2014/02/02

クリーブランド美術館展

東京国立博物館で開催中の『クリーブランド美術館展 名画でたどる日本の美』に行ってきました。

いま、上野では≪日本美術の祭典≫と題し、東京国立博物館と東京都美術館のコラボレーションで日本美術に関する三つの美術展が開催されています。

もう少し早く来たかったのですが、なかなか忙しく、2月は2月で予定があったり、他の美術展も始まるしで、平日に有休を取って、3つの展覧会を一日で回ってまいりました。

で、トーハクの『クリーブランド美術館展』から。

クリーブランド美術館はオハイオ州のクリーブランドにある美術館で、同じアメリカのボストン美術館やメトロポリタン美術館に匹敵する充実した日本美術コレクションを誇るともいわれています。

本展では、平安から室町、江戸時代に至るまでの約40点のクリーブランド美術館所蔵の日本美術に加え、特別出品として中国絵画や近代西洋画も紹介されています。


神・仏・人

会場に入ると、いきなり俵屋宗達の工房による「雷神図屏風」がドーンとお待ちかね。宗達の「風神雷神図屏風」を彷彿とさせる野性味ある雷神です。恐らく本来は風神を描いた屏風もあったのでしょう。そう考えると、宗達の屏風との関連性も気になります。両隻揃っていたら、さぞかし見応えがあったでしょうね。

伊年・印 「雷神図屏風」
江戸時代・17世紀

つづいては仏画。「文殊菩薩及び眷属像」、「地蔵菩薩像」、「仁王経曼荼羅」あたりは状態の良さや繊細な線描の美しさなどなかなかの逸品です。「二河白道図」は鎌倉時代の貴重な現存例の一つとのこと。トーハク本館でも同時代の「二河白道図」(重要文化財)が展示(2/9まで)されています。両者に大きな違いはありませんが、クリーブランド本の方が状態は良く、制作はトーハク本の方が古いようです。(トーハクの「二河白道図」はこちらをご参照ください)

「二河白道図」
鎌倉時代・13~14世紀

絵巻が2点。「福富草紙絵巻」は放屁合戦で有名な爆笑絵巻。福富の妻の恐妻家ぶりもパネルで紹介されていて思わず笑ってしまいました。もうひとつの「融通念仏縁起絵巻」は鎌倉時代の絵巻の正統的な描法で描かれているとのこと。展示は下巻のみで、同絵巻の上巻はシカゴ美術館にあるそうです。「融通念仏縁起絵巻」も同題の絵巻がトーハク本館に参考展示(2/9まで)されていて、北白河の下僧の妻が死んで閻魔庁に連行される場面は両者で異なるのですが、名主の家に異形の疫神が集まる場面はほぼ同じでした。

「福富草子絵巻」(部分)
室町時代・15世紀

ほかに、岩佐又兵衛の晩年の作品とされる「琴棋書画図」は又兵衛らしい風俗描写が秀逸。河鍋暁斎の「地獄太夫図」は太夫の妖艶な美しさもさることながら、地獄変相図を描いたといいつつも地獄に見えない華やかな着物が一見の価値ありです。

河鍋暁斎 「地獄太夫図」
明治時代・19世紀

凛とした美しさが印象的な「霊昭女図」、宮川長春の肉筆浮世絵「遊宴図」、室内で踊る男女を障子に映る影で表現した山本梅逸の「群舞図」、背が七尺五寸(約227cm)あったという熊本藩お抱え力士を描いた渡辺華山の「大空武左衛門像」など、見どころの多い作品が並びます。

春屋宗園・賛 「霊昭女図」
室町時代・16世紀


花鳥風月

ここでまず面白かったのが没倫紹等の作と伝わる「南瓜図」。蟻のような、ラスコーの洞窟壁画の人間のような、不思議な生物がカボチャを引っ張るという図で、巨石を引く儀礼や祭礼を戯画化したものではないかと解説にありました。没倫紹等というと一休和尚の弟子で、一休さんの肖像画の作者としても知られる禅僧ですが、これも何か禅画的な意味があるのでしょうか。気になるところです。

伝没倫紹等 「南瓜図」
室町時代・15世紀

ここでは、右隻を狩野松栄、左隻を狩野光信が手がけたのではないかとされる「四季花鳥図屏風」、なんとなく等伯の「松林図屏風」への対抗意識が見えなくもない伝・海北友松の「松に椿・竹に朝顔図屏風」、雪村の「龍虎図屏風」となかなかの傑作が揃っていました。雪村は同題の屏風が根津美術館にもあり、龍虎の描写は両者酷似していますが、背景はクリーブランド本の方が余計なものがそぎ落とされ風の勢いを感じさせます。

雪村 「龍虎図屛風」
室町時代・16世紀

興味深かったのが、作者不詳の「厩図屏風」と「薄図屏風」の二つの室町時代の屏風。「厩図屏風」はトーハク所蔵の「厩図屏風」(重文)より古い作品とのことで、できれば比較して観たかったなと思いました。「薄図屏風」はそのシンプルさといい、装飾性といい、この時代にこんな洗練されたミニマルな屏風があったのかと驚きます。

「薄図屏風」
室町時代・16世紀


物語世界

ここでは『伊勢物語』など物語の一場面を絵画化した作品を展示。渡辺始興の「燕子花図屛風」は、師・尾形光琳の同題屏風のオマージュな訳ですが、花や葉に白い模様や線を入れたり、風の揺れを表現したりと、他によくある模倣作品と違い、独自のオリジナリティを出そうとしているところがあって個人的には好感を持ちました。

渡辺始興 「燕子花図屛風」
江戸時代・18世紀

同じく『伊勢物語』の一場面を描いた深江蘆舟の「蔦の細道図屛風」もこの機会にぜひ観たい作品。蘆舟は始興と同じく光琳に師事した琳派の絵師で、本図とほぼ同じ構図の作品がトーハクに所蔵されていて、こちらも本館で展示(2/23まで)されています。

深江蘆舟 「蔦の細道図屛風」
江戸時代・18世紀


山水

途中≪近代西洋の人と自然≫という近代西洋画の展示コーナーを挟み、最後は山水画。まず最初に登場するのが中国絵画で、特に南宋院体画を代表する馬遠の「松渓観鹿図」が絶品。ダイナミックな雨の描写が素晴らしい明の呂文英の「江村風雨図」も見ものです。

伝・天章周文 「春冬山水図屛風」
室町時代・15世紀

ほかにも、周文と伝わる「春冬山水図屏風」や相阿弥の「山水図」、蕭白の相変わらず濃厚かつ細密な「蘭亭曲水図」、上が金地、下が銀地の屏風に連山を描いた呉春の「青天七十二芙蓉図」、また作者不詳の「琴棋書画図屏風」(狩野派か?)など非常にレベルの高い作品が多く、ため息ものでした。

曽我蕭白 「蘭亭曲水図」
江戸時代・安永6年(1777)

平成館の特別展会場の半分のスペースということもあり、作品数は決して多くなく、またなぜか西洋画があったりと、少しまとまりに欠ける感もなきにしもあらずですが、そこはやはりアメリカ屈指の日本美術の宝庫だけあり、傑作・優品が揃って素晴らしいものがあります。アメリカに行ってもなかなか不便な場所にあるクリーブランドからこうして貴重な作品が来日してるので、日本美術ファンなら見逃したくはない展覧会だと思います。


【クリーブランド美術館展 名画でたどる日本の美】
2014年2月23日(日)まで
東京国立博物館にて


一生に一度は見たい日本美術 (別冊宝島 2119)一生に一度は見たい日本美術 (別冊宝島 2119)


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