2015/05/06

鳥獣戯画-京都 高山寺の至宝-

東京国立博物館で開催中の『鳥獣戯画-京都 高山寺の至宝-』に行ってきました。

昨年、京都国立博物館で開催されたときは連日2~3時間、最大4時間待ちという大行列。東京に来たらどうなんてしまうんだろうと思っていましたが、案の定、東京でも大変なことになっているようです。

今までどんなに混むと予想される展覧会でも、開館の1時間より前に来たことはないのですが、今回ばかりは早めに行こうと急いだものの、時既に遅し。開催2日目祝日(4/29)の朝8時の段階で100人近い行列ができてました。いやはやなんとも。

本展は、「鳥獣戯画」の伝来した京都・高山寺ゆかりの寺宝や、高山寺を開山した明恵上人にまつわる美術作品を展観するというもの。京都国立博物館と同じく「鳥獣戯画」と高山寺をテーマにしていますが、内容は京博のものとは異なります。


第1章 高山寺伝来の至宝

最初のコーナーは高山寺伝来の白描図像(密教図像)から。幼児を害する鬼神と幼児を描いた「十五鬼神図像」や、阿弥陀如来がお坊さんの首を引っ張るというユニークな「阿弥陀鉤召図」が印象的。つづいては高山寺の国宝・石水院にゆかりの品々。石水院には高山寺の鎮守である春日・住吉明神が祀られているそうで、「春日大明神像・住吉大明神像」や「春日宮曼荼羅」が展示されています。

「神鹿」(重要文化財)
鎌倉時代・13世紀 高山寺蔵

高山寺には多くの動物彫刻があるとか。春日・住吉明神に献げられたものや、明恵上人が動物好きだったということに由来するものなどあるようです。こうした動物彫刻や白描図という伝統が「鳥獣戯画」に繋がっているのだろうなと感じさせます。

春日信仰の象徴の雌雄の「神鹿」や、明恵上人が愛玩したと伝わる「子犬」、奉納神馬とされる「馬」など、なかなかのかわいさ。「神鹿」の雄鹿にはちゃんと金〇があったりします。「神鹿」と「子犬」は運慶の子・湛慶の作と考えられているとそうです。


第2章 高山寺中興の祖 明恵上人

明恵上人を描いた作品が複数ある中で、イチ押しは国宝「明恵上人像(樹上坐禅像)」。高山寺の山中で修行をしたという話に基づくもので、樹の上で座禅を組む明恵上人を上の方からリスが見つめています。「十六羅漢図」にはリスが描かれているものがあるそうで、同じように樹の上から羅漢をリスが見つめている作品が他にも3点あります。みなさんリスを探すのに必死(笑)

「明恵上人像(樹上坐禅像)」(国宝)
鎌倉時代・13世紀 高山寺蔵 (展示は5/17まで)

ここにリスがいますよ!

今回の展覧会は仏画の優品が多く、白眉は明恵上人が仏道を極めるため絵の前で右耳を切ったという「仏眼仏母像」。神々しく美しいそのお姿には圧倒されます。煩悩と菩提心が本来は一体であるという真理を擬人化したという「五秘密像」、観音・勢至両菩薩と毘沙門天・持国天を従えた毘盧遮那如来と61の諸聖衆を描いた「華厳海会諸聖衆曼荼羅」などもとても興味深い。善財童子の関連のものが充実していて、善財童子が善知識を訪ねる物語を描いた「善財童子歴参図」や絵巻の断簡などがあり、特に東大寺伝来という「善財童子歴参図」は見入ってしまう素晴らしさ。ちょっと素朴絵みたいな画もあって面白い。

「仏眼仏母像」(国宝)
平安〜鎌倉時代・12〜13世紀 高山寺蔵 (展示は5/17まで)

「華厳海会諸聖衆曼荼羅」(重要文化財)
鎌倉時代・13世紀 高山寺蔵 (展示は5/17まで)

ほかにも、新羅華厳宗の祖師・義湘が渡海し修行する中で出会った善妙が龍に変じて守護するという物語を描いた「華厳宗祖師絵伝 義湘絵」や、その善妙の神像「「善妙神立像」、またヒマラヤの神(天竺雪山神)という「白光神立像」が見どころでしょうか。特に「白光神立像」は湛慶の作ともいわれ、白を基調とした優美な佇まいは格別です。

