本年もどうぞよろしくお願いいたします。
さて、今年も博物館・美術館巡りは、毎年恒例トーハクの『博物館に初もうで』からスタート!
去年の『博物館に初もうで』はちょっと出遅れてしまったので、今年は早めに行こうと思っていたのに、着いたら開館30分前。すでに長い行列ができていたのですが、チケットを買う人が分かれ、特別展『平安の秘仏』を観る人が分かれ、ミュージアムシアターの整理券をもらう人(1/2、3は無料上映)が分かれ、気付いたら総合文化展(常設展)を観る人の列の10番以内に入ってました(笑)
今年は酉年ということで、本館2階の特別1室・2室は≪博物館に初もうで 新年を寿ぐ鳥たち≫と題し、酉年に因んだ作品が展示されています。“鳥”といえば、みんな大好き若冲ですが、若冲は一作だけ、「松梅群鶏図屏風」のみの展示でした。近くには若冲が下絵と伝わる「鶏図友禅掛幅」という友禅染の掛軸も展示されています。一見絵画かと見紛うような仕上がり。
伊藤若冲 「松梅群鶏図屏風」
江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/29まで)
江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/29まで)
“鳥”が得意な絵師というと、鷙鳥の曽我直庵、孔雀の岡本秋暉も外せません。ここでも曽我直庵の「鶏図屏風」、岡本秋暉の「孔雀図」が展示されています。さまざまな鳥が集う海北友雪の「花鳥図屏風」もなんとも華やかで雅やかな作品。今年は友雪の父・友松の展覧会が京博であるので楽しみですね。
海北友雪 「花鳥図屏風」
江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/29まで)
江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/29まで)
荒木寛畝と渡辺省亭による「赤坂離宮花鳥図画帖」も見事。現在の迎賓館の花鳥の間の壁面に飾られた七宝焼の花鳥図の下絵だそうで、「鴨」や「鶏」など共に同じような画題を描いています。実際には渡辺省亭の絵が採用されたとありました。荒木寛畝は「軍鶏」の掛軸も展示されています。
[写真右から] 渡辺省亭 「鶏」「千鳥」「麦に雀」
明治39年(1906) 東京国立博物館蔵(展示は1/29まで)
明治39年(1906) 東京国立博物館蔵(展示は1/29まで)
[写真右] 鈴木春信 「鶏に餌をやる男女」
[写真左] 礒田湖龍斎 「鶏を捕える子供」
江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/29まで)
[写真左] 礒田湖龍斎 「鶏を捕える子供」
江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/29まで)
春信の「鶏に餌をやる男女」は今回のチラシのメインヴィジュアルに使われている作品。鶏に餌をやる男女の隣りは鶏を捕まえる子供というのは微笑ましいと言っていいんだか何だか(笑)。≪博物館に初もうで 新年を寿ぐ鳥たち≫ではほかにも、鳥をモチーフにした自在置物や京焼の香合、伊万里や陶磁器など工芸品も多く展示されています。
「闘鶏香(十組盤のうち)」
江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/29まで)
江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/29まで)
その中で特に面白かったのが盤物の「闘鶏香」。一見、闘鶏の形をした駒の将棋かチェスを思わせますが、実は香遊びの一つで、香を聞き分けては駒(立物)を動かすというもの。香木の香りを聞き当てる組香という遊戯を闘鶏の勝負に見立てたもので、こうした盤物を使った組香が江戸時代には流行したそうです。雅やかなゲームなのでしょうが、この遊び心がたまりません。
長谷川等伯 「松林図屏風」(国宝)
安土桃山時代・16世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/15まで)
安土桃山時代・16世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/15まで)
そして2階の国宝室では、トーハクのお正月といえば最近恒例の「松林図屏風」。やはり人気の作品とあって、開館すぐに人だかりができていました。できれば「松林図屏風」は静かな空間の中で対峙したいものですが…。
「扇面法華経冊子」(国宝)
平安時代・12世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/15まで)
平安時代・12世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/15まで)
≪新春特別公開≫では国宝の「古今和歌集(元永本)」や「舟橋蒔絵硯箱」といった名品も出ているのですが、わたしのオススメは国宝「扇面法華経冊子」。雅やかな貴族の風俗が描かれた扇形の料紙に経文を記した装飾経で、平安時代のやまと絵として大変貴重です。
「扇面雑画帖」(※写真は一部)
室町時代・15~16世紀 東京国立博物館蔵(展示は2/5まで)
室町時代・15~16世紀 東京国立博物館蔵(展示は2/5まで)
