今年も最後の1日となりました。昨年からブログやお休みしていますが、記録として今年も展覧会ベスト10だけアップします。
去年の今頃は、年末にはさすがに新型コロナウイルスも終息してるのだろうと思っていましたが、終息するどころか、また訳の分からない変異株が出てきて、いつになったら安心して展覧会を観に行ける日が来るのかと暗澹たる気持ちになります。夏以降はあまり開催期間や出展作品などに影響が出ることはありませんでしたが、上半期には会期末を待たず閉幕し観ることができなかった展覧会もいくつかありました。
ただ今年は、出光美術館のように未だ再開しない美術館も中にはありますが、新型コロナウイルスに翻弄され企画の練り直しを迫られた昨年と違い、入念に準備された展覧会や海外から作品を借りてきた展覧会も多く、事前予約制の普及など何とかウイズコロナの時代の展覧会のスタイルに慣れてきたようにも感じます。
今年もまだまだ地方の展覧会に気軽に行けるような雰囲気でもなく、仕事の忙しさもあって、観に行けなかった展覧会も多く、ギャラリーの個展を含めても100も回れていないようですが、今年も記憶に残るような素晴らしい展覧会に出会えました。
というわけで、2021年のベスト10はこんな感じになりました。
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1位 『忘れられた江戸絵画史の本流 -江戸狩野派の250年-』(静岡県立美術館)
2018年の『幕末狩野派展』に続いて江戸狩野派を取り上げた渾身の企画展。これまで顧みられることのなかった江戸狩野派の奥絵師・表絵師にスポットを当て、優れた絵師を発掘するというのではなく、技量や作品の良し悪しに関係なく江戸狩野派の体制や家格、各家の展開により歴史を振り返り、江戸狩野派の本質を捉えようという画期的な内容でした。江戸狩野派を切り拓いた探幽ら三兄弟の作品はほぼなく、名前も聞いたことない絵師はバンバン登場するし、どうしようもない絵もあって(もちろん素晴らしい絵もある)、江戸狩野派はつまらないと言われる理由もよく分かるし、一方で江戸狩野派って面白いじゃんという気分にもなりました。
2位 『電線絵画展 -小林清親から山口晃まで-』(練馬区立美術館)
新時代のシンボルとして描かれた電信柱が違和感なく都市景観に溶け込み、やがて柱華道に行き着く。“電線愛”の延長線上の展覧会かと思いきや、清親や由一、劉生、さらに震災や戦争画、そして山口晃まで、電線を切り口に近代の風景を読み解く、真面目かつ充実した展覧会でした。江戸時代に電線絵画があったということに驚きましたし、同じ風景でも電線を描く巴水と描かない吉田博や、マニアックな電線愛が話題になった朝井閑右衛門など、いろいろ発見もあり興味が尽きませんでした。電柱の碍子がまるで工芸品のように展示されてるのも面白かったです。
3位 『GENKYO 横尾忠則 [原郷から幻境へ、そして現況は?]』(東京都現代美術館)
初期のグラフィックワークから近年の新作の寒山拾得まで、500点以上の作品で活動を振り返る大規模回顧展。横尾忠則というと、私がアートに興味を持ち始めた頃からリアルタイムで活躍されている大物現代アーティストですし、メディアにもたびたび登場し、その活動はよく知っていましたが、こうして回顧的に作品を観るのは初めて。ボリュームも凄いが内容も濃く、どの作品もエネルギッシュで、ただただ圧倒されっぱなし。個人的には一連のY字路の作品に強く惹かれました。タマへのレクイエムは涙ものでした。
4位 『フランシス・ベーコン バリー・ジュール・コレクションによる』(渋谷区立松濤美術館)
