アルチンボルドというと、人間の顔を花や野菜などで象った風変わりな絵を描く画家として知られます。過去に『だまし絵展』などで作品が来日したことはありますが、アルチンボルドをメインにした展覧会は日本初とか。
アルチンボルドが活躍したのは16世紀後半。ルネサンスが終焉を迎え、バロックへ移る時代の画家。アルチンボルドはちょっとマニアックだし、ツウ好みの画家というイメージがあったのですが、一度観たら忘れない作品のインパクトもあってか、開幕最初の週から結構にぎわっているようです。
奇想の画家の代表格という感じのアルチンボルドですが、意外なことに、ハプスブルク家の宮廷画家として3代に渡って仕えただけでなく、宮廷のアートディレクターとして祝祭行事の企画や演出なども手掛けていたんですね。会場にはルドルフⅡ世のためにアルチンボルドがデザインした馬上試合のための衣装デザインなんかも展示されていました。
ハプスブルク家の宮廷画家というとベラスケスやゴヤが思い浮かびますし、ほぼ同時代ではデューラーやティツィアーノも縁が深いといいます。その中でアルチンボルドはかなり異色ですし、どうしてもハプスブルク家の宮廷画家というイメージと結び付かなかったのですが、今回の展覧会を観て、そういう今までバラバラだったものが一気に繋がった気がします。実は非常に写実性に優れ、とても知的な画家でした。
ジュゼッペ・アルチンボルド 「春」
1563年 王立サン・フェルナンド美術アカデミー美術館蔵
ジュゼッペ・アルチンボルド 「夏」 1572年 デンヴァー美術館蔵
1563年 王立サン・フェルナンド美術アカデミー美術館蔵
ジュゼッペ・アルチンボルド 「夏」 1572年 デンヴァー美術館蔵
ジュゼッペ・アルチンボルド 「秋」 1572年 デンヴァー美術館蔵
ジュゼッペ・アルチンボルド 「冬」 1563年 ウィーン美術史美術館絵画館蔵
ジュゼッペ・アルチンボルド 「冬」 1563年 ウィーン美術史美術館絵画館蔵
目玉の《春夏秋冬》シリーズと《四大元素》シリーズは全て一つの部屋にまとめて展示されています。アルチンボルドを代表する作品をグルグル回って観ることができるので、いろいろ比べたり、観直したりできてとても楽しいし、大変助かります。観る方としてはとても楽なのですが、そんなに広い空間でないので混んでくると大変かもしれないですね。
「春」は花、「夏」は野菜など夏の恵み、「秋」は果物など秋の恵み、「冬」は枯れ木だったり、「大地」は野生の動物、「火」は火にまつわるもの、「大気」は鳥、「水」は水の中に暮らす生物だったり、その発想の突飛さなどアルチンボルドのユニークさを存分に楽しめるのですが、実はユニークなだけの画家でないこともよく分かります。写真ではそこまで凄いと思わなかったのですが、実際に《春夏秋冬》や《四大元素》を観るとその写実性の高さ、精緻さに驚かされます。そしてさまざまなメタファー。非常に知的な遊びに満ちた絵であることも初めて知りました。
ジュゼッペ・アルチンボルド 「大地」
1566年(?) リヒテンシュタイン侯爵家コレクション蔵
ジュゼッペ・アルチンボルド(?) 「火」 個人蔵
1566年(?) リヒテンシュタイン侯爵家コレクション蔵
ジュゼッペ・アルチンボルド(?) 「火」 個人蔵
ジュゼッペ・アルチンボルド(?) 「大気」 個人蔵
ジュゼッペ・アルチンボルド 「水」 1566年 ウィーン美術史美術館絵画館蔵
ジュゼッペ・アルチンボルド 「水」 1566年 ウィーン美術史美術館絵画館蔵
もちろんアルチンボルドはこんな珍奇な肖像画ばかりを描いていたわけでなく、ちゃんとした肖像画も残しているのですが、数点展示されていた肖像画を観る限り、マニエリスムを感じるものもあって、非常に興味深い感じがしました。宮廷画家ということもあり、実際には宗教画なども描いていたといわれますが、残念ながら現存はしないとか。
初期博物学との繋がりや後の静物画への影響という切り口もなるほどと思います。時代的に大航海時代の影響もあって、たとえば《春夏秋冬》の「花」には遠くアフリカやアメリカ大陸の花も描かれているといいます。
そしてハプスブルク家のクンストカンマー(美術蒐集室)まで話は広がります。ハプスブルク家にはそれこそ古今東西の珍しいものや貴重なものが世界各地から運び込まれたのでしょうから、どんなお宝があったのかとても興味をそそります。ミュージアムの原型といわれるのもなるほどと思います。カナリア諸島から連れて来られたという多毛症の少年の絵があったのですが、見せ物的な好奇の対象でもあったでしょうし、当時の特権階級の持つ支配欲や優越感のようなものもあったのかなと思ったりしました。
ジュゼッペ・アルチンボルド 「庭師/野菜」 個人蔵
クレモナ市立美術館蔵
SNSでも話題の“アルチンボルド・メーカー”は会場入口にあります。すでに数十分の行列ができてるので、“アルチンボルド・メーカー”をやりたい人は時間に余裕を持った方がいいでしょう。特に閉館時間前は危険ですね。会期末なんて相当な行列ができるんじゃないかと思いますよ。
わたしの顔はこんな感じです(笑)
【アルチンボルド展】
2017年9月24日(日)まで
国立西洋美術館にて
奇想の宮廷画家 アルチンボルドの世界 (TJMOOK)
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