「華厳宗祖師絵伝 義湘絵 巻第三」(国宝)※写真は部分
鎌倉時代・13世紀 高山寺蔵(展示は5/17まで)


第3章 国宝・鳥獣戯画

今回の『鳥獣戯画展』は毎日数時間の行列という混雑ぶりなので、まず最初に「鳥獣戯画」から観ることになると思います。本来の会場の構成とは異なるというか、この構成が意味を成さないのですが…。

最初に「鳥獣戯画」の生まれた背景を知る上で貴重な白描画が展示されています。「鳥獣戯画」(正確には「鳥獣人物戯画」)の作者は鳥羽僧正覚猷と昔は本に書かれていましたが、現在は白描図や仏画を描く寺の絵仏師か、主に世俗画を描いた宮廷絵所絵師ではないかと考えられています。


「鳥獣戯画 甲巻」(国宝)
平安時代・12世紀 高山寺蔵
(写真上:5/17まで展示、写真下:5/19から展示)

「鳥獣戯画」はもう説明不要ですね。私個人は「鳥獣戯画」を観るのは初めてではないのですが、やはり日本美術ファンなら一度は観ておきたいもの。有名な場面は写真や図様でたびたび目にしますが、やはり本物を観るのとでは全然違います。問題はこの行列ですが…。

甲乙丙丁の各巻の前半部を前期、後半部を後期に展示されますが、展示されない部分もパネルで観られるようになっています。絵巻は傾けてあって、またケースの照明を有機EL照明に変えたということで、ガラスへの映り込みもなく大変見やすいです。

ほかにも「鳥獣戯画」の失われた部分ともいわれる断簡も展示されていて、特に以前サントリー美術館での『鳥獣戯画がやってきた!』にも出なかった「高松家旧蔵本」が公開されているのは貴重です。

「鳥獣人物戯画 甲巻 断簡」
平安時代・12世紀 東京国立博物館蔵

ただ不満はいくつかあって、折角修復しての公開なのに、その修復の過程の説明やそこで判明した事実、どこがどう修復されたかなどの説明が少ないこと。ちょっと不親切だと感じました。それと「鳥獣戯画」の甲乙丙丁巻がなぜか丁丙乙甲の順番で並んでいること。何も説明もなく、意味が不明です。

全体的に「鳥獣戯画」をただ並べましたというだけで、超一級の絵巻だというのにその魅力が今ひとつ伝わってきません。たとえば断簡の展示も、サントリー美術館の『鳥獣戯画がやってきた!』では古い時代の模本を例に挙げ、どこにどう入るものなのかなど丁寧に解説していましたが、東博では具体的な解説もなく工夫もありません。そうそう貸し出してもらえるものでもないのだから、とてももったいないと思います。

何より問題は待ち時間で、自分は朝早く並んだので待つことなく観られましたが、昼間は待ち時間の合計が4時間を超えた日もあります。長時間の行列を見越して、東博側もいろいろ対策をとっているようですが、京博でのデータがあったのに、あまり活かされていないと感じます。

2~3時間並ぶ体力のある人はいいのですが、会場にはお年寄りも多く、杖をついた方や身障者の姿も見かけました。彼らに長時間の行列は酷すぎますし、観られずに帰るとしたらあまりに気の毒です。東博側は導入に否定的なようですが、他の美術館が行っているように、整理券なり時間制チケットなりを考えることはできなかったのかと思います。出品作は充実しているのに、そういう意味では非常に残念な展覧会でした。

「鳥獣戯画 甲巻(模本)」 山崎董詮模写 明治時代・19世紀
※本館 特別1室で6/7まで展示

本館2階の<鳥獣戯画と高山寺の近代-明治時代の宝物調査と文化財の記録->には鳥獣戯画の模本があります。急かされて落ち着いて観られなかった、並んで観るのは嫌という人は気分だけでも味わえます。「明恵上人像(樹上座禅像)」の模本もありますので、ゆっくりリス探してください。


【鳥獣戯画-京都 高山寺の至宝-】
平成27年6月7日(日)まで
東京国立博物館にて


鳥獣戯画の謎 (別冊宝島 2302)鳥獣戯画の謎 (別冊宝島 2302)

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