2014/02/02

人間国宝展

『クリーブランド美術館展』につづき、おなじ東京国立博物館・平成館で開催中の『人間国宝展 生み出された美、伝えゆくわざ』を観てきました。

トーハクの平成館で開催される特別展は、平成館2階が会場になりますが、今回の展覧会は2階の会場を半分に分け、階段を上がって左手の第1・2室で『クリーブランド美術館展』、右手の第3・4室で『人間国宝展』が開かれています。

本展は、陶芸、染織、漆芸、金工、木竹工、人形などの重要無形文化財保持者(人間国宝)の内、物故者104名の工芸作品に加え、いにしえの時代から連綿と伝えられてきた国宝や重要文化財を含む約40点の古典的名品を併せて展示。一階で同時開催されている『人間国宝の現在(いま)』と合わせると、人間国宝に認定されている全ての方(刀剣研磨、手漉和紙を除く)の作品が観られるというからスゴイ。

訪れた日は平日だったのですが、『クリーブランド美術館展』は比較的空いていて、ゆとりで観ることができたのに対し、こちらの『人間国宝展』はとても賑わっていて、関心の高さがうかがえました。


第一章 古典への畏敬と挑戦

まずは国宝や重要文化財などの日本工芸史に残る傑作と、そうした伝統技術の継承と伝統の創出に挑む現代の工芸作家の作品を、<古に想う> <桃山の茶の湯> <江戸工芸の豊饒> <民芸から学ぶ> <中国陶磁への憧れ> <古典の名品> にパートを分けて展示。この章だけで出品作品の約半分強が紹介されています。

「志野茶碗 銘 広沢」 (重要文化財)
安土桃山~江戸時代・16~17世紀 大阪・湯木美術館蔵

ここでは、たとえば志野茶碗なら志野茶碗、備前なら備前で、過去の名工による古典的名品と人間国宝による現代の名品を並べて展示するという構成になっています。古典的名品は美術品としての美しさ、文化財としての貴重さはもちろん、完成された素晴らしさがあるのですが、現代の名工による作品がどれも何百年、何千年も前の作品と何一つ変わらず劣らず、伝統を確かに継承し、時に復活させ、創造していることに驚きました。

「片輪車蒔絵螺鈿手箱」 (国宝)
平安時代・12世紀 東京国立博物館蔵

それにしても古(いにしえ)の工芸品のレベルの高さ。正倉院御物や奈良時代に途絶え幻になった織物などがありましたが、現代の技術をもってしても復活させることが困難だったり、やっとのことで創り出せたものが千年以上も昔に現実に存在していたわけで、それを考えるとやはり日本は古代から“ものづくり”の国なのだなと思います。一方で、復活できない技術、失われた技術もあるはずで、そうした伝統が途絶えていくことの悲しさもあらためて痛感しました。


第二章 現代を生きる工芸を目指して

備前焼や有田焼、青磁、友禅、蒔絵、彫金、木工芸、桐塑人形など日本の伝統工芸を、ただ伝統の引き継ぐだけでなく、そこに時代の表現を取り入れた作品を紹介しています。

高橋敬典 「八方面取姥口釜」
昭和61年(1986) 東京国立博物館蔵

新奇な物とか、奇を衒った物とかではなく、あくまでも伝統的な工芸品の枠から外れることなく、デザインや表現、素材といったところで現代性を出そうという現代の職人たちの努力とセンスが光ります。

平田郷陽 「抱擁」
昭和41年(1966) 個人蔵

個人的に面白いなと感じたのが高橋敬典の「八方面取姥口釜」で、なんとも形容しがたい形状の釜ですが、色合いや風合いといい、姿といい、とても日本的で、古くて新しい感じがします。平田郷陽も実家に写真集があったのでよく知ってはいましたが、こうして実物を観ると、その質感、丁寧な表現力に感心しきりです。ほかに、市橋とし子の桐塑人形や山田貢の友禅、宗廣力三の絣着物なども強く印象に残りました。