ベーコンの死後発見され、「ドローイングは描かない」と語っていたベーコンの生前の言葉を覆すものとして真贋論争まで起きたベーコンの制作過程の深部に迫る極めて重要かつ刺激的な展覧会でした。ドローイングといってもベーコンはベーコンで、特にコラージュや写真に絵具やパステルで線や色を加えた作品群は完成された油彩画とはまた別の面白さがありました。ベーコンが全て破棄したといわれていた1930年代の貴重な油彩画は、彼にとって捨て去りたい過去だったのかもしれませんが、ベーコンがキュビズムやシュルレアリスムに傾倒していたことが分かり、後の作品を考えるととても興味深かったです。
5位 『柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年』(東京国立近代美術館)
最初は“民藝名品展”みたいな内容なのかなと思っていましたが、柳宗悦の足跡に留まらず、民藝の成り立ちにおけるアーツアンドクラフツ運動の影響や民俗学との関係、地方や東洋美術への関心など体系的にまとまっていて、民藝を多角的に検証していくという想像以上の展覧会でした。「民藝と戦争」など考えさせられるトピックもあり、“民藝名品展”みたいな軽いノリ(笑)で観に行ってしまったのでガツンと来ましたし、やはり近代美術館で取り上げるだけの内容だなと深く感心しました。
6位 『あやしい絵展』(東京国立近代美術館)
生き人形や血みどろ絵からラファエル前派、デロリなど、耽美系、退廃系、神秘系、魔性系、狂気系、エログロ系と一口にあやしいと言っても様々。時代、背景、題材、いろいろない交ぜですが、近代絵画の一つの傾向としてこうした絵が描かれてきたことは興味深いものがありました。これいる?みたいな絵も中にはありましたが、総じて面白く、個人的には橘小夢や秦テルヲ、甲斐庄楠音など大正デカダンスが充実してて良かったし、セレクトしてくれたことが嬉しかったです。こうした一見卑俗な作品の展覧会を国立の美術館で開催したというのもなかなかユニークだったと思います。
7位 『曽我蕭白 奇想ここに極まれり』(愛知県美術館)
2012年の『蕭白ショック‼︎』(千葉市美術館)以来の大規模な蕭白展。アクの強い30代から円熟の晩年まで作品が充実していて、とても素晴らしい内容でした。『蕭白ショック』と蕭白を大きく取り上げた同年の『ボストン美術館展』を観てるので、あの時のような衝撃こそありませんでしたが、やはり蕭白は何度観ても強烈ですし圧倒されますし、お腹いっぱいになります(笑)。『蕭白ショック』では展示が前後期で分けられた旧永島家襖絵が全44面一度に観られたのも有り難かったですし、海外から最晩年の傑作「石橋図」が来たのも嬉しかったです。奇矯さばかり取り上げられがちな蕭白ですが、こうしてあらためて観てみると、徹底した基礎と優れた技巧の上に成り立ってることがよく分かるし、大胆な筆致の一方で釣り糸一本手を抜かないところが凄い。会場はゆったりした展示で、東京の展覧会のように混雑を気にすることなくじっくり観られたのも良かったです。
8位 『福田美蘭展 千葉市美コレクション遊覧』(千葉市美術館)
千葉市美術館の所蔵作品を題材に取り組んだ現代美術家・福田美蘭の新作展。浮世絵をはじめ、蕭白や若冲といった江戸絵画や雪舟の作品などを現代的に読み解いたり、新型コロナウイルスや東京オリンピックといった時事問題をユーモアや皮肉を交えてアップデートしたり、その意外性がとても面白かったです。千葉市美術館の所蔵作品と比べて観ることができたり、謎解きみたいな隠し絵があったり、いろんな見方を提案してくれていて、飽きることなく楽しめました。
9位 『阪本トクロウ デイリーライブス』(武蔵野市立吉祥寺美術館)
日常の風景だけど生活感がない。静謐だけど街の音が微かに聴こえる。シンプルというよりミニマル。落ち着いた色のトーンの心地よさ。余白さえ美しい…。こじんまりした美術館での30点弱の展覧会でしたが、まとまって作品を観ることができ、一目でファンになりました。わたし的には今年の大発見なのですが、なんでこんなに好みの絵を描く現代美術家を今まで知らなかったんだろうと深く反省しました。この展覧会のあと、ギャラリーやデパート展なども追っかけていて、今年イチお気に入りの作家さんです。
