2024/12/31

2024年 展覧会ベスト10

一年ぶりの更新。さて、今年もこの日がやってきました。今年の展覧会ベスト10です。

カレンダーにつけた展覧会の数を見ると、今年は約80の展覧会を観に行ったみたい(ギャラリー系は除く)。去年が約70だったので、若干多く観られたようですね。

今年は東京近郊以外では、大阪、京都、岐阜、群馬まで足を伸ばすことができましたが、一方で彫刻の森美術館の『舟越桂展』や横須賀美術館の『運慶展』といった郊外の美術館で見逃してしまった展覧会がいくつかありました。最終日に駆け込んだ展覧会も多く、観たいときになかなか観に行けないということが多くなりました。

そんな今年のベスト10はこんな感じです。

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1位 『没後50年 福田平八郎』(大阪中之島美術館)


大正から昭和にかけて活躍した日本画モダンの第一人者、福田平八郎の回顧展。山種美術館で福田平八郎の展覧会があったのが2012年。代表作の「漣」はそのときに初めて観たのですが、あの展覧会の感動は未だ忘れられません。平八郎の魅力に惹きつけられ、それ以来大好きな画家です。ここまで規模の大きい福田平八郎展は初めてとのことで、代表作はもちろん、初期から晩年まで作品が充実していました。写実を極めた先の、対象の本質を残しつつ簡素化していく過程がよく分かる大変素晴らしい展覧会でした。

若い頃から構図や色彩のバランス感覚は抜群。湖面のさざなみを描いた「漣」をはじめ、積もった新雪がまだ柔らかな白い地面や、凍ったり溶けたりを繰り返したような薄く張った氷、大粒の雨が降り出したばかりの屋根瓦など、その題材もユニークだし、トリミングした構図も絶妙だし、固定観念にとらわれない色彩感覚も見事だし、どの作品も想像の上を行く驚きと新鮮さがあって、現代的な目線で見ても面白く、とても感動しました。



2位 『雪舟伝説 -「画聖カリスマ」の誕生-』(京都国立博物館)


雪舟の展覧会ではないけれど、雪舟の国宝・重文など主だった作品が一堂に介す機会はそうそうなく、ここまでまとめて観られるのは22年前の『雪舟展』以来なんじゃないかと思います。とはいえ、代表作は数年に一度レベルでは割と観る機会があり、過去に何度か拝見している作品も多いので、そんなに騒ぐ話ではないのですが、今回何より凄いのは、雪舟に影響を受けた絵師やその作品が数多く集められている点にあって、近世の雪舟受容の様相を知る上で非常に充実した展覧会になっていました。

長谷川派や雲谷派、狩野派の雪舟学習については過去の展覧会などで知っていますが、今回は雪舟の実際の作品を観た上で、それぞれの受容を比較したり、どう展開されていったのかをこの目で観ることのできるまたとない機会となりました。等伯や等顔が雪舟の後継者を名乗っていたのは有名ですが、自称・雪舟十二世の桜井雪館という絵師がいたことや、山口雪渓の「雪」の字が雪舟から取られていたことなど初めて知ることも。面白かったのは、江戸時代の絵師たちが実際は雪舟ではない作品を雪舟と信じて模倣していたり、雪舟が中国画から学んだことを後世の絵師たちが雪舟を通して漢画学習として学んでいたり、興味深い点が非常に多くありました。



3位 『源氏物語 THE TALE OF GENJI -「源氏文化」の拡がり 絵画、工芸から現代アートまで-』(東京富士美術館)


『源氏物語』を題材にした源氏絵の展覧会は珍しくないけれど、ここまで充実した展覧会があっただろうかというぐらいの充実ぶり。トーハクでやってもおかしくないレベルだったと思います。展覧会は大きく二つの構成になっていて、五十四帖のストーリーに沿って、土佐派や住吉派による画帖や絵巻などを観ていくコーナーと、土佐派や狩野派、光琳や又兵衛らの源氏絵の名品、近代日本画や工芸が並ぶコーナー。国宝源氏物語絵巻の現状模写や、国宝源氏物語絵巻と時代は大きく変わらないという古格の趣が素晴らしい「源氏物語小色紙(宿木)」、遠くて行けなかった和泉市久保惣記念美術館の土佐派の一連の源氏絵、福井の岩佐又兵衛展にも出なかった「源氏物語総角図屏風」など見ものも多く、大変満足度の高い展覧会でした。