隣に並んで展示されていた「扇面雑画帖」がまた素晴らしくて、思わず声を出して唸ってしまいました。15~16世紀の作とされるやまと絵の扇面の貼付けた画帖ですが、琳派を先取りしたようなデザイン性の高いもので、どれも洗練された図様で美しい。逆をいえば琳派はやまと絵が発展した中で生まれたものなのだろうなという思いが強くなりました。
「秀峰」印 「山水図屏風」
室町時代・16世紀 東京国立博物館蔵(展示は2/5まで)
室町時代・16世紀 東京国立博物館蔵(展示は2/5まで)
これは以前にも観ていますが、筆者不詳で「秀峰」という印のある「山水図屏風」。雪村作品との類似性が指摘されているそうですが、その関係は今もって不明とのこと。大ぶりの筆で刷いたと思われる大胆な山容が実に素晴らしいです。
円山応挙 「雪景山水図襖(旧 帰雲院障壁画)」
江戸時代・天明7年(1787) 東京国立博物館蔵(展示は2/5まで)
江戸時代・天明7年(1787) 東京国立博物館蔵(展示は2/5まで)
個人的に好きな2階7室<屏風と襖絵>には南禅寺塔頭・帰雲院の旧障壁画から円山応挙の「雪景山水図」が出品されています。紙の素地を残し雪の白さを表現する方法は「雪松図屏風」でも見られる応挙の得意技。雲に乗る仙人たちがまたいい。
ここでは池大雅の「西湖春景・銭塘観潮図屏風」と筆者不詳の「富士山図屏風」も展示されているのですが、とりわけ「富士山図屏風」は武蔵野図や日月山水図にも共通するような室町時代のやまと絵的な屏風で、そのデザイン化された優美な表現が素晴らしい。
円山応挙 「雪景山水図(旧 帰雲院障壁画)」
江戸時代・天明7年(1787) 東京国立博物館蔵(展示は2/5まで)
江戸時代・天明7年(1787) 東京国立博物館蔵(展示は2/5まで)
ちなみに応挙の帰雲院旧障壁画はとなりの8室にも「雪景山水図」が出品されていて、これがまた雪の表現が見事です。
佚山黙隠 「花鳥図屏風」
江戸時代・宝暦14年(1764) 東京国立博物館蔵(展示は2/5まで)
江戸時代・宝暦14年(1764) 東京国立博物館蔵(展示は2/5まで)
[写真右] 黒川亀玉 「芭蕉孤鶴図」
江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵(展示は2/5まで)
[写真左] 秦意冲 「雪中棕櫚図」
江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵(展示は2/5まで)
江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵(展示は2/5まで)
[写真左] 秦意冲 「雪中棕櫚図」
江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵(展示は2/5まで)
2階8室<書画の展開>では南蘋派の作品がいくつか出ていました。佚山黙隠は昨年の『我が名は鶴亭』でも拝見し、強く興味を覚えた曹洞僧の絵師。南蘋派らしい非常に華やかで品のある見事な屏風でした。この人は書も素晴らしいので、機会があればぜひ見てほしい。秦意冲は若冲晩年の弟子とされる絵師。芭蕉に積もった重そうな粘着質の雪は確かに若冲を思わせます。黒川亀玉は宋紫石に先立って江戸で活躍した南蘋派の絵師。25歳で亡くなったというから作品もあまり残ってないのでしょうね。
1階14室で開催されている企画展示≪掛袱紗-祝う心を模様にたくす≫も面白い。一見すると風呂敷のようにも見えるのですが、綸子や縮緬といった絹織物で作られていて、吉祥模様などさまざまな模様が刺繍されています。実際にはお祝いの品を贈る際にその上に掛ける覆いとして使われたとか。1階入口の案内コーナーに声をかけると、簡単なリーフレットがいただけます。
李迪 「紅白芙蓉図」(国宝)
中国南宋時代・慶元3年(1197) 東京国立博物館蔵(展示は1/9まで)
中国南宋時代・慶元3年(1197) 東京国立博物館蔵(展示は1/9まで)
1階15室では≪臨時全国宝物取調局の活動-明治中期の文化財調査≫。こちらも興味深い。明治時代に行われた文化財調査の資料の展示で、「臨時全国宝物調査関係資料」として昨年に重要文化財に指定されたばかりのもの。東博でも「特集陳列 平成28年新指定国宝・重要文化財展」でその一部が公開され、興味深く拝見したのですが、今回さらに詳しく紹介されています。展示は簿冊やガラス乾板、紙焼付写真などですが、1/9まで国宝 「紅白芙蓉図」の監査の資料とともに特別に李迪の「紅白芙蓉図」が出品されています。2014年の三井記念美術館の『東山御物の美』以来の公開だと思いますので、お見逃しないように。
トーハクの西隣の黒田記念館では「智・感・情」や「湖畔」、「舞妓」、「読書」といった代表作が展示されています。折角トーハクまで来たら、こちらも忘れずにどうぞ。
ほかにも東洋館や法隆寺宝物館などぐるりと回って、だいたい3時間でしょうか。お正月からトーハクを堪能してきました。なんだかんだ言ってトーハクが一番ですね。
【博物館に初もうで】
2017年1月2日(月)~1月29日(日)
開館時間、休館日、作品の展示期間など詳しくは東京国立博物館のウェブサイトでご確認ください。
藤森照信×山口 晃探検!東京国立博物館
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