10位 『重要文化財指定記念特別展 鈴木其一・夏秋渓流図屏風』(根津美術館)
「夏秋渓流図屏風」の重文記念の鈴木其一展かと思いきや、「夏秋渓流図屏風」の誕生の秘密を琳派だけでなく狩野派や応挙などの学習も踏まえ探るという其一ファン、琳派ファンの興味を掻き立てる素晴らしい展覧会でした。酒井抱一の「青楓朱楓図屏風」や円山応挙の「保津川図屏風」との関連はファンなら知ることですが、それを1つの空間で実際に並べて見比べられるという贅沢さ。「夏秋渓流図屏風」を前に立ち、左に向けば山本素軒、右に向けば応挙、後ろを振り返れば抱一と、会場をぐるり見渡すだけで其一がどのような作品を参考にして「夏秋渓流図屏風」を描いたのかが良く分かり、とても興奮しました。
惜しくも選外となりましたが、今年特に印象に残った展覧会としては、近年再評価され待望の回顧展となった『渡辺省亭展』(東京藝術大学大学美術館)、同じく近年「國之楯」が注目を浴び、その知られざる全貌が明らかになった『小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌』(東京ステーションギャラリー)、描き手の筆づかいに着目し肉筆の優品を集めた『筆魂 線の引力・色の魔力』(すみだ北斎美術館)、青木繁の代表作「海の幸」からインスピレーションを得て、日本の歴史や文化などの変遷を形象化した『M式「海の幸」 森村泰昌 ワタシガタリの神話』がありました。
このほかでも、京都の福田美術館と嵯峨嵐山文華館の2館で開催された『木島櫻谷 究めて魅せた「おうこくさん」』や、こちらも同時期の2館開催となった『複製芸術家 小村雪岱 ~装幀と挿絵に見る二つの精華』(日比谷図書文化部ミュージアム)と『小村雪岱スタイル -江戸の粋から東京モダンへ』(三井記念美術館)のように共同開催や連携企画の展覧会では多くの作品に触れることができ、非常に充実した鑑賞体験を味わうことができました。
雪岱の他にも明治大正の挿絵や装幀の展覧会を今年はいくつか観ることができ、『鏑木清方と鰭崎英朋 近代文学を彩る口絵』(太田記念美術館)や『杉浦非水 時代をひらくデザイン』(たばこと塩の博物館)も良かったと思います。京都では、竹内栖鳳に師事し、その後栖鳳と生活を共にし画業から身を引いた幻の画家『日本画家・六人部暉峰の世界』(向日市文化資料館)も非常に興味深い内容でした。
そのほかの展覧会では、『和田誠展』(東京オペラシティアートギャラリー)、『モンドリアン展』(SOMPO美術館)、『トライアローグ』(横浜美術館)、『コレクター福富太郎の眼』(東京ステーションギャラリー)、『ミネアポリス美術館展』(サントリー美術館)あたりが強く印象に残っています。『包む-日本の伝統パッケージ展』(目黒区美術館)のリバイバル展は10年に観た内容と大きく変わらなかったので選外にしました。
来年こそはと願いたいところですが、まだしばらく新型コロナウイルスの影響が残りそうですし、気が抜けない日々が続くのだろうなと思います。これ以上状況が悪化しないことを祈るばかりです。来年は今年にまして大型の展覧会も予定されているようなので、去年と同じ言葉の繰り返しになりますが、1日も早く新型コロナウイルスが収束し、安心して美術館・博物館に行ける日が来るといいですね。
今年も一年お付き合いいただきありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。
【参考】
2020年 展覧会ベスト10
2019年 展覧会ベスト10
2018年 展覧会ベスト10
2017年 展覧会ベスト10
2016年 展覧会ベスト10
2015年 展覧会ベスト10
2014年 展覧会ベスト10
2013年 展覧会ベスト10
2012年 展覧会ベスト10