国立新美術館で開催中の『モダン・アート,アメリカン』展に行ってきました。
鉄鋼業で財を成したフィリップス家のダンカンとマージョリー夫妻の個人コレクションをもとに設立された“フィリップス・コレクション”の所蔵作品による企画展です。現代美術の個人コレクターというと、『ハーブ&ドロシー』というドキュメンタリー映画にもなったヴォーゲル夫妻が最近は話題になりましたが、フィリップス夫妻も、アメリカの近代絵画や西欧絵画を集め、同時代の若い芸術家の支援も行っていたそうです。
今回の展覧会は、その名の通り、19世紀後半から20世紀にかけてのアメリカの近代絵画でまとめられています。
モーリス・ブレンダー・ガスト「パッリア橋」 (1898-99年(1922年完成))
19世紀中ごろの作品はバルビゾン派の影響が色濃く、西部開拓時代のアメリカの原風景的な風景画や農民画が描かれています。やがてフランスで印象派が登場するとアメリカでも印象派のブームが起こり、近代化の波、都市化の波と相まって、描かれる対象も街やそこで暮らす人々に移り、絵のタッチも明るいものになっていきます。 ただ、この頃のアメリカの近代絵画はどうしてもヨーロッパの影響が強く、ヨーロッパの文化を一生懸命追随している様子が強くうかがえます。
ジョン・スローン「冬の6時」 (1912年)
絵画にアメリカらしさが出てくるのは、ニューヨークが世界一の都市となり、映画や芝居、ファッションなど芸術・文化が隆盛してくる20世紀に入ってからで、街の様子、人物や風俗もヨーロッパのそれとははっきりと違った印象になります。ジョン・スローンのこの絵なんて、ヨーロッパでは決してない、いかにもアメリカらしい息吹が感じられます。1912年は日本でいうと明治45年(大正元年)。下のエドワード・ブルースの、摩天楼の夢のような風景は日本では昭和8年。驚きますね。
エドワード・ブルース「パワー」 (1933年頃)
それにしても、19世紀から20世紀初頭の画家たちは全くと言っていいほど知らない名前の画家ばかりで、自分の浅学さを恥じるばかりでしたが、結構観ている皆さんも同じような思いだったのか、人気の画家の展覧会と違って、絵の前に長く滞留する光景があまり見られせんでした。20世紀に入ってくると、ジョージア・オキーフやロックウェル・ケント、エドワード・ホッパーといったアメリカを代表する名の知れた画家たちが登場してきます。
ジョージア・オキーフ「葉のかたち」 (1924年)
エドワード・ホッパー「日曜日」 (1926年)
20世紀初頭、ヨーロッパから入ってきた前衛美術は、アメリカで独特の進化をはじめ、第二次世界大戦後、さらに抽象表現主義として広がりを見せ、現代のモダンアートへと繋がっていきます。ジャクソン・ポロック、フィリップ・ガストン、サム・フランシス、マーク・ロスコなどが登場し、この頃になるとアメリカのモダンアートは俄然面白さが増します。
ジャクソン・ポロック「コンポジション」 (1938-41年頃)
しっかりと20世紀初頭の前衛的な絵画運動を追うなら、それこそフォービズムやキュビズム、シュルレアリスムといった流れを考えなければならないのでしょうが、アメリカの前衛絵画の流れがヨーロッパのそれとどう違ったのか、展示構成の関係か触れられていませんが、19世紀の自然主義的な写実的なリアリズムが印象派を経て、抽象表現へ向かう様子が本展を観ているとよく分かります。もちろんその背景には、ヨーロッパと違ってアメリカが二つの世界大戦の影響を受けなかったことや、特に第二次世界大戦でヨーロッパから多くの芸術家が亡命してきたことなどもあり、絵画運動の舞台がヨーロッパからアメリカに一気に移ったということも大きく関係しているのでしょう。
ヘレン・フランケンサラー「キャニオン」 (1965年)
ちなみに、アンディ・ウォーホルやジャスパー・ジョーンズ、ロイ・リキテンスタインといったポップアートやコンテンポラリーアート、ポストモダンといった類の作品は出展されていません。また日本でも人気のアメリカ人画家アンドリュー・ワイエスもモダン・アートから外れるのでありませんでした。あくまでも19世紀半ばのアメリカ近代絵画から戦後の抽象表現主義へと至るモダン・アートの系譜を辿ったという感じです。
マーク・ロスコ「無題」 (1968年)
今回のお気に入りの一枚。
40年に80歳で初めての個展を開き、101歳で亡くなるまで現役として活躍したアメリカの国民的画家です。その絵は農場や牧場で楽しそうに働く農民や田園生活風景など、いわゆるフォークアート。この絵も、ブリューゲルを思わせる素朴な風景と優しい色彩が印象的です。観ていて温かな気持ちになります。
グランマ・モーゼス「フージック・フォールズ、冬」 (1944年)
【モダン・アート,アメリカン -珠玉のフィリップス・コレクション-】
国立新美術館にて
2011年12月12日(日)まで
MARK ROTHKO
ホッパー (ニューベーシック) (タッシェン・ニューベーシックアートシリーズ)
美の20世紀〈13〉オキーフ (美の20世紀 13)
モーゼスおばあさんの絵の世界―田園生活100年の自伝
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