2019/04/06

へそまがり日本美術

府中市美術館で開催中の『春の江戸絵画まつり へそまがり日本美術』を観てきました。

毎年恒例の『春の江戸絵画まつり』。今年はどんなテーマなのかと毎年楽しみにしてますが、今回の『へそまがり日本美術』は珍しく昨年の『リアル 最大の奇抜』の時に既に予告が出てたぐらいなので、相当力が入ってるんだろうと思います。徳川家光のヘタウマな兎や木菟の絵なども開幕前からネットでも話題になっていましたね。

桜通りの桜もちらほら咲き始めた24日に行ってきたのですが、開幕早々賑わっているようで、この日も結構な人の入り。テーマの敷居の低さもあってか、家族連れも目立ち、あちらこちらから笑いが漏れたり、話がはずんだりしているのが聞こえるなど皆さん楽しんでいるようでした。

さて、本展の構成は以下の通りです。
第一章 別世界への案内役禅画
第二章 何かを超える
第三章 突拍子もない造形
第四章 苦みとおとぼけ

今回は『「へそまがり」な感性が生んだ、もうひとつの日本美術史。』ということで、中世の水墨画から現代のヘタウマ漫画まで、さらには今話題の奇想の絵師たちまで、日本美術を知っていようがいまいが、素直に楽しめるのがいいですね。毎年さまざまな側面から江戸絵画を取り上げ、普段日本美術から縁遠い層も集客してきた府中市美ならではの企画だと思いますし、それが今回はとても成功していると感じます。

仙厓 「豊干禅師・寒山拾得図屏風」
文政5年(1822) 幻住庵蔵 (展示は4/14まで)

最初は禅画からで、禅のへそまがり度の高さや深さは後の美術への影響も大きく、へそまがり日本美術の歴史上重要であると紹介されていました。確かによく画題にされる禅問答や禅僧のエピソードの中には意味不明なものや首を傾げたくなるものもあったりします。ボロをまとい、寺の僧たちから残飯をもらっていたという豊干禅師と寒山・拾得、いわゆる三聖を描いた仙厓の「豊干禅師・寒山拾得図屏風」がまた不細工というか何というか。拾得が箒を持ってる姿で描かれるように豊干と虎はセットで描かれますが、子虎まで描かれてるのがかわいい。仙厓でここまで大きな屏風というのも初めて観たかもしれません。

仙厓 「十六羅漢図」
江戸時代後半(19世紀前半) 個人蔵

仙厓や白隠、白隠の弟子など江戸時代の禅僧による禅画が多く並んでいましたが、面白かったのがこれも仙厓の「十六羅漢図」。十六羅漢と言いつつ、14〜5人ぐらいしか描かれてないそうですが、虎がいたり竜がいたり、目からビームを発してる羅漢がいたり、ユーモアたっぷり。仙厓の軽妙な味わいが良く出ています。

狩野山雪 「松に小禽・梟図」
江戸時代前期(17世紀) 摘水軒記念文化振興財団蔵(府中市美術館寄託)
(展示は4/14まで)

山雪というと、狩野派きっての奇想の絵師ですが、これまた狩野派らしからぬゆるさ。まわりの小鳥は丁寧な筆致なのに対し、梟のかわいらしさは異常ですね。山雪というと愛くるしい猿で人気の「猿猴図」というのがありますから、意外と茶目っ気のある絵師だったのかもしれません。

与謝蕪村 「寒山拾得図」
個人蔵 (展示は4/14まで)

蕪村ってこんな下手だったかなと思うのですが、へそまがりな絵をここまで集められると、蕪村に対する見方がちょっと変わってきます(笑)。蕪村の「寒山拾得図」はよく見る寒山拾得の絵とも異なり、愛嬌があるというか憎めないというか。平安時代に京都で箸を売って歩いていたという不思議な老人を描いた「白箸翁図」の枯れ具合も良かったです。

寒山拾得では長沢芦雪の作品もあって、なぜか拾得の後ろには芦雪お得意のコロコロした白い仔犬が。あざといですねぇ。そばには芦雪の師・円山応挙が描いた仔犬の絵も展示されていて、へそまがりでない絵師とへそまがりの絵師というような比較もされていました。応挙の「寿老人図」と岡田米山人の「寿老人図」も同様に比較展示されてましたが、応挙と南画を比べてもなぁという気もなきにしもあらず。

