2019/05/24

国宝 一遍聖絵と時宗の名宝

京都国立博物館で開催中の『国宝 一遍聖絵と時宗の名宝』に行ってきました。

「一遍聖絵」といえば、4年近く前ですが、初の全巻公開ということで3会場(スタンプラリーは東博入れて4館)で同時開催された『国宝 一遍聖絵』を覚えている方も多いはず。藤沢と金沢文庫と横浜と上野を何度も行ったり来たりして、「一遍聖絵」を観て回ったあの苦労は何だったのかと思うのですが、1館で(あちこち行かずに)全巻鑑賞できるということと、時宗に関連した仏画や仏像も多く公開されるというので、京都に行ったついでに観てきました。

時宗は鎌倉時代末期に興った浄土教の一宗派。「南無阿弥陀仏」と念仏を称えるだけで極楽浄土に往生できるという浄土宗の教えに、開祖・一遍上人は鉢を打ち鳴らして踊りながら六字名号を称える「踊念仏」を組み合わせ、鎌倉新仏教の中では後発にもかかわらず、たちまち日本全国に一大ムーブメントを巻き起こします。

総本山は藤沢の清浄光寺(通称・遊行寺)で、『国宝 一遍聖絵』も遊行寺宝物館を中心に開催され、やはり地元の人なら誰でも知ってるお寺ということでかなり盛り上がったわけですが、今回は時宗の有名寺院があまりない京都という土地のせいか、いまひとつパッとしないようです。 夜間開館の日(とはいえゴールデンウィーク真っ只中)に行ったのですが、絵巻を観るには理想的な環境(つまりガラガラ)でした。


会場の構成は以下のとおりです。
第1章 浄土教から時宗へ
第2章 時宗の教え 一遍から真教へ
第3章 国宝一遍聖絵の世界
第4章 歴代上人と遊行 時宗の広まり
第5章 時宗の道場とその名宝

遊行寺や神奈川歴博の所蔵品が中心だった『国宝 一遍聖絵』とは違い、こちらは全国の時宗や浄土宗の寺院から集められているので展示品はとても充実していて、小さな展示室に分散して展示されいた展覧会とはやはり規模感が違います。

最初に展示されていたのが、鎌倉仏教の浄土信仰や一遍にも大きな影響を与えたという念仏聖の「空也上人立像」。有名な口から小さな阿弥陀仏が出してるあれですが、こちらは六波羅蜜寺のものではなく、近年発見されたという遊行寺のもの。造形は似ていますが、六波羅蜜寺の「空也上人立像」より一回り小さく、六波羅蜜寺の空也上人が若い修行僧であるのに対し、遊行寺の空也上人は晩年の姿なのだそうです。

浄土宗の宗祖・法然の現存最古の画像という「法然上人像」は面貌は精緻に描かれているのが何となく見て取れるのですが、如何せん状態が悪い。一遍が全国を遊行し立ち寄ったとされる善行寺や当麻寺、熊野にまつわる品もあり、「善行寺如来像」や「当麻曼荼羅図」など優れた仏像や仏画も多く展示されています。

「二河白道図」(重要文化財)
鎌倉時代・14世紀 萬福寺蔵 (展示は5/12まで)

興味深かったのは、珍しい作例という時宗系の「二河白道図」(島根・萬福寺蔵)。画面の上段に極楽浄土、下段に現世、その間には火河と水河があり、白道が彼岸と此岸を結ぶというよく見る「二河白道図」の図様ではなく、極楽浄土や現世の様子は描かず、阿弥陀と釈迦の二尊が大きく強調されているのがユニークです。

仏像では、鎌倉後期から南北朝時代にかけての七条仏師による歴代上人の仏像がとても素晴らしい。いずれも写実的な面貌で、その人がどんな人柄だったのか特徴までよく表されています。運慶六代を称した康俊の重文「一鎮上人坐像」も良いのですが、別の七条仏師とされる西郷寺蔵の「一鎮上人坐像」は表情がよりリアル。蓮台寺蔵の「真教上人坐像」は晩年病いで歪んでしまった容貌まで忠実に表し、その中にあって穏やかな表情がとても印象的です。

円伊 「一遍聖絵」(国宝)
正安元年(1299年) 清浄光寺蔵 ※写真は部分

全国を遊行して念仏を広めた一遍上人の生涯を辿る「一遍聖絵」は2階の4つの展示室を使ってゆったり展示されています。全巻で12巻40段、全長130mという長大な絵巻なので、全場面が展示されているわけではありません(会期中場面替えあり)が、展示されていない場面は模本で補っていたりもします。

巻一から巻十二まで全巻が、当たり前ですが順番に並んでいて、各展示室の中央には一遍がどう旅したのかも地図で図解されていて絵巻を見る理解に役立ちます。4年前の『国宝 一遍聖絵』は3つの会場に絵巻が分散され、順番もバラバラだったので、絵を観るのはいいのですが、一遍の歩んだ行程はなかなか分かりづらいものがありました。踊り念仏がどのようにして生まれ、どのように盛り上がっていったのか、初めて正しく理解できたように思います。

円伊 「一遍聖絵」(国宝)
正安元年(1299年) 清浄光寺蔵 ※写真は部分

驚くのは謎の絵師・法眼円伊の優れた技量で、人々の表情や仕草まで細かに描き、髪の毛一本まで丁寧に描いた写実的な人物表現や躍動的な群像表現の素晴らしさ、伝統的なやまと絵に加え当時最先端の宋画技法を用いた山水表現、名所図・景観図としての面白さ、裏彩色まで用いているという鮮やかな色彩、この時代の絵巻にしては珍しい奥行き感のある巧みな構図、鎌倉時代の絵巻の最高傑作とされる理由がよく分かります。現存最古とされる絹本絵巻ということからも、この絵巻に対する制作側の力の入れ具合は想像でき、絵師に抜擢された円伊の腕の高さも納得するものがあります。

「一遍聖絵」の他にも、一遍上人と二祖他阿(真教上人)の伝記を描いた「遊行上人縁起絵(一遍上人縁起絵)」も展示されています。清浄光寺本や真光寺本、金蓮寺本などいくつかの系統が展示されていますが、こちらは 「一遍聖絵」のような謹直な画風ではなく、少し緩いというか、広く模本が伝わったことからも時宗寺院の画僧たちが描いたのだろうなと思わせます。

展示品(仏像以外も含め)には京都の時宗寺院・長楽寺の品も多いのですが、天皇即位の時だけ秘仏の本尊「准胝観音像」が開帳(御開帳は6/16まで)されるということで、次の日に訪れました。長楽寺の宝物館にも七条仏師の仏像が多く展示されてるので、時間があれば一緒に回るのもお薦めです。


【時宗二祖上人七百年御遠忌記念 国宝 一遍聖絵と時宗の名宝】
2019年6月9日(日)まで
京都国立博物館にて


新書748一遍と時衆の謎 (平凡社新書)新書748一遍と時衆の謎 (平凡社新書)

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