2010/11/16

吉例顔見世大歌舞伎・夜の部

今月の新橋演舞場は“顔見世”と銘打つ割には、あまり役者が揃っておらず、また演目も少々地味なんですが、珍しく自分は昼の部も夜の部も観に行くことになりました。

さて、まずは夜の部、『ひらかな盛衰記』(逆櫓)。
義経が木曽義仲を討伐する話を背景とした歌舞伎を代表する義太夫狂言の一つです。船頭松右衛門に幸四郎、その義父・権四郎に段四郎、お筆に魁春、およしに高麗蔵と、華はないものの手堅い役者でまとめられた印象。幸四郎は(いつものことですが)自分に酔ったようなモゴモゴした台詞回しで聴きづらいのが難点ですが、周りの役者も手伝って、芝居は満足のいく内容でした。ただ、第二場の立ち廻りが、幸四郎の動きが鈍く、迫力に欠けるというか、精彩がないというか、なんだか間延びしてしまい、全然緊迫感のないものになってしまったのがとても残念。まぁ、年齢のことを考えるとしょうがないのかもしれません。ただ、ダレた感じも、最後の天王寺屋の登場で一気に引き締まったのはお見事。幸四郎より一回りも年上の富十郎のあの元気はすごいものです。

続いては20分ぐらいの短い舞踊で『梅の栄』。
前半は、種太郎、種之助、米吉、右近という次世代を担う御曹司たちが踊り、後半は芝翫と孫の宜生が登場するという趣向です。若い4人は、種太郎を除いてはみんなまだ10代で、年長の種太郎と舞台経験の多い右近は見れたものの、他は顔見世の舞台で踊らせるのはどうかと思うような内容。芝翫も、さよなら公演で孫と踊っただろうにまたかという感じ。去年の『雪傾城』で成駒屋の孫の中ではまだ筋の良かった宜生に今回白羽の矢が立ったのがまだ救いでしたが(とはいえ、まだ9歳…)、こういうのは大歌舞伎ではなく、成駒屋の発表会や俳優協会のイベントのようなところでやってもらいたい。ファンとしては、芝翫ならではの舞踊が見たいものだし、余程『逆櫓』や昼の『河内山』でもいいから狂言の方に出て欲しかった気がします。

最後は、菊五郎劇団による今月の眼目『都鳥廓白浪』(忍ぶの惣太)。
京の吉田家でお家騒動が起こり、嫡子松若丸は行方知れず。弟・梅若丸は江戸まで逃げ延びますが、目の不自由な忍ぶの惣太に誤って殺されてしまいます。忍ぶの惣太は実は吉田家の家臣で、家宝・都鳥の印を手に入れるものの、今度は傾城花子に中身をすり替えられてしまい、その花子は盗賊・霧太郎の仮の姿で実は松若丸だったという「実は…実は…」のオンパレードな河竹黙阿弥の白浪物です。

自分にとって、歌舞伎座さよなら公演以来の菊五郎・菊之助・時蔵とあって、非常に楽しみにしていました。誰々が実は何々でという芝居は歌舞伎には多くありますが、『忍ぶの惣太』はそういう登場人物がかなりいて、しかも展開が結構スピーディーなので、付いていくのもちょっと大変でしたが、見せ場も多く、申し訳ないけど『逆櫓』と違って役者に華があって、存分に楽しめました。また、萬次郎や團蔵、そして歌六と脇を締める役者も申し分なし。丑市の内縁の妻役の芝喜松が好演していて、同じく女に現を抜かす夫を持つお梶の時蔵が淡白な演技でちょっと物足らなかったのに比べ、芝喜松はこってりと芸達者なところをみせ笑わせてくれました。最後の“おまんまの立廻り”も、花子初役の菊之助が力を入れているだけあり、見どころ十分。菊五郎が霧太郎のちょっと間の抜けた手下・峰蔵として登場するのですが、菊五郎らしい可笑しみたっぷりで、最後の最後まで飽きさせませんでした。

昼の部の感想はまた後日。

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