2016/06/11

黄金のアフガニスタン

東京国立博物館で開催中の『黄金のアフガニスタン -守りぬかれたシルクロードの秘宝-』を観てまいりました。

ソ連による軍事介入に始まるアフガニスタン紛争と長く続いた内戦、そしてタリバンの台頭とアメリカを中心にした連合軍との武力衝突…。バーミヤンの大仏がタリバンの手で爆破された映像はとてもショッキングでしたし、貴重な文化財が破壊されているというニュースを聞くたびにやるせないというか、やり場のない怒りをずっと感じていました。

そんな状況が続く中で、アフガニスタン国立博物館の館員の手で古代アフガニスタンの文化財が秘密裏に隠されていたことをご存知でしょうか? 本展は奇跡的に難を逃れた古代アフガニスタンの貴重な文化財を展観し、アフガニスタンの文化遺産の復興を支援しようと企画された展覧会。フランスのギメ国立東洋美術館を皮切りに、メトロポリタン美術館、大英博物館など、これまでにすでに世界10ヵ国を巡回してきています。


会場は4つの遺跡からの出土品を中心に構成されています:
第1章 テペ・フロール 先史時代(前2100年~前2000年頃)
第2章 アイ・ハヌム グレコ・バクトリア王国時代(前3世紀~前2世紀)
第3章 ティリヤ・テペ サカ・パルティア時代(前1世紀~1世紀)
第4章 ベグラム クシャーン朝時代(1~3世紀)
第5章 アフガニスタン流出文化財

メソポタミア文明とインダス文明の中継地として栄えたといわれるテペ・フロール、ギリシャ人国家として発展したグレコ・バクトリア王国、古代イランの遊牧民によるパルティア、そして中央アジアからインドにかけて広大な王国を築いたクシャーナ朝。いくつもの文明が栄え、西はギリシャやエジプト、ポンペイ、東は中国までさまざまな文化が交錯していたことが展示品を観ていると良く分かります。

「ヘラクレス立像」
前150年頃 アフガニスタン国立博物館蔵

恥ずかしながらアフガニスタンについてあまり知識がなかったのですが、古代アフガニスタンはギリシャ文化圏だったのですね。アフガニスタン=ギリシャ文化というイメージがなかったので、正直新鮮な驚きでした。ヘラクレスやゼウスの像、勝利の女神ニケといったギリシャ神話の英雄や神の姿、西方由来の文様をいろんなものに観ることができます。

「キュベーレ女神円盤」
前3世紀 アフガニスタン国立博物館蔵

「キュベーレ女神円盤」はギリシャのヘリオスとニケ、アナトリアのキュベーレ(キュベレー)、西アジア風の神官などさまざまな文化の象徴が描かれています。「キュベーレ女神円盤」だけでなく古代アフガニスタンのさまざまな美術品に共通することなのですが、いくつもの文化が融合するのではなく、混在しているというのが面白いですね。支配する民族や国が変わっても他所者の文化を排斥すのではなく受け入れている。

「牡羊像」
1世紀 アフガニスタン国立博物館蔵

ティリヤ・テペ遺跡は王族の墓が盗掘されずに手つかずの状態で発見されていて、埋葬された人が身につけていた装身具や副葬された愛用品なども多く展示されています。遺体のどこにどの装身具があったか、遺体を囲むような線と共に図解されていて、それがいい意味でリアルで、分かりやすく良かったです。非常に精巧に彫金された装身具や彫像など、当時の技術の高さに驚きます。ハート形の耳飾りなんて、恐らくシルフィウムを象ったものなのでしょうが、今あっても全然おかしくないデザインのものなんかもいっぱいあります。

「襟飾」
1世紀 アフガニスタン国立博物館蔵

メソポタミア文明の頃にはガラス製の器があったともいわれていますが、本展でも多くのガラス製のグラスや器があって、手の込んだ模様や色彩豊かな風俗画など、この時代からこんな鮮やかで、表現性の高い絵があったなんて、もう感動ものです。

「脚付彩絵杯」
1世紀 アフガニスタン国立博物館蔵

東京国立博物館の通り沿いにある東京藝術大学大学美術館では関連企画展として『素心 バーミヤン大仏天井壁画 ~流出文化財とともに』が開催されています。(トーハクの特別展は撮影NGですが、藝大美術館の方は撮影可能です)

「菩薩とクシャン人供養者」
2~4世紀 カピサにて出土

ここでは内戦の混乱の中、海外に流出し日本で保護されたアフガニスタンの文化財が展示されています(トーハクの展覧会でも一部展示)。主にバーミヤン石窟の仏座像の壁画片や仏陀像の頭部、誕生図、ガラス器など。



トーハクの会場に前3世紀のものとされるゼウス神像の左足が展示されているのですが、その足を基に藝大が同時代の彫刻やコインに刻まれたゼウスを調査し、復元した半身像も展示されています。頭と手を作らなかったのは想像の余地を残すためとか。

「アイハヌム・ゼウス像(想定復元)」
制作:東京藝術大学COI拠点・アートイノベーションセンター

2階の会場の天井には、タリバンによって破壊されたバーミヤン東大仏の天崖を飾っていた「天翔る太陽神」が原寸大で復元されていて、石窟内部を疑似体験できるようになっています。質感とか色彩とか、とても精巧。

「バーミヤン東大仏天井壁画 天翔る太陽神(想定復元)」
制作:東京藝術大学COI拠点・アートイノベーションセンター

会場の壁には石窟から眺めるバーミヤンの風景や逆方向から石窟を眺めた風景の映像が流され、こんな平和な風景が破壊されたのかと、亡くなった人々の命や失われた数々の文化財を思うと胸を抉られるような思いがします。



アフガニスタン国立博物館にはイスラム以前(7世紀以前)の文化財だけでも10万点あったのだそうですが、その内の7割は盗難にあったり破壊されたりしたといわれています。もうこれ以上、貴重な文化財が失われることなく、かつてのアフガニスタンのように穏やかで平和な日々が訪れることを祈るばかりです。


【黄金のアフガニスタン -守りぬかれたシルクロードの秘宝-】
2016年6月19日(日)まで
東京国立博物館・表慶館にて

【素心 バーミヤン大仏天井壁画 ~流出文化財とともに】
2016年6月19日(日)まで
東京藝術大学大学美術館・陳列館にて


月刊目の眼 2016年3月号 (戦禍をこえて 東と西をつなぐ古代美術 特別展「黄金のアフガニスタン ─守りぬかれたシルクロードの秘宝─」)月刊目の眼 2016年3月号 (戦禍をこえて 東と西をつなぐ古代美術 特別展「黄金のアフガニスタン ─守りぬかれたシルクロードの秘宝─」)

2 件のコメント:

  1. 「キュベーレ女神円盤」久しぶりに取り出したポストカードをよくよく見て興味が湧きこちらの記事に辿り着きました。ありがとうございました。博物館で観た当時の記憶が復活しました。様々な文化の融合、排斥ではなく折り合いを付ける。これからの時代にも共通な大切なメッセージのように感じます。

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