2018/09/09

禅僧の交流

根津美術館で開催中の『禅僧の交流 墨蹟と水墨画を楽しむ』を観てきました。

2ヶ月ほどお休みをしていた根津美術館の秋の展覧会。日本と中国の禅僧の交流を今に伝える鎌倉・南北朝時代の墨蹟や、室町時代に流行する絵にちなんだ漢詩を連ねた詩画軸、そして室町時代中期から後期にかけての画僧による水墨画をとおして、禅僧の文化の流れを展観するという企画展です。出品作には館外の作品も含まれ、周文や拙宗等揚、芸阿弥など室町水墨画の名品が並びます。

最近は外国人観光客も多いので、この展覧会は空いてそうだなと思っても、結構混んでいることがありますが、訪れた日は日曜午後の閉館前ということもあってか、館内は人も少なく、落ち着いた空間で作品に触れることができました。


会場の構成は以下のとおりです:
第1章 海を渡り交流する禅僧たち
第2章 師弟間の交わり 法脈の継承
第3章 禅僧と水墨画Ⅰ 水墨画を楽しみ、賛を付す
第4章 禅僧と水墨画Ⅱ 関東で活躍した画僧たち

因陀羅・筆、楚石凡琦・賛 「布袋蔣摩訶問答図」(国宝)
中国・元時代 14世紀 根津美術館蔵

どの墨蹟も表装され、凡人には他の書蹟と何が違うのか分からないのですが(恥ずかしい)、今回展示されている多くが、中国に渡った日本人の禅僧が修業の証として悟りを認める印可状や道号偈、師と弟子の間の尺牘(書簡)だといいます。能書家の書蹟とは違うので、書風や筆跡に面白味を感じるといった類ではありませんが、後の詩画軸や禅画の流れを知る上では理解をしておく必要があるんだろうと思います。

会場の最初に展示されいたのは元時代の禅僧・因陀羅の禅機図の断簡。決してこなれた筆遣いではないけれど人物の面貌や衣文の表現は細やかで、いかにも禅僧の余技的な味わいがあります。元の高僧という楚石凡琦の賛も絵と一体となったような趣があっていい。ちなみに同じ画巻のものとされ現在分蔵されている5点の断簡全てが国宝。

伝・周文 「江天遠意図」(重要文化財)
室町時代・15世紀 根津美術館蔵

禅僧の描く水墨画に漢詩や賛を寄せた書画が、禅僧たちの文芸サロン的な遊びとして詩画一致の画軸に発展していったのが詩画軸。詩画軸というとやはり有名なのが室町時代中期の画僧・周文ですが、周文も3点(いずれも伝承作品)ほど出品されています。

「江天遠意図」は展示されている3点の内、唯一の重文。いわゆる周文スタイルの山水画で、ひっそりとした建屋と小舟が描かれ、叙情的な雰囲気とどこか文人画的な趣があります。本図には、如拙の「瓢鮎図」にも序を寄せている相国寺の住持・大岳周崇が同じく冒頭に着賛していて、落款こそありませんが、他の作品に比べても恐らく周文の可能性が高いんだろうなと思います。

伝・周文では柳の下に舟を浮かべて釣り糸を垂れるという「柳下垂竿図」が小品ながらも画趣があり良かったです。堂々と真ん中に描かれた遠景の屹立した山が印象的な曽我紹仙の「山水図」も周文様とは異なる整理された構図に面白さを感じます。

賢江祥啓 「山水図」(重要文化財)
室町時代・15世紀 根津美術館蔵

今回の展覧会で個人的に嬉しかったのが、関東画壇のコーナー。足利将軍家の美術顧問として活躍した芸阿弥の現存唯一の作品で、鎌倉に戻る弟子・祥啓に餞として与えたという「観瀑図」とその祥啓の「山水図」をできれば並べて展示して欲しかったのと思うのですが、関東画壇の中心となる祥啓や、京に上る前の祥啓の師とされる仲安真康、祥啓の弟子・啓孫など充実しています。

祥啓は京都で足利将軍家の中国絵画コレクションを軒並み模写したというだけあって、立体感やグラデーションが素晴らしい院体画風の「人馬図」を観ても、優れた腕前を持っていたことが分かります。「山水図」は時代が下っているだけあって周文様からかなり進んだ感があります。この絵を観て思い浮かぶのが狩野正信の山水図で、正信が相阿弥(芸阿弥の子)から指南を受けたという話もあり、画風的(特に線や彩色)にも近いものがあるのだと思います。

建長寺の禅僧で余技として絵を描いていたともいわれる仲安真康は3点。それぞれ独特の味わいがある2つの「布袋図」、山水画のスタイルで遠景の富士山から近景の三保の松原まで大観的に収めた「富嶽図」など、地方臭があるとはいえ確かな画技を感じられます。

仲安真康 「布袋図」(重要美術品)
室町時代・15世紀 根津美術館蔵

雪村の「龍虎図屏風」が出ているのですが、ちょうど同じ日に静嘉堂文庫美術館の『明治からの贈り物』で観た橋本雅邦の「龍虎図屏風」を彷彿とさせ、興味深いものがありました。雅邦「龍虎図屏風」は実際に虎を写生し、その斬新さで当時物議を醸したといいますが、構図などは龍虎図の古画に倣ったといいます。もしかしたら雪村も参考にしたのかもしれないですね。

雪村周継 「龍虎図屏風」
室町時代・16世紀 根津美術館蔵

[参考] 橋本雅邦 「龍虎図屏風」(重要文化財)
明治28年(1895) 静嘉堂文庫美術館蔵
(※本展にこの作品は出品されていません)

1階の企画展のあとは2階も忘れずに。2階展示室の『切り取られた小袖ー辻が花から広がる世界』がとても良いです。桃山時代の辻が花や江戸初期の慶長小袖の古裂を額に収め、絵画のように展示しています。その美しい刺繍や文様、デザイン性はまるで琳派の絵画を見るよう。俵屋宗達や尾形光琳の作品が生まれた背景を感じます。


【禅僧の交流 -墨蹟と水墨画を楽しむ-】
2018年10月8日(月・祝)まで
根津美術館にて


日本の水墨画 1:山水日本の水墨画 1:山水

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