2014/07/02

台北 國立故宮博物院展

東京国立博物館で開催中の『台北 國立故宮博物院 -神品至宝-』に行ってきました。

開幕前のすったもんだで、かなり冷や冷やしましたが、なんとか無事開幕。今後の課題、反省点はいろいろありそうですが、何はともあれ解決して良かったです。

とにかく話題は門外不出の「翠玉白菜」で、初日から長蛇の列。平日の昼間から3時間、4時間待ちということで大変な賑わいになってますね。

かくいう私は、初日の夜に幸いにも10分並んだだけで拝見。混雑必至の展覧会は、これまでの経験上、開幕まもない時期の閉館前の時間帯が比較的空いていて一番狙い目かなと思ってます。

さて、本展は平成館2階会場での開催になっていますが、「翠玉白菜」のみ本館特別5室で展示されています。チケットは一枚でどちらも拝観できますが、当日限り有効なのでご注意を。(※「翠玉白菜」の展示は7/7で終了しています)


1 中国皇帝コレクションの淵源―礼のはじまり

故宮博物院は、宋元明清時代の皇帝コレクションが基盤になっていて、約9割が清朝宮廷の所蔵品だといいます。

入ってすぐのところに展示されているのが、「散氏盤」という西周時代(前9~前8世紀)に造られた銅盤で、領地問題を解決した云々といった内容の銘文が内面にびっしりと彫られています。清の嘉慶帝の50歳の祝賀大典で献上されたものだそうで、書道史上でも重要な史料の1つだといわれています。

≪皇帝が再現した古代≫として紹介されていたのが紀元前4~前3世紀の儀式用の酒器である「犠尊」で、イヌなのかブタなのか不思議な動物がユニーク。こうした古代の青銅器の倣古作品を制作することで、皇帝は祖先を祀ったのだとか。


2 徽宗コレクション―東洋のルネサンス

北宋第8代皇帝・徽宗の時代の書や美術品、またコレクションを紹介。汝窯ブルーの美しい青磁や鳥を模した倣古銅器、文人皇帝としても知られる徽宗による書や水墨画をはじめ、4世紀の書聖・王羲之の書のコレクションなど、これでもかと言わんばかりの超貴重な美術品が並びます。

青磁輪花碗
北宋時代・11~12世紀

徽宗という人は皇帝にしてこの腕前。書も思いのほか達筆。風流が過ぎて国を滅ぼしてしまうわけですが、文人、画人としては第一級の芸術家で、国が滅んでも彼の残した詩書画や蒐集品がこうして今に残っているのですから歴史というものは皮肉なものです。

徽宗 「渓山秋色図軸」
北宋時代・11~12世紀


3 北宋士大夫の書―形を超えた魅力

北宋の文化的隆盛は士大夫(科挙出身の高級官僚)による古代研究の成果であるということが解説にありましたが、ここでは蔡襄や欧陽脩を始め、宗の三大家の内、黄庭堅、米芾の書が展示されています。欧陽脩の格調のある書体が印象的でした。


4 南宋宮廷文化のかがやき―永遠の古典

都が杭州に移ってからの南宋文化を代表する作品を紹介。南宋時代の玉器の文房具や清の乾隆帝が蒐集した官窯青磁と見どころが多いのですが、南宋絵画のコレクションが素晴らしい。南宋の宮廷画家を代表する馬遠の「杏花図頁」や蓮池の水鳥を描いた馮大有の華麗な「太液荷風図頁」が秀逸。自戒のために描かれた勧戒画の「折檻図軸」の岩や松の描写を観ていると、狩野派に繋がるものを強く感じます。

馬遠 「杏花図頁」
南宋時代・13世紀

この章の最後には、初期の山水画4点が展示されています。この時代の現存作品は十指に満たないといい、唐時代の青緑山水や華北と江南それぞれを代表する水墨など貴重な作品が展示されています。こうした山水画は遣唐使により日本にももたらされていたそうです。


5 元代文人の書画―理想の文人

南宋末期から元初期に活躍した書画家・趙孟頫や高克恭(高然暉)、また元末四大家の呉鎮、王蒙、倪瓚の作品があります。元代文人画は日本にほとんど伝来していないとのこと。趙孟頫は『北京故宮博物院200選』展で、倪瓚は『上海博物館 中国絵画の至宝』展でも観ていて強く印象に残っています。

高克恭 「雲横秀嶺図軸」
元時代・14世紀 (展示は8/3まで)

高克恭は日本では高然暉として知られる元代の画家。華北の雄大な構図と江南の湿潤な墨法を融合しているとありました。北宋・南宋の画風を習得しその折衷様式を得意とした谷文晁にも恐らくは影響を与えたのだろうなと感じます。

王蒙 「具区林屋図軸」
元時代・14世紀

髭や馬のたてがみの細密な表現力に唸る趙孟頫の「調良図頁」や多くの題賛が書き加えられた張中の「桃花幽鳥図軸」、桃源郷の風景がビッシリと描きこまれた王蒙の「具区林屋図軸」なども秀逸。


