2015/03/22

動物絵画の250年

府中市美術館で開催中の『動物絵画の250年』展(前期)に行ってきました。

恒例の“春の江戸絵画まつり”。初めて府中市美術館に観に行った展覧会が2007年の『動物絵画の100年』だったのですが、今回は好評だったその展覧会をさらにバージョンアップしての企画展。前回は江戸後期の100年にスポットを当てていましたが、今回は江戸時代の250年を通して動物絵画を展観していきます。

作品数は前後期合わせ166点。前期と後期で作品は総入れ替えされます。府中市美術館の所蔵作品をはじめ全国の美術館から作品を借り受けていますが、2/3の作品が個人蔵なので、この機会を逃すと観られないだろう作品も多くあるんだと思います。


序 動物という存在

府中市美術館の春の江戸絵画まつりで好きなのは、あまり名の知られていない江戸の絵師の、優れた作品を探してきて見せてくれるところ。最初に登場する橘保国なんて全然知りませんが、やはり最初に持ってくるだけあり、鯉のとろそうな感じが出てて面白い。

森徹山 「檜に栗鼠図」
江戸時代後期(19世紀前半) 熊本県立美術館蔵(前期展示)

本展には“猿画の名手”森祖仙の作品がいくつかあるのですが、「手長猿図」はいつものリアルな猿とも違い、中国画のような筆致と、それでいて祖仙らしい豊かな猿の表情が秀逸。

森徹山は森祖仙の養子で後に応挙の弟子になった人。リスの毛のふわふわ感なんて祖仙譲りだなと感じます。 図録で観ただけですが、後期展示の徹山の「群鳥図」もまた別の意味で凄いですね。絵画とはいえ自然の迫力に息を呑みます。

森徹山 「群鳥図」
江戸時代後期(19世紀前半) 熊本県立美術館蔵(後期展示)

迫力といえば、国芳の大きな鯨もさすがのインパクト。いまの品川沖に実際に迷い込んだ鯨で、誇張はあるでしょうが、鯨の迫力と人々の驚きが伝わってきます。

国芳 「大漁鯨のにぎわい」
嘉永4年(1851) (前期展示)


第Ⅰ章 想像を具現する

ここでは、<縁起物の素晴らしい世界>、<見たことのない動物>、<空想>の3つのパートに分けて紹介。江戸時代の頃までは虎にしても象にしても、実際に見たことのある人は少なく、中国絵画や古画をお手本に想像で描いたものがほとんど。今観れば笑えるものもありますが、逆に知らないからこそ描ける動きや表情、想像を働かすことで生まれる表現が江戸の動物画の魅力だったりします。

英一蝶 「四睡図」
江戸時代中期(18世紀前半) (前期展示)

「四睡図」というと豊干と寒山、拾得、そして虎が眠るところを描く中国絵画の伝統的な画題ですが、一蝶のそれはちょうど目覚めたところのようで、大あくびする面々と猫のようにお尻を上げた虎が可笑しい。そばに展示されていた伊年の「四睡図」も、なんだかほのぼのとしてかわいい。

虎図では円山応挙、長沢雪もあったのですが、諸葛藍や片山楊谷、百川子興の並んでいた3点がどれも虎の毛の一本一本まで超極細の線で描いていて見事。構図や色合いも中国絵画の影響を感じさせます。諸葛藍は時々見る絵師ですが、ほかの2人は全然知りませんでした。こういう発見があるから面白い。

原在明 「水呑虎図」
江戸時代後期(19世紀前半) (前期展示)

“水呑虎”もよくある画題ですが、原在中の子・在明の「水呑虎図」は岩の上から水面を覗きこみ、水を飲もうにも少し距離感があります。水を飲むというより、自分の姿を映し何か思慮しているようにも見えます。

ほかにも曽我二直庵の二幅の見事な鷹図や黒田綾山のダイナミックな「琴高仙人図」などが印象的。鹿の輪郭線を破線で描いた狩野洞雲の「唐松白鹿図」や人面犬にしか見えない不気味な司馬江漢の「ライオン図」、また猿蟹合戦や孫悟空、狐火を描いた作品、国芳の戯画などもあって目を楽しませてくれます。

