出光美術館開館50周年を記念する展覧会の第一弾。国内有数の日本美術のコレクションを誇る出光美術館が所蔵する絵画作品から、国宝・重要文化財を中心とした屈指の優品を3回に分けて公開するというものです。
第1期のテーマは“やまと絵”。出品数は28点でその内、国宝1点、重文11点、重要美術品3点。作品数は決して多くはないかもしれませんが、満足度はすごく高かったです。出光美術館が誇る何れ劣らぬ傑作群だけあって、素晴らしいの一言しか出てきません。ゆったりとスペースをとっているので、とても見やすくていいですね。
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会場を入ってすぐのコーナには室町から桃山時代にかけての屏風が4点だけ。それがまた圧巻。
まずは室町前期を代表する四季花鳥図の「日月四季花鳥図屏風」。個人的にもとても興味を持っている屏風で、経年の変色などがあるのが少々残念ですが、金箔・金泥・銀泥等を贅沢に使った装飾性の高さと、こんもりした山容など特徴的な描写や大胆な構図が目を惹きます。こうした屏風が室町の早い時期に存在したことも驚きですし、どこからこういう屏風が生まれたのかとても気になります。
左隻に太陽、右隻に三日月があって(それで“日月”)、それぞれ模った金属の板がはめ込まれているんですね。 ちょうど同じ日に観た府中市美術館の『ファンタスティック 江戸絵画の夢と空想』にも同様に金属板の月があって、その工芸的な手法というんでしょうか、成り立ちや“日月”に金属板を特別使う意味、またその伝統(継承)などなど興味はつきません。
「日月四季花鳥図屏風(右隻)」(重要文化財)
室町時代 出光美術館蔵
室町時代 出光美術館蔵
その向かいには「宇治橋柴舟図屏風」。『源氏物語』の「宇治十帖」の宇治橋をイメージさせる図で、長谷川派の作品などでもよく見る「柳橋水車図屏風」と同じ画題になります。これも全面に金泥が使われ、霞雲も波紋も非常に手が込んだ描き方がされています。
「四季花木図屏風」はこれも室町時代のやまと絵屏風らしい優品。解説に≪清らかな夜景≫とあったところを見ると、これは夜の風景なのですね。雲母地に描かれた松や楓といった花木や山容、波紋がどれも優雅で美しく、桃山時代の屏風とはまた違った趣があります。画中には「土佐光信筆」と狩野探幽による紙中極が書き込まれているのですが、光信によるものとは断定されていないようです。
ほの暗い室内でひと際色鮮やかに映えるのが「吉野龍田図屏風」。右隻には満開の桜が、左隻には一面に錦秋の紅葉。春の吉野と秋の龍田川を描いた意匠性の高い屏風です。ほぼ同様の屏風が根津美術館にもありますが、同じ絵師によるものなのか、同じ時代に好んで描かれた主題なのか、気になります。
冷泉為恭 「雪月花図」
江戸時代 出光美術館蔵
江戸時代 出光美術館蔵
つづいて「橘直幹申文絵巻」。橘直幹が民部大輔になりたくて申文を小野道風(!)に清書してもらうのですが、結局職には就けず、だけど天皇は申文の優れた点は認めていたという話。こちらは展示は一部のみでしたが、平安時代の市場の様子が描かれていて、犬がいたり、みんな笑顔だったりするのが面白い。
その奥には復古大和絵の第一人者・冷泉為恭の「雪月花図」。非常に細密に丁寧に描かれていて、いつ見てもその雅やかな美しさに感嘆します。
「伴大納言絵巻(上巻部分)」(国宝)
平安時代 出光美術館蔵
平安時代 出光美術館蔵
そして、本展の目玉でもある「伴大納言絵巻」。10年ぶりの公開だそうで、上中下巻をそれぞれ3期に分けて全巻展示されます。10年前の公開時はかなり混雑したので、それを想定してか、特別に仕切られたスペースになってます。
「伴大納言絵巻」は「源氏物語絵巻」「信貴山縁起絵巻」「鳥獣人物戯画」と並ぶ四大絵巻の一つ。伴善男による応天門の変を題材にしたもので、後白河院の頃に描かれたとされています。上巻は詞書が欠損していたり、画中の一部が剥離しているところがありますが、修復されたこともあってか状態はとても良かったです。何より群集表現が素晴らしく、大火に逃げ惑う人々や遠巻きに見る眺める野次馬などそれぞれの描写が秀逸です。一人として同じ顔の人はなく、表情がまたとても豊かで、頬に色を付けていたりと細かな描写が施されていて驚きます。