第三章 広がる伝統の可能性

ここではさらに個性や創作性など、伝統の概念を覆す造形的な作品を紹介。伝統工芸は何も古い伝統や型に縛られた物ばかりではないのです。

佐々木象堂 「三禽」
昭和35年(1960) 東京国立近代美術館

生野祥雲齋のダイナミックな竹華器、徳田八十吉の久谷の耀彩壺、佐々木象堂のプリミティブな青銅の置物など、ユニークな作品が並びます。

人間国宝たちの作品を観ていて、中村勘三郎の「型があるから“型破り”、型がないのは“カタナシ”」という言葉を思い浮かべました。伝統をしっかり受け継ぎ、基礎があり、その精神を大切にしているからこその新たな表現なのだと作品を観ていてつくづく感じます。

生野祥雲齋 「怒濤」
昭和31年(1956) 東京国立近代美術館蔵

人間国宝による伝統工芸品というと、古くさい、退屈な、というイメージがあったのですが、そうした固定観念がガラリと覆される非常に勉強になる展覧会でした。多くの作品が国立博物館などの所蔵品になっていて、将来その技術や美しさがさらに評価され、こうした作品の中から新たな国宝や重要文化財も生まれるのでしょう。

同じ平成館一階の企画展示室では『人間国宝の現在(いま)』と題した特集陳列が同時公開されています。『人間国宝展』は物故者が中心なのに対し、こちらでは現在も活躍する重要無形文化財保持者53人の作品を展示しています。

桂盛仁 「森閑」
平成10年(1998) 文化庁蔵

『人間国宝展』は伝統技術の頂点、技巧の極みの見本市といった感じで、どの作品一つとっても非の打ちどころがなく、観ていてお腹いっぱいになります。しかも、二階半分ってこんなに広かったっけ?と思うくらいの物量です。一階の現役人間国宝の企画展示と合わせ、いっそのこと二階のフロアー全てを使って開催してくれてもよかったのではないかとも思いました。写真で観るのと実物を観るのは大違い。行かなきゃ損するレベルのオススメの展覧会です。


【日本伝統工芸展60回記念 人間国宝展―生み出された美、伝えゆくわざ― 】
2014年2月23日(日)まで
東京国立博物館にて


季刊炎芸術 117号季刊炎芸術 117号


人間国宝事典 工芸技術編人間国宝事典 工芸技術編

クリーブランド美術館展

東京国立博物館で開催中の『クリーブランド美術館展 名画でたどる日本の美』に行ってきました。

いま、上野では≪日本美術の祭典≫と題し、東京国立博物館と東京都美術館のコラボレーションで日本美術に関する三つの美術展が開催されています。

もう少し早く来たかったのですが、なかなか忙しく、2月は2月で予定があったり、他の美術展も始まるしで、平日に有休を取って、3つの展覧会を一日で回ってまいりました。

で、トーハクの『クリーブランド美術館展』から。

クリーブランド美術館はオハイオ州のクリーブランドにある美術館で、同じアメリカのボストン美術館やメトロポリタン美術館に匹敵する充実した日本美術コレクションを誇るともいわれています。

本展では、平安から室町、江戸時代に至るまでの約40点のクリーブランド美術館所蔵の日本美術に加え、特別出品として中国絵画や近代西洋画も紹介されています。


神・仏・人

会場に入ると、いきなり俵屋宗達の工房による「雷神図屏風」がドーンとお待ちかね。宗達の「風神雷神図屏風」を彷彿とさせる野性味ある雷神です。恐らく本来は風神を描いた屏風もあったのでしょう。そう考えると、宗達の屏風との関連性も気になります。両隻揃っていたら、さぞかし見応えがあったでしょうね。

伊年・印 「雷神図屏風」
江戸時代・17世紀

つづいては仏画。「文殊菩薩及び眷属像」、「地蔵菩薩像」、「仁王経曼荼羅」あたりは状態の良さや繊細な線描の美しさなどなかなかの逸品です。「二河白道図」は鎌倉時代の貴重な現存例の一つとのこと。トーハク本館でも同時代の「二河白道図」(重要文化財)が展示(2/9まで)されています。両者に大きな違いはありませんが、クリーブランド本の方が状態は良く、制作はトーハク本の方が古いようです。(トーハクの「二河白道図」はこちらをご参照ください)

