毎年好例の春の江戸絵画まつり。なかなか行けず、気づいたら前期展示の最終日。慌てて訪問してきました。
今回のテーマは「ファンタスティック」。江戸時代に“ファンタスティック”って言葉があったら、江戸の人々もそう叫んだんじゃないかというような作品がズラリ。江戸時代にこんな絵があったのかと驚きの連続です。
また今回も変な絵いろいろ探してきてますし、マイナーな絵師がたくさん集まってて、ほんと楽しい。ただの不思議な絵大会ではなく、江戸の人々の夢や空想、願いがちゃんと伝わってくるのがいいですね。
出品作はおよそ160点。前期と後期に分けて半分ずつ展示されます。
Ⅰ 身のまわりにある別世界
いつも何気なく見ている日常の風景や自然、季節にだって“ファンタスティック”な光景はあるんですね。ここでは<月>や<太陽>、<黄昏と夜>、<天空を考える>といったテーマに分け、作品を紹介しています。
岡本秋暉 「波間月痕図」
摘水軒記念文化振興財団蔵(府中市美術館寄託) (展示は4/10まで)
摘水軒記念文化振興財団蔵(府中市美術館寄託) (展示は4/10まで)
ちらりと波間から覗く月を描いた岡本秋暉の「波間月痕図」、舞い散る一筋の雪が印象的な円山応挙の「雪中月図」、初日の出を眺める武士の背中に一年の決意が表れている同じく応挙の「元旦図」など、なるほどなという作品が並びます。酒樽を積んだ宝船図があったり、金雲に鹿が首を突っ込んでる(ように見える)鹿図屛風があったり、大名行列の様子を描いたユニークな掛軸があったり、しまいには江戸時代なのに気球の絵があったり、ほんとよくこんな珍しい絵を探してきますよね。府中市美の学芸員さんにはいつも感服します。
とりわけ面白かったのが、川床で涼む人々を描いた山口素絢の「四条河原夕涼図屛風」。飲み食いしたり、くつろいだり、猿芝居を楽しんだり、のんびりした光景がなんとも楽しい。なんと人魚の見せ物なんかもあります。
原鵬雲 「気球図」
徳島市立徳島城博物館蔵 (展示は4/10まで)
徳島市立徳島城博物館蔵 (展示は4/10まで)
菊田伊洲という絵師の「魁星図」もユーモアがあって良かったです。鬼の右上に斗(マス)が描かれていて、鬼と斗で「魁」となり、北斗七星の第一星を指すのだとか。鬼の姿も漢字の「鬼」に似せています。
Ⅱ 見ることができないもの
見ることができないもの。それは物理的な距離や時間もあれば、現実の世界でないものなどがあります。<海の向こう>では異国の風俗や風景、南蛮図屏風などのほか、ガラス板に裏側から描いた異国情緒豊かなガラス絵なんかがありました。<神仏、神聖な動物>では、小泉斐のちょっとグロい「七福神図」や鯉が龍に変身する姿を描いた原在中の「飛竜図」など。
原在中 「飛竜図」
個人蔵 (展示は4/10まで)
個人蔵 (展示は4/10まで)
驚いたのが加藤信清という絵師の「五百羅漢図」で、なんと輪郭線などが全てお経の文字で描かれています。単眼鏡で覗いても文字なのか筆で刷いてるのか分からないぐらい細かいのですが、これがなんと50幅もあるというんですから凄いです。
ほかにも地獄や妖怪、妖術などを描いた作品があって、河鍋暁斎の「地獄図」や、“くにくに”こと歌川国芳と歌川国貞の作品も展示されています。
Ⅲ ファンタスティックな造形
ここでは<金、霞、しなやかな形>、<見上げる視線>、<非日常的な色>に分けて作品を紹介しています。
「柳橋水車図屛風」
徳島市立徳島城博物館蔵 (展示は4/10まで)
徳島市立徳島城博物館蔵 (展示は4/10まで)
徳島城博物館が所蔵する「柳橋水車図屛風」があったのですが、これがいいですね。金色の雲間から現れる雲が金属板(鉛?)でできていて、たまたま同じ日に出光美術館の『美の祝典 Ⅰ やまと絵の四季』で観た「日月四季花鳥図屏風」にも金属板の太陽と三日月があったんですね。これまであまり意識して観たことなかったのですが、日月(太陽と月)に金属板が使われているものは他にも例があるんだそうで、日月を特別のもの、神秘的なものと見る意味でも込められていたんでしょうか。琳派にも銀泥で月を描いてるのがよくありますが、金属の日月の流れを汲んでるような気もしてきます。
Ⅳ 江戸絵画の「ファンタスティック」に遊ぶ
ここはその他もろもろという感じ(笑)
墨江武禅 「月下山水図」
府中市美術館蔵 (展示は4/10まで)
府中市美術館蔵 (展示は4/10まで)
正に“ファンタスティック!”と呼びたいような不思議な作品が多くて、巨野泉祐という絵師の「月中之竜図」は日照という人が見た夢を描いた作品で、月蝕した月の中に龍がいるんですね。発想が面白い。月に照らされた不思議な光景を描いた墨江武禅の「月下山水図」もとても印象的。月夜の趣きがリアルですね。タッチも独特。
曽我蕭白の「仙人図屛風」はさすがの怪作。蕭白の描く人物って結構みんなユニークな顔をしていますが、これはかなりの上物(笑)。カメの顔がまた傑作です。カエル好きの暁斎の「蛙の大名行列図」もお茶目でかわいい。
「楊梅図屛風」
個人蔵 (展示は4/10まで)
個人蔵 (展示は4/10まで)
今回の展覧会で個人的に一番感動したのが「楊梅図屛風」。本展は国宝・重文クラスの作品があるような展覧会ではありませんが、この「楊梅図屛風」は一級品の存在感というか、他とは違うインパクトがあって、とにかく素晴らしい。落款や印などはないのですが、俵屋宗達によるものではないかとされていて、確かに岩や山の描き方、弧を描く水辺などいかにも宗達ぽい。後水尾天皇が亡母の供養のために依頼したのではないかといわれているようです。これが観られただけでも満足。
河鍋暁斎 「蛙の大名行列図」
個人蔵 (展示は4/10まで)
個人蔵 (展示は4/10まで)
府中市美術館の江戸絵画まつりはいつも新鮮な驚きと発見があって毎年ほんと楽しみです。後期にも期待。
【ファンタスティック 江戸絵画の夢と空想】
前期: 2016年3月12日(土)から4月10日(日)
後期: 2016年4月12日(火)から5月8日(日)
府中市美術館にて
かわいい江戸絵画
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