2016/07/15

観音の里の祈りとくらし展Ⅱ

東京藝術大学大学美術館で開催中の『観音の里の祈りとくらし展Ⅱ - びわ湖・長浜のホトケたち』の内覧会に行ってきました。

琵琶湖の東北部に位置する長浜の仏像を紹介する展覧会。2年前に同じ藝大美術館で開かれ好評だった『観音の里の祈りとくらし』の第2弾です。

前回は仏像18軀という割とこじんまりとした展覧会でしたが、今回は会場も広いし照明も明るい。出陳数も仏像41軀(一部前回展にも出品されていた仏像もあり)と大幅に増えています。内15軀は堂外初公開で、ほかに仏頭や懸仏、中世の古文書なども加わり、かなり充実した内容になってます。

滋賀県は国指定文化財の数が東京・京都・奈良に次いで多く、仏像も観音菩薩像、阿弥陀如来像、薬師如来像の指定件数はそれぞれ全国1位。県・市指定も含めると長浜だけで120を超える指定文化財の仏像(その約3割が観音像)があるといいます。前回もそうでしたが、これだけの仏像の優品が長浜という限られた地域に多く存在するということにあらためて驚きますし、もちろん地域の篤い信仰あってのことですが、“ホトケさま”を大切に守り伝える精神が今も深く根付いてることに感動します。

[写真右] 「十一面観音立像」(重要文化財)
平安時代 善隆寺蔵

会場はいくつかの章に分けられ、丁寧な解説とともに仏像が紹介されています。
第1章 己高山信仰とホトケたち
第2章 観音像と村人たち
第3章 信仰に彩られたホトケたち
第4章 竹生島とホトケたち
第5章 菅浦とホトケたち
第6章 中世とホトケたち
第7章 真宗王国への道

前回の展覧会では観音像のみ取り上げ、湖北・長浜の観音信仰にスポットがあてられていましたが、今回は広く長浜のホトケさまを紹介。さらに中世の村落共同体(惣村)や今も続く神事“オコナイ”、また山岳信仰や竹生島信仰などとも絡めた湖北特有の仏教文化を探っています。

「伝薬師如来立像」(重要文化財)
平安時代 充満寺蔵

長浜は畿内と北陸・東海を結ぶ交通の要所で、古くから仏教文化が栄えたといいます。近江国の鬼門とされる己高山には観音寺があり、また平安時代には比叡山(天台宗)の強い影響下にあったということで、十一面観音像や聖観音像、千手観音像が多く存在するのもそのあたりに理由があるようです。鎌倉時代に入ると浄土信仰の広まりから阿弥陀如来像が増えていくのですが、宗派・教義の枠を超えてホトケさまが大切に守られてきたのはこの土地の特色なのだとか。湖北地方は中世の惣村や近世の村方のような村落共同体の名残りが色濃く、村々でホトケさまを護持する慣習が今も残っているということも大きいようで、その点については前回展より掘り下げて解説されています

「十一面観音坐像」(長浜市指定文化財)
平安時代 岡本神社蔵

都に近いということもあり、都から仏像や仏師が流れてきやすかったこともあるでしょうし、技術が伝わりやすかったこともあるのでしょう。湖北地方には奈良時代末期から中世にかけて満遍なく作例が揃うといいます。工芸的にも精緻で、バランスもよく、洗練された都風の仏像が多くあるのが長浜の仏像の魅力でもあります。

充満寺の「伝薬師如来立像」は均整のとれた重量感のある体躯と整った相貌が美しい。両手は後補らしく阿弥陀様の来迎印を結んでます。岡本神社蔵の「十一面観音坐像」は定朝様のカヤ材の仏像。頭部の仏面がとても表情豊か。

「十一面観音立像」(重要文化財)
平安時代 医王寺蔵

「聖観音立像」(重要文化財)
平安時代 来現寺蔵

複数出陳されている十一面観音像の中の白眉は医王寺の「十一面観音立像」。すくっと立ったお姿も美しく、衣文も彫りも写実的で素晴らしい。写真を見るとゴージャスな宝冠を付けているのですが、展示では外されているようです。来現寺の「聖観音立像」はどこかオリエンタルな顔立ち。足を少し開いた立ち姿も特徴的。9世紀後半の古い仏像だそうです。

