2014/04/11

日本絵画の魅惑 [前期]

出光美術館で開催中の『日本の美・発見Ⅸ 日本絵画の魅惑』展に行ってきました。

出光美術館でときどき開催されている≪日本の美・発見≫シリーズの第9弾は、鎌倉時代から江戸時代までの名品を一堂に集めたコレクション展。こうした形で出光美術館所蔵の日本絵画コレクションを公開するのは実に8年ぶりだといいます。

いわば、『出光美術館日本絵画名品展』なわけで、過去の企画展で拝見している作品もいくつかありましたが、美術史に沿って体系的にまとめられていて、あらためて日本画の流れの中で作品の価値や位置づけを観ていくことができます。

作品は前後期合わせて83点。それとは別に古伊万里や古九谷、柿右衛門など館所蔵の工芸品約30点も出陳されていて、なかなか見応えるのある展覧会でした。

さて、会場は日本画の流れに沿って、いくつかのテーマに分けて構成されています。

1 絵巻 ―アニメ映画の源流
2 仏画 ―畏れと救いのかたち
3 室町時代水墨画 ―禅の精神の表現が芸術へ
4 室町時代やまと絵屏風 ―美麗なる屏風の世界
5 近世初期風俗画 ―日常に潜む人生の機微を描く
6 寛文美人図と初期浮世絵 ―洗練されゆく人間美
7 黄金期の浮世絵 ―妖艶な人間美
8 文人画 ―自娯という独特の美しさ
9 琳派 ―色とかたちの極致
10 狩野派と長谷川等伯 ―正統な美VS斬新な美
11 仙厓の画 ―未完了の表現


まずは絵巻から。“アニメ映画の源流”とか何かと現代のカルチャーを持ち出すのは安っぽくなるから止めた方がいいと思うのですが(親しみやすくという意味なんでしょうが)、それはともかく日本絵画の源流として絵巻の成り立ちから丁寧に解説しています。

重文の「橘直幹申文絵巻」は平安時代の貴族・橘直幹が天皇に申文を送った顛末を描いたもので、今回展示されていた場面では焼いた肴や食べ物を売っている萬屋など町や人々の様子も表現に富み、当時の風俗を探る上でも興味深い作品です。

「当麻曼荼羅図」
鎌倉時代末期~南北朝時代 出光美術館蔵 [展示は5/6まで]

つづいて仏画。阿弥陀如来が極楽浄土から迎えに来る様子を描いた「山越阿弥陀図」、地獄の恐ろしさを分かりやすく説いた「六道・十王図」、どうすれば極楽に行けるか、極楽はどんなところかがビッシリ描き込まれた「当麻曼荼羅図」とどれも素晴らしい。後期には重文の「十王地獄図」が出品されます。

能阿弥 「四季花鳥図屏風」(重要文化財)
応仁3年(1469年) 出光美術館蔵 [展示は5/6まで]

水墨画では、年紀の伴う屏風では最古のものという能阿弥の「四季花鳥図屏風」が秀逸。牧谿の作品をモチーフにしているということですが、竹や蓮など草木・花の描写もさることながら、自由を謳歌するかのような鳥の生き生きとした姿が実にいい。

「日月四季花鳥図屏風」(右隻)
室町時代 出光美術館蔵 [展示は5/6まで]

やまと絵屏風では「日月四季花鳥図屏風」がいい。銀を使ったと思しきところが変色してしまっていますが、描写や構図が洗練されていて、状態が良ければどれだけ美しく豪華な屏風だっただろうと思わせます。

「江戸名所図屏風」(左隻)
鎌倉時代末期~南北朝時代 出光美術館蔵 [展示は5/6まで]

初期風俗画には見事な「江戸名所図屏風」が出ていてこれがまず見もの。右隻には浅草や上野、日本橋などの町の賑わいが、左隻には江戸城や木挽町の芝居小屋、築地の魚市場や芝増上寺一帯まで描かれ、江戸の賑わいや活気が描き出されています。

