2011/11/17

法然と親鸞 ゆかりの名宝

東京国立博物館で開催中の『法然と親鸞 ゆかりの名宝』展に行ってきました。

これまで『法然展』や『親鸞展』というのはそれぞれありましたが、こうした二人合同の展覧会というのは初めてとのこと。今年は法然の800回忌、親鸞の750回忌ということで実現に至ったそうです。

前回は『空海と密教美術』と題し、密教(真言密教)の名宝が展示されましたが、今回は法然と親鸞ということで、浄土宗、浄土真宗ということになります。

ここ数年、東京国立博物館では、宗派絡み、お寺絡みの特別展が続いていて、2003年の『大日蓮展』(日蓮宗)以降、『空海と高野山』(真言宗)、『京都五山 禅の文化展』(禅系宗派)、『最澄と天台の国宝』(天台宗)、『唐招提寺展』(律宗)、『妙心寺展』(臨済宗)、『興福寺 国宝仏頭展』『興福寺 国宝阿修羅展』(法相宗)、『国宝 薬師寺展』(法相宗)、『東大寺大仏展』(華厳宗)とあり、今回の『法然と親鸞展』で、主だった宗派は一回りといった感じでしょうか。

「当麻曼荼羅縁起」(国宝) 鎌倉時代

その『法然と親鸞展』は、密教という少々難解なものの後ということもあってか、キャプションや解説がとても分かりやすく、また法然のものは緑色、親鸞のものは青色と色分けもしてあり、見やすさまで気を配った丁寧な作りが印象的でした。

密教(真言密教)は各宗派に多大な影響を与えた一方で、民衆には非常に分かりづらく、その分かりづらい教義を見て分かるようにと視覚化したのが密教美術のそもそもの始まりでした。一方で、法然と親鸞による仏教(浄土宗と浄土真宗)は、貴族などお金のある特権階級の救済ばかりの旧来の仏教に異を唱え、広く一般大衆の救済を旨として、ただ阿弥陀仏を念じれば浄土に行けるという分かりやすさから広がったもの。もともとが分かりやすさを目的としており、すんなりと受け入れやすいのかもしれません。

蓮如筆「歎異抄」(重要文化財) 室町時代

まず、最初のコーナーは「第1章 人と思想」。法然、親鸞それぞれの肖像画や彫像、肉筆の資料などを紹介しながら、二人の足跡を追っていきます。

見どころの一つは「二河白道図」で、前期に2点、後期に2点それぞれ出品されます。この光明寺本はその中でも最古の遺品。極楽浄土に行くためには、火の河(瞋憎)と水の河(貪愛)の間の細い一本道を渡って行かなければならないという浄土教の説話に基づいた作品です。

「二河百動図」(重要文化財) 鎌倉時代
※京都・光明寺蔵(展示期間:~11/13まで)

個人的に一番感動したのは親鸞による「観無量寿経註」で、浄土教の代表的な経典(浄土三部経)の一つ、観無量寿経を書写したものに、さらに行間や余白にビッシリと自ら註釈を書いています。親鸞30代前半の修業時代のものだそうですが、その熱心な研鑽の姿勢にはただただ驚かされます。親鸞の字は決してきれいではないのですが、隙間なく埋め尽くす字を見ていると、仏教に対する真摯な態度に深い感銘を覚えます。(※国宝「観無量寿経註」は11/6までの展示。11/8からは国宝「阿弥陀経註」が展示されます)

つづく第2章は「伝記絵に見る生涯」。伝記絵を通じて、法然と親鸞の波乱に富んだ生涯をたどり、浄土教の教えを伝えるというものです。国宝「法然上人行状絵図」は阿弥陀如来が衆生を救済するために立てた48の誓願にちなんで48巻で構成されています。一部のみの展示ですが、色も鮮やかで、後の法然絵伝にも大きな影響を与えたようです。

「法然上人行状絵図」(部分)(国宝) 鎌倉時代

第3章は「法然をめぐる人々」と「親鸞をめぐる人々」。法然や親鸞と弟子との間のやりとりや、彼らの教えを引き継いだ後年の信徒たちの活動を書面や絵画を通して紹介しています。

「阿弥陀如来立像」(重要文化財) 鎌倉時代

この阿弥陀如来立像は、戦後滋賀県のある寺で発見された仏像で、法然の1周忌にあわせて弟子の源智上人が造立したものとされ、像内には後鳥羽上皇や後白河法皇、源頼朝、平清盛など故人も含め約4万6千人ほどの姓名を記し、怨親平等と菩提を願った文書が納められていたそうです。解説には「有力な慶派仏師の作と考えられる」と書かれていて、一説には快慶の弟子行快の作とも言われています。

「地獄極楽図屏風」(重要文化財) 鎌倉時代
(展示期間:~11/13まで)

第4章は「信仰のひろがり」。浄土宗や浄土真宗の寺院に伝来する名宝が展示されています。親鸞が偶像崇拝に消極的で、仏像のお祈りするよりも「南無阿弥陀仏」を一心に唱えることが大事としていたこともあり、そのためかこれまでの仏教系の展覧会に比べると、本展は仏像の出品数が多くありません。とはいえ、国宝の「早来迎」や「当麻曼荼羅縁起」(いずれも展示は11/13まで)や鎌倉の浄光明寺の「阿弥陀三尊坐像」など、珠玉の名品がズラリ。中には、宗派の寺院の所蔵ということで応挙や狩野派の絵画も出品されていました。

「阿弥陀二十五菩薩来迎図(早来迎)」(国宝) 鎌倉時代
(展示期間:~11/13まで)


浄土宗と浄土真宗をあわせると信者数は約2000万人といわれ、多くの日本人が浄土教の教えを拠り所にして生きてきたことを考えると非常に興味深い思いがしました。正直、阿修羅像や東寺の仏像曼荼羅のような目玉のとなる仏像はありませんし、『空海と密教美術展』のような派手さはありませんが、仏教を身近に感じられる良い展覧会だったと思います。

【法然と親鸞 ゆかりの名宝】
東京国立博物館にて
2011年12月4日(日)まで


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