司馬江漢 「ライオン図」
江戸時代中期(18世紀後半)
摘水軒記念文化振興財団蔵(府中市美術館寄託)  (前期展示)


第Ⅱ章 動物の姿や動きと、「絵」の面白さ

日本画に描かれる動物絵は造形の面白さにあると思ってるのですが、ここではそんな動物絵画の造形の魅力を、<迫真描写の斬新さと、その思わぬ展開>、<姿や動きから生まれる「形」>のテーマで紐解きます。

土方稲嶺 「糸瓜に猫図」
江戸時代中期(18世紀後半) 鳥取県立美術館蔵 (前期展示)

岸駒の「枇杷に蜻蛉図」や沖一峨・九皐親子の「水辺鷺図」、土方稲嶺の「糸瓜に猫図」といった中国絵画や南蘋派の影響を感じさせる作品もあれば、動物絵ではおなじみの伊藤若冲の鶏や、逆にいつもの画風とは全然違う森祖仙の鹿や葛飾北斎の兎など、次から次へと様々なタイプの作品が出てきて、観ていて飽きません。

安田雷洲 「鷹図」
安政3年(1856)  摘水軒記念文化振興財団蔵(府中市美術館寄託)
(前期展示)

印象的だったのが安田雷洲の「鷹図」で、キュビズムかと思うような個性的な波模様と異様な存在感の鷹が強烈なインパクトを与えます。衣笠守昌の「牛馬図屏風」も、はっきりとした強い線で動的に馬を描いた右隻と輪郭線も曖昧でまったりとした牛の左隻という対照的な描き方で面白い。鍬形蕙斎の「鳥獣略画図」もあって、ゆるさに和みます。

鍬形蕙斎 「鳥獣略画図」(一部)
近代 ※初版は寛政9年(1797) (前期展示)


第Ⅲ章 心と動物

最後は、<動物が醸し出す抒情とおかしみ>、<人と動物の境界線>、<人と同じ命>、<子犬に惜しみなく愛を注ぐ>とに分け、動物絵の中に「人の心と動物の関係」を見ていきます。

しみじみとした絵やほのぼのとした絵など、なんとなく心にすーっと入ってくる作品が多くあります。ここは森祖仙や長沢雪、中村竹洞、若冲や蕪村、応挙、仙厓といった江戸絵画を代表する絵師の作品も多い。

岸勝 「猿の座禅図」
江戸時代後期-明治時代(19世紀)
摘水軒記念文化振興財団蔵 (前期展示)

ここで印象的だったのは岸勝の「猿の座禅図」。猿を擬人化したかわいらしさの反面、何か哲学的な意味が込められているような趣があります。まんまるとした姿形も秀逸。上田公長の「芭蕉涅槃図」は芭蕉の俳句に登場した所縁の生き物たちが横たわる芭蕉のまわりに集い悲しむという、 おかしみと優しさに溢れた作品。応挙と名乗る前の作品という「芭蕉と虫図」は墨のみで描かれたシンプルで洒脱な作品ですが、蜘蛛の巣から逃れた虫を描くことで、命の大切さと慈しみが伝わってきます。

円山応挙 「麦穂子犬図」
明和7年(1770) (前期展示)

さすが250年分の楽しさ、江戸時代のバラエティに富んだ動物絵画の魅力を存分に堪能できます。ここの“江戸絵画シリーズ”はマイナーな絵師にもスポットを当ててくれるし、個人蔵などなかなかお目にかかれない作品も多く、日本画ファンは必見だと思います。後期は作品が全て入れ替わりますが、半券を持っていけば半額というサービスもあるのでチケットは捨てないように。


【春の江戸絵画まつり 動物絵画の250年】
前期: 2015年3月7日(日)~4月5日(日)
後期: 2015年4月7日(火)~5月6日(水)
府中市美術館にて


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