2018/05/27

琳派 -俵屋宗達から田中一光へ-

山種美術館で開催中の特別展『琳派 -俵屋宗達から田中一光へ-』を観てまいりました。
(※展示会場内の写真は特別に主催者の許可を得て撮影したものです)

あちらこちらで琳派400年の展覧会が開催された2015年から早いもので3年。琳派の展覧会も落ち着いた感がありますが、そろそろ琳派の良さげな展覧会がまたあるといいなと思っていたところでした。先月は根津美術館で『光琳と乾山』があり、つづいての琳派の展覧会。琳派熱がまたふつふつと湧いてきます。

山種美術館の琳派の展覧会としては、こちらも2015年の『琳派400年記念 琳派と秋の彩り』以来3年ぶり。2015年は琳派400年であると同時に尾形光琳の300年忌だったのですが、今年は光琳に私淑し江戸琳派を盛り上げた酒井抱一の没後190年、そして鈴木其一の没後160年でもあるんだそうです。

今回の内容は、俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一と花開いた琳派が、近代・現代の日本画家やデザイナーにどう受け継がれたのか、その伝統を紐解いてみるというもの。東博の『名作誕生 つながる日本美術』ではありませんが、まさに“つながる”にポイントをおいた構成になっていました。 


第1章 琳派の流れ

会場に入ってすぐのところにあるのが、今回のチラシにも使われているグラフィックデザイナー・田中一光の「JAPAN」のポスター。宗達が「平家納経」の願文見返しに描いた鹿をアレンジした琳派リスペクトな作品ですね。

俵屋宗達(絵)、本阿弥光悦(書) 「鹿下絵新古今集和歌巻断簡」
17世紀・江戸時代 山種美術館蔵

当の「平家納経」は出てませんが、田中親美による模本があって、そのとなりには宗達=光悦コンビの「鹿下絵新古今集和歌巻(断簡)」が並びます。“鹿”のモチーフのつながりが分かりやすいし面白い。「鹿下絵新古今集和歌巻」はもとは約22メートルという長大な巻物だったそうですが、戦後分断され、山種美術館の所蔵品はその巻頭にあたるもの。光悦ののびやかな筆で西行の和歌が散らし書きれています。

俵屋宗達(絵)、本阿弥光悦(書) 「四季草花下絵和歌短冊帖」
17世紀・江戸時代 山種美術館蔵

つづいてこちらも宗達=光悦コンビの「四季草花下絵和歌短冊帖」。現在は画帖になっていますが、もとは屏風に短冊が貼られていたものとか。銀泥が変色してしるものの、さまざまに装飾された料紙は今観てもとても華やか。躑躅や萩、夕顔など季節々々のモチーフが描かれた短冊に新古今和歌集の和歌が書写されています。

[左から] 酒井抱一 「秋草図」「菊小禽図」「飛雪白鷺図」
19世紀・江戸時代 山種美術館蔵(※「秋草図」のみ展示は6/3まで)

山種美術館は江戸絵画や近・現代の日本画コレクションで知られていますが、そのきっかけは創立者・山崎種二が酒井抱一の絵を見たことにはじまるといいます。それもあってか、琳派は充実していて、抱一、其一も優品がずらり。抱一はやはり季節を感じる優美で瀟洒な花鳥画が絶品。「菊小禽図」と「飛雪白鷺図」はもとは十二ヶ月花鳥図でそれぞれ9月と11月にあたるものとか。「菊小禽図」にはたらしこみが用いられていたり、「飛雪白鷺図」には胡粉を散らし雪を表現していたり、描き方がとても丁寧。

[左から] 酒井抱一 「宇津の山図」「月梅図」
19世紀・江戸時代 山種美術館蔵

「月梅図」は月に外隈を施していて、よく見ると墨ではなく金泥をはき、ぼんやりとした月明かりを演出しています。「宇津の山図」は『伊勢物語』の第九段東下りの場面。東博の『名作誕生』でも取り上げられていましたが、宗達以来、琳派が継承していった主題のひとつですね。

其一は濃厚な色彩が美しい「牡丹図」や「四季花鳥図」といった其一らしさを感じる作品に目が行きますが、其一には珍しい神話を題材にした「神功皇后・武内宿禰図」(展示は6/3まで)も装束や武具の描写がこれまた細かく、良質の絵具を使っているとかで色もきれい。抱一の人物画を継承したというより、もう一歩踏み込んで近代日本画の歴史画を思わせます。

伝・俵屋宗達 「槇楓図」
17世紀・江戸時代 山種美術館蔵

(※会場ではこの写真のみ撮影可です)

「槇楓図」も琳派で継承された画題。藝大にある光琳の「槇楓図」はこれを模写したといわれています。現在は一隻のみですが、もう片隻があって一双になっていたんじゃないかという話もあります。光琳の「槇楓図」も一隻なので、光琳が観たときには既になかったんでしょうか。宗達では「鳥図」も印象的。鳥(鴉)の輪郭線が塗り残しなのかと思ったら薄墨を引いてるんですね。爪も薄墨で表現。宗達の「狗子図」を思い出しました。