6 中国工芸の精華―天と人との競合

最初に登場するのが景徳鎮の「青花龍文大瓶」。青色にイスラム産のコバルトを用いたという逸品です。至上の白とも呼ばれる輝かんばかりの白さが美しい「白磁雲龍文高足杯」、最も評価が高いという成化年間の豆彩、また正に超絶技巧な漆工芸の数々など目を見張る工芸品が並びます。

「青花龍文大瓶」
明時代・15世紀

驚くのは刺繍画で、パッと見、まるで絵画なのですが、実はすべて刺繍というからビックリ。刺繍ならではの色数の豊富さと緻密な表現、そして微妙な立体感にはただただ感嘆するばかり。そして何よりどれも保存状態がとてもいい。彩り鮮やかな「刺繡九羊啓泰図軸」や刺繍に見えないほど素晴らしい「緙絲海屋添籌図軸」、岩面のグラデーションと海波の立体感が驚異的な「刺繡咸池浴日図軸」と、どれもその技術の高さには頭が下がります。

「刺繡九羊啓泰図軸」
元時代・13~14世紀


7 帝王と祭祀―古代の玉器と青銅器

主に1930年代に出土し、故宮に収蔵された作品を紹介。ほどんどが紀元前の殷・春秋・西周といった時代のもので、中には新石器時代という非常に古いお宝も。面白かったのが、紀元前3200年~前2200年ごろのものという「玉琮」で、縦長17段の長方形の箱(?)のような形状をしていて宇宙を表しているそうです。いまだ未解読の記号が彫られているとか。

「玉琮」
新石器時代(良渚文化)・前3200~前2200年


8 清朝皇帝の素顔―知られざる日常

鯉の滝登りの玉器「鰲魚玉花挿 」や鮮やかな緑色が美しい贅沢な翡翠の衝立「松鶴翠玉挿屏」、また豪華な文房具の数々など。興味深かったのが、漢文と満州文字で書かれた清の公文書。満文は清を興した満州族の公用文字だったそうです。漢字とも違う独特の文字。こういう言語があったのですね。


9 乾隆帝コレクション―中国伝統文化の再編

見ものは乾隆帝が作らせたという「紫檀多宝格」で、陶磁器や青銅器、玉器、書画などこれまで見てきたような宝物のミニチュアが高さ20cmほどの箱に収められています。贅沢。

紫檀多宝格
清時代・乾隆年間(1736~1795)

≪乾隆帝コレクション≫のコーナーは「紫檀多宝格」を模した形になっているのも凝ってます。ほかに、金より高価だという田黄石の石印「鴛錦雲章」、徽宗をも魅了したという美文調の孫過庭の「草書書譜巻」、乾隆帝が編纂した大事業「四庫全書」(の内5冊)など。


10 清朝宮廷工房の名品―多文化の交流

絢爛豪華というべき装飾の美しさと緻密さが見事な「粉彩透彫雲龍文冠架」や、内心部を回転させると窓から金魚の泳ぐ姿が見られるという仕掛けの「藍地描金粉彩游魚文回転瓶」、ピンク色の色彩が素敵な「臙脂紅碗」といった景徳鎮の名品が見もの。会場の最後の、黒と白の二色からなる玉材を熊と人物に彫り分けた「人と熊」がかわいい。

「人と熊」
清時代・18~19世紀


翠玉白菜―天然の美と至高の技の結晶

本展の目玉である「水玉白菜」は本館の特別5室(前回『キトラ古墳展』を開催した場所)に展示。翡翠で造られたという天然の石の奇跡的な美しさもさることながら、やはりその精巧な素晴らしさに唸ります。光緒帝の妃である瑾妃の嫁入り道具という話ですが、まぁ贅沢です。技巧の点でいえば、日本にも超絶を極めたような作品はありますが、翡翠独特の透明感と鮮やかな緑と白のコントラストは絶品。まさに眼福でした。

「翠玉白菜」
清時代・18~19世紀 (展示は7/7まで)

故宮博物院の美術品の数々は戦禍を逃れ台北に避難していた貴重な作品。国が変わっても皇帝が変わっても代々引き継がれてきた奇跡の品々だけあって、よくぞ日本に貸し出してくれたなと思います。今はいろいろと問題のある中国ですが、かつては豊かな文化と技術を誇り、それは長い間、日本の憧れであり、目標でもあったのだなとあらためて痛感します。台湾に行けばまた観られるかもしれませんが、日本で観られるチャンスはそうはないと思います。必見の展覧会です。


東洋館で開催中の特集展示『日本人が愛した官窯青磁』もオススメです。


【台北 國立故宮博物院 -神品至宝-】
2014年9月15日(月)まで
東京国立博物館にて


美術手帖7月号増刊 台北 國立故宮博物院美術手帖7月号増刊 台北 國立故宮博物院


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