「二河白道図」
鎌倉時代・13~14世紀

絵巻が2点。「福富草紙絵巻」は放屁合戦で有名な爆笑絵巻。福富の妻の恐妻家ぶりもパネルで紹介されていて思わず笑ってしまいました。もうひとつの「融通念仏縁起絵巻」は鎌倉時代の絵巻の正統的な描法で描かれているとのこと。展示は下巻のみで、同絵巻の上巻はシカゴ美術館にあるそうです。「融通念仏縁起絵巻」も同題の絵巻がトーハク本館に参考展示(2/9まで)されていて、北白河の下僧の妻が死んで閻魔庁に連行される場面は両者で異なるのですが、名主の家に異形の疫神が集まる場面はほぼ同じでした。

「福富草子絵巻」(部分)
室町時代・15世紀

ほかに、岩佐又兵衛の晩年の作品とされる「琴棋書画図」は又兵衛らしい風俗描写が秀逸。河鍋暁斎の「地獄太夫図」は太夫の妖艶な美しさもさることながら、地獄変相図を描いたといいつつも地獄に見えない華やかな着物が一見の価値ありです。

河鍋暁斎 「地獄太夫図」
明治時代・19世紀

凛とした美しさが印象的な「霊昭女図」、宮川長春の肉筆浮世絵「遊宴図」、室内で踊る男女を障子に映る影で表現した山本梅逸の「群舞図」、背が七尺五寸(約227cm)あったという熊本藩お抱え力士を描いた渡辺華山の「大空武左衛門像」など、見どころの多い作品が並びます。

春屋宗園・賛 「霊昭女図」
室町時代・16世紀


花鳥風月

ここでまず面白かったのが没倫紹等の作と伝わる「南瓜図」。蟻のような、ラスコーの洞窟壁画の人間のような、不思議な生物がカボチャを引っ張るという図で、巨石を引く儀礼や祭礼を戯画化したものではないかと解説にありました。没倫紹等というと一休和尚の弟子で、一休さんの肖像画の作者としても知られる禅僧ですが、これも何か禅画的な意味があるのでしょうか。気になるところです。

伝没倫紹等 「南瓜図」
室町時代・15世紀

ここでは、右隻を狩野松栄、左隻を狩野光信が手がけたのではないかとされる「四季花鳥図屏風」、なんとなく等伯の「松林図屏風」への対抗意識が見えなくもない伝・海北友松の「松に椿・竹に朝顔図屏風」、雪村の「龍虎図屏風」となかなかの傑作が揃っていました。雪村は同題の屏風が根津美術館にもあり、龍虎の描写は両者酷似していますが、背景はクリーブランド本の方が余計なものがそぎ落とされ風の勢いを感じさせます。

雪村 「龍虎図屛風」
室町時代・16世紀

興味深かったのが、作者不詳の「厩図屏風」と「薄図屏風」の二つの室町時代の屏風。「厩図屏風」はトーハク所蔵の「厩図屏風」(重文)より古い作品とのことで、できれば比較して観たかったなと思いました。「薄図屏風」はそのシンプルさといい、装飾性といい、この時代にこんな洗練されたミニマルな屏風があったのかと驚きます。

「薄図屏風」
室町時代・16世紀


物語世界

ここでは『伊勢物語』など物語の一場面を絵画化した作品を展示。渡辺始興の「燕子花図屛風」は、師・尾形光琳の同題屏風のオマージュな訳ですが、花や葉に白い模様や線を入れたり、風の揺れを表現したりと、他によくある模倣作品と違い、独自のオリジナリティを出そうとしているところがあって個人的には好感を持ちました。

渡辺始興 「燕子花図屛風」
江戸時代・18世紀

同じく『伊勢物語』の一場面を描いた深江蘆舟の「蔦の細道図屛風」もこの機会にぜひ観たい作品。蘆舟は始興と同じく光琳に師事した琳派の絵師で、本図とほぼ同じ構図の作品がトーハクに所蔵されていて、こちらも本館で展示(2/23まで)されています。

深江蘆舟 「蔦の細道図屛風」
江戸時代・18世紀


山水

途中≪近代西洋の人と自然≫という近代西洋画の展示コーナーを挟み、最後は山水画。まず最初に登場するのが中国絵画で、特に南宋院体画を代表する馬遠の「松渓観鹿図」が絶品。ダイナミックな雨の描写が素晴らしい明の呂文英の「江村風雨図」も見ものです。

