2017/08/20

祈りのかたち

出光美術館で開催中の『祈りのかたち 仏教美術入門』を観てまいりました。

最近のトレンドなのか、いろんな美術館で、美術ビギナー向けの展覧会をやっていますが、出光美術館でも所蔵する仏画や仏像を中心に、仏教美術のイロハを紹介する展覧会を開催しています。

日本美術はとりわけ中世までは仏教に関係したものがほとんど。仏画にしても仏像にしても、その種類や造形、それこそ手の形や持ち物に至るまで、さまざまな意味や決まりがあり、理解しようとすると仏教の歴史や時代背景なども密接に絡んできて、美術ビギナーにはなかなか敷居の高いところがあるのではないでしょうか。

そんな本展は、古くはガンダーラの石像や中国の金銅仏にはじまり、密教や弥勒・普賢信仰、浄土教、禅宗などの仏教美術の優品が並び、とても充実。解説も丁寧で分かりやすく、自分もいろいろ勉強になることが多くありました。


第1章 仏像・経典・仏具-かたちと技法

仏像が最初に造られたのは1~2世紀のガンダーラ(もしくはマトゥラーとも)が最初といわれますが、展示されていたガンダーラの石像は2~3世紀のもの。どこかギリシャ彫刻の名残を感じます。中国・西晋時代(3~4世紀)の神亭壺には動物や楼閣などの文様とともに早くも坐像の仏様が施されていました。

中国の金銅仏では東晋時代の「金銅仏三尊眷属像」が見事。如来と左右脇侍の菩薩、さらには光背には化仏まで施され、ずいぶん手の込んだ造りです。法隆寺の国宝「阿弥陀三尊像(伝橘夫人念持仏)」に彷彿とさせます。日本のものでは白鳳仏「金銅聖観音菩薩立像」があって、白鳳仏らしい大陸様の造形の中にも両手で水瓶を持つ姿が珍しい。

「絵因果経」(重要文化財)
奈良時代 出光美術館蔵

仏画では、まずは奈良時代の「絵因果経」。「絵因果経」は過去現在因果経に絵をつけたもので、奈良時代の絵画を知る上でもとても貴重な遺品。素朴な画風も面白い。「扇面法華経冊子断簡」は扇面に法華経の経文と一緒に宮廷風俗を描いた装飾経。東博や四天王寺、藤田美術館にある「扇面法華経冊子」と同じ四天王寺伝来のものといいます。平安時代の大和絵作品としてこれも大変貴重です。

静嘉堂文庫美術館の『よみがえる仏の美』でも観た「百万塔および百万塔陀羅尼」が出光美術館にもあるんですね。制作年も同じなので、出どころは一緒なのでしょう。現存する世界最古の印刷物の可能性もあるとされています。

伝・土佐光信の「十六羅漢図」は16福の内8幅が展示されていましたが、中国・南宋時代の十六羅漢図の写しとのこと。土佐派の仏画はそんなに観ないので、興味深いものがあります。

仙厓は最後の章でまとまって出てきますが、ここにも少しあって、面白かったのが「釈迦三尊十六羅漢図」。仙厓にしては珍しく、真面目に描いたものなのか、初期のものなのか、あまり見ないタイプの作品です。一方で「大黒天画賛」や「七福神画賛」のようにゆるい作品も。


第2章 神秘なる修法の世界-密教の美術

鎌倉時代にもなると迫真的な表現が強まり、「大威徳明王図」にしても「愛染明王図」にしても恐ろしい形相をしていますが、その中で藤原信実筆と伝わる「五髻文殊菩薩図」は少年のような美しい文殊菩薩が印象的。藤原信実というと「北野天神縁起絵巻」の作者ともされる人。信実の筆かどうかは明らかでありませんが、確かに優れた絵師の手によるものだということは分かります。

