2013/11/23

吉例顔見世大歌舞伎 仮名手本忠臣蔵

歌舞伎座で吉例顔見世大歌舞伎・通し狂言『仮名手本忠臣蔵』を観てきました。

歌舞伎座新開場の柿葺落で初めての顔見世興行。本来ならば、現役最高峰の歌舞伎役者たちが顔を揃えるお祝い的なものになったであろう公演ですが、仁左衛門の休演や、今度は福助までも体調不良で休演とあって、柿葺落公演の疲れや無理がここにきてドッと出たのではないかと心配になります。

12月にも同じ演目を花形で行うということもあり、今月はベテラン勢を中心とした座組になりましたが、それでもさよなら公演の顔見世の『仮名手本忠臣蔵』に比べると寂しさを感じずにはいられません。

とはいえ、見どころたくさんの演目。菊五郎・吉右衛門の今が最高の円熟の芸を堪能いたしました。

さて昼の部。
まずは「大序」と「三段目」。高師直は当初予定されていた吉右衛門が由良之助を演じることになったので代演で左團次。若狭之助への嫌みたらしさや顔世御前への態度の嫌らしさが左團次独特の個性と大きさと相俟って素晴らしい師直でした。ただ、塩冶判官への辱めはもう少し憎々しさがあっても良かったかもしれません。菊五郎の塩冶判官はどちらかというとおっとり型なので、塩冶判官が激情するほどのネチッコさが欲しかった気もします。対する若狭之助は梅玉が気迫漲る演技を見せ、塩冶判官の悲劇へと繋がる緊迫感を作りあげています。芝雀の顔世御前も貞節を頑なに守ろうとする強さが見えて出色。松之助の伴内が笑いを誘います。

昨年の花形歌舞伎で塩冶判官を演じた菊之助は怒りを抑えに抑え、感情が爆発していくプロセスを巧みに演じていましたが、菊五郎の塩冶判官は菊之助のように感情を表に出さず、ハラで丁寧に演じ、そこに強い説得力を生みだしています。同じ音羽屋の親子でもこうも違うのだなとちょっと驚きでした。

「四段目」も無念さを滲ませた菊之助とは異なる菊五郎の判官で、静かなその表情からは覚悟とともに悔しさ、無念さが強く伝わってきます。由良之助を待つ感情の揺れが芝居に厚さを与えて秀逸。そしてその重く辛い空気を吉右衛門演じる由良之助が引き継ぎ、緊張感が途切れることなく評定場の見事なドラマに結実していく様はさすが大歌舞伎です。ここでは先ほどの師直とは打って変わっての左團次の右馬之丞、また梅枝の力弥が印象的でした。

「道行」は梅玉の勘平に時蔵のお軽。お家の一大事に不忠を犯し、顔色すぐれぬ勘平を元気づける姉さん的なお軽を時蔵が好演。昼の部の幕にふさわしい舞台でした。

さて、夜の部は「五段目」から。
菊五郎の勘平は音羽屋の家の芸。菊五郎型といわれるカタで見せる様式の面白さ。そこに風情さえ感じさせるのは円熟の味でしょうか。また二つ玉の松緑が斧定九郎を一分の隙のない流れるような動きで見事。「六段目」も菊五郎の存在感。この勘平を見るだけでも歌舞伎座に行く価値はあります。やや淡白な嫌いはありますが、心理描写の積み重ねで丁寧に見せていく様はやはり熟達した役者のなせる技。

「六段目」では東蔵のおかやが田舎の母親を熱演していたのが目を引きます。いつもは少し控えめな感じの東蔵ですが、菊五郎の勘平に負けない押しのある演技で強い印象を残しました。時蔵も、「道行」の勘平を引っ張っていくお軽の愛の強さがこの「六段目」にも通じていて、勘平への深い愛情がひしひしと感じられる良いお軽でした。又五郎の千崎も勘平への憐憫の情だけでなく、その無念さを引き受けようという心の深さが感じられ素晴らしかったと思います。

「七段目」は播磨屋。酔態の軽妙さの表現の豊かさと、そこに隠す本心の確固とした思いの見せ方が見事。お軽は福助休演のため芝雀。個人的には六段目の流れで時蔵のお軽で見たかったのですが、ここは相手が吉右衛門ですし、また今年の一月に七段目でお軽を演じていることもあっての選択なのでしょう。その芝雀のお軽はとても健気で、可愛らしさを感じるお軽でしたが、遊女の風情に物足らなさも。平右衛門はこれも代役で梅玉。そつなくこなしているのですが持ち役でないので気の毒というか、梅玉と芝雀の兄妹のやり取りは少々退屈な感じがしました。昼の部に引き続き、幹部昇進の橘三郎の九太夫と松之助の伴内が安定の上手さを発揮しています。

最後は「十一段目」。場面転換が多く、緊迫した雰囲気も途切れ途切れで、折角の浪士たちが本懐を遂げる場面も今ひとつ盛り上がりに欠けるのは演出の問題でしょうか。その中でも錦之助と歌昇の立ち廻りが見もの。七段目に続いての鷹之資の力弥には客席の拍手も大きく、感慨深いものがありました。


仮名手本忠臣蔵仮名手本忠臣蔵

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