伝・天章周文 「春冬山水図屛風」
室町時代・15世紀

ほかにも、周文と伝わる「春冬山水図屏風」や相阿弥の「山水図」、蕭白の相変わらず濃厚かつ細密な「蘭亭曲水図」、上が金地、下が銀地の屏風に連山を描いた呉春の「青天七十二芙蓉図」、また作者不詳の「琴棋書画図屏風」(狩野派か?)など非常にレベルの高い作品が多く、ため息ものでした。

曽我蕭白 「蘭亭曲水図」
江戸時代・安永6年(1777)

平成館の特別展会場の半分のスペースということもあり、作品数は決して多くなく、またなぜか西洋画があったりと、少しまとまりに欠ける感もなきにしもあらずですが、そこはやはりアメリカ屈指の日本美術の宝庫だけあり、傑作・優品が揃って素晴らしいものがあります。アメリカに行ってもなかなか不便な場所にあるクリーブランドからこうして貴重な作品が来日してるので、日本美術ファンなら見逃したくはない展覧会だと思います。


【クリーブランド美術館展 名画でたどる日本の美】
2014年2月23日(日)まで
東京国立博物館にて


一生に一度は見たい日本美術 (別冊宝島 2119)一生に一度は見たい日本美術 (別冊宝島 2119)


2014/01/19

木島櫻谷展

泉屋博古館分館で開催中の『木島櫻谷展 -京都日本画の俊英-』に行ってきました。

昨年、先に京都の泉屋博古館で開催され、ツイッターやNHKの日曜美術館などでその評判を目にし、ぜひ拝見したいなと思っていた展覧会です。

木島櫻谷(このしま おうこく)は、明治・大正・昭和と活躍した京都画壇を代表する画家の一人で、一時は竹内栖鳳と人気を二分したともいいます(年齢的には栖鳳の一回り下にあたります)。

本展は櫻谷の作品を <青年期> <壮年期>に大きく分け、各時代の代表作を展示しているほか、泉屋博古館が住友財閥の蒐集した美術品を展示する美術館ということで、住友家ゆかりの櫻谷作品を紹介。東京では初の櫻谷展なのだそうです。


青年期

櫻谷は公家に茶道具や調度品を納める商家に生まれ、16歳の頃、京都画壇の大家で円山四条派の今尾景年のもとに弟子入りしたといいます。(余談ですが、今尾景年の作品は東京国立博物館や山種美術館で拝見していますが、前々から個人的に気になっていて、一度まとめて作品を観たいところです。)

木島櫻谷 「奔馬図」
明治時代

会場を入ってすぐのところで出迎えてくれたのが、櫻谷27~28歳の頃の作品という「奔馬図」。「奔馬図」は、円山応挙が生み出したという没骨技法で、墨の濃淡を一筆で表現する付立(つけたて)で描かれています。迷いのない筆の勢いと的確な描写力。午年ということでの展示なのでしょうが、馬の生き生きとした躍動感が伝わる逸品です。

櫻谷は円山四条派が得意とした花鳥画や山水画、動物画から、歴史画まで幅広いレパートリーを持っていたといいます。どうも歴史画は好きだったようで、「剣の舞」や、夭折した弟の草稿をもとに仕上げたという「一夜の夢」など腕の良さを感じさせる作品がありました。

木島櫻谷 「咆哮」
明治35年(1902年) 石川県立美術館蔵 (展示は1/26まで)

木島櫻谷 「和楽」
明治42年(1909年) 京都市美術館

そうした中で、櫻谷の技量、面白さが一番出ているのが動物画で、四条派の伝統的な写生力、天性の観察眼と表現力は卓越したものがあるなと感じます。「咆哮」は逃げ惑う鹿の群れと追う虎を描いた作品で、虎は素早い筆致で大胆かつ技巧的に、鹿はより写実的で丁寧に描き分けています。櫻谷のズバ抜けた巧さが良く分かり、非常に素晴らしいものがありました。こうした颯爽とした筆さばきは30代前半頃までの特徴だそうです。

