2013/11/12

描かれた都 -開封・杭州・京都・江戸-

大倉集古館で開催中の『描かれた都』に行ってきました。

江戸絵画や中国絵画を中心に、都市の景観や風俗が絵画の中でどう描かれて来たのかを展観するという企画展。北宋の首都・開封、南宋の首都・杭州、そして京都と江戸、中国と日本の四大都市にスポットを当て、その都市景観図を紹介しています。

ちょうど東京国立博物館でも『京都-洛中洛外図と障壁画の美』を開催していて注目が集まっている洛中洛外図屏風や、昨年の『北京故宮博物院展』で話題になった「清明上河図」の模本なども展示されていて、タイムリーな展覧会だなと思い観に行ったのですが、文明的にも文化的にも発展した都市はその景観も絵になるというか、都市の成熟というものは絵画の成熟も生むのだなと強く感じる展覧会でした。


第一部 北宋の都、開封 ~水辺の都市の変容、蘇州へ

ここでは「清明上河図」の3つの模本を展示。「清明上河図」はたくさんの模本が存在し、またいくつかの系統があり、それぞれに展開していったようです。展示されていた3点はいずれも“蘇州片”と呼ばれる模本で、蘇州を中心とした江南の街の賑わいや風俗が描かれています。

仇英(款) 「清明上河図」(部分)
明時代 大倉集古館蔵

会場に故宮博物院所蔵の「清明上河図」がパネル展示されていましたが、模本といっても寸分違わず同じという訳ではなく、図柄や描き方が微妙に変化しています。故宮博物院の「清明上河図」とはずいぶん印象も異なるなと感じる作品もありました。


第二部 南宋の都、杭州~憧憬の西湖

杭州といえば西湖で、日本の水墨画でもときどき見かける画題です。中国の西湖図だけでなく、日本の絵師による西湖図や、また狩野派の古画の模写図帖も展示されていて、水墨画が日本に伝わる中でどのように継承されていったのか、中国と日本でどう描写に違いがあるのか、興味深いものがあります。

狩野山楽 「西湖図」(重要美術品)
江戸時代 個人蔵(期間中、場面替えあり)

西湖の全景を俯瞰で捉えた清代の宮廷画家・呉●(火に睪)の 「西湖図」や古い版本を見ると、西湖とはこういう景観なのかということがよく分かるのですが、これが狩野山楽や池大雅になってくると最早伝言ゲームで、あくまでも憧憬としての西湖図になってきます。山楽の「西湖図」は4面表裏計8面の襖絵で、奇矯な感じはありませんが、岩山や樹木の描写に山楽らしさが溢れています。

並びには、西湖の孤山で隠遁生活を送ったという詩人・林逋(林和靖)を描いた中国の「林和靖図」や同じく蕭白や探幽の「林和靖図」(探幽のは画帳)も展示されていました。


第三部 京都~花洛尽しの世界

開封といえば清明上河図、杭州といえば西湖図であるように、京都といえば洛中洛外図。ここではその洛中洛外図や遊楽図を中心に展示しています。目玉はやはり永徳の「洛外名所遊楽図」。永徳の「洛中洛外図屏風(上杉本)」より一回り小さく、神社仏閣や樹木の描写が少々粗い気もしますが、人物は確かに上杉本と酷似しています。

狩野松栄 「釈迦堂春景図」
桃山時代 京都国立博物館蔵(展示は11/10まで)

個人的なお気に入りは松栄の「釈迦堂春景図」と、久隅守景 の「賀茂競馬・宇治茶摘図」で、「釈迦堂春景図」は嵯峨釈迦堂(清涼寺)の春景を描き、お堂で昼寝する乞食が描かれていたりと狩野派らしい絢爛さの中にも遊び心があり、また上賀茂神社の競馬の神事を描いた「賀茂競馬・宇治茶摘図」(後期は右隻の宇治の茶摘みの春景を展示)は生き生きした人物描写が秀逸です。

そんな中で一番ビックリしたのが長谷川巴龍の「洛中洛外図」。洛中洛外図に描かれる位置関係はどれもざっくりしてますが、本作は二条城の上に知恩院の鐘楼が描かれていたり、二条城の下方に鴨川があったり、変なところに東寺があったりとかなりテキトー。何より建物の形がいびつで、人物もお世辞にも上手いとは言えず、ヘタウマ系洛中洛外図という感じでした。しかも“法橋”印を勝手に付けるというオマケつき。かなり衝撃的です。


第四部 江戸~新たな東都、現代へ

最後は江戸。江戸に暮らす多様な人々の風俗を描いた宮川長亀の「上野観桜図・隅田川納涼図」や北斎の「北斎画譜 夜景の川辺」、鍬形蕙斎「東都繁昌図巻」などはどれも江戸の賑わいを今に伝え、見飽きません。白眉は歌川広重の「飛鳥山・隅田川・佃島図」(後期は「隅田川」のみ展示)で、繊細かつ叙情的な表現が秀逸です。

山口晃 「東京圖 六本木昼図」
2002年 森美術館蔵

山口晃の「東京圖 六本木昼図」も展示されていて、時空と空間を超える面白さを感じる充実した展覧会でした。

※紹介した作品には前期展示(既に終了)のものも含まれています。


【描かれた都 - 開封・杭州・京都・江戸 -】
2013年12月15日まで
大倉集古館にて

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