[写真右から] 「多聞天立像」「十一面観音立像」「持国天立像」
平安時代 石道寺蔵

これもかなり立派な多聞天と持国天。甲冑の表現が非常にリアルで重厚感があります。真ん中の「十一面観音像」はキュッとひねった腰のくびれが印象的。整ったお顔も美しい。

「金銅十一面観音不動毘沙門懸仏」
応安元年(1368) 長浜市長浜城歴史博物館蔵

そばに懸仏が展示されていたのですが、これがまた見事。中尊の十一面観音には装飾的な天蓋が施されていて、左右にはちょっとかわいい不動明王と毘沙門天。下部の波文や周囲の文様も含め非常に手が込んでいて、工芸的にも極めて優れた逸品です。

[写真左から] 「薬師如来立像」「十一面観音立像」「阿弥陀如来立像」
室町時代 浄光寺蔵

都風の洗練された仏像がある一方で、素朴で飾り気のない土俗的な仏像も多くあり、人々の暮らしと密接につながった信仰の深さを感じます。

浄光寺の「十一面観音立像」は眉や髭が墨で書きいれられ、愛嬌のある顔立ちでかわいいホトケさま。装飾品や衣の文様も極彩色で表されていて、頭部の化仏も何とも個性的。脇侍の薬師如来と阿弥陀如来もどこか朴訥とした魅力があります。

「弁才天坐像」
弘治3年(1557) 宝厳寺蔵

「弁才天坐像」は竹生島にある宝厳寺の仏像。頭には宇賀神と鳥居があります。去年のサントリー美術館の『水 - 神秘のかたち』を思い出しますね。

「伝千手観音立像」(重要文化財)
平安時代 観音寺蔵

会場の中でもひと際存在感を放っていたのが「伝千手観音立像(黒田観音)」。2mぐらいある立派なホトケさまで、肉厚で堂々としたお姿が印象的。表情はどちらかというと男性的で、大きな体で包み込むような安心感を感じさせます。広い背中も魅力的。平安時代前期の作とか。

「千手千足観音立像」
江戸時代 正妙寺蔵

「千手千足観音像」はかなり個性的なホトケさま。千の手と千の足を持つという異形の姿で、“千手”はともかく“千足”はまるでダンゴ虫のよう。あらゆる願いを受け止める千本の手に、さらにガードを固める千本の足。一目見たら忘れられないインパクトがあります。“千足”観音は全国でもこれだけだそうで、本展の一つの目玉といっていいかもしれません。

「愛染明王坐像」(重要文化財)
鎌倉時代 舎那院蔵

ほかにも、近年まで秘仏とされていたという「愛染明王坐像」や「大日如来坐像」、3点ある馬頭観音、また慶派仏師によるとされる仏像など、興味深い仏像が多くあります。

[写真右から]「 馬頭観音立像」 鎌倉時代 徳円寺蔵
「馬頭観音立像」 平安時代 横山神社蔵
「馬頭観音座像」 平安時代 長浜市西浅井町山門自治会蔵

[写真右]「大日如来坐像」(重要文化財)
平安時代 光信寺蔵

展示内容も充実していて、見どころも多く、近年の仏像展の中でも大変優れた展覧会だと思います。仏像との距離が近いのもまたいいですね。同美術館で同時開催している『平櫛田中コレクション展』も当日に限り鑑賞できます。

帰りには不忍池のそばにある“びわ湖長浜KANON HOUSE”にも寄られるといいと思いますよ。藝大美術館の展覧会の期間中、長浜・尊住院の「聖観音立像」が展示されています。比較的小さなホトケさまですが、大変美しいお姿をしています。こちらは入場無料です。


※『観音の里の祈りとくらし展Ⅱ』会場内の画像は特別に主催者の許可を得て撮影したものです。


【観音の里の祈りとくらし展Ⅱ - びわ湖・長浜のホトケたち】
2016年8月7日(日)まで
東京藝術大学大学美術館にて

びわ湖長浜KANON HOUSEの詳細はこちら


湖北の観音―信仰文化の底流をさぐる湖北の観音―信仰文化の底流をさぐる

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