一転、「和楽」の穏やかな農村の風景と、のんびりとした牛の描写も秀逸。

木島櫻谷 「寒月」
大正元年(1912年) 京都市美術館蔵 (展示は1/11~1/19、2/1~2/16)

櫻谷の代表作の一つがこの「寒月」で、夏目漱石が酷評した絵としても知られています。昨年、東京藝術大学美術館で開かれた『夏目漱石の美術世界展』でも紹介されていたのですが、後期展示だったため未見で、今回初めて目にすることができました。漱石は不愉快だと語っているようですが、竹林の黒さと雪の白さのコントラストが美しく、モノクロームの世界はモダンな様式美さえ感じさせます。竹は竹の、雪は雪の、下草は枯れ草の、狼の毛は獣の、そうした物体の質感が伝わってきます。よく見ると下草は墨に黒青色を重ねていたり、とても繊細に表現しています。

木島櫻谷 「しぐれ」
明治40年(1907年) 東京国立近代美術館蔵 (展示は1/21~2/9)

2期と3期には「寒月」に代わり、櫻谷の代表作「しぐれ」が展示されます。


壮年期

30代後半以降の作品は、西洋絵画の影響を受けているのか、顔料を厚く塗るなど油彩画のような筆致を見せ、より精緻で端正な作風に変化を遂げます。

「葡萄栗鼠」は葉を付立で描きつつも重ね塗りして質感を加え、リスは写実的に毛の一本一本まで丁寧に描くなど独自の試みがされています。「獅子」はまるで油彩画のような精緻な描写で、栖鳳の獅子の絵を思わせる力強さとリアルさがあります。

木島櫻谷 「葡萄栗鼠」
大正~昭和時代

木島櫻谷 「獅子」
大正~昭和時代 櫻谷文庫蔵

動物画ではほかに、草陰から顔を覘かせるタヌキのとぼけた顔がかわいい「月下老狸」や、毛の粗さと細密な頭部の描写が素晴らしい「野猪」が印象的。櫻谷の動物画はどれも表情に感情が出ているというか、目が何かを語っているというか、ここまで動物の内面を描き出す画家もそうはいないと思います。

木島櫻谷 「画三昧」
昭和6年(1931年) 櫻谷文庫蔵 (展示は1/26まで)

昭和に入ると櫻谷は画壇から一定の距離を取るようになり、静かに制作活動に専念する生活を送ったといいます。「画三昧」はそうした櫻谷自身を描いたものとかで、絵を描き終えたところなのでしょうか、何かの境地に達したような、どこか恍惚とした表情が印象的です。

この時期の作品で良かったのが、南画の影響を感じさせる「幽渓秋色」(参考出品)や 「峡中の秋」で、特に「峡中の秋」は晩秋の山や樹木の色彩、山肌の質感に熟達した技量が遺憾なく発揮されています。

木島櫻谷 「峡中の秋」
昭和8年(1933年) 櫻谷文庫蔵 (展示は1/26まで)


四季の金屏風

展示室2では、住友家の邸宅を飾った櫻谷の作品が展示されています。櫻谷曰く琳派風とのことですが、琳派というより応挙の「雪松図屏風」を思い起こさせる「雪中梅花」や、華麗で典雅な「柳桜図」、光琳の屏風を再現した「燕子花図」、伊年あたりの草花図屏風を彷彿させる「秋草図」など、どれもとても華やか。このあたりは大正時代の琳派ブームの影響もあるのでしょう。ここまで金屏風が集まると壮観です。

木島櫻谷 「柳桜図」
大正6年(1917年) 泉屋博古館分館蔵

個人的な好み、評価もあると思いますが、私自身は明治から大正にかけての作品は筆勢が生む息づかいと天性の表現力があって特に面白いと感じました。会場のホールに「まぼろしの優品」という写真パネルがあり、どれもみんな素晴らしい屏風ばかりで、これがまた驚きでした。震災や戦災で失われたり、海外流出だったり、行方不明だったりということなんでしょうか。櫻谷の代表作の「若葉の山」もあって、こうした作品が観られないことはつくづく残念だなと思いました。


