2018/08/18

「江戸名所図屏風」と都市の華やぎ

出光美術館で開催中の『「江戸名所図屏風」と都市の華やぎ』を観てきました。

出光美術館が所蔵している「江戸名所図屏風」は明暦の大火(1657年)前の江戸の様子を描いた作品として貴重だといいます。

その目玉の「江戸名所図屏風」を中心に、江戸名所図や京都の洛中洛外図の屏風絵から江戸時代の都市景観を観るという企画展なのですが、後半は菱川師宣や宮川長春、鳥文斎栄之など肉筆浮世絵の優品が多く並び、江戸風俗画の展覧会としてもとても興味深いものがありました。

京都の洛中洛外図というと、一般的に清水寺や三十三間堂、三条や四条の賑わいから、御所や二条城まで、東から西へ京都の名所や町の様子を描いていて、中には祇園祭の山鉾などが描かれたものもあったりしますが、やはり寺社仏閣が多かったり、広い範囲で町が整理され発展していたり、屏風絵からも京都の長い歴史を感じることができます。

一方の「江戸名所図屏風」は、浅草寺や上野の寛永寺、吉原や日本橋から、江戸城や銀座、増上寺まで、北から南へ江戸の街の様子が描かれていますが、町が整然とした京都に比べると江戸はどこか雑然とし、海や川沿いに町が発展していったことも分かります。1650年頃の江戸の風景とされ、まだ江戸城には天守もあり、江戸時代初期だからなのか、郊外には長閑な風景が拡がり、急速に広がった町の新しさを感じます。

「江戸名所図屏風」(重要文化財)
江戸時代 出光美術館蔵

そして何より、びっしりと事細かに描きこまれた江戸の人々の描写がとても素晴らしい。屏風に描かれた人物は2000人以上というだけあり、いろんな人がいて面白いし、それぞれ姿形、表情、動きが一人一人みんな違うのが凄い。風呂上がり髪を拭いてもらう人、犬に吠えられてビビる人…。観ていて全然飽きません。単眼鏡必携です。

ほかに展示されていた江戸名所図は遊楽図や風俗図と名のついたものが多く、浅草寺の境内や茶屋、芝居小屋の賑わい、吉原(新吉原)の揚屋や隅田川の舟遊びなどが描かれていて、江戸時代の人々の様子を知る資料として格好の作品です。

英一蝶 「四季日待図巻」(重要文化財)
江戸時代 出光美術館蔵 (※写真は部分)

英一蝶の「四季日待図巻」は一蝶の2つある重要文化財作品の一つ。流島先の三宅島で江戸の庚申待(日待)を描いた作品。身を清め日の出を待つといっても、座敷遊びに興じたり、囲碁をしたり、浄瑠璃を観たり、なんかみんな楽しそう。江戸の風俗や芸能を描くことの多かった一蝶らしい作品であるのと同時に、遠い江戸を思いながら描いたんだなと考えるとちょっと感慨深いものがあります。

室町時代の「月次風俗図扇面」や桃山時代の洛中洛外図屏風、初期の歌舞伎図屏風など、初期風俗画としても興味深い作品がいくつかありました。特に、阿国歌舞伎図の最も古い作例の一つという「阿国歌舞伎図屏風」は右にかぶき者、左に阿国歌舞伎が描かれ、松や桜の大木が画面をドンと遮るという大胆な構図が面白い。線描もおおらかで、桃山時代らしい古色さがあってとてもいい。

永徳の弟・狩野長信筆という説がある小型の屏風「歌舞伎・花鳥図屏風」がまた素晴らしい。遊女歌舞伎と若衆歌舞伎と思しき歌舞伎踊りが六曲一双にそれぞれ描かれ、裏には桜の大木と梅の大木、雌雄の孔雀がそれぞれに描かれ、その優美さと細密さに目が留まります。

菱川師宣 「江戸風俗図巻」
江戸時代 出光美術館蔵 (※写真は部分)

後半は浮世絵、しかも江戸の名所を背景に描いた肉筆の風俗図や美人図なのですが、菱川師宣やその一派、宮川長春や懐月堂といった初期浮世絵の優品があって見逃せません。ここでも花見や舟遊び、茶屋や遊里の酒宴などが多く描かれ、江戸の風俗というとここに尽きるのかなと感じます。美人画の白眉は鳥文斎栄之の「吉原通い図巻」。浮世絵の華やかな雰囲気とは異なり、川面に淡い水色をつけた以外は水墨でまとめられ、人物も水墨の簡略な筆致で表現し、栄之でイメージされる美人画とはまた違う趣があって、とても素晴らしかったです。


【「江戸名所図屏風」と都市の華やぎ】
2018年9月9日(日)まで
出光美術館にて


江戸名所図屏風を読む (角川選書)江戸名所図屏風を読む (角川選書)

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