2011/10/15

酒井抱一と江戸琳派の全貌

千葉市美術館で開催中の『酒井抱一と江戸琳派の全貌』展に行ってきました。

今年は酒井抱一の生誕250年。思えば、今年の頭に出光美術館で開催された『琳派芸術』も“酒井抱一生誕250年記念”という冠がついていました。本展も抱一の生誕250年を祝うに相応しい見ごたえのある展覧会になっています。

会場は8つの章から構成されています。第一章は「姫路酒井家と抱一」と題し、酒井家ゆかりの品々が紹介されています。名門譜代大名家の二男として生まれた抱一。武家に生まれながら、どうしていきなり絵師になんてなってしまったのかという素朴な疑問がありますが、抱一の父・忠仰や兄・宗雅、また母方の叔父にあたる松平乗完ら身近な人々も玄人はだしの日本画を多く残していて、決して抱一が突然変異ではなかったということをよく理解できます。

第二章「浮世絵制作と狂歌」では若き日の抱一の作品を取り上げています。文化人らと交友を広げ、俳諧や書画に通じ、狂歌壇としても持て囃されたりと、まだ絵師への道が定まっていないのかとも思われますが、この頃に多く手掛けた浮世絵美人画の確かな筆致は、すでに余芸の域を超え、絵に向かう姿が本物であったことがうかがえます。

酒井抱一「松風村雨図」

第三章は「光琳画風への傾倒」。光琳の作品に触れ、琳派様式を手探りで習得していくわけですが、晩年に「風神雷神図屏風」(非展示)を完成させているように、琳派の研究が決して抱一の通過点だったわけではなく、まさにライフワークであったということが展示からもよく分かります。

酒井抱一「八橋図屏風(右隻)」(※10/10~10/23)

酒井抱一「青楓朱楓図屏風(左隻)」(※10/10~10/30)

第四章「江戸文化の中の抱一」では抱一と関係の深い江戸吉原をめぐる作品を、第五章「雨華庵抱一の仏画制作」では出家した抱一が“画僧”として描いた仏画を展示しています。いずれも琳派とは毛色の異なる、またあまり目にする機会の少ない作品ですが、抱一のレンジの広さ、その多才ぶりを知る上でも面白いと思いました。

酒井抱一「夏秋草図屏風」(重要文化財)(※11/1~11/13)

第六章では「江戸琳派の確立」と題し、抱一の円熟期の作品を中心に、花鳥画や草花図など洗練された江戸琳派の美の真髄に触れることができます。いかにも抱一らしい江戸琳派の繊細な美しさにただただ唸るばかりです。第七章では「工芸意匠の展開」とし、抱一がデザインにかかわった工芸品や着物などが並びます。

 酒井抱一「四季花鳥図巻」(一部)(※10/10~10/30)

第八章「鈴木其一とその周辺」、第九章「江戸琳派の水脈」では、抱一の高弟・鈴木其一をはじめ、抱一以降の琳派の系譜を紹介。昭和初期まで脈々と受け継がれた江戸琳派の流れを見ることができます。抱一の弟子というと其一は筆頭ですが、抱一の養子・酒井鶯蒲や其一の長男・鈴木守一、其一の弟子・酒井道一など、なかなか素晴らしい作品が多く、かなり興味を惹かれました。展示の最後に弟子の作品を簡単に紹介してまとめて終わる美術展はよくありますが、最後の最後まで手を抜くことなく、その充実ぶり、徹底ぶりには驚きました。

鈴木其一「夏秋渓流図屏風(左隻)」(※10/10~10/30)

抱一は、どうしても宗達・光琳に次ぐ三番手的な位置でとらえられることも多く、あくまでも琳派の“継承者”というイメージが強いように思うのですが、こうして見てみると、宗達・光琳の京都の琳派と抱一以降の江戸の琳派は大きく違っているということが良く分かります。確かに抱一は光琳を介し、琳派を再創造したわけですが、そこには洗練された、粋な江戸文化の香りを感じることができると思います。

酒井抱一「四季花鳥図屏風(右隻)」 (※10/25~11/13)

総展示作品数300を超え、途中展示替えもあります。個人蔵や初出展作も多く、抱一の作品をこれだけまとめて観る機会はしばらく先そうそうないんじゃないでしょうか。「千葉、ちょっと遠いな」と思っても琳派ファンなら観に行く価値は十分にあると思います。ちなみに図録はアマゾンほか、一般書店でも購入可能です。


【生誕250年記念展 酒井抱一と江戸琳派の全貌】
千葉市美術館にて
2011年11月13日(日)まで

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