2014/02/03

世紀の日本画 [前期]

≪日本美術の祭典≫三本目は東京都美術館で開催中の『世紀の日本画』へ。

こちらは前・後期に分け、全ての作品が入れ替わるとのこと。まずは前期展示を観てまいりました。

本展は、岡倉天心のもと、橋本雅邦、横山大観、下村観山、菱田春草らによって創設されたものの、その後解散状態にあった日本美術院が大正2年(1914年)に再興されてから100年を記念しての展覧会。

なので、日本美術院で活躍した画家や、過去に会員だったことのある画家に限られていて、“世紀の”と銘打っているからといって、近代日本画史に燦然と輝く傑作とかがズラリ並んでるというわけではありません。

とはいえ、そこは近代日本画の中心にあり、今もわが国最大の日本画の美術団体である日本美術院の記念展だけあって、出展されている作品は日本美術院の画家の代表作、名作ばかり。日本美術院の歴史はそのまま近代日本画の歴史でもあるのだとよく分かる展覧会です。


第1章 名作で辿る日本美術院の歩み

まずは最初の近代日本画家といわれる狩野芳崖の作品から。芳崖は日本美術院の創立には直接関わっていませんが、狩野派の伝統を基本としながらも日本画の新たな可能性を示し、岡倉天心とともに日本美術院の基礎を築いたと評価されているそうです。前期は晩年の代表作「不動明王」が、後期には芳崖の最高傑作「悲母観音」が展示されます。

狩野芳崖 「不動明王」(重要文化財)
明治20年(1887) 東京藝術大学蔵 (展示は2/25まで)

となりには橋本雅邦の代表作「白雲紅樹」。藝大美術館の所蔵作品展などで何度か拝見していますが、非常に大きな作品で、狩野派の伝統を基礎としながらも空間遠近法と彩色で奥行き感を出し、よく見ると岩の上に小さな猿が描かれていたり、ダイナミックな印象を与える構成になっています。

橋本雅邦 「白雲紅樹」(重要文化財)
明治23年(1890) 東京藝術大学蔵 (展示は2/25まで)

ほかに、菱田春草の「四季山水」、下村観山の代表作「弱法師」といった初期日本美術院を代表する画家の作品が並びます。土牛にしてはモダンな感じの「閑日」も素敵でした。

奥村土牛 「閑日」
昭和49年(1974) 東京国立近代美術館蔵 (展示は2/25まで)


第2章 院展再興の時代 大正期の名作

ここでは日本美術院が再興した大正時代の代表作を展示しています。何はさておき、やはり大観と観山で、大観は代表作の「遊刃有余地」、観山は『下村観山展』にも出ていた「白狐」と、岡倉天心を描いた絵の画稿(実際の作品は震災で焼失)が出品されています。西洋画から日本画に転向したあと、昭和初期まで日本美術院に在籍していた川端龍子の作品もあったのですが、これはこれで池の情景やカワセミの描写が素晴らしいのですが、この時代の代表作なら「慈悲光礼讃」も観たかったかなと。

川端龍子 「佳人好在」
大正14年(1925) 京都国立近代美術館蔵 (展示は2/25まで)

個人的にいいなぁと思ったのが、小杉未醒(小杉放菴)の「飲馬」で、西洋画のような装飾的な画風の中にも片ぼかしといった日本画の技法を用い、新しい日本画の方向性を探っているようなところがあり、とても面白く感じました。

小杉未醒 「飲馬」
大正3年(1914) 小杉放菴記念日光美術館蔵 (展示は2/25まで)

ほかに、安田靫彦の晩年の良寛を描いた「五号庵の春」、橋本平八の彫刻「猫」あたりが印象に残りました。


第3章 歴史をつなぐ、信仰を尊ぶ

フロアーを一つ上がり、まず登場するのが小林古径の「竹取物語」。まぁ、これは古径らしい絵巻で、女性ウケしそうな感じ。ほかにも安田靫彦の「卑弥呼」や平山郁夫の「祇園精舎」あたりが見どころでしょうか。

個人的に強いインパクトを受けたのが、漁村の教会の夜のミサを様子を描いた小山硬の「天草(礼拝)」で、力強く太い線描と、どこか民芸調の素朴だけれど深い信仰を感じさせる村人の表情が秀逸。「私はキリスト教ではないから教会へは行かないと言いながら夜の教会の片隅で祈りに参加している」老婆の祈りの姿が忘れられません。

