2014/08/15

江戸妖怪大図鑑

太田記念美術館で『江戸妖怪大図鑑』を観て参りました。

夏休みということもあり、館内は家族連れや夏休みの自由研究と思しき子どもたちでいっばい。コワ楽しい絵ばかりなので館内も賑やかです。

本展は3部に分かれていて、7月は≪化け物≫、今月は≪幽霊≫、来月9月が≪妖術使い≫。3つ合わせると計約270点と妖怪や幽霊などの浮世絵を集めた展覧会では過去最大級とのこと。

実は先月の≪化け物≫も観てきたのですが、ブログに書き上げる前に会期が終了してしまったので、≪幽霊≫を中心にご紹介します。

7月の≪化け物≫は鬼や土蜘蛛、天狗に河童など、古来御伽草子で描かれてきたものも多く、その延長線上に浮世絵の“化け物”もあるんだろうなという感じを受けました。一方の“幽霊”は御伽草子に描かれていたという記憶がパッと浮かばず、また浮世絵の多くが役者絵だったことから、江戸時代の怪談ブームなども大きく関わっているんだろうなという気がします。

 歌川豊国 「初代尾上松助の小はだ小平次/同女房」
文化5年(1808)

“化け物”は歌舞伎にもよく登場しますが、先月の≪化け物≫にあった浮世絵で歌舞伎に取材した作品は“化け猫”でいくつかあったぐらい。しかし、≪幽霊≫ではその多くが歌舞伎絵(役者絵)で、江戸の最大の娯楽=歌舞伎と幽霊(怪談)との関係を興味深く思いました。

歌川国芳 「木曽街道六十九次之内 鵠沼 与右エ門 女房累」
嘉永5年(1852)

「お岩」、「小平次」、「累(かさね)」、「浅倉当吾」といった怪談に出てくる幽霊の絵は、勇ましかったり美しかったりする役者絵と違って、それは不気味で、おどろおどろしい。『東海道四谷怪談』は言わずもがな、「累」は清元の『色彩間苅豆』で有名ですが、江戸時代にはほかにも“累物”があったようです(落語をもとに歌舞伎化された『真景累ケ淵』も“累物”)。「小平次」も江戸時代にはいくつも狂言が存在していたようですが、現代では『生きてゐる小平次』という演目が戦後何度か上演されているだけ。「浅倉当吾」は『佐倉義民伝』の“木内宗吾”のことですが、もとの芝居『東山桜荘子』では処刑された当吾が幽霊になって化けて出てくるとのこと。今ではその場面は全然かかりませんね。

歌川国芳 「四代目市川小団次の於岩ぼうこん」
嘉永元年(1848)

≪化け物≫のときにもお化けをモノクロに描くという手法の作品がいくつかあったのですが、幽霊を薄いシルエットで描いたりモノクロで描いたりという作品も散見します。

『東海道四谷怪談』の戸板返しや提灯抜けを再現した仕掛け絵というのがあって、今でいう“飛び出す絵本”という感覚だったんでしょう。江戸の人もキャッキャ言って怖楽しんだのが聞こえてきそうです。

歌川国貞 「三代目関三十郎の直助権兵衛 八代目片岡仁左衛門の民谷伊右衛門
五代目坂東彦三郎のお岩の亡霊/小仏小平亡霊 五代目坂東彦三郎の佐藤与茂七」
文久元年(1861)

江戸の役者絵を見ると今に連なる名もある一方、途絶えた名跡も多いのをいつも感じます。団十郎はこういう役もやっていたのか、仁左衛門はこういう役もやっていたのかなどと色々と勉強になることも多くあって、『東海道四谷怪談』の浮世絵を見ると、お岩さんは音羽屋の芝居なんだなということも分かります。

歌川芳艶 「為朝誉十傑 白縫姫 崇徳院」
安政5年(1858)

歌舞伎に取材した作品のほかにも、死後天狗になり怨霊と化したという≪崇徳院≫や、『船弁慶』で知られる大物の浦を描いた≪平家の亡霊たち≫、『道成寺』のもととなる安珍・清姫伝説 の≪清姫≫などなど。

面白かったのが芳年の戯画で、自分の描いた幽霊の絵から本物の幽霊が出てきて応挙がビックリするというもの。腰を抜かした応挙が笑えます。その下に描かれているのは雪舟の“爪先鼠”の故事を描いたもの。足の指で描いた鼠がホンモノになっちゃったということでしょうか。

月岡芳年 「芳年戯画 応挙の幽霊 雪舟活画」
明治15年(1882)

お化け絵、幽霊絵は浮世絵の中でもポピュラーな分野だったそうですが、飾って楽しむようなものでもないので意外と現存数は少ないといいます。先月の≪化け物≫と同様、国芳、芳年の作品は多く、やはり面白さは群を抜きます。ほかにも豊国、国貞、芳艶といった歌川派の作品にいいのが目立ちました。19世紀以降は凝った構図や描写などどんどんエスカレートしていて、それだけ人々がより過激な妖怪画や幽霊画を求めていたんだろうなと感じます。

江戸妖怪大図鑑はリピーター割引があり、2回目以降は半券提示で200円割引。納涼気分で出かけてみるのもいいと思います。


【特別展 江戸妖怪大図鑑】
第一部: 化け物 7/1~7/27(終了)
第二部: 幽霊 8/1~8/26
第三部: 妖術使い 8/30~9/25
太田記念美術館にて


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