【木島櫻谷展 -京都日本画の俊英-】
2014年2月16日まで
泉屋博古館分館(東京・六本木)にて

2014/01/15

Kawaii 日本美術

山種美術館で開催中の『Kawaii 日本美術 -若冲・栖鳳・松園から熊谷守一まで-』に行ってきました。

無邪気な仕草や表情が微笑ましい子どもや、身近な存在である犬や猫をはじめとする動物、鳥、虫などを描いた、思わず「かわいい!」と声を上げたくなるような作品を集めたといいます。

去年、府中市美術館で似たような展覧会がありましたので、なんでまた?対抗意識?とも思いましたが、府中ともまた違った、山種美術館の所蔵作品を中心とした独自のラインナップなのだろうと期待し、正月早々、開催初日に伺ってまいりました。

会場に入ってすぐのところに待ち構えていたのが、チラシにも使われている若冲の「伏見人形図」。プライス・コレクションにも同題のものがありますが、図録で写真を比べても全く一緒ですね。ほかに個人蔵の「伏見人形図」もあって、数年前の千葉市美術館の『伊藤若冲 アナザーワールド』に出てたのはこちらのようです。余程人気があっていくつも描いたのでしょう。

伊藤若冲 「伏見人形図」
1799年(寛政11年) 山種美術館蔵 

となりには芦雪と伝わる「唐子遊び図」。古くから高士たちのたしなみといわれる琴棋書画を子どもの遊びに見立てて描いた作品です。師匠・応挙の言うことを聞かない芦雪。言うことを聞かなくてもこれだけ見事な作品を描けるのだからすごいものです。

伝・長沢芦雪 「唐子遊び図」(重要美術品)
18世紀(江戸時代) 山種美術館蔵 

子どもを描いた作品の中では、伊藤小坡の「虫売り」、奥村土牛の「枇杷と少女」、松園の「折鶴」あたりが印象的でした。

上村松園 「折鶴」
1940年(昭和15年)頃 山種美術館蔵 

奥村土牛 「枇杷と少女」
1930年(昭和5年) 山種美術館蔵 

その中でとりわけ面白かったのが、川端龍子の「百子図」で、戦後インドから上野動物園に贈られた象・インディラと子どもたちを描いた作品です。戦争で動物のいなくなった上野動物園に象が欲しいという子どもたちの願いと、象が子どもたちと一緒に行進して動物園にやってきたというエピソードに触発されて描いたといいます。平和の象徴のように象を取り囲む子どもたちとは裏腹に象の目が怖い(笑)という龍子らしいインパクトのある作品です。

川端龍子 「百子図」
1949年(昭和24年) 大田区立龍子記念館 

動物を描いたものとしては、京狩野派の狩野永良の「親子犬図」が個人的にとても興味を引きました。狩野派的な動物画というより中国絵画的な写生画という趣きですが、じゃれあう仔犬たちを囲むアットホームな雰囲気の中にも仔を守らんとする親犬の緊張感もあり、永良の画技の確かさを感じさせます。

狩野永良 「親子犬図」
18世紀(江戸時代) 静岡県立美術館蔵 (展示は2/2まで)

山種美術館の展覧会だけあり、栖鳳や土牛、川合玉堂、安田靫彦、堂本印象、西山翠嶂などのお馴染みの面々の作品が並びます。山種美術館所蔵作品の中では、福田平八郎の「桐双雀」が一番好きでした。

竹内栖鳳 「みゝづく」
1933年(昭和8年)頃 山種美術館蔵 

サントリー美術館から借りてきたお伽草子の絵巻も2点。老夫婦が育てた娘が猿にさらわれてしまうという「藤袋草子絵巻」と、子どもを亡くした雀が出家するという「雀の小藤太絵巻」で、一昨年サントリー美術館で開催された『お伽草子展』にも出展されていたものです。この素朴さとユーモラスな動物の描写がたまらなくカワイイですね。

「藤袋草子絵巻」
16世紀(室町時代) サントリー美術館蔵 

ほかに、若冲の「托鉢図」は初めて観たと思うのですが、若冲らしいユニークな筆致で、なんとも楽しい。お坊さん一人一人の表情に味があって、思わず笑ってしまいます。

伊藤若冲 「托鉢図」
1793年(寛政5年)(展示は2/2まで)

