2016/07/02

美の祝典 Ⅲ 江戸絵画の華やぎ

出光美術館で開催中の『美の祝典 Ⅲ -江戸絵画の華やぎ』を観てきました。

3回に分けて行われてきた出光美術館開館50周年記念展もいよいよ最後。今回のテーマは“江戸絵画”。活気に満ちあふれた町と人々の暮らし、鮮やかな色彩、美しい花鳥、江戸絵画らしい華やかな作品に溢れています。

*** *** ***

会場に入ると、まずはいかにも桃山時代の屏風らしい絢爛豪華な「祇園祭礼図屏風」。祇園祭を描いた屏風はいくつかありますが、これは現存最古、慶長初期のものといいます。手前に烏丸通、奥に寺町通が走り、左隻が内裏を中心に都の北側、右隻が祇園の町や都の南側という構成で、左隻には神輿御渡、右隻には山鉾巡礼が描かれているのも面白いところ。祭礼や風俗の描写も非常に丁寧で、確かな腕のある絵師による作品ということは素人目にも分かります。現在、狩野孝信の作ではないかという説があるようです。

「祇園祭礼図屏風」(重要文化財)
桃山時代 出光美術館蔵

つづいて浮世絵が3点。 ついこの前、『勝川春章と肉筆美人画』展があったばかりだからか、浮世絵は少なめ。その中で『勝川春章と肉筆美人画』にも出品されていた喜多川歌麿の「更衣美人図」が出ていました。これは肉筆浮世絵の名品として外せないのでしょう。印象的だったのは北斎の「春秋二美人図」で、右幅に春、左幅に秋の光景が描かれいて、単眼鏡がないと分かりづらいのですが、春の右幅には背景に菜の花畑と遠景に桜が描かれています。

葛飾北斎 「春秋二美人図」
江戸時代 出光美術館蔵

南蛮人の服装の文様がとても細やかでカラフルな「南蛮屏風」、左隻に二条城や北野天満宮、鞍馬寺、右隻に内裏や大仏殿、東寺、伏見城など名所図的な要素盛りだくさんの「洛中洛外図屏風」といった興味深い作品もあります。「南蛮屏風」は絵師のレベルの高さを感じますが、「洛中洛外図屏風」は建物がいびつで、人物もそんなにうまくなく、あまり高い技術のある絵師ではない感じがします。

面白かったのが「江戸名所図屏風」。右隻に浅草や上野に神田、元吉原、左隻に江戸城や日本橋に木挽町、芝増上寺と江戸の名所がぎっしり。どれだけの人が描かれてるんだろうかというぐらい江戸の庶民がびっしり描き込まれていて、これがまたすごく活気に満ちてます。人々の顔は少し大きめで目鼻立ちもはっきりとしていて少しデフォルメされています。それぞれの暮らしを感じさせる風俗描写も素晴らしく、観てて全然飽きません。

「江戸名所図屏風」(重要文化財)
江戸時代 出光美術館蔵

風俗画としては室町期の初期風俗画の成り立ちを考える上では貴重な「月次風俗画扇面」や、白描画のような細やかな線描と的確な人物描写が秀逸な「遊女歌舞伎図」と傑作揃い。軽妙洒脱で飄逸な描写が楽しい英一蝶の「四季日待図巻」もなかなか。ただ江戸狩野と呼べる作品は英一蝶(正確には狩野派を破門されてるが)しかなかったのは残念。

「伴大納言絵巻(下巻部分)」(国宝)
平安時代 出光美術館蔵

今回の展覧会の目玉である「伴大納言絵巻」は最後の下巻を展示。伴大納言が遂に検非違使に捕えられる場面が描かれています。詰問される舎人夫婦の様子や人々のひそひそ話、主が連行され泣き崩れる伴大納言の家人たち...。人々の表情もリアルで、まるで話す声や泣く声が聴こえてきそうです。

酒井抱一 「紅白梅図屏風」
江戸時代 出光美術館蔵

後半は琳派。光琳、抱一、其一とこちらも充実していますが、こちらで展示されている作品は全て数年前に開催された『琳派芸術』でも出ているので、ひと通り観ている人も多いかもしれません。いってみれば『琳派芸術』のダイジェストみたいな感じですね。

光琳は「禊図屏風」や「蹴鞠布袋図」など4点、宗達は晩年の傑作「伊勢物語図色紙」二幅をはじめ、宗達・下絵、光悦・書の「蓮下絵百人一首和歌巻断簡」が出品されています(最近、書は光悦ではないという説も出ていますが…)。

酒井抱一 「十二ヶ月花鳥図貼付屏風」
江戸時代 出光美術館蔵

中でも抱一は「風神雷神図屏風」、「八ッ橋図屏風」、「紅白梅図屏風」、「十二ヶ月花鳥図貼付屏風」と傑作揃い。抱一の代表作の筆頭に挙げられる作品をこれだけ持っているんですから、あらためて出光美術館の審美眼に驚きます。「風神雷神図屏風」と「八ッ橋図屏風」は何度か観ていますが、「紅白梅図屏風」は『琳派芸術』以来でしょうし、「十二ヶ月花鳥図屏風」は12幅全幅揃うことはあまりない気がするいので、この機会を逃す手はないですね。

其一は相変わらず高いデザインセンスで魅せる「四季花鳥図屏風」。現実の世界ではない、どこか人工的な美の世界という趣があって、これが江戸時代の作品かと思えば思うほど唸ってしまいます。其一では若描きという小品の「秋草図」も秋の草花がこれでもかと描かれていて美しい。

ほかにも尾形乾山の「色絵定家詠十二ヶ月和歌花鳥図角皿」や小川破笠の「春日野蒔絵硯箱」と「柏に木菟蒔絵料紙箱」など工芸品も展示されています。

鈴木其一 「四季花鳥図屏風」
江戸時代 出光美術館蔵

今回伺ったのが午後の早い時間ということもあったのか、これまで観た『美の祝典 Ⅰ やまと絵の四季』『美の祝典 Ⅱ 水墨の壮美』に比べ、お客さんの入りも良かったように思います。美術ファンの興味を引きそうな江戸絵画や琳派がテーマということもあるのかもしれません。出光美術館が誇る日本美術コレクションからのいいとこ取りなので、つまらないわけがありません。江戸絵画の優品に触れる絶好の機会だと思いますよ。


【開館50周年記念 美の祝典 Ⅲ -江戸絵画の華やぎ】
2016年7月18日(月・祝)


酒井抱一と江戸琳派の全貌酒井抱一と江戸琳派の全貌

出光美術館にて

0 件のコメント:

コメントを投稿