2015/11/29

狩野一信の五百羅漢図展

増上寺の宝物展示室で開催中の『狩野一信の五百羅漢図展』のブロガーナイトがありましたので参加してまいりました。

今年4月に本堂地下1階に開館した待望の宝物展示室。開館第2弾企画として10月から、幕末の絵師・狩野一信の傑作仏画「五百羅漢図」を公開しています。前期(10/7~12/27)は第21幅~40幅を、後期(2016/1/1~3/13)は第41~60幅を展示。2011年に江戸東京博物館で開催された『五百羅漢展』の感動がよみがえります。

展示室はそれほど広くないのですが、一信の「五百羅漢図」を展示することを念頭に置いて設計したそうで、作品がちょうどいい具合にフィットしています。それにしても本殿の地下にこんな空間があったとは。

今回のブロガーナイトでは、≪弐代目・青い日記帳≫のTakさんと森美術館のシニア・コンサルタント・広瀬麻美さんのギャラリートークがあり、これがとても面白かったのです。途中から、なんと明治学院大学の山下裕二先生も飛び入り参加して、たぶん予定より時間オーバーしたんじゃないかと思いますが、その分、充実したトークを聴くことができました。

ギャラリートークの様子

ギャラリートークで興味深かったのは羅漢信仰のお話で、全国のさまざまな羅漢像などを紹介していただいたのですが、羅漢といってもいろんな羅漢があるのですね。結構ユニークなものもあり、五百羅漢というと京都・石峰寺の五百羅漢の石仏ぐらいしか見たことがなかったので、機会があれば訪ねてみたいものです。

現在は残念ながら撮影禁止になってしまった石峰寺の五百羅漢:
the Salon of Vertigo: 石峰寺 ~若冲の石仏を訪ねて~

江戸時代は五百羅漢巡りブームというのがあって、五百羅漢の中から亡くなった人に似た羅漢を探しては亡き人を忍んだりしたそうです。一信が「五百羅漢図」を制作している最中には安政の大地震も起きていて、そうした時代背景や震災で命を落とした人々への思いというものもあったのでしょう。

狩野一信 「五百羅漢図」(右から31幅〜40幅)

一信は熱心な仏教徒だったそうで、縁のあった増上寺の支援を受け、「五百羅漢図」を制作したといいます。制作には10年を費やし、また最高級の顔料も使っていたことも分かっていて、現在のお金でいうと1億円規模のプロジェクトだったんじゃないかとのこと。

しかし、これだけの大型で手の込んだ掛軸を一人で描くのはあまり現実的でないので、弟子と分業をしていたのではないかというのが広瀬さんのお話。今回展示されている掛軸でも、第21~30幅は一信の手によるものだろうが、第31~40幅はクオリティ的に弟子の手によるところも多いのではないかとの意見でした。言われてみると、なるほどと思うところも。

狩野一信 「五百羅漢図」(右から21幅~24幅)

狩野一信 「五百羅漢図」(右から25幅~28幅)

今回展示されている第21幅~40幅は生前に罪を犯した人たちが巡る六道の世界が描かれています。たとえば21幅~24幅は“地獄”の場面で、地獄に堕ちた罪人たちが釜茹でにされたり、火焔を浴びせられたりしているのを羅漢が救い出していたりするんですね。それでも救われない人たちは正に地獄の責め苦を味わうのですが、ようやく救出された罪人は羅漢の足元で手を合わせています。


ほかにも、強欲で嫉妬深い人が堕ちるといわれる“鬼趣(餓鬼道)”では、羅漢が与える食べ物を我先にと奪い合ったり、空腹のあまり我が子を食べようとする母親が描かれていたり、本能のまま快楽に溺れた者が堕ちる“畜生道”では鳥や猿の姿に変えられた人間たちが羅漢の姿に合掌する様子などが描かれています。五百羅漢図には実は決まったルールといったものがなく、描かれているストーリーはオリジナルなのだそうです。ちなみに光背があるのが羅漢で、ない人はお付きの人とか。


漫画チックな表現がよく話題にされる一信の「五百羅漢図」ですが、その筆致は非常に細密かつ巧妙、表現も多彩で、優れた絵師であることがよく分かります。「五百羅漢図」は裏彩色も施されていて、徹底した技巧を尽くした作品であることが明らかになっているそうです。ギャラリートークではその調査内容も詳しく解説していただきました。

まさに寝食を忘れて命がけで「五百羅漢図」に取り組んだ一信は48歳で亡くなるのですが、晩年はノイローゼのような状態だったといいます。あと4幅というところで一信が亡くなってしまったため、残りは弟子の一純が描き上げます。


一信が亡くなったあと妻は出家し、一信の五百羅漢図を飾るための羅漢堂を増上寺に建立します。拝観者に自ら解説もしていたそうですが、あまりにしつこいので“羅漢ばばあ”といわれていたとか。

一信は婿養子として逸見家に入るのですが、本展ではその逸見家から寄贈された貴重な資料や、近年発見されたという「布袋唐子像」などが紹介されています。「五百羅漢図」で一躍有名になりましたが、なかなか一信の他の作品って観る機会はないんですよね。

狩野一信 「布袋唐子像」 個人蔵

森美術館で開催されている『村上隆の五百羅漢図展』と併せて観ると、さらに面白さアップすること間違いなしです。


【狩野一信の五百羅漢図展】
前期:2015年10月7日(水)~12月27日(日)| 第21幅~第40幅展示
後期:2016年1月1日(金)~3月13日(日)| 第41幅~第60幅展示
増上寺宝物展示室にて


狩野一信 五百羅漢図狩野一信 五百羅漢図

0 件のコメント:

コメントを投稿