光琳は「白楽天図」が見もの。同構図の屏風が根津美術館にあって、先日『光琳と乾山』で観たばかりですが、根津美術館所蔵のものより若干小さいかな?という印象。本展に展示されている「白楽天図」(個人蔵)は緑の土坡や金雲(?)の色合いが濃く、波もいくつもの色でコントラストを強調しているのに対し、根津のものは少し褪色しているのか、トーンが抑え目です。

酒井鶯浦 「紅白蓮・白藤・夕もみぢ図」
19世紀・江戸時代 山種美術館蔵

鶯浦は抱一の弟子で、後に養子となり、其一より12歳も年下にもかかわらず抱一の正式な後継者となった絵師。「紅白蓮・白藤・夕もみぢ図」は本阿弥光甫(光悦の孫)の「藤・蓮・楓」の三幅対を忠実に再現したもの。抱一も全く同じ作品を残していますが、抱一は絵の外に落款を入れてるのに対し、鶯浦は絵の中に紛れて隠し落款風に光甫の印章まで書き写しています。

明治に入り衰退した琳派をモダンデザインとして生き返らせたのが神坂雪佳。図案家のイメージも強いけど、日本画家としても優れた人だと思っていて、ちゃんと観たいんですが、なかなか機会がないんですよね。「蓬莱山・竹梅図」なんてすごくいい。雪佳の図案を集めた作品集『百々世草』も展示されていました。


第2章 琳派のまなざし

つづいては近代・現代日本画と琳派の“つながり”を展観。<構図の継承>、<モティーフと図様の継承>、<トリミング>、<装飾性とデザイン性>の4つのテーマに分け、作品が紹介されています。

速水御舟 「翠苔緑芝」
昭和3年(1928) 山種美術館蔵

御舟の「翠苔緑芝」は金地に緑の土坡がいかにも琳派的なのですが、猫やら兎やら枇杷やら紫陽花やら琳派の作品ではあまり見かけない(宗達には兎を描いた作品がありますが)モチーフがユニーク。習学時代から琳派を意識していたという御舟の琳派研究の成果ともいえる傑作です。胡粉に卵白を交ぜたり、重層を交ぜたり、火で炙ったり、いろいろ試行錯誤して作り上げたといわれる紫陽花の萼(ガク)の独特の色合いも見どころ。

[左から] 小林古径 「夜鴨」 昭和4年(1929)頃 山種美術館蔵
速水御舟 「錦木」 大正2年(1913) 山種美術館蔵

同じく御舟の「錦木」は薄の描写が琳派の意匠を思わせます。解説を見て気づいたのですが、たらし込みを使ってるんですね。古径の「夜鴨」は光琳の「飛鶴図」を参照しているそうで、となりには光琳作のパネルがありました。

山元春挙 「春秋草花」
大正10~12年(1921-23)頃 山種美術館蔵

近代京都画壇でも好きな画家の一人、春挙の「春秋草花」もいいですね。春挙というと円山四条派の流れを汲んだ水墨画、写生的な風景画の印象が強いのですが、こうした琳派的な作品も残しているんですね。菜の花にはモンシロチョウが、薄には鈴虫が描かれ風情を添えてます。

ここでは春草の「月四題」が嬉しい全幅展示。一幅、二幅で出品されることはときどきありますが、全て揃うのは久しぶりなのでは。春は桜、夏は柳、秋は葡萄、冬は梅の老木。月と四季の草木の組み合わせは抱一を意識してるのでしょうか。

菱田春草 「月四題」
明治42~43年(1909-10)頃 山種美術館蔵

現代の琳派といえば加山又造。なんといっても、散りばめられた金銀箔や切箔、季節の草花を描いた扇面などさまざまに装飾を施した「華扇屏風」のゴージャスさに目を奪われます。美術館の入り口に飾られている「濤と鶴」の小下絵も展示されてました。


第3章 20世紀の琳派・田中一光

そして、琳派の意匠を意識的に視覚表現に取り入れたのが昭和を代表するグラフィック・デザイナー、田中一光。光琳の「紅白梅図屏風」の流水を彷彿とさせる「Toru Takemitsu:Music Today 1973-92」や、光琳、抱一と継承された燕子花をデザイン化した「グラフィックアート植物園#1」、宗達の「波濤図」を取り入れた「武満徹-響きの海へ」など琳派ファンならピンとくるデザインの数々。とりわけ平安王朝の料紙装飾の傑作「本願寺本三十六人家集」をモチーフにした「人間と文字:日本」がとても良かったです。古典的なのに全く古さを感じない。お見事。



もちろん1階の≪Cafe 椿≫では、青山の老舗菓匠「菊家」による琳派をイメージした特製和菓子が今回も用意されています。見た目の美しさだけでなく、柚子あんだったり、胡麻入りあんだったり、黒糖風味あんだったり、素材や味にもこだわりが。これは寄らずにいられませんね。



【琳派 -俵屋宗達から田中一光へ-】
2018年7月8日(日)まで
山種美術館にて


田中一光とデザインの前後左右田中一光とデザインの前後左右

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