第二会場では近現代の作品を中心に展示。その中でも熊谷守一と谷内六郎の作品が複数点展示されていて、そのほのぼのとしたタッチに思わずほっこりとした気持ちになります。

谷内六郎 「にっぽんのわらべうた ほ ほ ほたるこい」
1970年(昭和45年)頃 

正直、この絵のどこがカワイイの?みたいな、ちょっとビミョーな絵もなくはありませんでしたが、企画の主旨からしても難しく考えて観るような作品はなく、楽しい気分、優しい気持ちにさせてくれるような展覧会だと思います。


【Kawaii 日本美術 -若冲・栖鳳・松園から熊谷守一まで-】
2014年3月2日(日)まで
山種美術館にて


谷内六郎 昭和の想い出 (とんぼの本)谷内六郎 昭和の想い出 (とんぼの本)


熊谷守一―気ままに絵のみち (別冊太陽)熊谷守一―気ままに絵のみち (別冊太陽)


かわいい江戸絵画かわいい江戸絵画

2014/01/13

百物語 第三十一夜


岩波ホールで白石加代子の『百物語 第三十一夜』(第96話・第97話)を観てきました。

『百物語』は毎回観てるわけではありませんし、しばらくぶりなのですが、今回は成瀬巳喜男が映画化もした林芙美子原作の『晩菊』と、山田五十鈴のあたり役として知られ、歌舞伎でも中村勘三郎が復活させ話題になった『狐狸狐狸ばなし』という、映画ファンの食指も動く2本立て。岩波ホールの公演は2日だけ。しかも席数も少ないので、いつも激戦。なんとかチケットを確保し、観に行って参りました。

まずは『晩菊』。ちょうど成瀬の映画の、元芸者の杉村春子と彼女のもとを訪れる昔の恋人・上原謙との場面にあたります。舞台では白石加代子が一人二役で演じます。

容色も衰えた元芸者の女のもとに昔恋仲だった年下の男から電話が入ります。懐かしい恋人に会えるということで、急いで肌を整えたり化粧をしたりと、まるで若い娘のように嬉々とする姿がかわいい。しかし、男にかつての輝きはなく、実はお金を借りに来たことを知り、一気に気持ちが醒めてしまいます。そうした女性の恋心の機微を繊細に表現し、知らず知らず白石ワールドに引き込まれていきます。

映画では彼女が金貸しで、折角会えた男もお金のことで訪ねて来たのかと落胆しますが、原作には金貸しの件はなく、舞台はあくまでも老境を迎えた女と、事業が失敗し年齢以上に老け込んだ男の心理描写をいかに演じ分けるかにかかってます。ただ、まだ練り上げ不足だったのか、白石さんも珍しく台詞を何度か噛んだり、少し淡々としたところもあり、ラストは原作通り(映画版とは異なる)なのですが、いまひとつパッとしませんでした。幕が下りて始めて芝居が終わったことを分かった人もいたようです。まぁ、まだ公演2日目だったので、このあたりはもっと良くなることでしょう。

20分の休憩を挟んで次は『狐狸狐狸ばなし』。もとは山田五十鈴、森繁久彌、三木のり平、十七世中村勘三郎という超豪華な役者が揃い、大ヒットした舞台。当時は歌舞伎でも山田五十鈴を主演に迎え、舞台化もされてるんですね。

こちらは一人五役の大奮闘。白石加代子の“らしさ”が出て痛快です。舞台中央の座卓を前に語るだけの『晩菊』と違って、舞台を縦横無尽に動き回る忙しさ。登場人物はもちろん声色で演じ分けるのですが、着物を左右に片袖ずつ通して、誰なのか目でも分かるような工夫もされていました。演じてる本人や裏方さんは大変そうでしたが、観てる私は存分に笑わせてもらいました。

岩波ホールでの百物語の公演はこの日が最後の舞台とのことで、カーテンコールで挨拶された白石さんもとても感慨深げでした。だって第一回公演から岩波ホールなんですもんね。朗読劇を観るには岩波の大きさ(小ささ)はちょうど良かったんですけど…。

次回はいよいよ最終夜。100話すると何かが起こるんで99話でおしまいにしますって。


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