4位 『三島喜美代 未来への記憶』(練馬区立美術館)


展覧会開催期間中に残念ながら91歳で亡くなられた現代アーティスト・三島喜美代の東京での初の個展。数年前にNHK『日曜美術館』の特集を観て初めて知り、ずっと気になっていました。古新聞とか漫画雑誌とか身近なゴミを使ってアートにしてしまう。今でこそゴミをアートに変えるアーティストは珍しくないけれど、こんな制作活動を70年も続けていたなんて、凄すぎます。積まれた新聞紙も漫画雑誌もスーパーのチラシも潰れた缶ジュースもなんと陶器!20世紀の100年間の新聞記事をレンガに転写したインスタレーションは圧巻でした。

会場には三島喜美代のインタビュー映像(2005年の映像と2022年の映像)が流れていて、全部見ると30分以上かかかるですが、見入ってしましました。陶器作りは独学で、かなり苦労したそうですが、失敗も楽しいと。どの言葉もとてもポジティブだし、明るいし、人生90年の重みがあるし、そしてユーモラス。初期の油彩画やコラージュ作品も展示されていて、夫のハズレ馬券をコラージュした作品には笑いました。



5位 『オタケ・インパクト 越堂・竹坡・国観、尾竹三兄弟の日本画アナキズム』(泉屋博古館東京)


明治から大正にかけて活躍した越堂、竹坡、国観の尾竹三兄弟。実力があるのにトガリ過ぎて、後半生は不遇の時を過ごしたという三兄弟の作品を集めた東京で初めての展覧会です。かれこれ10年ぐらい前、尾竹竹坡の作品を初めて観たときは強い衝撃を受けました。大正時代の日本画にこんなに前衛的な作品があったのかと。数年前に竹坡の回顧展が富山であったときは行くかどうか最後まで悩みましたが、結局タイミングが合わず、今回三兄弟まとめて観られたのはとても良かったです。

展示は初期から晩年まで3つの章に分かれていて、幼い頃から優れた才能を見せていたことが分かります。特に竹坡の天才ぶりは驚きでした。越堂は浮世絵の三代目歌川国貞、竹坡は円山派の川端玉章、国観は歴史画で有名な小堀鞆音に師事したとされ、それぞれに特徴があり、また会得した技術が影響し合ったのか兄弟同士切磋琢磨していただろうことも作品から伝わってきました。やはり竹坡の破天荒ぶりは作品を観ても納得というか、どんな画題も描けてしまう器用さと突き抜けたセンスが凄い。あまりに無視され続けてクサった時期もあったようですが、ラディカルなところなど時代が追いつかなかったという気の毒な印象も受けます。



6位 『没後300年記念 英一蝶 -風流才子、浮き世を写す-』(サントリー美術館)


2009年以来の英一蝶展。板橋区立美術館の展覧会に行っていないので心待ちにしていました。もともとは狩野派の絵師だけど、なぜか破門され、いろいろやらかして島流しされて、奇跡的に江戸に戻って来れたという波乱万丈の絵師。市井の人々の何気ない日常の風景を描かせたら彼の右に出る人はいないのでは。一蝶の作品は東博など割と観る機会はありますが、それがいつの時代の作品かなどあまり理解していなかったのですが、今回の展覧会では流刑前の多賀朝湖時代、配流中の島一蝶時代、晩年の英一蝶時代と分けられ、それぞれの特徴や画風を追えたのも良かったです。

初期の作品と思われる狩野派然とした作品を観られたのも収穫。雑画帖からの作品は狩野派らしく古画の写しと思われる作品もあれば、一蝶らしいアレンジの効いた作品も多くあり面白い。風俗画はもっと観られるかと思いましたが、それほど多くなく、代表作と呼ばれる作品で出てないのもありましたが、大型の屏風や海外流出作品があったのは嬉しい。江戸からの発注に応えつつ、島民には神仏画や吉祥画など信仰関連の作品を描いていたという話や、帰還後は風俗画は減り、堅実な作品を描くようになったということも興味深かったです。