「真言八祖行状図 (瀧智)」(重要文化財)
平安 ・保延2年(1136) 出光美術館蔵

「真言八祖行状図」(8幅)は去年の『美の祝典Ⅰ-やまと絵の四季』で修復後初公開として話題になった仏画。明治に廃仏毀釈により廃寺になった奈良の密教寺院・内山永久寺の真言堂の障子絵だったとされ、本展では真言堂での実際の配置を再現したという並び方がされています。人物や王朝風の建物とともに桜や紅葉、松、柳、草花などが描かれ、よくよく見ると、祖師図というより春や秋の情景を描いた和様の山水画にも思えます。


第3章 多様なる祈り-弥勒・普賢信仰の美術

平安時代から鎌倉時代に掛けて、末法思想を背景に篤い信仰を集めた弥勒菩薩、女性も守り導くことから貴族の女性の間で広く信仰されたという普賢菩薩を中心に紹介。「普賢菩薩騎象図」が2幅あったのですが、白象に普賢菩薩が乗った典型的な作例で、内一つは放射状の後光が描かれ、女性的な穏やかな表情が印象的でした。

「普賢菩薩騎象図」
鎌倉時代 出光美術館蔵


第4章 極楽往生の希求-浄土教の美術

今年は源信1000年忌ということもあり、いくつかの展覧会で地獄絵を特集していますが、ここでも源信の 『往生要集』の強い影響下で制作された作品が紹介されています。

「十王地獄図」は十王と本地仏、さらに地獄の様子を描いた双幅の地獄絵。各幅に5体ずつ十王が描かれ、それぞれ上部に忌日を記し、人は死後その忌日ごとに十王の裁きを受けなければならないことが絵画化されています。各幅の間には、地獄に落ちた者に救いの手を差し伸べる「地蔵菩薩立像」を配置していて、極楽浄土を求め、地蔵菩薩にすがったいにしえの人々の信仰に思いを馳せます。

「六道・十王図」はその名のとおり六道や十王を描いた6幅対の作品。さまざまな責め苦など地獄の恐ろしい様子が鮮やかな色彩で克明に描かれています。ただ恐ろしいだけでなく、阿弥陀来迎を描くなど救済の道も示しているのが興味深い。

「六道・十王図(閻魔王図)」
室町時代 出光美術館蔵

「当麻曼荼羅図」は當麻寺の「綴織当麻曼荼羅図」の約1/4の縮小版。阿弥陀如来の極楽浄土の様子がびっしりと描き込まれています。すごい人口密度。

ほかにも阿弥陀来迎図がいくつか展示されていたのですが、解説に鎌倉時代以降は来迎にも迅速性と早急性が求められるようになったありました。根津美術館の『高麗仏画展』で疑問に思ったことに、高麗仏画の来迎図は立ったまま“待っている”というイメージなのに対し、日本の来迎図は動的で“迎えに来る”という構図なのはなぜかということがあったのですが、日本の来迎図にはそういう背景があったということなのでしょうか。

「当麻曼荼羅図」
鎌倉時代末期~南北朝時代 出光美術館蔵


第5章 峻厳なる悟りへの道-禅宗の美術

禅宗美術は一休宗純ゆかりの住吉・床菜庵伝来の作品と、白隠・仙厓の禅画で構成。一休宗純関連のものは墨蹟や賛を入れた祖師像が中心で、以前『水墨画にあそぶ』という本で読んだ泉州時代の一休のことを思い出しながら観ていました。

仙厓は出光ではたびたび観ますし、去年は『大仙厓展』があったばかりなので、もっと他の絵師なり、仏画なりを見せてくれれば良かったのにと思わなくもありませんでしたが、ずらーっと仙厓が並んでます。まぁ、仙厓好きだからいいんですけど。

仙厓 「○△□」
江戸時代 出光美術館蔵

それにしても出光美術館の所蔵品だけでこれだけ厚みのある展覧会ができるのだから凄いですよね。見応えがありました。


【祈りのかたち 仏教美術入門】
2017年9月3日(日)まで
出光美術館にて


すぐわかる日本の仏教美術―彫刻・絵画・工芸・建築 仏教史に沿って解きあかす、美の秘密すぐわかる日本の仏教美術―彫刻・絵画・工芸・建築 仏教史に沿って解きあかす、美の秘密

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