安田靫彦 「卑弥呼」
昭和43年(1968) 滋賀県立近代美術館蔵 (展示は2/25まで)


第4章 花。鳥。そして命を見つめて

ここでは大観の「紅葉」に久しぶりに再会。色とりどりの紅葉の美しさと川の群青、ハッとする美しさです。ほかに、那波多目功一の「うすれ日」がとても印象的。小茂田青樹の「虫魚画鑑」も面白かったです。

横山大観 「紅葉」
昭和6年(1931) 島根・足立美術館蔵 (展示は2/9まで)


第5章 風景の中で

今村紫紅の「熱国之巻」は東京国立博物館で何度か拝見していますが、ここでは「朝」を前期、「夕」を後期に分けて半分ずつ展示とのこと。東南アジアの取材旅行をもとに描いた作品で、近代的な造形とゴーギャンのような明るい色彩に加え、金砂子を撒いたりとチャレンジングな面白さに溢れた傑作です。

今村紫紅 「熱国之巻 (熱国之朝)」(部分)(重要文化財)
大正3年(1914) 東京国立博物館蔵 (展示は2/25まで)

これもトーハクでよく観る古径の「阿弥陀堂」があったほか、これは初見ですが、速水御舟の「洛北修学院村」という初期の作品がありました。御舟の若い頃の作品は山種美術館でも観ていますが、「群青中毒だった」と後年自ら語っていたように、これでもかというぐらいの群青一色の色彩がとても美しいです。

速水御舟 「洛北修学院村」
大正7年(1918) 滋賀県近代美術館蔵 (展示は2/25まで)

ここでは、小松均のスケールの大きな水墨の作品「雪の最上川」に圧倒されました。自然の力強さを感じる骨太な水墨の表現はインパクト大。ほかに後藤純男の「淙想」も印象的でした。


第6章 幻想の世界

最後のフロアーでまず目に飛び込んでくるのが中村岳陵の「婉膩水韻」で、裸の女性が泳いでいる、いま観れば何でもない綺麗な作品ですが、発表当時は不埒な絵だと物議を醸したのだとか。まぁ、それは昔の話で、清涼な色合いや波紋が美しい優品です。

中村岳陵 「婉膩水韻」
昭和6(1931) 静岡県立美術館蔵 (展示は2/25まで)


第7章 人のすがた

上半身裸の少年のような姿がユニークな安田靫彦の「風神雷神」、ロマン的なタッチで殉教を描いた古径の「異端(踏絵)」、「女性は美醜ではなく、…白粉の奥にある真実を描きたい」と語る言葉が少々言い訳めいて聞こえなくもない御舟の「京の舞妓」といった、いい意味で印象的な作品が並びます。近年のものでは菊川多賀の「文楽」が素晴らしかったです。

その中で、一番良かったのが小倉遊亀の「径(こみち)」で、長いこと観たかった作品で初めて拝見しましたが、この『サザエさん』的な明るく、楽しく、ほのぼのとして、しかもモダンなタッチに見とれてしまいました。高度成長期の平和で家族の温かさに満ちた時代を象徴するような素敵な作品です。

小倉遊亀 「径」
昭和41年(1966) 東京藝術大学蔵 (展示は2/25まで)

“世紀の”という言葉に偽りはありませんが、“世紀の”という言葉から受ける期待ほどのものがあったかというと、ちょっと物足らなさも残ります。前後期に分けているからか、あまりボリューム感はなく、これは趣味が分かれるところですが、現代の日本画家の作品も多く、このあたりも満足度に影響していたかもしれません。また、院展に出品されたり、院展で高く評価された作品が恐らく中心なのかもしれませんが、代表作なら他にもいいのがあるだろうというものもあり、川合玉堂や寺崎広業、堅山南風といった日本美術院で活躍した著名な画家の作品がなかったのも気になりました。100年の歴史、活躍した画家に満遍なくスポットを当てて紹介するのはなかなか難しいのかもしれません。



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【日本芸術院再興100年 特別展 世紀の日本画】
前期: 2014年2月25日(火)まで
後期: 2014年3月1日(土)~2014年4月1日(火)
東京都美術館にて


月刊 美術 2014年2月号 [雑誌]月刊 美術 2014年2月号 [雑誌]


「朦朧」の時代: 大観、春草らと近代日本画の成立「朦朧」の時代: 大観、春草らと近代日本画の成立

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