7位 『生誕130年記念 北川民次展 -メキシコから日本へ』(世田谷美術館)


絵画を学ぶためみんなパリに渡った時代に、ひとりアメリカ、そしてメキシコに向かった画家・北川民次の約30年ぶりの回顧展。メキシコ絵画の影響を受けた力強いタッチと独特の色彩感のインパクトがすごいのなんの。民衆や労働者を取り上げた社会的な視点の作品も多いけれど、社会運動的な押しの強さはなく、人々に寄り添う温かな眼差しと鋭い批判性を感じます。児童への美術教育など優れた功績を残したことも初めて知りました。藤田嗣治との繋がりや戦時中の姿勢も興味深かったです。民衆を描き、民衆と生きるという姿勢を崩さなかったところがかっこいいし、素晴らしい。



8位 『PARALLEL MODE:オディロン・ルドン -光の夢、影の輝き-』(岐阜県美術館)


ルドンの展覧会は今までにも何度か観てますが、国内過去最大規模というだけあり、前期の黒の時代から後期のパステルの色彩の時代まで凄いボリューム。もともとルドンを多く所蔵している美術館ですが、他館からも作品が集まり、特に『悪の華』をはじめノワールな版画はルドンの版画レゾネ掲載作品の9割が展示されるという充実ぶり。予定の滞在時間をオーバーして観入ってしまいました。東京にも巡回しますが、美術館の規模を考えると全点展示は難しいのではないかと思います(東京は1/4か1/5ぐらいか?)。岐阜まで観に行って正解でした。



9位 『シュルレアリスム宣言100年 シュルレアリスムと日本』(板橋区立美術館)


ブルトンが『シュルレアリスム宣言』を発表して100年。日本では1920年代後半にはシュルレアリスムの影響を受けた作品が見られるそうで、その後の日本での(特に戦前の)盛り上がりや日本特有のシュルレアリスム作品が展示されていました。シュルレアリスム自体が好きなので、日本のシュルレアリスムにも興味があり、そうした作品を観る機会があれば、絵画だろうが写真だろうが出かけていたのですが、ここまでまとまった形で、しかも芸術運動としての流れをしっかり追った展覧会は初めてでした。

先駆者として東郷青児や古賀春江らに始まり、福沢一郎あたりが紹介されていましたが、本人たちがシュルレアリストだと言っていない(自覚していない?)というのが面白い。戦時中、シュルレアリスムが危険思想として見られるようになり、芸術運動は急速に(というより強制的に)下火になるので、考えてみたら10年ちょっとの話なのですが、エルンストやデ・キリコ、ダリなどの直接的な影響を感じる作品もあるけど、日本特有の、どこか陰鬱とした暗い時代背景を匂わす作品が幅を利かすあたりが強烈だし、やはり興味深かかったです。



10位 『生誕140年記念 石崎光瑤』(京都文化博物館)


今ではほぼ無名、自分も正直ほとんど知らない、大正から昭和の初めにかけて活躍した日本画家。展覧会は東京にも巡回しますが、規模が縮小されるのと、評判がとても良いようなので、京都で観てきました。元は琳派の絵師に基礎を学び、その後竹内栖鳳に師事した人で、当時忘れられていた伊藤若冲を再発見したり、インドに行ったり、ヒマラヤに登ったりしていて、作品も琳派風だったり、若冲の影響が濃かったり、描かれる山並みもヒマラヤの風景だったり、花鳥も高山植物だったり熱帯の鳥だったり、かなり個性的。屏風や襖絵20面の再現展示など大型の作品も多くて見応えありました。

石崎光瑤は登山家としても有名のようで、明治42年に民間人パーティーとして劒岳に初登頂してるんですね。劒岳というと新田次郎の『劒岳 点の記』が頭に思い浮かぶけど、それまで未踏峰とされた剱岳に陸軍測量官の柴崎芳太郎が登頂成功したのが明治39年。光瑤はその4年後に登頂したので相当なものだと思います。会場にはヒマラヤ登山の際のスケッチや写真なども多く展示されていて、かなり興味が湧きました。東京の展示にもまた観に行きたいと思います。