ほかにも、世界の民族が描かれていたり、クジラが海に泳いでたりとユニークな「世界地図・万国人物図屏風」、初期風俗画として興味深い「桜下弾弦図屏風」、豪華な「洛中洛外図屏風」など見応えのある作品が展示。後期には重文の「祇園祭礼図屏風」が出るので、これも観たいところです。

喜多川歌麿 「更衣美人図」
江戸時代 出光美術館蔵 [展示は5/6まで]

浮世絵も優品が出ています。歌麿の肉筆画「更衣美人図」は個人的には今回のイチオシ。着物の襟を押さえた仕草が色っぽく、絶品。春の風情に満ちた背景も美しい勝川春章の「桜花三美人図」、魔除けになりそうな北斎の「鍾馗騎獅図」、じゃらじゃらした雰囲気が面白い歌川豊春の「芸妓と嫖客図」、江戸の美少年愛好の一端を覗かせる「若衆図」なども良し。

田能村竹田 「梅花書屋図」(重要文化財)
天保3年(1832年) 出光美術館蔵 [展示は5/6まで]

文人画で目を引くのが田能村竹田の「梅花書屋図」。どこまでもつづく梅の老木、途中には四阿があって、その風情がいい。渡辺崋山の「猫図」は可愛らしさはないけれど、猫の本能的な鋭さが良く出ています。ほかに、現在の新宿・戸山公園や東宮御所付近を描いた谷文晁の図稿など。

狩野光信 「西王母・東方朔図屏風」
桃山時代 出光美術館蔵 [展示は5/6まで]

琳派は前期2点、後期2点というのがちょっと寂しいですが、前期には抱一の「風神雷神図屏風」と宗達の「月に秋草図屏風」が出ています。

等伯は前期に「松に鴉・柳に白鷺図屏風」、後期に「波濤図屏風」が登場。ともに2011年の『長谷川等伯と狩野派展』に出品されていますが、等伯次世代の長谷川派絵師によるものとされていた「波濤図屏風」が今回は等伯筆として紹介。何か確証でも得られたのでしょうか? その「波濤図屏風」は前回片隻のみでしたが、今回は両隻揃って展示されるようです。「松に鴉・柳に白鷺図屏風」は何者かにより等伯の落款が消され「雪舟筆」という署名がされていたことがあり、その痕跡がパネルで紹介されています(狩野派による陰謀説という話もありますが)。

狩野派の作品では光信の「西王母・東方朔図屏風」が非常に丁寧な作りで見応えあり。狩野派の作品とされる「歌舞伎図〈表〉・花鳥図〈裏〉屏風」も色鮮やかで綺麗。

英一蝶 「四季日待図巻」
元禄11年~宝永6年(1698-1709年) 出光美術館蔵 [期間中場面替え]

狩野派のコーナーには英一蝶も。「四季日待図巻」は一蝶が流刑地の三宅島で描いた、いわゆる“島一蝶”と呼ばれる作品とのこと。都を懐かしみながら描いたのでしょうか。遊興にふける人々の表情も豊かで、非常に丁寧に描かれているのが印象的です。

仙崖 「老人六歌仙画賛」
江戸時代 出光美術館蔵 [展示は5/6まで]

最後はお約束の仙崖。仙崖の展覧会は出光ではたびたび開かれていますが、何度観ても笑えるし、朗らかな気持ちになります。お年寄りたちが高齢化問題を愚痴る「老人六歌仙画賛」や桜の下の楽しげな様子を描いた「花見画賛」、なぜか梅毒が画題の「柳町画賛」など。


本展の入場料は1000円ですが、窓口でチケットを購入すると後期展示を500円で観られる割引券がもらえます。今回はミューぽんも使える(200円引き)ので、さらにお得になります。これだけの名品を観て、このお値段はかなりお得じゃないでしょうか?


【日本の美・発見Ⅸ 日本絵画の魅惑】
前期 2014年4月5日(土)~5月6日(火・休)
後期 2014年5月9日(金)~6月8日(日)
出光美術館にて


もっと知りたい長谷川等伯―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)もっと知りたい長谷川等伯―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)


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