引き続き昼の部。
今月の昼は『天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)』の通し狂言です。
通常は悪漢坊主・河内山宗俊を主役にした『天衣紛上野初花 河内山』と、御家人くずれの片岡直次郎を主役にした『雪暮夜入谷畦道』として別々に上演されることの多い狂言ですが、今回は通しでの上演。
通しの場合は『河内山と直侍』と通称で呼ばれ、5年前にも国立劇場で上演されていますが、序幕の「湯島天神境内の場」から大詰めの「池の端河内山妾宅の場」まで全てを通しで上演するのは昭和60年以来! 通しといってもここまでの通しはなかなかお目にかかれないようです。
実は、昨年、歌舞伎座で『河内山』の「松江邸広間より玄関先まで」を観ていて、その前にも同じ幕をテレビで観ていますが、個人的にはちょっと退屈な部類に入る出し物でした。しかも今回は自分の苦手とする幸四郎。菊五郎と時蔵の直侍と三千歳見たさにチケットを取ったものの、一抹の不安を抱えながら、新橋演舞場へ向かいました。
一幕でかかる『河内山』は、出雲守・松江侯のもとで奉公している上州屋の一人娘・浪路が松江侯から妾になるよう迫られ、家に返してもらえないと知った江戸城のお数寄屋坊主(茶坊主)・河内山が、上野寛永寺の使僧と偽って松江屋敷に乗り込み、娘を取り返すというストーリー。今回は通しということで、その前後も語られるというわけです。
前の場面では、金の無心に質屋・上州屋を訪れた河内山が浪路の話を聞き、礼金200両と引き換えに娘を連れ戻すことを請け負います。次の幕で直次郎と恋仲の花魁・三千歳の挿話があって、その次が「松江邸」。そしてあとの場面では再び直次郎と三千歳の逢瀬が描かれ、そして最後の大詰を迎えます。やはり前後の幕があると、話の筋が全て繋がっていくので、まず背景が頭に入ってくるし、登場人物の役柄や人間関係も良く理解できて、とても分かりやすかったと思います。前回退屈でしょうがなかった「松江邸」も今回は非常に面白く感じました。
楽しみだった菊五郎と時蔵の直侍と三千歳も、やはり持ち役だけあり、観ていて安心。思ったとおり素晴らしかったです。「松江邸」では、松江出雲守の錦之助が出色で、独裁的で我がままな嫌な殿様を巧く演じていて、非常に良かったと思います。“ああいう殿様だから”というのが頭にあるので、まわりの彦三郎、錦吾、高麗蔵、そして梅枝も役が生きてきて、また河内山の登場も悪でありながらもヒーロー的な雰囲気が出て、リアルな「松江邸」になった気がします。上州屋の後家おまきの秀太郎や蕎麦屋での按摩丈賀の田之助、蕎麦屋の徳松といった周りの役者も傑作で、当初の不安や予想に反して(?)、非常に満足度の高い今月の歌舞伎でした。
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