2019/02/02

岡上淑子 沈黙の奇蹟

東京都庭園美術館で開催中の『岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟』に行ってきました。

昨年、高知県立美術館で大々的な回顧展が開かれたとき、すごく観に行きたかったものの、さすがに高知までは行けず涙を呑んだのですが、今度は東京で回顧展が開かれるとあり、早速拝見してきました。

かれこれ10年ぐらい前でしょうか、東京都写真美術館の展覧会(調べたら『シュルレアリスムと写真』という企画展でした)で初めて岡上淑子のことを知り、幻想的でエレガントでどこか退廃的な作品の虜になりました。最近は日本美術中心に観てますが、もともとアートの入り口はシュルレアリスムだったので、この手の作品は大変好みなのです。

本展は、高知県立美術館の『岡上淑子コラージュ展-はるかな旅』とはまた別の企画だそうで、岡上淑子作品を多く所有する高知県立美術館のコレクションをはじめ、東京国立近代美術館や東京都写真美術館、アメリカのヒューストン美術館など国内外の所蔵作品、作家蔵の作品など、コラージュ作品93点、写真作品17点、そのほか日本画作品や資料、瀧口修造の書簡など、とても充実した内容になっています。岡上淑子のフォトコラージュ作品は約100点といわれているので、ほとんどの作品が出品されているようです。

岡上淑子 「幻想」
1954年 個人蔵

岡上淑子(おかのうえ としこ)は1950年代に活躍したフォトコラージュ作家。『LIFE』など海外のグラフ誌や『VOGUE』や『Harper's BAZAAR』といったファッション誌をハサミで切り抜いて貼り合わせたフォトコラージュ作品で注目を集めますが、活動したのは20代のわずか7年間だけで、結婚を機に創作活動から遠ざかります。正式な美術教育を受けたわけでなく、文化学院デザイン科の授業の課題で出された「ちぎり絵」から独特の世界観を持ったフォトコラージュが生まれたということに驚きます。

入口を入ってすぐの広間に展示されていたのが「幻想」。豪華な屋敷の室内に立ちすくんだ3頭の馬と床に寝そべった馬の頭をした女性。このシュールで洗練された不思議な世界に目を奪われるというか、旧朝香宮邸のクラシカルな空間も相まって、岡上淑子の魅惑的な夢物語の舞台に迷い込んだような気分になります。

作品と並んで、岡上淑子のイメージの源泉となったクリスチャン・ディオールやバレンシアガのイヴニングドレスやカクテルドレスなども展示されていて、岡上淑子的な世界観を演出しています。

岡上淑子 「沈黙の奇蹟」
1952年 東京都写真美術館蔵

本館はマチネ、新館はソワレというタイトルが付けられているのも面白い。本館は代表的なフォトコラージュ作品とともに、初期の作品や詩篇、フォトコラージュ以降の写真作品やドローイング、日本画のほか、瀧口修造にまつわる関連資料やマックス・エルンストのコラージュ作品、岡上淑子が使った雑誌のなどが展示されていて、新館は4幕仕立ての舞台に見立て、作品の傾向に沿ったテーマで分類されて展示されています。

岡上淑子 「招待」
1955年 高知県立美術館蔵

岡上淑子は溢れるように湧いてくる空想や夢やストーリーを何か形にしようとしてフォトコラージュに辿り着いたといいますが、こうしたコラージュ作品が生まれた背景として、戦後の復興期の特に女性の洋装化や欧米の最先端のモードへの強い興味、上流階級の生活やヨーロッパ文化への憧憬といったものがあっただろうことは作品の端々から見えてきます。新館に展示されていた作品には、焼け野原になった街と風景にそぐわない女性が貼り合わされた作品や、戦闘機や戦艦など戦争をイメージさせるものが貼られた作品もあり、岡上淑子の戦争体験が大きく影響していることも分かります。

岡上淑子 「予感」
1953年 高知県立美術館蔵

岡上淑子 「懺悔室の展望」
1952年 ヒューストン美術館蔵

初期の作品は単色の羅紗紙に雑誌から切り取った写真を無造作に貼り付けた比較的シンプルなものでした。 基本的にモノクロームの作品で占められているのですが、マレーネ・ディートリッヒのような女性と赤いトマトが貼り合わされた「トマト」のようにカラーの写真を使ったものもあったりします。全面に写真が貼り合わされ、よりストーリー性があったり、幻想性が強調されるようになるのは、瀧口修造を介して知ったシュルレアリスムの画家マックス・エルンストのコラージュ作品に感化されて以降のこと。制作初期は自身をシュルレアリスム作家という意識がなかったというのが興味深いところです。

岡上淑子 「はるかな旅」
1953年 高知県立美術館蔵

2000年代に入り、長く忘れられていたフォトコラージュ作品が発掘され、こうして再評価されたわけですが、いま観ても斬新だし、50年代のテイストが逆に際立ち、強い魅力を放っている気がします。女性がメインの作品も多く、とてもファッショナブルでエレガントで良い意味でクラシカルで、超現実的でありながらも、どこか女性の空想や願望がイメージ化されたようなところが広く共感を生んでいるのかもしれません。

岡上淑子 「彷徨」
1955年 個人蔵


【岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟】
2019年4月7日まで
東京庭園美術館にて


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