画/伝 藤原信実、詞書/伝 後京極良経 「佐竹本三十六歌仙絵 柿本人麿」(重要文化財)
鎌倉時代 出光美術館蔵
鎌倉時代 出光美術館蔵
現存する歌仙絵の最古の作例とされるのが「佐竹本三十六歌仙絵」。もとは絵巻ですが、大正期に切断され掛物装に改められています。出光本は「柿本人麿」と「僧正遍照」の2点で、特に「柿本人麿」は巻頭にあたるもの。おととし『名画を切り、名器を継ぐ』で根津美術館所蔵品を観たのも記憶に新しいのですが、分断されず完本で残っていたら、たぶん間違いなく国宝だったでしょうね
絵巻では、奈良・長谷寺の由来や霊験譚を描いた「長谷寺縁起絵巻」や宗達による「西行物語絵巻」のほかに、奈良時代の古因果経5種の一つという「絵因果経」があります。「絵因果経」は過去にも国宝の東京藝術大学本や醍醐寺本なども観ていますが、出光本も非常に状態が良く、発色が良いのが印象的。ちょっと稚拙な感じの絵柄がどこかほんわかした味わいがあっていいですね。
「真言八祖行状図(龍智)」(重要文化財)
保延2年(1136) 出光美術館蔵
保延2年(1136) 出光美術館蔵
これも修復後初公開という「真言八祖行状図」は密教の正系を伝える八幅の説話画。修復されたとはいえ、絵はかなり遜色し、かなり見づらいのが正直なところです。とはいえ、山水や花木の描法など平安時代にさかのぼる初期やまと絵の作品として貴重。
そばには同じ寺に伝来したという慶派仏師による「増長天像」「持国天像」。鎌倉時代の仏像らしい躍動感ある姿が印象的。出光美術館であまり仏像を観ないので珍しいですね。
仏画では「山越阿弥陀図」や「十王地獄図」のほか、金色に輝く三幅対の「阿弥陀衆来迎図」が見事。金泥と截金をふんだんに使っていて、左右幅には楽器を奏でたり舞ったりする菩薩様がたくさん描かれていて、これが極楽浄土なのかと思ってしまいます。
伝・俵屋宗達 「月に秋草図屏風」
江戸時代 出光美術館蔵
江戸時代 出光美術館蔵
最後に琳派初期の草花図屏風。宗達と伝わる「月に秋草図屏風」は金屏風に四季の草花を品良く配したとても優美な作品。銀泥の月が変色していますが、先の「日月四季花鳥図屏風」の金属的な月とのつながりを思うと興味深いものがあります。
伊年印の「四季草花図屏風」はさらに全面に色とりどりの草花が配され、より華麗な仕上がりになっています。「月に秋草図屏風」にしても「四季草花図屏風」にしても草花の描写はまだ意匠化されておらず、その的確な描写からはやまと絵の流れを感じます。
少し時代は下りますが、尾形乾山の四幅の「梅・撫子・萩・雪図」は恐らく襖絵を正方形に軸装した作品。ぼてっとした四季の花と筆をたっぷりとした筆の和歌の取り合わせが乾山らしくていい。
開幕早々の日曜の16時過ぎに入ったのですが、館内は空いていて、17時過ぎはほとんど人もいなくなり、ゆっくり鑑賞できました。10年前に「伴大納言絵巻」を観に来たときはとても混雑していた記憶があるので、本展も会期末になるとかなり混んでくると思います。絵巻物は混雑すると見づらいですし、ストレスになるので、空いてる時を狙って観ておいた方がいいですよ。出光美術館はいつも17時閉館ですが、期間中は18時までやっています(休館日に注意してね)。
なお、「伴大納言絵巻」のミニ解説本が500円ととてもお手頃なのですが、本展の図録も3期分の全作が載っていて2700円とリーズナブル。出光美術館所蔵の日本画傑作選という趣なのでオススメです。もちろん「伴大納言絵巻」も全巻写真が載ってます。
【開館50周年記念 美の祝典 Ⅰ -やまと絵の四季】
2016年5月8日(日)まで
出光美術館にて
やまと絵 (別冊太陽 日本のこころ)
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