初代長次郎から十五代吉左衞門まで、一子相伝で伝えられてきた“樂焼”の450年の歴史をたどる展覧会。京都に引き続いての待望の東京展です。
まぁ“茶の湯”の嗜むというような生活を普段してませんので、茶碗は観る専門というか、あまりよく分かってないところが多いのですが、樂茶碗の名品が一堂に会する過去最大規模の展覧会とあって、昨年からずっと楽しみにしていました。
会場は照明をあえて暗くしていて、にじり口から利休の茶室に入り、そこで長次郎の茶碗に初めて出会うことをイメージしているのだそうです。茶碗を照らす照明も計算されていて、ほの暗い空間で観る樂茶碗は大変美しく、なるほど“茶碗の中の宇宙”という言葉がピッタリです。
初代・長次郎 「二彩獅子」 (重要文化財)
1574年 樂美術館蔵
1574年 樂美術館蔵
まずは長次郎。最初に展示されていた「二彩獅子」はこれが長次郎の作品なの?と思ってしまうような、長次郎の茶碗の静寂さとは真逆の豪壮さがあります。“二彩”とあるように低火度二彩釉という素三彩の技法が使われているのだとか。ほかにも素三彩の平鉢もあって、楽焼のルーツといわれても、ちょっと意外な感じがします。
初代・長次郎 「黒樂茶碗 銘 大黒」 (重要文化財)
16世紀 個人蔵
16世紀 個人蔵
初代・長次郎 「黒樂茶碗 銘 禿」
16世紀 表千家不審菴蔵
16世紀 表千家不審菴蔵
長次郎の茶碗は13点(4/16以降は9点のみ展示)。利休七種の「大黒」をはじめ、黒楽茶碗、赤楽茶碗の名品が並びます。“手づくね”と呼ばれる、手のひらの中で作られるその侘びた風情、黒や赤のモノトーンのカセた土肌、個性を一切排した無作為の美しさ。もうたまらんですね。個人的には代々の樂茶碗の中でも長次郎のミニマルさが一番好きかも。
「大黒」は利休が好んだとされる“長次郎七種”のうちの1碗。飾り気のない端正な佇まいが惚れ惚れするほど美しい。黒楽では「万代屋黒」、「本覚坊」もかなり好みですが、「禿」の少しぼってりした、それでいて手の中に静かに収まりそうな形がいいですね。光沢のない少し赤茶けたような色合いも枯淡の趣があります。赤楽茶碗では、「太郎坊」が「無一物」とはまた違い、厚作りの感じといい、腰のあたりの丸みといい、これ好きだなぁと思いました。
初代・長次郎 「赤樂茶碗 銘 太郎坊」 (重要文化財)
16世紀 裏千家今日庵蔵
16世紀 裏千家今日庵蔵
初代・長次郎 「赤樂茶碗 銘 一文字」
16世紀 個人蔵 (展示は4/9まで)
16世紀 個人蔵 (展示は4/9まで)
長次郎の妻の祖父で、二代・常慶の父という田中宗慶と、樂家とも繋がりの深い本阿弥光悦の作品を除けば、代々の作品が紹介されているのですが、やはり江戸時代の樂茶碗はどれを見てもそれぞれに持ち味があり、伝統回帰と新たな創造が交互に現れるのがまた面白い。
二代・常慶では歪んだ造形に大胆さと落ち着きがある「黒木」、金継ぎも印象的な「香炉釉井戸形茶碗」、三代・道入(ノンコウ)ではモダンささえ感じる「青山」、深く不思議な色合いが後を引く「鵺」、四代・一入では独特の深い赤味が侘びた風情を感じる「つるし柿」、五代・宗入は黒釉のカセた味わいが印象的な「梅衣」、六代左入では女性には呑みづらそうな大ぶりで重厚な「ヒヒ」、九代・了入では大胆なヘラ削りがモダンでありつつ気品も感じる「白樂筒茶碗」あたりが特に惹かれました。
三代・道入 「黒樂茶碗 銘 青山」 (重要文化財)
17世紀 樂美術館蔵
17世紀 樂美術館蔵
三代・道入 「赤楽茶碗 銘 鵺」 (重要文化財)
17世紀 三井記念美術館蔵
17世紀 三井記念美術館蔵
後半は当代・吉左衞門の作品で、これは好みの問題でしょうが、作為しすぎというか、表現過多で個人的にあまり好きではありませんでした。ただ“楽焼”とはそもそも「今の焼き物」という意味があるそうで、かつての楽焼も当時としては前衛だったのだろうと考えると、正しい姿なのかもしれない思います。フランスで作陶したという一連の作品は肩の力が抜けた感じが良かったです。
本阿弥光悦 「赤樂茶碗 銘 乙御前」 (重要文化財)
17世紀 個人蔵
17世紀 個人蔵
いま東京では“茶の湯”がテーマの展覧会がいくつか開催されていて、『茶の湯展』が開催されている東京国立博物館と東京国立近代美術館の間で無料シャトルバスを運行したり、出光美術館で開催中の『茶の湯のうつわ』と相互割引をしていたり、お得なコラボ企画があったりします。普段“茶の湯”の世界に馴染みのない人も、この機会に“茶の湯”の世界を覗いてみるのもいいのではないでしょうか。
【茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術】
2017年5月21日まで
東京国立近代美術館にて
定本 樂歴代―宗慶・尼焼・光悦・道樂・一元を含む
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