遠藤曰人 「蛙の相撲図」
仙台市博物館蔵 (展示は4/14まで)

『春の江戸絵画まつり』は人気の絵師、名の知れた絵師ばかりばかりだけでなく、これまで作品を観たことも名を聞いたこともないような絵師に出会えることがまた楽しみ。今回気になったのが仙台藩士で俳人という遠藤曰人。ぷにょぷにょした蛙がキモかわいい。

伊藤若冲 「伏見人形図」
寛政10年(1798) 個人蔵 (展示は4/14まで)

かわいい江戸絵画といえば、もちろん若冲も。精緻で華麗な花鳥画や卓越した技巧に裏打ちされた水墨画も描けば、ゆるくてかわいい素朴な作品も残しているのが若冲のユニークなところ。「伏見人形図」は手抜きでさささと描いたのかと思えば、雲母の粒や金属の粉で民芸品らしさを演出するなど凝ったことをするのですから、さすが若冲。

河童の存在を信じて疑わなかったという小川芋銭の「河童百図」や厳しい美術批評で知られる夏目漱石のちょっと拙い南画風の作品など、下手なんだか上手いんだかわからないような作品もちらほら。まあ、わざと拙く描いてる人もいれば、もともと下手な人もいるんでしょうが、ゆるいとかかわいい作品を集めただけの展覧会とは違って、どうして若冲は緻密さと対極にある絵を描いたのか、なぜ禅画や俳画はゆるいのか、なぜ南画は小難しいのか、ただのへそまがりで笑って終わらせず日本美術を捉え直してるのが本展の良いところでもあります。

徳川家光 「兎図」
江戸時代前期(17世紀後半) 個人蔵

徳川家光 「鳳凰図」
江戸時代前期(17世紀後半) 徳川記念財団蔵 (展示は4/14まで)

そして、注目の三代将軍・家光。湯村輝彦や蛭子能収のヘタウマな漫画のあとに登場するのがちょっとあくどい。家光の作品は3点あって、3点が揃うのは前期だけ(後期は2点のみ)。まるで子どもが描いたような何とも可愛らしい絵ですが、子どもの頃の絵ではないんだそうです。当然英才教育として一流の絵師(家光の時代の幕府の御用絵師は探幽)に絵の手ほどきも受けてたのでしょうが、将軍様がこんな絵を描いたということも衝撃ですが、その絵を隠ぺいするわけでもなく今も現存しているということも驚きです。ちなみに、狩野派の手本どおりの絵も描いていると解説にありましたが、そちらも是非観たいものです。家光の長男で四代将軍・家綱の絵もあって、父に似てこちらも破壊力があって笑えます。

アンリ・ルソー 「フリュマンス・ビッシュの肖像」
世田谷美術館蔵

いつもは江戸絵画だけなのですが、今回はなぜかルソーと明治・大正期の洋画も紹介されています。ルソーの作品が日本で紹介されると、それまでアカデミズム絵画や印象派の作品を模範としていた日本の洋画界に、こんな稚拙な作品でもいいんだという衝撃を与えたのだそうです。ルソーの影響と思われる三岸久太郎や倉田三郎の作品も展示されています。

個人的にとても楽しかったのが、岸派二代目の岸礼の「百福図」。いろんなお多福さんが描かれた、いわゆる百人図なわけですが、談笑したり金魚掬いしたりあやとりしたり三味線弾いたり洗濯したり、いろんなお多福さん。ぶらんこ乗ってるお多福さんまでいたのには驚きました。

最近再評価がされている祇園井特も美人画と幽霊画が1点ずつ。これをリアルといっていいのか悩むところではありますが、女性を美化せず、生々しく感じさせるところが井特のへそまがりなところなのかも。異端の浮世絵師として、元祖デロリとして興味深いものがあります。

祇園井特 「美人図」
江戸時代中期~後期(18世紀後半~19世紀前半) 個人蔵 (展示は4/14まで)

後期は半分ぐらいの作品が展示替えになるので、またどんなへそまがりな作品に出逢えるのか楽しみでなりません。チケットに2回目が半額になる券が付いているので、後期にも観に行く人は忘れずに。


【春の江戸絵画まつり へそまがり日本美術】
前期 2019年3月16日(土)~4月14日(日)
後期 2019年4月16日(火)~5月12日(日)
府中市美術館にて


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