海棠小禽図」
明治43年(1910) 実践女子大学香雪記念資料館蔵

野口小蘋は現在では知名度も低く、作品を観る機会もそうは多くありませんが、女性初の帝室技芸員に任命されるなどかつては高く評価されていました。女性の画家が珍しい時代にあって、ここまで才能を発揮し、しかも認められていたというのは凄いことだと思います。

なお、本展は入場無料ですが、資料館が大学内なので警備員のいる受付で名前を書いて入館証をもらう必要があります。作品解説(主要作品のみ)のパンフレット(プリント)もいただけます。


【野口小蘋 -女性南画家の近代-】
2018年12月1日(日)まで
実践女子大学香雪記念資料館にて


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