惜しくも選外となりましたが、京都市京セラ美術館の『村上隆 もののけ 京都』は面白かったですね。いきなり入ってすぐのところの「洛中洛外図屏風 岩佐又兵衛 rip」や琳派へのオマージュ作品。宗達の「風神雷神図屏風」や、蕭白や雪舟など、日本美術を村上隆流にアップデートしていて、とても楽しめました。老若男女大変賑わっていて、みんな楽しそうに観ているのが印象的でした。

最後までベスト10入りを迷った展覧会としては、千葉市立美術館の『鳥文斎栄之展』、町田市立国際版画美術館の『幻想のフラヌール』があります。鳥文斎栄之は非常に好きな浮世絵師なのですが、武士だったからこそ描けるモチーフ、決して下品にならず品格を重んじ、武家や商人といった富裕層をターゲットにしていたということも納得で、あらためて栄之を見直しきっかけになりました。『幻想のフラヌール』は幻想的だったり、神秘的だったり、異界だったり、ディストピアだったり、独自の世界観を持った版画作家の作品を集めた展覧会。知らない版画家も多かったのですが、好みの作品ばかりで大変楽しめました。

日本画では、尾竹三兄弟の『オタケ・インパクト』や『石崎光瑤展』もそうですが、今年はこれまであまり知られていなかった画家の作品を観る機会に恵まれたような気がします。練馬区立美術館の『生誕150年 池上秀畝―高精細画人―』やたましん美術館の『邨田丹陵 時代を描いたやまと絵師』、府中市美術館の『Beautiful Japan 吉田初三郎の世界』などは次いつ観られるだろうかと思ったりします。京都国立近代美術館で観た『富岡鉄斎展』も没後100年記念展だけあり、大変見応えのあるものでした。

洋画では、岐阜県立美術館でルドン展と一緒に観た『ARALLEL MODE:山本芳翠 -多彩なるヴィジュアル・イメージ-』も山本芳翠をここまでまとめて観ることはなかったのですが、ルドンと同じ画家に師事していたということで、ルドン展の後に芳翠を観ると何となく近さも感じ、とても貴重な機会となりました。

現代アートでは、東京都現代美術館の『日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション』の物量には圧倒されました。森美術館の『シアスター・ゲイツ展 アフロ民藝』もユニークで面白かったです。ギャラリー展示ですが、アンゼルム・キーファー の『Opus Magnum』(ファーガス・マカフリー東京)が大変素晴らしく、強く印象に残ってます。東京都美術館の『デ・キリコ展』、最近では渋谷区立松濤美術館の『須田悦弘展』も良かったです。

これまで何度も通った練馬区立美術館や出光美術館がビル建て替えのため、今年をもって長期休館する悲しいお知らせもありました。出光美術館には休館前の名品展が続き、今年も何度か足を運びましたが、特に『青磁-世界を魅了したやきもの』は、青磁はいろいろ観てるから大体分かっていると思っていたけれど今まで知ってたつもりだったものは何だったのかと思いたくなる素晴らしい内容でした。

残念なニュースといえば、DIC川村記念美術館の閉館騒動ではないでしょうか。DIC川村記念美術館に行くと一日がかりなので、1年に一回ぐらいしか行けていませんでしたが、閉館が取り沙汰された直後に行くことができ、ロスコ・ルームも堪能できたのが幸いでした。都内への縮小移転を決定したというニュースが先日出ましたが、20世紀美術のコレクションやあの庭園や建物、そしてロスコ・ルームを失われてしまうことは残念でなりません。

印象深かった展覧会を挙げると切りがないのですが、今年も素晴らしい展覧会、作品にたくさん出会えました。美術通いに使える時間が限られているので、観られる展覧会は年々少なくなっていますが、来年もマイペースで自分の観たい展覧会に足を運びたい思います。

今年も一年お付き合いいただきありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。


【参考】
2023年 展覧会ベスト10
2022年 展覧会ベスト10
2021年 展覧会ベスト10
2020年 展覧会ベスト10
2019年 展覧会ベスト10
2018年 展覧会ベスト10
2017年 展覧会ベスト10
2016年 展覧会ベスト10
2015年 展覧会ベスト10
2014年 展覧会ベスト10
2013年 展覧会ベスト10
2012年 展覧会ベスト10