2015/07/12

絵巻を愉しむ

三の丸尚蔵館で開催中の『絵巻を愉しむ -《をくり》絵巻を中心に』を観てきました。

物語を絵画化した絵巻の豊かな表現やイメージを愉しむという企画展。あまり目にする機会の少ない宮内庁所蔵の絵巻が観られるというのはもちろん、入場無料というのもうれしい。

三の丸尚蔵館は久しぶりに行きましたが、外国人観光客の方の多いこと多いこと。場所が皇居東御苑にあるということで、観光の流れで来るんでしょうね。

さて、会場の最初に展示されているのは、海幸彦・山幸彦の説話を描いた「彦火々出見尊絵巻」の模本。もとは後白河院の命により描かれたとされる絵巻で、「伴大納言絵巻」の作者ともされる常磐光長の作といわれています。原本は現在所在不明とのことですが、原本に忠実という模本は、極彩色の美しさもさることながら、装束の文様の緻密さや波紋の描写の丁寧さなどが印象的。原本はさぞ素晴らしかったのでしょうね。彦火々出見尊が竜王宮でもてなされる場面があって、その絢爛豪華さには目を奪われます。

「彦火々出見尊絵巻」(一部)
江戸時代 17世紀

面白かったのが「絵師草紙」。ある貧しい絵師が朝恩で土地を与えられ、喜んだのも束の間、土地を手放すことになり、また貧乏暮しに舞い戻るというお話。何より人々の喜怒哀楽の表情が豊かで、そのちょっとオーバーなタッチについつい笑みがこぼれます。家屋や調度品、庭の草木など、細部も非常に丁寧に描かれていて、相当優れた絵師による作なのだろうなと感じます。

「絵師草紙」(一部)
鎌倉時代 14世紀

大江山に棲む鬼の頭領・酒伝童子が源頼光ら四天王に退治されるという説話を描いた「酒伝童子絵巻」は割とよく見る絵巻ですが、三の丸尚蔵館の所蔵品は武家に納められた絵巻とかで、金箔・金泥を多用した豪華なもの。彩色も非常に美しく、また人々の表情や装束の文様、さらには屋敷の細部に至るまでとても細かく丁寧に描かれていて、大変手のかかった絵巻だということが分かります。

「酒伝童子絵巻」(一部)
江戸時代 17世紀

「若蘭絵巻」は中国・明時代の絵巻。人物表現の豊かさ、細緻な描写、中国絵画らしいイメージに溢れています。仇英を調べると、「特に人物画に優れ、…美人風俗画として独特の画体を作り、この後の風俗人物画はみな仇英風に変わった」とあります。仇英というと大倉集古館所蔵の「清明上河図」がこの人の筆ですね。

伝・仇英 「若蘭絵巻」 (一部)
中国・明時代 16世紀

そして、本展の目玉である岩佐又兵衛の「をくり」こと「小栗判官絵巻」。私は過去に東京国立博物館の『皇室の名宝』展で観ていますが、公開されるのはそれ以来では? 全15巻、全長約324メートルという大作の絵巻で、その内1巻、8巻、11巻、13巻のそれぞれ一部が展示されています(後期は場面替えの予定)。又兵衛とその工房の作といわれていますが、又兵衛の他の絵巻に通じる、又兵衛風といわれる特徴的で魅力的な人物描写、装束の文様から室内の調度品や背景の襖絵に至る隅々まで徹底した精緻な描きこみ、濃彩で華麗な色彩美。ストーリーも面白く、又兵衛ならではのドラマティックな場面展開が観る者を惹きつけます。

絵巻のすぐそばには、<アニメのような場面展開>と題し、小栗と照手姫の恋文のやりとりやら、小栗を毒殺する場面やらの場面がパネル展示されていて、又兵衛画の特徴が良く分かります。

伝・岩佐又兵衛 「をくり(小栗判官絵巻)」(一部)
江戸時代 17世紀

会場は小さいですし、出品数も少ないので、これだけを目的に見に出かけるというよりも、東京国立近代美術館や東京ステーションギャラリー、三菱一号館美術館からは徒歩圏内なので、近くの美術館とセットで観るという方がいいかもしれませんね。8/1に一部展示替え・場面替えがあるそうで、「絵師草紙」と入れ替わる形で「住吉物語絵巻」が展示されます。


【絵巻を愉しむ -《をくり》絵巻を中心に】
2015年8月30日(日)まで
宮内庁三の丸尚蔵館にて


ミラクル絵巻で楽しむ「小栗判官と照手姫」―伝岩佐又兵衛画 (広げてわくわくシリーズ)ミラクル絵巻で楽しむ「小栗判官と照手姫」―伝岩佐又兵衛画 (広げてわくわくシリーズ)

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